かわいそうなのはぬけない   作:かまぼこ

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 でも鎧エプロンは青少年の教育に悪すぎるのでやめて差し上げろ。


強すぎて悪党に捕まったりしなさそうな女騎士たちではぬけない

 ギルドとは言え、全員が常に行動を共にしているわけではない。

 ノウェムは記憶を失った相棒のいるランドソルへと足を運ぶし、かと言ってネネカは自室に引き篭もって研究に没頭し、マサキはその助手として補佐する。この拠点を提供しているシャルルも、あまりランドソルには近づかないものの、身を隠していそうな【七冠】がいないかと、開拓中である大陸などに行くことが多い。

 

 今日は、そんなシャルルが全員集合をかけた日のことであった。

 

 

 

「前から思ってたけど、ノウェムのそれ──────カッコいいよなー」

 

 

 いつにも増して緊張感がないシャルルの言葉。

 今回は時間前に来たノウェムはすぐさま反応して、嬉しそうにシャルルのもとへと近づいた。

 

 

「おっ、シャルルもアタシの天楼覇断剣の良さがわかるのか!?」

 

「だから再現したんだしな。それで、使い心地はどうだ?」

 

「おう、バッチリだ!」

 

 

 両手で、柄の感触を確かめるノウェム。

 実は、今回の招集目的とは別に、シャルルはノウェムを呼び出していた。

 

 世界が再構築される際に失った、彼女愛用の武器。

 チート満載の武器だったせいでバグとして排除されたのか、それとも原型がこの世界のどこかにあるのかわからない。

 ただ、今後のことも考えて、武器がないのは困るだろうと、シャルルとネネカは贋作を用意した。今は最終調整のために、本人に感触を確かめてもらっている。

 

 

「ただ、ずっと使うのは疲れるんだよなー。どうにかならないのか?」

 

「それは無理だ。お前の体力がないのが悪い」

 

 

 実際、前世でも完全に使いこなせていなかった。

 少しだけ逞しくなり、前よりは使えるようになったかもしれないが、どうしても体格の問題は一朝一夕で解決するものではない。

 えー、とブー垂れるノウェムだが、こればかりは今後に期待するしかないと切り捨てた。

 

 

「いい機会だろ。あっちでも超能力に頼りすぎていたし、もうちっと自分を鍛えろよ」

 

「ぐぬぬ……じゃあここで素振りしていいか?」

 

「お前ここ吹き飛ばすつもりなの?」

 

 

 その武器の威力を誰よりも知っている本人がこの調子なのだ。常に振り回せるようになったら本当に抑えられる者がいなくなる。

 口にはしないが、そういう意味でも少しくらいの制限は許容してほしいとシャルルは考えていた。

 

 ならさ、とノウェムは代替案を提案する。

 

 

「取り出す演出はどうにかならないか? アレ、凝っているし好きなんだけど、長くて戦いの最中に攻撃されそうで怖いんだよなー」

 

「は? 俺が監修した演出を削るとかふざけてんのか?」

 

「お前のせいかよ!」

 

 

 彼女の剣は、使用しない時は別空間に収納している。それ自体はゲームならなんてことのない、アイテムの収納ギミックの応用である。しかし、それを取り出す際に発生する魔法陣や光の演出には匠の並々ならぬこだわりが詰まっていた。

 

 故に、(シャルル)、キレた。

 ノウェム……だけでなく、今後現れるかもしれない、演出中に攻撃するような無粋な敵たちに。

 

 

「だって“切り札”感あってカッコいいだろ?」

 

「いやまあカッコいいけどさ……」

 

「だったら良いんだよ。俺的には、お前の“現出せよ”って口上、いいセンスしていると思うんだけどなー」

 

「そうか? いやいや、それほどでもあるぞ!」

 

 

 チョロい。

 丸め込めたと思う反面、彼女の将来が少し心配になるお父さん思考が出てしまったシャルルであった。

 普段なら超能力で心を読めたり、仮に読めなくても相棒が小馬鹿にするように止めてくれるだろうに。

 

 

「安心しなさい、ノウェム。演出は省略できるようにしてありますよ。あとで方法を教えます」

 

「ネネカ!」

 

 

 そんな思考に水を差す平坦な声。

 聞こえた方向を向けば、ネネカが半透明な椅子に座ったままやってきていた。

 ちなみに、ネネカの座ったままの椅子を移動しているのはマサキであった。明らかに体力の無駄なことをさせているなー、なんて思った二人だが、本人がとても良い笑顔をしているので、スルーして話をそのまま進める。

 

 

「ネネカ! なんてことしてくれるんだコノヤロウ! 俺が一週間かけて考えた演出を飛ばすとか、人の苦労を何とも思わないのか!?」

 

「その言葉──────作業の八割(・・)を私に丸投げしてきた貴方にそのまま返しますよ」

 

 

 ぐう、とシャルルは撃沈した。

 何もしていないくせにまるで自分の成果のようにひけひらかすシャルルに、さすがにネネカも不機嫌になる。

 マサキにこんな無駄なことをさせているのも、おそらくそれが原因だろうと、傍からみていたノウェムは思った。それでもやはり本人は幸せそうな顔をしているので、あえて何も言わなかったが。

 

 この二人については、主従とはいえ前はもっとビジネスライクな関係だったと記憶していたはずのノウェムだが──────それよりも言わねばならないことがあった。

 

 

「つーかシャルル、何アタシに『自分が作りました』みたいに言ってきてんだよ……」

 

「──────」

 

 

 屈託のない、困ったヤツを見るようなノウェムの視線がシャルルのトドメとなる。

 はじめはソファにいたはずのシャルルは、気がつけば床に頭をこすりつけていた。『あまりにノウェムが喜ぶから、お父さんつい調子に乗ってしまった』などと供述していた。

 

 

「さて、無駄話は終わりです。シャルル、はやく私達を呼んだ理由を教えてください」

 

「あ、悪い」

 

 

 床から頭を上げ、身を投げ出すように椅子に背中を預け、腕と足を組む。

 偉そうな格好をしているが、この男は変にカッコつけて赤っ恥をかいたギルドマスターである。

 

 だが、口にした内容は至って真面目な話。

 シャルルは重々しく、メンバーを集めた当初の目的を話し始めた。

 

 

「【跳躍王(キングリープ)】のプリンセスナイト──────鬼道大吾が見つかった。俺達はこれから、王都に搬送中のアイツを奪還する」

 

 

 

 ──────それは、彼らの新しい同士を迎え入れるための作戦会議であった。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「畜生! 出しやがれこのっ!」

 

 

 ガンガンと鐘を打つように、金属が叩かれる。

 集落から外れた木々が生い茂る山道にはいささか不釣り合いな音と怒号が、馬車から聞こえる。

 

 

「団長、助かりました。我々では手に負えず、面目の次第もございません」

 

「気にしないでくれ。私も標的の強さを見誤っていた。君たちの手当を終えたら出発しよう」

 

 

 ハッ、と無骨な鎧を纏う者たちは、さらに無骨な黒鉄の鎧に礼をして散開する。

 各々が帰還の準備を進めるのを黒鉄の騎士、ジュンは見届ける。

 

 彼女が率いる王家直属のギルド【王宮騎士団(NIGHTMARE)】は、遠征としてランドソルから少し離れた山にいた。

 

 請けた命は、反乱分子の確保。

 首都から離れた僻地で名を馳せている喧嘩屋。今はまだ何も問題ないが、首都近くの街でその姿が目撃されたとの情報があった。やがてランドソルで暴れ回ることを憂いた王宮は、事態を重く受け止め騎士団を派遣するに至った。

 以上がこれまでの経緯であるが……ジュンは今になって首を傾げる。

 

 遠征自体は訓練でも行うし、観光地の治安維持のために騎士の派遣なども請け負うことはある。しかし、本来なら王宮やランドソルを守ることこそが役目。

 彼女自身、真夏のビーチであろうと鎧のまま警護の応援にかけつけるほど仕事は選ばないし、実際街の外まで(・・・・・・・)出るまで何一つ疑問(・・・・・・・・・)を抱いていなかった(・・・・・・・・・)ジュンであるが、少しだけ妙かもしれないと思ってしまった。

 

 実際、件の喧嘩屋は手強かったので、結果的には良かった。他の団員も特に疑問を感じていない。自分の代わりに門番を任せてきた副団長が心配で、つい神経質になってしまったかなと思考を打ち切ることにした。

 

 

「ジュンさん、今大丈夫ですか?」

 

「ああ。どうしたんだい、トモちゃん」

 

 

 ジュンに近づいてきたのは、一人の少女騎士。

 まだ見習いであるが、現場経験を早く積んだ方がいいと判断して連れてきたトモである。

 何やら、顔色が優れない。実戦で緊張しているのかとジュンは心配したが、別の理由があった。

 

 

「実は、ここ周辺に妙な魔物が確認されていて……」

 

「妙な魔物?」

 

 

 実際に見てもらった方がはやいですね、とトモはジュンを連れていく。

 他の騎士が混乱するのを防ぐために岩陰に隠していた魔物を見たジュンは、兜の内側で目を見開いた。

 

 

「……どういうことだ、姿がブレ(・・)ている?」

 

 

 確かに四足歩行の魔物がいることはわかるが、ブレた転写魔法のように輪郭がはっきりしない。

 瞬きをする間に姿がはっきりしたり、不明瞭になったり。疲れ目なのかと錯覚してしまうほどに奇妙な状態だ。そんなジュンの反応をみたトモは、ほっと胸をなでおろす。

 

 

「良かった。私の目がおかしいわけじゃなかったんですね」

 

「……大丈夫だよ、私もトモちゃんと同じように見えている。怪我人は?」

 

「誰もいません。そこまで強力ではありませんでしたから。ただ、生存力が相当なもので、倒し切るのにかなり時間がかかりましたけど」

 

 

 トモは少し疲れた顔を浮かべる。

 

 元より彼女は腕っ節よりは手数で戦う剣士だ。タフな魔物相手だと時間がかかってしまうのも無理はない。

 ともあれ、不穏な予感が過る。

 手当は後にして、一度ここを離れたほうが懸命かもしれないとジュンが指示を出そうとした──────その時だった。

 

 

「団長! 報告します! 我々の馬車に向けて、魔物の群れが押し寄せています!」

 

 

 ジュンも含めた、団員たちが一斉に振り向く。

 

 

「数は?」

 

「視認できる限り、我々の隊と同じ数かと! また、魔物の姿が何やら怪しく……」

 

「……あっ、もしかしてこの魔物みたいに──────」

 

 

 トモが改めて倒した魔物へと顔を向ける。

 だが──────既に姿はなく、まるで水が地面に吸い込まれるように跡形もなく消え失せていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「っ、ジュンさん!」

 

「罠か……」

 

 

 おそらく、トモが倒した魔物は目印の役割なのだろう。仲間がやられた場所を察知し、群れで襲撃して報復する習性のようなものか。

 ……いや、習性だけでは片付けられない。手段はわからないが、タイミングといい明らかに人間の意図が感じられる。

 だが、今は窮地を脱することが先決と考え、ジュンは的確に部下へ指示を出す。

 

 

「各隊は、魔物一匹に対して三人体制で対処に当たれ。異様に生存力が高い。確実に急所を狙って仕留めるんだ」

 

「残りの魔物は?」

 

「──────私が食い止める(・・・・・・・)

 

 

 ジュンは、腰に携えた黒剣を引き抜く。

 数をひきつけた上での耐久戦は彼女の得手だ。

 文字通り市民の盾となる騎士の在り方こそ、平民貴族問わず団長として王宮騎士団から絶対的な支持を持つ理由である。

 

 

「トモちゃんは馬車の護衛を頼むよ。危なくなったら、怪我人とともに避難してね」

 

「わかりました」

 

 

 トモが頷くのを確認した後、ジュンは部隊を連れて離れていく。他の騎士よりも腕がたつと自負しているトモだが、そもそも自分は団長の厚意でここにいる身。

 ……欲を言えば自分も掃討戦で活躍したいと思う願望はあるが、命令には絶対遵守だ。

 

 それに、この馬車も重要なポイントだ。

 ジュンは口にしなかったが、仮にこの魔物の襲撃が、何者かに仕組まれているのであれば──────狙いはここになるはず。

 

 

 

 

 

 

「どけどけぇ! ノウェ──────ああ違う! 大悪党のお通りだ!」

 

「な、なんだ!?」

 

 

 であれば、時間差でここも襲撃があるに違いない! 

 予想通り現れた賊が、他の騎士たちを素早い動きで翻弄する中、トモは剣を抜いて突貫する。

 

 

「──────お、俺は馬車を安全な場所へ移動する!」

 

「わかった、頼んだよ!」

 

 

 ここも安全ではないことがわかった以上は、ジュンの指示通り、この場を離れるのが得策だ。トモとしては、すぐに御者台に別の騎士が現れてくれたのは大変都合がいい(・・・・・)

 

 

「……あれ、部隊の人数って」

 

「余所見する余裕あんのかっ!」

 

「どうか、なっ!」

 

 

 死角から迫りくる片手剣を受け流した。

 もうここまで突破されたのか、と苦虫を潰した顔のトモは剣を構える。フードを被った襲撃者を前に、一瞬だけ覚えた違和感も消え失せてしまう。

 対照的に、襲撃者はヒュウと口笛を鳴らす。

 

 

「オマエ、なかなかやるな!」

 

「悪いヤツに褒められても嬉しくないよ!」

 

「そうだ、アタシは悪いヤツだ! よくわかってるな! ますます気に入ったぞ!」

 

「今の言葉で喜ぶ理由がわからないね──────他の皆さんは馬車の護衛を! 平原の方へと避難しました!」

 

「チッ……わかった!」

 

 

 平民出の新兵に指示されたのが気に障ったのだろうが、やるべきことはわかっている。襲撃者によって一度は地面に伏せられた騎士たちは、渋々ながらも馬車の方へと駆ける。

 

 

「あっ、行かせるか──────《天楼覇断剣》!」

 

 

 トモから距離を離すと、今度は宙から大剣を振り抜いた。

 たかが一振りで地面を抉り、斬撃と呼ぶには大きすぎる衝撃波は馬車の去った方角へと突き進み──────騎士たちを吹き飛ばす。

 

 

「……あの剣、振らせたら不味いね」

 

 

 直接向けられていなくても、余波だけで気を失いそうになるトモ。おそらく、あれが襲撃者の切り札だ。

 しかし、これは好都合かもしれないと考え方を逆転させる。あの大きさであれば、スピードを活かした身のこなしは使えないはずだ。

 

 振らせる前に仕留める──────! 

 

 この場にいるのは、正義の騎士と大悪党。

 であれば、もはや言葉は不要だ。

 今度はこちらが翻弄させる番だと、臆することなくトモは襲撃者であるノウェムに立ち向かう。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

『作戦はシンプルにいく』

 

 

 そう言いながら、シャルルは兵士の駒を動かす。

 彼の前にはチェス盤が広がっている。

 対面に相手はいないが、相手側の駒も彼自身が動かしている。

 

 

『マサキはターゲットの周囲に魔物を放って騎士たちを襲わせろ』

 

『陽動だな! 実験も兼ねて、それなりの魔物を放つが構わないか?』

 

『大丈夫だ。ジュンちゃんがいれば、死人はでないだろ……つーか、お前、何やってんの?』

 

『今の私はネネカ様の椅子だ! 気にしないでくれ!』

 

『……………………おう!』

 

『なあ、そのチェス意味あんのか?』

 

 

 シャルルはツッコミを放棄した。

 ノウェムの質問もあえて無視して進める。

 

 続いて、シャルルが動かしたのは騎士と魔法使い。視線はノウェムとネネカに向けられていた。

 

 

『ノウェムと俺はターゲット近くに降下して護衛の騎士を叩きのめす。そのどさくさに紛れて、ネネカはダイゴを逃がす。二人とも、そういうの得意だろ?』

 

『順当ですね。順当すぎてつまらないくらいです。反省してください』

 

『なんで順当なのに説教されなきゃなんねぇんだよ』

 

『なあなあ、だからそのチェス意味あんのか?』

 

 

 ネネカにはツッコミを入れたが、ノウェムの質問は再度無視するシャルル。

 これが【ダイゴ奪還作戦】の大まかな内容だ。

 残りの会話は、無視され続けたノウェムがムキになってチェス盤をひっくり返したり、ネネカの椅子になっていたマサキの手足がブルブル震えていたなど、不毛なやり取りしかないので割愛することにする。

 

 ただ、この作戦で肝要だったのはスピードであった。

 たとえ彼らが特出した強さがあるとしても、相手は王宮直属の精鋭たち。連携を取って冷静に対処されれば、数で劣るシャルルたちはすぐに制圧されてしまう。

 

 故に、彼らが取れる手段は奇襲しかない。

 交戦(エンゲージ)の主導権を握っていることを活かした電撃作戦でなければ、敵を出し抜くことは困難を極める。実のところ、綱渡りをしていたのはシャルルたちの方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────というわけです」

 

「いや何がだよ!?」

 

 

 現に、作戦が全て噛み合ったおかげで、騎士に変身していたネネカは、ダイゴの牢がある馬車を確保することができた。

 さらに御者席から馬を操りながら、今までの経緯を説明したが、ダイゴとしてはすぐに状況を飲み込むことは無理があるようだ。

 

 

「ちなみに、チェスの件は特に意味はありません。あれは突然“チェスをしながら作戦会議をすると一割増しで賢く見える”という持論を展開した彼が勝手に検証しただけです。私には三割増しで滑稽に見えました」

 

「だからンなの知らねぇよ!? ていうかお前誰だよ!?」

 

「口の聞き方がなっていませんね。こう見えても私は貴方より年上ですよ」

 

「は? 何言って──────え、マジ?」

 

 

 沈黙をもって肯定するネネカに、目を見開くダイゴ。

 いつものダイゴならデリカシーなく年齢を尋ねるだろうが、何よりネネカの纏う空気がそれを許さなかった。実際、彼女自身はそこまで気にするほどの年齢ではないはずだが、ダイゴの野性的な勘が「これはアウト」と警鐘を鳴らしていたのだ。

 

 詮索は身を滅ぼすと、判断したダイゴは乱雑に掻いて、話題を変えようとする。

 そう言えば、ネネカの話にひとつ気になることがあった。

 

 

 

「あと一人はどうしたんだ? アンタの話では二人で襲撃するって話だったが、あのちっこいのしかいねぇじゃねぇか」

 

「ああ、彼なら──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よーし、早速降下するか。各自、準備はいいか?』

 

 

 作戦開始の直前。彼らは雲の上にいた。

 少しでも移動を短時間にするためにも、自前の小型飛空艇を使用したのだ。

 

 まもなく現場へと到着しようとする中、シャルルは腕を振り回しながら、メンバー三人の顔を見渡す。

 怖気づくこともなく、闘志を燃やしている二人に対し、ここで待ったをかけたのは意外にもネネカであった。

 

 

『それより、シャルル。着地の方法はどうするつもりですか?』

 

『あん? そんなの、お前の魔法で──────』

 

貴方はそれでいいのですか(・・・・・・・・・・・・)?』

 

 

 言い終わる前に、ネネカはピシャリと言葉を被せる。

 

 

『……どういう意味だ?』

 

 

 珍しく、シャルルの方が訝しんだ。

 実際、ネネカが何を言いたいのか理解できていなかった。作戦の内容は“順当”と言っていたのを憶えている。異論があるわけではないのであれば、一体何なのだろうか。

 

 

『……いえ、貴方ならもっと“カッコいい”方法があるのではと思っていたのですが』

 

『え』

 

 

 シャルルだけではない。

 意外な発言に、さすがのノウェムも目を見開いてしまった。

 

 余計なお世話でしたね、気にしないでください、と会話を打ち切ろうとするネネカであったが、今度はシャルルの方が待ったをかけた。

 

 

『………………………………いやあるけど? あるけどさ、この高さは無理だろ? さすがに死ぬよ?』

 

 

 こちらの世界の飛空艇は雲の上までは届かないにしても、それでも落ちたら潰れたトマトのようになる高さだ。

 さすがに苦笑いするシャルルに対し、ネネカは優しく微笑む。短い付き合いではないからこそ、彼の構造(ツクリ)はよく理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええ。普通の人間なら死ぬでしょう。ですが、貴方はカッコよさと安全性なら、どちらを優先するのですか?』

 

『そんなの──────カッコいい方に決まってんだろ!?

 

 

 この男──────重度の見栄っ張りである。

 好きな褒め言葉は“カッコいい”。嫌いな言葉は“ダサい”。

 かつて王宮にいた頃、いつもの白と青を基調にした甲冑から黒と赤にイメチェンした際、猫耳の女の子に「ちょっと自分と色が被っててキツイ」とディスられた時は三日ほど引きずったりした。

 

 と、そんな性格を本人は“美学”と称しているが…………要はただのアホである。

 

 そんなアホがここまで言われてしまったら、当然引き返すこともなく。

 

 

『なら……わかっていますね?』

 

『おう任せろ!!! 鳥になってくるぜ!!!』

 

 

 甲板を駆け、空の海へと身を投げるシャルル。

 飛び込みの競技であれば、満点を出しても構わないほどに綺麗なフォームであったと、後に観客は語った。

 

 一連のやり取りを終え、さて、と言いながらネネカはハートの形をした杖を振り回す。先程までの微笑みはどこに行ったのか、いつも通りの淡々とした無表情に戻っていた。

 

 

『ノウェム、私達は魔法を使って降りますよ』

 

『お、おう! まさか本当に飛ぶとはな……』

 

『ネネカ様!!!!!! 私も鳥になってきます!!!!! 私の華麗な飛行、是非ご覧ください!!!!!』

 

『何を言っているのですか。貴方は私の風除けになりなさい』

 

『承知しました!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────と言うことがありました」

 

「鬼かアンタっ!?!?」

 

 

 ひょっとして、自分はもっとタチの悪いやつらに捕まってしまったのではないか。

 そんな鬼畜にドナドナされている気がしてならないダイゴは、思わず檻に手をかけてしまうほど、今すぐに馬車から降りたい衝動に駆られる。

 

 

「失礼ですね。全く、ラジラジは礼儀も教えていなかったようですね」

 

「いや礼儀以前の問題だろ!? ていうかラジラジって誰だよ!?」

 

 

 ここで彼の記憶がないことと、さらに今世では彼の主である【跳躍王(キングリープ)】とは面識がないことを察するネネカ。

 少々当てが外れたが、【七冠】とそのプリンセスナイトは切っても切れない関係にある。いずれ、ラジラジから接触してくるだろう。ネネカ自身がそれに当てはまるからこそ、確信めいた予感があった。

 

 

「……それに、シャルルの作戦には穴がありました」

 

「あん?」

 

 

 指定の合流地点まで時間があるからか、それともこのまま鬼畜扱いされるのも彼女自身の沽券に関わるからか、ネネカはダイゴにネタばらしすることにした。

 なぜ、あそこまでシャルルを煽ったのか。それにはちゃんと理由()あった。

 

 

「【王宮騎士団(NIGHTMARE)】で最も厄介な者(・・・・・・)の対策が甘いのですよ。何やら事前に根回しして来ないようにしていたようですが、それで操作できれば苦労はしません」

 

 

 彼が一番それをわかっているはずですが、と若干責めるような言葉を口にするネネカ。

 実際にどのような対策をしたのかを、結局彼は説明しなかった。故に、この作戦を万全にするために、ネネカは一計を講じたのだ。

 

 

「だからこそ、シャルルには一番目立ってもらう必要がありました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 マサキが能力でバグを起こした魔物を放つ前のこと。

 何の変哲もない山道に、暴風を纏いながら見事な三点着地を決めた男が、この地に降り立った──────! 

 

 

「うっし! ギリギリ着地! 見てたかネネカ……っていねぇし!!!」

 

 

 当然である。

 ネネカは今頃、マサキの背中に座りながら悠々と降下しようとしていた。

 

 

「ちっくしょう、せっかく俺がパラシュートなしのスーパーヒーロー着地を決めたっていうのによ。アイツ絶対見てねぇだろ」

 

 

 愚痴は言いつつも、個人的には100点中、95点レベルのカッコいい着地ができたためか、シャルルはどこかホクホクとした表情であった。

 嵌められたことは自覚しても、すぐに自己陶酔に移ることができるのが彼の強みであった。

 

 さてと、と言いながら周りを見渡す。

 目的の山道の看板が立てかけられてるのを見つけて、頭の中で地図を広げる。

 

 

「ちょっと着地地点ズレちまったか。まあ、そこまで遠くはないし、走れば余裕か」

 

「随分と面白い登場の仕方じゃないか。門番をサボって暇つぶしに来た甲斐はあったな」

 

「おっ、わかる? いやあ、実はこっそり練習して──────」

 

 

 シャルルの言葉は最後まで続かなかった。

 気がつけば──────看板とキスをしながら吹き飛ばされていたからだ。

 

 遅れて、轟音が聞こえてくる。

 何本もの木々をなぎ倒しながら滑空し、ようやく地面に引きずられた頃には、彼の景色は山の中にある広場に変わっていた。

 

 

「───────っっっぶねぇぇぇぇ!? 死ぬかと思った!! 殺す気か!?!?」

 

 

 軽いパニックに陥るシャルル。背中の鈍痛が思考を乱すが、それでも腰に携えた剣を抜く。

 自分が吹き飛んだ後を辿った方向に、波うった刃の剣先を向け、戦闘態勢を整えた。

 

 

「無論、殺す気だとも。しかし、今のを受けてその程度とは、オマエさてはできるヤツだな?」

 

「……ああ、まあな。世の中には絶対に攻撃を当ててくるやべーやつとかいるから、これくらい対応できな──────」

 

「ほう、それはどこのどいつだ? ワタシみたいなヤツが他にもいるなんて、意外とワタシも世間知らずだったか?」

 

 

 シャルルの言葉はまた途切れる。

 今度は攻撃されたわけではない。

 

 反応のないシャルルに対して、まあいいか、と流す人影。高貴な黒いドレスと、それに不釣り合いすぎるほど物騒な剣を担ぎ、土埃の舞う広場に現れた金髪の女。

 騎士と呼ぶにはやや血の気が多すぎる彼女こそ、ネネカが“厄介な相手”と称した相手。

 

 

 

 

「さて──────狂乱の宴を始めようか!

 

「あ、死んだわ」

 

 

 クリスティーナ・モーガン。

 千里真那側に与する【七冠】──────【誓約女君(レジーナゲッシュ)】であった。

 

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