【完結】ヒーローアカデミアの霹靂日記   作:唐野葉子

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本作品には独自設定、および独自解釈が当然のような顔をして混入しています。
原作設定との混同にご注意ください。


本編
青天の霹靂 1


△ △ △

 

 

 夢を見るんだ。

 

 幸せな夢なんだ

 ――いつも通りの悪夢なんだ

 

 俺は強くて。誰よりも強くて

 ――俺は弱くて、怯えて、逃げて、泣きわめいて

 

 弱い人や困っている人を助けてあげられる。いつでも

 ――誰からも期待されない。あぁ、コイツはダメだって離れていく

 

 じいちゃんの教えてくれたこと。俺にかけてくれた時間は無駄じゃないんだ

 ――じいちゃんが俺に稽古をつけてくれた時間は全部無駄で

 

 じいちゃんのお陰で強くなった俺が、たくさん人の役に立つ……

 ――鬼舞辻無惨の首を斬ることも、禰豆子ちゃんを人間に戻すこともできないで、道半ばで斃れた……

 

 そんな、夢。

 ――いつかの現実(前世)

 

 

 

 ねえ、じいちゃん。

 俺、もう一度だけ自分を諦めなくてもいいかな?

 

 恩返しのひとつもできなかった。じいちゃんが生きている間に柱になれなかった俺だけど。

 どれだけ修行してもやっぱり壱ノ型しか使えないカスだけど。獪岳と仲良くなることもできなかったクズだけど。

 炭治郎みたいに優しいわけじゃない。伊之助みたいに猛勇な目的があるわけでもない。ヒーローという職業に憧れや使命感なんてない。ただ今度こそ証明したいんだ。

 

 だから俺がくじけるたびに『諦めるな!』って、背中を蹴っ飛ばしてほしい。

 

 

 

 これは俺がヒーローを目指す物語。

 

 

△ △ △

 

 

【○月●日】

 

 ()()雷に打たれた。

 

 また髪の毛が金色に染まった。

 ほんとやんなっちゃうよな、俺の人生。

 

 おまけに、思い出せるはずのないことまでぶわっと思い出しちゃうんだからさ。

 ()と同じで雷に打たれたにしては奇跡的に軽症で済んだけど、思い出したことのせいで三日三晩高熱に苦しむ羽目になった。

 そんな(ばち)を当てられるほど悪いことしたかな、俺?

 

 ……してるわ。文字通りに死んでも直らなかったカスっぷりのまま生きてきたわ。嫌なことから逃げまくるし、楽な方に流されまくるし、朝から晩まで事あるごとにビービー泣きますし。

 誰かを嫌な気分にさせることに関しては天才的だって同じ施設のやつらに言われてますわ。

 

 そんな根性なしの俺だからこの日記も三日坊主で終わりそうな気が今からしているけれど、入院中は暇なので大丈夫だろう。

 あとは今日みたいに、ぐちゃぐちゃでわけのわからないことになっている頭の中を少しでも整理したいときに書くことになるかな。

 

 単純なことから、ひとつひとつ整理していこう。

 俺の名前は我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)

 東京在住の小学生。両親はいなくて、社会福祉施設の世話になっている。俗にいう孤児院ってやつ。差別用語になるとかで、表面上は使われないけどさ。

 親も親戚もいないのは()と同じだけど、()は三食しっかり食べられるし、衣食住も衛生環境も医療機関も確保されている。

 これでもっとお小遣いが欲しいだの、美味いモノが食べたいだの、女の子をデートに誘う金も服も足りないだのと、ぎゃーぎゃー泣きながら文句ばっかり言っていた()の俺はかなり贅沢者だったなと思う。

 

 ……いい加減、逃げるのはやめにしないと。じいちゃんにぶん殴られる。婉曲に表現するんじゃなしに、はっきり現状を明記しよう。

 

 俺は前世の記憶を思い出した。

 

 大正時代、鬼殺隊という政府未公認の秘密組織に所属して。

 鬼、日光を浴びるか日輪刀という特殊な刀で首を斬り落とさない限り死なない人喰いのバケモノを狩る日々を過ごしていた、だなんて。

 そして、最期は鬼に負けて死んだ。だって俺弱いもん。めっちゃ弱いもん。最終選別に合格して鬼殺隊に入隊できたこと自体がそもそも奇跡っつか間違いだわ。いつも死ぬと思いながら任務を受けていたし、案の定死んだ。ちくしょう、死にたくなかったよマジで。

 

 熱が下がった今でも記憶をたどれば頭がくらくらしてくる。

 あ、やっぱりダメかも。もう限界だわ。病人だし、ゆっくり休んで体力回復するのが今の俺の仕事だよな。

 ってわけで、今日はもう(ペン)をおくわ。おやすみ。

 

 

 

【○月●日】

 

 かがくのちからってすげー。

 

 情報化社会、グローバルネットワーク。難しい言葉ばかりで本質がさっぱりだけど、大正ならお偉いさんだって大枚叩いても知るよしの無かった知識が、今の時代なら小学生が十秒で調べられるってことは俺でも理解できる。

 人権という概念と日本という国の豊かさは、俺に最低限度の文化的な生活を保障してくれた。現代の『最低限度』にスマホは必需品らしい。一番の安物で、契約プランも一番お手頃価格のやつだけど、その文明の利器はたしかに俺の手の中にある。

 ビンボーな家庭だといまだにガラケーで頑張っているところもあるらしいのに、施設の子供にスマホが支給されているあたり現代社会の闇を感じなくもないが……。とにかくこれがあれば病室のベッドの上にいながら、たいていのことは調べがつくはずだ。

 

 というわけで、さっそく思い出した記憶の裏付けになりそうなものを一通り調べてみたんだけどさ。鬼も鬼殺隊も、前世で出会った人たちのことも、何ひとつヒットしなかった。

 俺がアホで調べ方が悪かったのかな? でも電話やテレビといった連絡手段がろくに市民に普及しているとは言い難かった前世でも、人喰い鬼の情報は噂という形で人々の間に出回っていたんだ。

 これだけ情報の伝達手段が蔓延っている現世で、仮に鬼がいまだに存在しているのならまったくその情報が見つからないということはたぶん無いはず。

 

 きっと、炭治郎たちの刃は無惨の首に届いたんだ。

 

 だから鬼はこの世から消え、平和になった。

 禰豆子ちゃんは人間に戻って、鬼だったころの嫌な記憶なんて綺麗さっぱり忘れて、幸せな結婚をして子宝に恵まれ、孫ひ孫に囲まれて生涯を終えたのだろう。

 俺以外の男の隣で禰豆子ちゃんが笑っている光景を思い浮かべると嫉妬で血反吐はきそう。だけど、男女平等や女性の社会進出が謳われる現代ならいざ知らず、大正時代の女性の幸せとはそういうものだ。

 禰豆子ちゃんには幸せになる権利があるし、炭治郎は絶対に妹を幸せにする。そういう男だ。きっと俺なんか比べ物にならないほど優良物件を見つけてきたことだろうさ。

 

 少し気がかりなのはこの時代、俺以外に鬼殺隊関係者の痕跡がさっぱり見当たらないことだろうか。

 ひいき目も入っているだろうけど“全集中の呼吸”が使えたらヒーローとして各方面で活躍できるだろうし、“柱”クラスともなればトップヒーローと遜色ない動きができるはず。なのに英雄名鑑にも、世間のニュースにも、それらしき話が影も形も見当たらない。

 ……きっと、前世では波乱万丈な生涯を過ごしたから、今世ではスローライフを満喫する人が多いんだろう。

 この世界に転生したのは、前世の記憶なんてよみがえったのは、俺だけじゃあないはずだ。

 

 俺は自分の信じたいことを信じる。

 

 

 

【●月●日】

 

 気分が悪い。昨日から眠れていない。

 

 警察から事情聴取を受けた。

 ……何も悪いことはしてないよ? というか今回は、本当に俺は何も悪くないから。

 

 以前もそうだったから、そういうものだと勝手に納得してたんだけど。

 雷に打たれたのに奇跡的な軽症、金色に染まった髪、落雷があった当時は直前まで晴天だったとか。それらの要素から自然災害ではなく事件性を疑われたみたい。

 実際、俺が今世で木に登っていたのっていじめっ子たちから避難するためだったからね。子供のやんちゃが行き過ぎて“個性”を使った犯罪に及んだんじゃないかって。

 

 疑いそのものはすぐに晴れた。いじめっ子たちの個性も、俺の個性も、雷を落とせるようなたぐいのものではなかったから。

 ちなみに俺の“個性”は耳の良さ。これが社会を支えるヒーローたちの超能力と同列に並べられるのは違和感があるけど、前世ではいろんな人から気味悪がられたこの耳を『個性』として受け入れてもらえるのは楽だ。

 

 落雷が個性なら殺人未遂の適応もありうるから念のため調べにきただけで、警察の人たちはそこまでやる気がなさそうだった。

 こっそり“個性”の精密検査が国の金で受けられるかと期待したけど、そんなことも無かったし。地区によっては『個性を調査する個性』なんてそのものズバリの“個性”の担当医が検査してくれる区域もあるらしいけど、俺はたいていの学校で行われるように個性健診でぱぱっと診断・登録されただけなんだよな。

 病気の診断とか同じで誤診もありうるから、もしかして耳がいいのは前世からの体質で、俺の秘めたる力がいま明かされるかもなんて妄想は儚く散った。簡単な聞き取り調査をしたあと、警察のひとたちは帰ってしまった。

 

 それ以来、ずっと俺の中で不安がぐるぐるしている。

 

 雷が“個性”かもしれないのなら、雷に打たれたことでよみがえった記憶は?

 前世の記憶だと勝手に思い込んでいるだけで、どこかの誰かに“個性”で植え付けられたものじゃないなんて、どうして言えるんだ?

 『前世』はデタラメかもしれない。“個性”じゃなかったとしても、電流でぐちゃぐちゃに混乱した俺の脳みそが生み出した妄想の産物かもしれない。

 その認識は俺の足元をぼろぼろの砂山に変えてしまったような気がした。

 

 俺の名前は我妻善逸。

 前世と同じ名前だなんてすごい偶然だと思っていたけど、こうなってくると恣意的なものがあるように思えてしまう。前世と同じ名前じゃなくて、今の俺から『前世』が作られたんじゃないかって。

 

 鬼。

 人を食う不死身のバケモノ。殺すためには日光に当てるか、日輪刀で首を刎ねるしかない。(“蟲柱”のしのぶさんは毒を使って鬼を殺せたらしいけど、鬼殺隊全体でその技術が共有されなかったことを鑑みるに『確立された手段』ではなく『“柱”の技量があって初めて成立する特殊能力』に近しいものだったのだろう)

 ミソなのは首が急所なんじゃなくて、首を日輪刀で切断するのが重要ってことだ。たとえばそこらに落ちているただの斧で首を斬り落としたところで、鬼が死ぬことはない。それどころか、切り離された頭と身体が別々に動き始める。これはすべての鬼に共通した能力で、雑魚鬼だろうと持っている。上位の鬼はこれに下手な金属を凌駕する首の硬さと、超高速の再生能力というおまけが搭載される。

 炭治郎から聞いた話だけど“十二鬼月”の“下弦の伍”は、日輪刀で首を刎ねられる直前に自ら首を糸で切断することによって回避するなんてとんでもないことをやったらしい。

 生物の常識を無視している。そんな生き物いるわけない。

 夢でも見たんじゃないか? 幼い子供が見るような、ただの悪夢を。

 いや、探せばそんな“個性”の持ち主だっているはずだ。だから、ありえないとは言い切れない。

 

 前世は幸せなことばかり、じゃあなかったって胸を張って言える。俺が世界で誰より不幸だったとまでは思わないけどさ。

 女に騙されるし、借金するし、女に貢いだのに手すら繋いでもらえずこき使われるし、借金を押し付けられるし、女は逃亡資金片手に自分の惚れた男と逃げるし、俺は借金取りに売られそうになるし、それを七回くらい繰り返すし……やっぱり日本で一番不幸な男だった気がしてきた。

 でも、それでも禰豆子ちゃんが、炭治郎が、じいちゃんが。あの泣きたくなるような優しい音が。

 覚めたら消えるだけの夢だったなんて、絶対に思わない。思いたくない。

 

 俺は自分の信じたくないものを見ないふりするのは得意なんだ。

 だけど、どれだけ目を逸らしたって、自分からは逃げきれないんだよなぁ。

 わかってるんだよ、そんなことは。

 

 

 

【●月●日】

 

 俺はヒーローを目指す。

 

 

 

 きっかけは退院して施設に帰る途中、駅前の巨大スクリーンに映ったそれだった。

 

 雄英体育祭。

 日本最難関のヒーロー科を抱える国立雄英高校にて行われる、“個性”ありの体育祭。TVで生中継され高視聴率を叩きだすほか、名場面はこのように編集され学生の祭典とは思えないほどに長期間メディアに引っ張りだこになる。

 “個性”持ちが全人類の八割を占め形骸化したオリンピックに代わり、日本中を熱狂させるビッグイベント……らしい。

 

 正直、スポーツ全盛期のオリンピックだって知識としてしか知らない身としては大言壮語が過ぎるのではないかと思う。

 だって四年に一度にしか開催されず、開催国は国家の威信をかけて会場の設備やインフラ網の整備や治安維持や国際化への対応などを自己負担し(開催までに「問題解決」ができなければ国家の面目が丸つぶれだったそうだ)、そのぶん経済効果(リターン)だって相当なものだったって聞く国際的なスポーツの祭典だ。

 それを毎年開催される学校のイベントと比べるのは、さすがに動く金額的に大げさすぎるんじゃないかなって。

 

 だけど祭の神を自称していた“音柱”のやつも満足しそうなド派手な試合のハイライトがスクリーンを流れるなか、ふと思ったのだ。

 メディアでこれだけ「現代のオリンピック」扱いされるということは、少なくとも日本国内においてはそれだけ人気と権威があるってことだ。つまりそれだけ日本中から注目されるってこと。

 馬鹿な俺がいくら前世のことを調べても、この広い世界の中から現代に生まれ変わった鬼殺隊関係者を見つけるのは難しいだろう。でも、あちら側から見つけてもらうのなら。

 いくら日本最高峰のヒーロー養成機関とはいえ学生だ。前世で死にそうになりながら戦った鬼たちよりかはずっと易しい相手に思える。うん、いけそうだ。

 

 雄英体育祭で活躍して、表彰台に立つ。

 それは頭のよろしくない俺の前に降って湧いた天啓だった。

 

 それに、この案は一石数鳥だ。

 現代はやけにヒーロー賛歌が蔓延している。純粋にヒーローに憧れていたり真面目にヒーローやっていたりする人たちには悪いけど、ぶっちゃけちょっと気持ち悪い。でも俺のような施設出身の人間でもヒーローを目指していることを公言すれば、周囲からサポートを受けられる公算が高いのだ。

 実際に雄英高はその施設の充実ぶりに対し学費はかなり安いって話だ。国家規模で優秀なヒーローを育てるために金を使っている。これを利用して身体を鍛え、はやいところ現世でも“全集中の呼吸”を使えるようになりたい。

 “全集中の呼吸”が使えるようになれば、少なくとも『前世』はただの妄想じゃないって証明になる。

 

 あと、鬼殺隊は実力主義の組織だった。多少人格に問題があっても剣の腕さえ立てば上へと昇っていけた。

 現代でもっとも腕っぷしが必要とされる職業は間違いなくヒーローだろう。ひとは自分の慣れ親しんだ形態からはなかなか逸脱することができない。俺にもよくおぼえがある。つまり鬼殺隊の人間が前世で培ったスキルを活かして条件のいいとこに就職しようと思えば、ヒーローを目指す可能性が高いってことだ。

 俺自身がヒーローを目指しその育成機関の内部にいれば、外部からは知りえない情報を知ることもできるかもしれない。特にあの派手柱や猪はヒーローとかすっごく好きそう。ヒーローをやっているあいつらとひょっこり再会できるんじゃないかって気がしている。

 

 

 

 ……でもあの地獄の鍛錬が一からやり直しだと思うとすこし、いやすごく気が重い。すげえやりたくない。

 “全集中の呼吸”は頭で理解していれば使えるってもんじゃない。血肉に溶かし込み、骨の髄まで叩き込み、一体化させなければいけない。現代風に言えば呼吸器系の拡張と循環器系の強化を主軸に、全身の筋肉と骨もそれに耐えられるように鍛える必要がある。そうやって身体を作ってはじめて意味を成す呼吸法なんだ。

 しのぶさんの継子であったカナヲちゃんは見様見真似で“花の呼吸”を習得したって噂で聞いたことがあるけど、さすがに嘘でしょそんなの。嘘だと言ってよお願いだから。いくら可愛い女の子でもやっていいことと悪いことがあると思うよ俺は?

 

 うん、ヒーローを目指すとは決めたけど今日の俺は退院したばかり。無理は禁物だな。

 今日はゆっくり休んで、明日から頑張ろう。

 

 

 

 夢の中でじいちゃんにぶん殴られた上、炭治郎にもんのすげえ顔で見られて目が覚めた。

 明日って今でしたごめんなさい。走ってきます。

 

 

 

【●月●日】

 

 やばい。勉強がまったくわかんねえ。

 勉強の内容もそうだけど、そもそも勉強の方法がさっぱりわからん。落書きだらけの教科書と驚きの白さのノートを前に、時間だけが無為に過ぎていく。

 前世ではいちおう読み書きそろばんは最低限できていて、チュン太郎に手紙を運んでもらったりしていたんだけど、現代の勉強って要求されるものが根本的に違う。何をここまで詰め込む必要があるんだってくらい詰め込まれる。気まぐれで始めたくらいじゃ既に追いつけない。記憶を取り戻すまで嫌なことから逃げ回っていたツケがここで出ていた。

 

 鍛錬の方も思ったように進んでいない。

 ヒーローになると公言したら、たしかに学校の設備の使用許可は下りた。いまどきの“個性”にはハムスターやマグロみたく運動し続けなければ落ち着かないタイプもある。学校や地域の公共施設にはそういう子供向けのトレーニング設備が用意されていて、無料で利用できる。

 

 周囲からの嘲り、侮り、手間をかけさせるな、面倒を増やすなという“音”は予想できていたし前世でもさんざん聞いた。つらくないわけじゃないけど、改めて傷つくようなことでもない。面白半分の邪魔もめちゃくちゃ腹立つけど許容範囲だ。

 問題は“全集中の呼吸”の鍛錬方法は今の世なら児童虐待で通報待ったなしのラインナップだってことだ。どういう修行をすれば身につくかは知っている。でも周囲の目があるところで再現するのは事実上不可能。

 

 大正時代の頃と比べトレーニング器具はかなり洗練されている。日輪刀やら隊服やら、鬼殺隊では現代から見てもオーバーテクノロジーが少なくなかったけど、総合的に見ればやっぱり現代の圧勝だ。

 でも洗練されて効率的になっているぶん、きっちり目的に沿った使い方をしなきゃいけない。俺にはそっちの知識も欠けていた。何をどう使えばあのときの鍛錬と同じ成果が得られるのかがわからない。

 数学の公式を丸暗記しても、数式を解けるわけじゃないのと同じだ。この公式を当てはめれば解けるのだとわかっていても、数式を解きほぐすのにはそれとは別に当人の能力がいる。

 

 小学生なのにもう数学の勉強をしているのかって? 雄英高は偏差値80前後、入試倍率300倍というバケモノ難関だ。俺は馬鹿だから早いうちに予習しておくべきかと、古本屋でなけなしの小遣いを叩いて参考書を買ったんだよ。

 基礎がなっていないうちに上ばかり見ても意味がないって金を無駄にした気しかしないけどな! ちくしょう。

 

 頑張ろうと思ったんだ。頑張れる気がしていたんだ。だけど努力してもしんどいだけで、ちっとも成果が出ない。つーかこれって努力している気になっているだけで、何も積み重ねられていない気がする。

 こんな俺から少しでも変われると思っていたのに、俺のクズさ加減は死んでも変わっていなかった。

 

 こんなとき、炭治郎ならどうしていたかな?

 

『たとえ周囲の理解や賛同が得られなくても、知識が足りなくても、金が無くても、俺はこれまでよくやってきた! 折れずに努力を続けてきた。だからこれからだって挫けることはない!

 俺はやれる! 絶対にやれる! 成し遂げる男だ!! 俺は長男だから我慢できたけど次男なら我慢できなかっただろう!』

 

 脳内炭治郎さんがやかましい。

 でもすげえ言いそうだ。そんなことを言いながら自分だっていっぱいいっぱいの癖に周囲に手を差し伸べて、巡り巡って周囲の助力を得てあいつは困難を乗り越えていくんだろう。

 

 でも今だから言わせてもらうけどな。お前の長男信仰はおかしいから!!

 長男だって我慢できないものはたくさんあるからな!? むしろ俺だって伊之助だって肉親が確認されていない以上暫定長男だから!!

 長男なのに我慢できなくって大変申し訳ありませんでしたねえ!? でも痛いものは痛いしつらいものはつらいんだよ! わかるだろ? わかれよ!

 

 だいたいお前、次男なら次男で――

 

『俺は竈門家の次男だ! 兄を支え、弟たちを導く立場だ!

 長兄が先導してくれているのに、俺が後を付いてくる弟たちの前でくじけるわけにはいかない! 竈門家の次男には炭治郎がいるのだということを見せてやれ!!』

 

 とか言いそうだし、よしんば末っ子だったとしても――

 

『俺は末っ子だ! 兄貴たちが家を背負い、支えてくれているのに末っ子の俺だけが自分のことさえ背負いきれないことがあっていいはずがない!

 末っ子だってやるときはやれるんだということを証明しろ!!』

 

 とか言って結局頑張っちゃうんだろ? 俺知ってんだよ。

 長男だからすごいんじゃない。お前が炭治郎だからすごいやつなんだ。

 

 ヒーローっていうのはきっと炭治郎みたいなやつのことを言うんだろうな。

 俺はダメだ。わかってるんだよそんなことは。最初から知ってんの。

 でもヒーローを目指す以上に冴えた方法が俺には思いつかないんだよ。これでも必死に頑張ってるんだよ。

 

 

 

 




終盤までは書き上がっているので、ストックが尽きるまでは毎日投稿します。
前半は日記形式が多く、後半は小説パートが多いという雑多な作品ではありますが……。
自粛、自粛と諭され巣ごもりを余儀なくされる昨今ですが、少しでも無聊の慰めになれば幸いです。

初日は物語のテイストを把握しやすくするよう二話投稿予定です。
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