【完結】ヒーローアカデミアの霹靂日記   作:唐野葉子

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いつもお気に入り登録、感想、評価、ここすき、そして誤字脱字報告ありがとうございます。
原作キャラの性別を間違えるというポカをやらかしたり、たくさん感想をいただいて返信が追い付かなくなったりしておりますが、筆者は元気です。
返答が追い付かないまでもすべての感想にはありがたく目を通させていただいております。
ついに今回の投稿で10万字を越えますね。長々とお付き合いありがとうございます。個人的にこのくらいが連載小説を自信をもって名乗れるボーダーラインなので、到達できて嬉しいです。

今回でUSJ編決着です




雷光と雨天 4

 曰く、知識と経験は邪魔にならない荷物だから詰め込めるだけ詰め込んでおけ。

 

 知識や経験の重要さを説いたキャッチコピーは枚挙にいとまがない。

 しかし、本当だろうか? 本当にそれらは邪魔になることはないのだろうか。

 たしかに『知っている』というのは大きなアドバンテージだ。気づかなければ一生気づけない手札が目の前にぞろぞろと現れる。

 だがその一方で知っていることが先入観や固定観念になってしまい、傍から素人目で一目瞭然の真実にプロフェッショナル、専門家と呼ばれる者たちが延々と答えがわからず悩み続ける光景も珍しい話ではない。同様に何も考えずに打たれた素人の一手が、かえってブレイクスルーを引き起こしその道のプロに致命打を与える事例も往々にして存在する。

 物理的な重量を有さないだけで知識も経験も荷物は荷物。実力以上の手札が揃ってもかえって何を切ればいいのか迷い身を滅ぼすだけ。

 身の丈に合わない量を抱え込めばその重量で潰されるのが関の山ということだろう。要はため込んだ荷物を、適切な状況で、適切な量だけ使えるかと言う方が重要なのだ。

 

 さて、長々と語ったが少しばかり時間を巻き戻し、場面を山岳ゾーンの戦いに戻そう。

 この戦いで始終アドバンテージを握り続けていたのは間違いなく五加だった。彼女に前世の記憶という反則的な経験値のなせる業だ。

 

 しかしここで、その彼女の経験値を構成している『鬼』という敵性種族の生態に着目したい。

 鬼は群れるということをしなかった。否、厳密には鬼を生み出した鬼舞辻無惨がそれを許さなかった。

 鬼が徒党を組んで自らを脅かすことがないように。鬼たちの迂闊な発言が巡り巡って自らの首を絞めることがないように。

 鬼は群れると共食いを起こし、無惨の名を口にすると“呪い”によって死に至る。

 無惨の“呪い”を自力で外した異端の鬼、無惨に反旗を翻した逃れ者の珠世曰く『あの男はただの臆病者です。いつも何かに怯えている』。

 いちおう例外は存在し、無惨が特例的に認めた場合は群れを成すこともあるし(“下弦の伍”は配下の鬼に自身の血鬼術を分け与え、家族と呼んでいた)、藤襲山(ふじかさねやま)の最終選別のように外部的な要因で一か所に集められ、結果的に共闘のような状態になることもある(もちろん、その場合は共食いが起こりうる)。

 

 つまるところ、何が言いたいのかというと、たいていの鬼は一体倒せばそれで終わりだ。

 鬼狩りを担う隊士は鎹鴉の伝令に従い、また別の鬼の場所に行く。事故処理は“(カクシ)”という専用の事後処理部隊が担当してくれる。

 五加には武術でいうところの残心、対人の実戦ならありうる『目に見える敵勢力を倒した後に伏兵から背後を突かれる』経験が端的に不足していた。そして指揮を担っていた彼女が警戒を解いてしまえば、おのずと他の二人も気が緩んでしまう。

 

「手を上げろ。“個性”は禁止だ。使えばこいつを殺す」

(あっちゃー。完全に油断していた。失敗しっぱい)

 

 一網打尽の電撃の反動でアホ面さらしてウェイウェイ言っていた上鳴を、地面に潜んでいたヴィランが人質に取る一連の流れを阻止することは不可能だった。

 

「上鳴!」

「おい、そっちのガキもさっさと手を上げろ……同じ電気系個性としては殺したくないが、場合によってはしょうがないよな?」

「ウェイ!?」

 

 耳郎は手を上げたが、五加はだらりと手を下ろしたままだった。それどころかヴィランがバチバチと放電させながらすごんでも、上鳴が悲鳴を上げても、彼女の表情には焦燥の色が無い。

 

「うーん……」

 

 電気系個性。おそらくは通信妨害(ジャミング)を担当してる個体。

 ひとまず合点がいった。山岳ゾーンに配置されていた(ヴィラン)は目測による概算で三十名以上。ワープゲートによって飛ばされる前、セントラル広場に現れた人数も勝るとも劣らない数だった。

 しかし残りの倒壊ゾーン、土砂ゾーン、火災ゾーン、水難ゾーン、暴風・大雨ゾーンにそれぞれ同数だけ配置されていると仮定すれば、単純計算で「7×30=210」という計算になってしまう。ネット小説で突如として主人公の前に現れる百人の盗賊と同じく、現実味に乏しい数だ。それだけの兵隊を用意できる組織力があるのならいっそ雄英高に直接攻め込んだ方がはやい気がする。

 おそらく作戦の重点となるべきエリアだからこそ大人数が割り振られたのだろう。教師陣(プロヒーロー)に対処する兵力、各個撃破の要となる通信妨害、どちらもそこが破綻すれば計画全体が崩れてしまう。

 ということは逆算すると、このヴィランは要を担うにふさわしい実力の持ち主である可能性が高い。少なくとも五加なら先ほど鎧袖一触に蹴散らした雑魚に、一回でも漏れたら終わりの通信阻害を任せる気にはなれない。

 

「何を考えているのか知らんが、この状況から知恵と勇気で切り抜けられるのは物語(フィクション)の中だけの話だぞ。チャレンジするのはいいが、成功しても失敗してもこいつは死ぬ」

「ウェ、ウェーイ……」

「機織、はやくっ」

 

 ハッタリではないだろう。人間を傷つけることに抵抗が無い人間だと、目を見ればわかる。耳郎も青ざめた顔で手を上げるように急かしてくる。

 そして仮に五加がここでナイスなアイディアを突如として思いついてこのジャミング個体を倒せたとしても、事態が好転するとは限らない。

 相手は電気系個性。それがただの自称ではないことは相手の指先で弄ばれる放電を見ればわかる。

 そしてここは山岳ゾーン。木々などの遮蔽物の無い岩肌を模したエリアだ。ここを掘るのはスコップやシャベルがあっても重労働だろう。

 出てきたジャミング個体とは別に、こいつを地中に埋めた“個性”の持ち主がいる。

 この期に及んで先ほど倒した中にいるだろうと楽観視するのは危険に過ぎた。

 

 しかし、相手は見誤っている。耳郎も初の実戦で一転して不利に陥ってしまい完全に飲まれている。

 教えてやるべきだろう。現状は五加から見て『失態』ではあっても『劣勢』ではないと。

 

(こっちの手札をいまひとつ把握しきれない……けどまあいいや、考えながら喋ろう)

 

「いやね、さっきからずっと気になっていたんだけど。あ、そういうことか」

 

 ふわふわと頭の中で空転していた思考が、言語化しようとした際にかちりと当てはまることがある。今の五加がまさにそういう状態だった。

 出てきたジャミング個体と、いまだに穴熊を決め込んでいると思しきモグラ個体。この差はいったい何に起因するものなのか。

 

「音の440倍の速度、一億ボルトの電圧、一ギガジュールにも及ぶエネルギー――雷のスペック。知ってるよね?」

 

 全滅させたと思わせてからの伏兵。それはいい。有効な戦術だとしてやられた側から賞賛しよう。

 

 しかし、なぜ上鳴を人質に取ったのだ?

 

 完全に不意を突かれたことは、突かれた五加が知っている。電気系個性なら速度、内包するエネルギー共に子供三人を文字通り瞬殺するのに十分すぎる。

 なのにわざわざ人質という成功率が高いとは言い難い、脅迫という名の交渉を相手は始めた。

 

 五加はにっこり笑ってセントラル広場の方向を指さした。

 

「焦ったんだろ? 生徒(ぼくら)の中に『自分以上の電気系個性』がいることに」

「っ! キサマッ……」

 

 指さした方角からは、断続的に雷鳴を彷彿とさせる轟音が轟いていた。

 戦闘訓練を見学していたA組の面々は知っている。それが善逸の剣術によるものだ、ということを。

 しかしそうではないヴィランからすれば、落雷規模の放電を信じがたいスパンで連発可能なバケモノがいるように思えたのだろう。

 かつては神の権能にも数えられた大自然の暴力。“個性”の存在によりそれは道具を介さずとも人の手に渡ることになったが、やはり人には荷が過ぎるもの。

 倍率三百倍を突破した上鳴でさえ大放電をした後は反動でアホになるほどなのだ。……しかし大放電とアホになる因果関係ってどのようなロジックなのやら。まあ“個性”では珍しくないことだが。

 

 腕に覚えがあるとはいえ、ここにいる以上は所詮バカをやらかしたチンピラの延長線上。暴力を好む輩が一番恐れるのは、自分の得意分野で完全に上をいかれることだ。

 勝てると盲信できなくなってしまった。だから目の前に手ごろな上鳴(アホ)が現れたときに、つい人質にとった。身の安全を図るために。

 計画的な犯行ではない。焦りから出た、泥縄式の行動だ。そこに付け入る隙がある。

 

「……ヒーローの卵が人質を軽視するなよ」

「まさか。しっかり考えているさ。人質が有効だとヴィランに学習させてはいけないってね」

 

 現代社会ではよほどの凶悪犯罪でもない限り、刑務所から出てきてしまう。今回の襲撃ならせいぜい懲役七年といったところだろうか。

 ヴィランが騎士道よろしく正々堂々真正面から向かってくるのは断言してもいい。絶対にレアケースだ。どんな卑劣な手だろうと、どんな倫理に反するマネだろうと、それが有効だと思えばやつらはそれを躊躇わずに選択することだろう。

 ここで『五加に人質は有効な一手である』と知られれば、十年後に人質に取られるのは友人や家族、あるいは恋人かもしれない。

 だから最初の一人目で言葉ではなく、その腐った魂に痺れるほど叩き込まねばならないのだ。五加相手に人質を取るのはリスクばかりでリターンが無いのだと。

 

「この業界に足を踏み入れると決めたときから、命の価値に順位付けくらいしているよ。第一に守るべき人々の命、その下にヒーロー(ぼくら)さ。

 ヒーローの大前提は自己犠牲。守るべき人々の足枷になるのなら、可及的速やかに死ぬのが最期のお勤めだってものだよ」

 

 まじか、という目で耳郎が五加の顔を見る。怖気を抑えきれずに彼女の身体が震えているが、あいにく今の五加に取り合う気はない。

 

 かつての鬼殺隊でもそうだった。

 一に鬼狩り、二に無辜の人々の命、隊士の命は三の次。一と二が前後することはあっても三番目以降が揺らぐことはなかった。

 自身の命を守り、相手を守り通して初めて一人前だと、己を大切にしろと諭せないほどに鬼との戦力差は隔絶していた。自己犠牲こそ(ほまれ)とされ、死を厭うのは悪とする風潮さえあった。

 今のヒーロー社会はだいぶ勝手が違うが、五加にとっては似たようなものだ。命は平等ではない。身勝手で、理不尽だ。

 

「他人の命より自分の命を優先するつもりか?」

「あー、やっぱりそこから勘違いしていたんだ」

「勘違いだと?」

 

「うん。もとから交渉のテーブルにぼくの命は乗っていないよ。上鳴くんの命と、お前の命、そのふたつだけだ。

 お前は上鳴くんを殺すことができるし、ぼくらは上鳴くんが死んだ後にお前を残酷に惨たらしく殺す。ただそれだけだよ」

「なっ」

「うぇい!?」

 

 人質に取った者と取られた者、反応がきれいにシンクロした。ストックホルムシンドロームもそう遠い未来の話ではないかもしれない。残念ながらそれでも時間が足りなさ過ぎるが。

 

「あんまり交渉最中に見当はずれなことを言うなよ。減らしちゃうぞぉ?」

 

 お前の寿命を。

 口に出さずにそう付け加える。

 

 

 

 五加は知っている。

 命を懸けて誰かを守るその気高さと尊さを。

 そして、それが守られた誰の価値を保証するものではないということも。

 

――アイツ、あの“上弦の陸”と兄弟弟子だったらしいぜ

――迷惑な話だよな。雷一門から鬼を出したばかりじゃなくて、その因縁に巻き込まれたってことかよ

――どうせ壱ノ型しか使えない雑魚だったんだろ? とっとと死んでくれていればよかったのに

 

 きっと一生忘れない。いや、事実として『死んでも忘れなかった』。

 善逸が命を懸けて“柱”到着まで、ただ一人で時間を稼ぎ守り通した隊士たちの言葉。彼らは善逸に助けてもらったのだと感謝するのではなく、善逸のせいで死にかけたのだと彼をなじった。

 

 自己犠牲なんてそんなものだ。

 自分の命を投げ出すことが善なる結果に繋がるのではない。ただ、投げ出す選択肢だけは常に自分の手の中にある。それは誰に強制されるものではないし、強いられてはいけない。

 ヒーローの肩書だろうが何だろうが、自分が何に対して命を懸けるのか五加はとっくの昔に決めている。

 

「人質に取るのならぼくにするべきだったね。上鳴くんが隙だらけだったから思わず手が伸びちゃったんだろうけどさ――同じクラスに所属する者としては死んでほしくはないけど、場合によってはしょうがないよね?」

「ぐっ」

 

 ジャミング個体のこめかみに汗がにじむ。自身の第一声を揶揄したセリフに伴うプレッシャーはすさまじく、もはや両者間での格付けは決まったようなものだった。

 

「さて。お互いによりよい未来があるんじゃないかってわかったね。

 キミは死にたくもなし、捕まりたくもなし。ぼくだってクラスメイトが死ぬのはいやなものさ。

 クラスが奇数になれば今度のヒーロー基礎演習からチーム分けが面倒なことになるし、仮免すら終わっていない生徒がヴィランに殺されたなんてなったら流石の雄英でも屋台骨が揺らぎかねないし」

「な、なにを」

「前提条件がはっきりわかったところで、ようやく交渉が始められるね」

 

 五加はにっこり笑みを深める。

 そして懸かっているのが自分の命ではない以上、勝負に出るのも五加ではなく当人だ。

 

「ぼくとしてはさぁ、やっぱり―――キミは惨たらしくみじめに打ちのめされるべきだと思うんだ」

「ぐああああああ!?」

 

 ジャミング個体の口から漏れ出たのは五加への返答ではなかった。

 

「うぇうぇうぇうぇーい!!」

 

 完全にこの場の空気は五加が握っていた。全員の意識は五加に集中していた。上鳴の締まりのないマヌケ面が、徐々に輪郭を取り戻していることに気づく余裕は奪い去られていた。

 電気系個性の持ち主は一般人よりも多少は電撃に対する抵抗力を有するが、あくまで『多少』の範疇に過ぎない。炎を操る“個性”の持ち主が熱で斃れるように、強酸を操る“個性”の持ち主が強すぎる酸で肌を焼かれるように。“個性”に適合した人体は平均よりもその現象に対し適応性が高いが、あくまで生物の範疇として限界がある。

 雄英高の狭き門を潜り抜けた上鳴の全力放電は、この広大なUSJを網羅できる実力をもつジャミング個体の抵抗力を凌駕した。

 五加は慌てずひゅんひゅんと右手のテイザー・ヨーヨーを振り回し、遠心力で威力を増大させる。お互いにフレンドリーファイアにならぬようにタイミングを見計らい、放電がやんだ瞬間に一撃。崩れ落ちるヴィランの脳天に吸い込まれた錘は、完全なとどめとなって鈍い音を響かせた。

 

「うぇいうぇいうぇうぇーい!」

 

 またもや大量放電の反動で顔面の輪郭レベルでアホになった上鳴が両手の親指を立ててはしゃぎまくる。

 いまだに状況の把握がおぼつかない耳郎は、すぐれぬ顔色のまま五加に問いかけた。

 

「気づいてたの?」

 

 上鳴が状態異常(バッドステータス)・アホから回復していたことに。

 

「まーねー。上鳴くんだって入試を潜り抜けてここにいるんだもん」

 

 模擬市街地演習は十分間でどれだけの仮想敵を破壊できるかという形式をとっている。マスクデータであるレスキューポイントも重要だが、受験生が意識するのは目に見える得点であるヴィランポイントの方だろう。

 仮にサポートアイテムの補助なしで三十名からなる集団を大放電で無力化したならともかく、十五名程度をテイザー・ヨーヨーの補助を受けた上で対処したのだ。あの程度で息切れしてしまうのなら、彼は合格できまい。

 

「最長でも十分以内、まあ移動や索敵にかかる時間を差し引いて合格ラインを逆算すれば三分程度で正気に戻るだろうと踏んでいたよ。だいたい予想に狂いはなかったみたいだね。よかったよかった」

「じゃあ、あの言っていたことって」

「人の生き死にが懸かった冗談を吐くほど悪趣味じゃあないつもりだよ」

「……そッスか」

 

 時間稼ぎではあったが、口から出まかせを吐いたつもりもない。

 本音を包み隠さず律儀に曝け出したわけでもないが、己が欠片も信じていない軽い言葉では相手を騙すことはできないだろう。

 

「そんなことより、気を抜いちゃダメだ。あいつは電気系個性で、ぼくらがここに飛ばされてくるまでの短い時間で地中に潜伏できるような能力の持ち主じゃなかった。まだモグラが残っている可能性が」

「あ。それならたぶん、うちがやっつけたッス。岩を変形させたナックルで上鳴をぶん殴ろうとしていたやつがいたんで、イヤホンジャックでぶっ飛ばしておきました」

 

 地面を変形させられる“個性”。

 似たような“個性”の持ち主がいないとも限らないが、この期に及んで潜伏を続けていると考えるよりはチンピラらしく前線に出て吹っ飛ばされたと考える方が妥当だろう。

 そこは五加の深読みだったようだ。

 

「そうなんだ。ありがと」

「ウッス。機織サンのお役に立てて何よりッス」

 

 何故か敬語になっていることにはツッコまない方針にした五加であった。

 中学時代もたびたび『元ヤン?』とか『あの、実家の御職業の方は……?』とか聞かれることがあったことだし。

 そのときは『あれ? 本当に知りたいの?』と絶妙な角度で小首をかしげてやるとブンブンと相手の首が横に振られ、その話は終わりになったものだが。

 ちなみに五加の主張としては自分は真っ当な学生であり、ちょっと家業で学んだことを実践しているだけである。

 

「じゃ、上鳴くんが正気に戻ったら助けを呼んでみよう。あいつがジャミングを担当していたのなら外部と連絡がつく可能性が高い」

 

 てきぱきと段取りを立て、さっそく無力化したヴィランたちの衣服を剥ぎ取って即席のロープ代わりに身柄を拘束していく五加を見て、耳郎は思った。

 

(……初日のあの我妻の醜態を見て、アレと幼馴染を続けていられる機織スゲーって思っていたけど)

 

 ()()彼女に甲斐甲斐しく世話を焼かせる我妻の方が実は大物なのかもしれない。

 物思いに沈む耳郎の背後で季節外れの花火が打ちあがり、USJのドーム天盤を破壊するのであった。

 

 

△ △ △

 

 

 結局、俺が気絶してしまってから百ちゃんは俺のてきとーな発言をみごと形にして救援要請に成功したらしい。

 五加も五加で飛ばされた先でジャミングを担当していた個体の撃破に成功したそうな。おかけで警察の到着もスムーズだった。

 

 事態を解決に導いたのはもちろん我らがヒーロー、オールマイト。ヒーローは遅れてやってくるものを地で実践した彼は、対平和の象徴ガンメタ張られた脳無の『ショック吸収』『超再生』をものともせずに正面からの殴り合いで吹っ飛ばしたのだとか。マジかよチート過ぎじゃん。

 “柱”もたいがい理不尽の権化だったけど、あのヒトはそれ以上にぶっ飛んでるわ。よくもまああの身体で……いやなんでもないです。

 

 最終的に死柄木、黒霧といった主犯格は逃がしてしまったらしいが、敵連合の兵隊たちはほぼ一網打尽。

 一方で雄英高の被害は率先して先陣を切った教師陣が裂傷なり骨折なり大小の傷を負ったが命にかかわるもの、後遺症の残るようなものはなく。生徒たちに限って言えば緑谷がいつもの自爆で腕がぐちゃぐちゃになったくらいで、ヴィランに怪我らしい怪我を負わされた者はいなかった。

 

 結果としては痛み分けと言ってよいだろう。

 痛み分けイコール敗北みたいな叩き方をするのが昨今のマスコミというやつだが。そうやって社会の不安を煽って巡り巡って治安が悪くなれば困るのは自分たちなのに、いったいあの人たちは何を考えているのだろう。

 いや、戦時中の大日本帝国みたいにひたすらヒーロー側の成果を過大に宣伝しろってわけじゃないんだが。

 

 意識が白濁していてはっきりとは思い出せないんだけど俺、いちおう気絶してからも戦っていたらしい。がっつりカウンセリング受けさせられたし、少なくとも切った張ったの刃傷沙汰を起こしたのは間違いないのだろう。

 大活躍だったとクラスのみんなはフォローしてくれたんだけど、正直身に覚えのないことで大絶賛されるのって心苦しくてつらいです。

 

 百歩譲って俺が本当に意識のないまま大活躍していたのだとして、それがいったい何になるんだって話だ。

 前に気絶したときは大丈夫だったんだから、次も大活躍できるだろうと麻酔針でも首に刺せってか? 自分で実感も確信もできないことに命を預けるのは怖すぎる。たいてい懸かっているのは自分の命だけじゃないんだからなおさら。

 自覚できない功績に自惚れることなんて俺にはできない。俺は弱いんだ。雄英高に一万人以上のヒーロー志望を踏みつけにして入学しておいて本当に申し訳ないんだけど、その認識は変わらない。変えられない。

 強くなりたい。じいちゃんが誇りに思えるほど、強く。

 

 

 

 殺伐とした話題はここまでとして、今回のオチというか癒し枠。

 百ちゃんにフラれました。

 いやどこが癒しなんですかねぇ!?

 

「我妻さんのお気持ちは大変ありがたいのですが……ええ、身に余る光栄です。

 しかし、私はトップヒーローを目指す身。一意専心に励まねば。恋と学業を両立できるほど私は小器用な女ではありませんの……正直、男女交際はおろか告白を受けたのも初めてなので想像の域を出ませんがっ!

 それに、私は我妻さんのことをよくご存じありませんし、それは我妻さんも同様のことと思われます。ですから今はお友達から始めませんこと?

 それでプロヒーローに……いえ、卒業後にまだ同じ想いなのでしたら、そのときに改めて、あの、その、結婚を前提としたお付き合いを……」

 

 癒しでした。頬を染めて手をもじもじさせながら、すごく真面目に取り合ってくれる百ちゃんは死の恐怖でボロボロにすさんだ心がみずみずしく澄み渡る癒しでした。

 普通、あんな錯乱状態で言われたプロポーズをここまで真摯に取り合ってくれるものかね。少なくとも俺は前世含め累計三十年以上の人生で初めてだよ。

 

『生真面目が一周回ってチョロ過ぎるぞ八百万(ヤオモモ)!?』

 

 その場にいた全員の心の“音”が一致したように聞こえたのはたぶん気のせいじゃない。

 その後、クラスの女性陣がこぞって世間知らずのお嬢様育ちらしい百ちゃんに一般常識を説き、彼女の発言の中から『とりあえずお友達から』というところだけが有効部分として残ったのだった。

 ガッカリしたようなホッとしたような。でも俺のスマホに百ちゃんの電話番号を始めとする個人情報が登録されたのは間違いなくこの一件で最大の収穫だろう。

 

 

 

 




【雄英こそこそ話】
複数の手段で外部との通信に成功して、頼みの綱である脳無は善逸に消耗させられてる以上、それ以降の敵連合はどうあがいても大勢が決した後の悪あがきにしかならないのでカットカットォ!(無慈悲)

ちなみに、このあと雄英高は善逸を静観する方針になったよ。何でも鶴の一声があったんだって。

根津校長のお言葉(つるのひとこえ)
 私たちヒーローは正義の味方さ。
 でも同時に私たちは教師であり、大人でもある。
 教師は生徒の味方であり、大人は子供の味方であるべきなのさ。

 血の臭いのする子供たち。たしかに物騒な話さ。
 でもその子たちだってヒーローになるためにわが校に入学した、大切な生徒であり、導くべき子供たちであることに変わりはないのさ。

 疑わしいというだけで犯罪者のように取り調べすることを、私は許さないよ。

 『疑わしきは罰せず(in dubio pro reo)』とも言うだろう?
 血の臭いは彼ら彼女らが流した誰かの血かもしれないが、間違いなくあの子たちの傷口から流れ出たものも混ざっているんだ。
 無遠慮に傷口に指を突っ込むのは大人のやることでも、教師のやることでも、そしてヒーローの所業でもないのさ。

 無理やり聞き出すのではなく、本当に知りたいのならあちらが聞いてほしいと思うような教師になりなさい。
 なに。潜伏したスパイにしてはあの子たちの臭い消しは雑に過ぎる。悪い子なのかもしれないけど、悪いことをしに来たわけではきっとないのさ。
 だったらいい子になれるように、教育してあげるのが私たちの仕事なのさ!



次回、再会。
この世界線、相澤先生のヤンチャの影響で一般枠が20名に拡張されてるんだよね。
B組も二人増えてるって気づいてた?
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