感想の返信は追い付いておりませんが、すべてに目を通して活力に変えさせていただいております。
雄英体育祭第一競技『障害物競走』。
一学年計十一クラスの総当たりレースであり、コースはスタジアム外周の約四キロ。
ヒーローの卵たちならば競争にもなるが、平均的な高校レベルで考えれば障害物が無くとも長距離走。体力のない生徒なら完走が危ぶまれることもあるだろう。
ゆえに放送席の解説は先頭集団にスポットライトを当てる。成果を出すからこそ注目されるというヒーロー活動の大原則に沿ったものであり、続々とリタイアしていく最後尾集団を解説するのは生徒の心に傷をつける悪趣味でしかないという現実的な理由もあった。
『うおおおおお!? マジか! そんなのアリかおい!!』
しかし現在、プレゼント・マイクはそんな大原則を覆して最後尾の惨劇を絶叫交じりに中継している。
『上は大水、下は大火事なーんだ? って言ってる場合じゃねー! コースアウトさえしなければ何でもアリの残虐チキンレース! スタートゲート付近は1―A轟の妨害によって氷の蓮が咲き誇る幻想的な光景に! 喜べマスメディア、お茶の間受けする光景だぞ。でも後ろの大炎上案件を流していいのか躊躇われるな!!』
コースを守れば何をしたってかまわないという、自由が校風の雄英らしいルール。人数に比してあまりにも狭すぎるスタートゲート。
スタート地点から互いに潰しあえと意地の悪い意図が透けて見える。しかし、ここまでアンチヒーローな
「ぐわああああ!」
「ひいいぃいい!」
「か、かえせぇ。三徹で昨日ようやく完成したばかりなんだ……」
「大漁だなあ」
「お兄ちゃあん。そっちはどうー?」
「これで目ぼしいのは全部だなあ。あとはゴミだ」
『容赦なし! 1-B謝花兄妹、サポート科からアイテムを軒並み強奪! 全国放送だってこれわかってる? お前らヒーロー科だけど将来は大丈夫!?』
そこでは世紀末もびっくりの略奪劇が行われていた。
ヒーロー科の生徒が普段の授業で学んだ実戦的訓練の成果を体育祭で活かしても咎められないように、サポート科の生徒たちは自身で作成したアイテム・コスチュームに限り使用が認められている。
ヒーロー科の生徒たちが己という商品の将来性をプロヒーローたちに売り込む場であるのと同様に、サポート科の生徒たちにとって体育祭は己の発想や開発技術を企業にアピールする場なのだ。
しかしヒーロー科のそれとは違い、サポート科の持ち込みアイテムは奪うことができる。そしてヒーロー科の生徒たちは公平性の観点から自身のコスチューム着用は認められていないが(“個性”の恒常系の弊害をアイテムで緩和している一部の例を除く)、『サポートアイテムの使用』そのものを禁じられているわけではない。
『非核三原則があるのなら国外で借りて使えばいい』とでもいうような、ルールの穴を突いた行為。好意的に言えば効率を突き詰めた合理的な行いであり、率直に言ってしまえばルールが敷かれた趣旨を理解していない愚行である。
だが無理が通れば道理が引っ込むというように、愚行も突き詰めれば一定のラインから反転してあたかも妙手のような顔をし始める。
「お兄ちゃん、終わったよー」
梅の周囲にうねうねと蠢いていた帯に規則性のない柄が刻まれる。
バックパック、ロッド、ゴーグル、プロテクター、ワイヤー、ブースター、ライフル……仮にこれを着るならかなりハイカラな着物姿となること間違いなしだ。
“血鬼術”『帯』。
梅が前世から持ち込み、今は“個性”として彼女に根付いている異能だ。
着物の帯のようなそれを生み出し、自由自在に操ることができる。それだけ聞くと大したことが無さそうだが、“上弦”に数えられる鬼の“血鬼術”が『それだけ』で済むはずがない。
生まれ変わりを経験した際に劣化なのか、人をあまり喰っていない時期の性能まで戻ってしまったが、それならそれでやりようはある。
今回活用したのは帯で包んだものは『帯の柄』として取り込むことができるという性質だ。鬼だったころは
人間を帯の柄にしていたときは何かのはずみでうっかり喰ってしまわぬよう帯だけ独立させ貯蔵庫を造っていたが、無機物であるサポートアイテムならよほどのことが無い限り誤飲の心配もないので梅はふたたび帯を自身の体内に戻した。
明らかに質量を無視しているかのように見えて、実はあまり『柄』を造り過ぎると帯は重みで動きが鈍くなる。そこは事前に(妓夫太郎が)取捨選択を行うことで対処した。
そう、これは計画的犯行。
肝は雄英体育祭にどれほど付加価値があろうと、結局のところそれは『学校行事の体育の祭である』ということだ。
教育の一環であるという第一理念は揺るがず、雄英高が教育機関であるのなら揺らいではいけない。
だからこそ逆算できるものがある。お茶の間を飽きさせないよう毎年バラエティ色の濃い千差万別なプログラムを組んであるかのように見えて、何を教えるべきかという根底にあるものは決まっている。
人数の多い第一競技は、ヒーロー事務所がひしめく現代社会で他者を蹴落としてでも活躍を見せるべしという生存競争の掟。
一定の人数まで絞られた第二競技では打って変わり、協力して事案に対処する能力を問われる。他人の“個性”やその相性を把握し、チームとしての勝利を目指すのだ。
そして最終種目ではヒーローに問われる純粋な単体戦闘能力の示唆。一対一の形式でプロヒーローの目にさらされることとなる。
プロからのドラフト指名が入るのは基本的に最終種目に残った者たちだ。予選を勝ち抜いたという最低限度の実力保証を前提に、ようやくプロたちは吟味の目を向け始める。
逆にいえば最終種目に残った者に向けられる世間の注目度はそれまでの予選の比ではない。
単純に優勝を目指すのであれば最終種目に残るのは弱いライバルの方が望ましいだろう。しかし雄英体育祭一年目を世間の注目を集め、二年目、三年目、近場では職業訓練に繋がる足掛かりと割り切るのであれば?
最終種目まで勝ち残るため、第二種目までは同盟を組むという選択肢が生まれる。
余談だが、B組の
物間の動機が『なにかと注目されているA組の鼻を明かしてやる』という明確かつ短期的な視野に基づいたものであったこともあるが……。
「自分より劣っているやつに従ったって仕方がないんだよなあ」
妓夫太郎のこの一言に集約されるだろう。
その点、五加は面白いと彼は思う。
妓夫太郎、五加ともに知力に優れた面を持つがタイプが異なる。
妓夫太郎は前線で飛び交う膨大な情報を瞬時に処理し的確な判断を下せる。誰に習ったわけでもない天性を持つ指揮官タイプだ。
五加は事が始まってしまえばフィジカルの面で優れた者たちには及ばない。ゆえに準備段階であらゆる情報を精査し、可能性を検討し、じっくり作戦を練る参謀タイプ。ちょうど鎹鴉が鬼の情報を隊士たちに伝達し現場まで導くが、自身は鬼狩りに加わることができないように。
アイテム、コスチュームの開発には
生徒たちは雄英にある開発工房を、先生に申請することで使用許可を取り、放課後などの空き時間を使ってようやく開発を始められるのだ。
つまり人と場所の流通ルートが固定されているということであり、情報収集のノウハウさえ理解していれば誰が何をどれだけ開発していたのか探ることも可能ということである。
さすがに雄英の教師陣という、あらゆる分野でトップクラスの人間から個人情報を流出させるのは至難の業だが。たとえばそれは生徒の噂話や自慢話。たとえばそれは自分で開発工房に足を運んで得られた情報。たとえばそれは貧乏学生の
五加の金とコネは、手ごろな獲物を割り出すことに成功していた。
しかし、なにせ学生の作ったものだ。ヒーローに提供されるアイテムに国のチェックが入るように、いちおう先生からの審査は入っているが警戒するに越したことはない。
具体例を挙げると
強奪したアイテムをこれ見よがしにドヤ顔で使おうとして、爆発して
「ちくしょう、これがヒーローのやることかよ……」
「ああん? お前、何かいったかあ?」
足を凍らされ動けない状態でしゃがみ込んでいたサポート科の生徒のぼやきに、妓夫太郎は歪に細長い体を折りたたんで上目遣いでその顔を覗き込んだ。
明らかに気圧された少年であったが、この雄英体育祭にかける意気込みは並々ならぬものがあったのだろう。意気地を怒りで押し上げて、虚勢をつぎはぎした態度で声を張り上げる。
「だって卑怯じゃないか! ヒトの物盗っちゃいけないって親に教わらなかったのかよっ」
「俺たちは孤児だからなあ」
「え……あ……」
自身の投げた言葉が思ってもみなかったデリケートな部分を傷つけてしまった。少なくとも言った当人である少年はそう感じたのだろう。その表情からは罪悪感と人の好さがにじみ出ている。
だからこそ山のような罵詈雑言の中から妓夫太郎が選んだ相手だった。
「お前なあ。その言葉、いつまで言うつもりなんだあ?」
「え……ええと?」
「ヴィランがお前の発明品を盗った時に、奪ったヴィランが悪いって言うのかあ? 俺じゃなくてヴィランが殺した人々だから、発明した俺は悪くないって言うつもりなのかあ?」
「っ!」
サポート科の生徒たちは将来、自身の発明品を企業に売り込んで、トップヒーローが自身のコスチュームやサポートアイテムを使ってくれる日を夢見ている。
向上思考と自尊心の強い雄英の生徒たちにとって、いつの日か自身の発明品が現場で使われること、そしてもしかするとそれがヴィランに奪われるかもしれないということは、明瞭に思い描ける未来予想図であった。
「俺たちは使えそうだからルールの範疇でアイテムを拾っただけなんだよなあ。使えもしないアイテムをただの嫌がらせで壊すような、ヒーローらしからぬ真似はしていないんだよなあ。
自分以外に使われて困るのなら、どうして自分以外には使えないような安全機構を組み込んでおかなかったんだあ? しょせん体育祭だから、重くなるだけのセーフティはいらないと思ったのかあ? だったらしょせん、お前にとっての体育祭はその程度のものだったってわけだよなあ」
妓夫太郎の言うことは筋の通っているように聞こえなくもない。
だがやはり、強奪しておいて『奪われたお前が悪い』というのはおかしいのだ。
詐欺師の手口に近い。もっともらしい理屈を並べ立てることで、言っている本人ももっともらしいように見せかける。論破されたように下を向いてしまった少年の方が実は間違っていたのだと、当事者とカメラ越しに見ている人間に印象付ける。実は謝花兄妹の行動には一定の理があるのではないかと納得させる。
素直な反応を引き出せる誠実な少年は格好のカモだった。
ここまで含めて
(ひひひっ! 鬼だな、アイツ)
五加の中には悪鬼がひそんでいる。
煮えたぎる憤怒ではなく、冷たい無関心と生温い憎悪が泥のようにこびりついている。人間に対し失望を抱いているのではなく、絶望している。
よほど前世の最期で己の大切なものを人間たちに踏みにじられたのだろう。かつての自分が
あるいは彼女にとってヒーローとは、この世でもっとも適性の無い天職なのかもしれない。
そんな彼女が天下の雄英に入学し、こうして体育祭で筋書き通りに物事を運び、自分たちと共に最終種目を目指している。そんな現状が愉快でたまらなかった。
もはや妓夫太郎も梅も鬼ではない。遊郭時代とは何もかもが違う。気に喰わない相手は殺しておしまい、とはいかないのだ。
ならば無用な恨みを買うのは馬鹿のすることだ。ご無体の後にはアフターフォローも万全に。人間は背中から刺されたら簡単に死んでしまうのだから。
かといって必要以上に媚を売れというわけでもない。自分にとって苦痛にならない範疇で、ヒトの中で生きていくために労力を割けるバランスを模索していくべし。
これまでの妓夫太郎には無かった概念で、これからの妓夫太郎に必要なものだった。
「この学校の校訓を知っているよなあ? “
『いや、理不尽と不条理を押し付ける大義名分じゃないからなアレ!? どういう教育してんだよブラドキング!!』
「担任としてまことに申し訳ない」
カメラロボが拾うのは映像のみならず音声も含まれているらしい。現場のやり取りを聞いたプレゼント・マイクが悲鳴交じりに絶叫し、職員控室で飛び火したブラドキングが謝罪する。
「そーよそーよ、お兄ちゃんの言う通り! 醜く文句ばっかり言って、ブサイクったらありゃしないわ。そんなに盗られるのが嫌なら自爆装置でも付けておけばいいじゃない!」
「……自爆装置……だと?」
「自爆装置。その手があったか……!」
「
ついでに、梅の不用意な一言が来年以降の体育祭に不穏な火種をばら撒いたかもしれないが、それで苦労するのは来年の生徒と教師たちなので頑張ってもらおう。
一方、その頃の善逸と五加は最初の障害物、第一関門ロボ・インフェルノに到達していた。
ヒーロー科の生徒たちにとってはほんのひと月と少し前のはずなのに、ひどく昔に感じる一般入試用の仮想
挑戦者とカメラ越しの視聴者たちには極めて印象的な光景だろう。
当時は試験後半になってから各会場につき一体だけ、圧倒的脅威として登場した
「にくい演出だね」
五加は不敵に笑う。
「当時は悲鳴を上げて逃げ回ることしかできなかった相手が、今となってはこれだけの数を出してもいい雑魚扱いってことか」
意識の違いもあるだろう。
当時は“避けるべきもの”という先入観を植え付けられていたが、“倒すべきもの”として見れば巨大さは的の大きさとなり、雄大な動きも鈍重な隙となる。
だがそれ以上に、中学生だった当時と雄英に入ってからの一か月でどれほど自分が成長したのか、これほどわかりやすく実感できる
「それゆけ善逸号! 鎧袖一触だっ」
善逸の背中で五加は号令をかける。
もう一度言おう。背中だ。
五加は善逸におんぶされていた。周囲の目線が痛い。
もっとも、一般科のとある生徒は自身の“個性”で周囲を操り、祭の神輿のように自身を運搬させているので反則というわけではなかった。その場にいる者たちからの奇異と好奇の視線は降り注ぐが、順位がトップ争奪戦の一団から外れたポジションなのもあり放送席から名指しで取りざたされるほどのことでもない。
「やめてくれ。なんか周囲の一部から羨ましそうな“音”が聞こえる……」
「あっ、なんかごめん」
おんぶという体勢により両手が塞がるのはあまり望ましくないのだが、これは別に五加を優遇するためにしているのではない。
フィジカル面では上位陣に一歩以上劣っている五加が自力で第二種目に到達できるかという懸念は確かに存在するが、それ以上に彼女には現在進行形で割り当てられた役割があった。
すなわち、観察に専念することで事前調査では把握できない情報を獲得し、第二種目以降をより万全にするという先行投資。
増強系と誤認されるほどにフィジカルに富んだ善逸であれば、五加というお荷物を背負っていても予選通過圏内に入れるという確信があるからこそ打てる奇策だ。
正直、善逸は信頼が重すぎておててがふるえる。
まあ、精神的にはともかく余裕だったりするのだが。
三角跳びの要領でロボットの装甲を踏み台にし、あっという間にそれらの頭上まで駆け上がる。
数も巨体も覆しがたい暴力ではあるが、あくまで適切に運用されればという但し書きが付く。
そもそも
入試の時、巨体と重量をダイレクトに脅威へと変換していた運動エネルギー。それが欠けた巨大ロボは文字通りに障害物でしかなかった。
あっさりとロボット山脈を踏破した善逸たちを待ち受けるのは第二関門ザ・フォール。
暗く底が見通せない奈落に、突きだした無数の足場。それらに無数のロープが張り巡らされている。
学校の行事である以上転落したところで命の危険性は無いのだろうが、下から登ってこれるような足掛かりがあるようには見えない。一度落ちれば
ロープで張られたルートは一本道ではない。身体能力と同時に適切なルート選択を行う観察眼も必要とされるステージだ。ロボ・インフェルノが一定の実力と勇気さえあれば突破可能だった張子の虎だったのに対し、こちらはより高度なテクニックが必要とされる関門と言える。
「はい善逸ばんざーい」
「ほらよ」
空に向かって倒立するようにすらりと伸ばされた善逸の手首の上に五加の踵が乗る。善逸の筋力や五加のバランス感覚もさることながら、骨でしっかり地面と垂直に支えられた二人の身体は小揺るぎもしなかった。
「ん。ルート演算完了。ナビゲートするよ」
「おうおう。追いついたみたいだなあ」
「ほらっ、アンタらのぶん。感謝しなさいよね!」
このタイミングでサポートアイテムを活用し怒涛の追い上げを見せた謝花兄妹が合流。情報とアイテムを共有する。
『1-A我妻と機織! B組の謝花兄妹とクラスの境界を越えた協力かあ!? その優しさをサポート科の生徒たちにもわけてやってくれ!!』
プレゼント・マイクがやかましいが無視。
五加たちが目指すのは三十位。例年通りなら四十位までは第二種目に進めるはずだが、安全マージンでプラス十位は確保しておきたい。
放送席に依れば先頭集団はトップの数名が独走状態で、その下に団子となっているらしい。観察はその先頭集団からやや離れた位置がやりやすいのだが、そろそろこちらもラストスパートをかける必要がある。
物間率いるB組の半数が似たような作戦を取っていることもある。油断すればあっという間にあぶれてしまうことだろう。
回りくどく、労に対し利が少ないようにも見えるが、石橋を叩いて渡るくらいで正解だったと思えるような収穫もあった。
「一般科であれだけド派手に宣戦布告してきたんだ。よほど対人特化の自信の根拠があるだろうと思っていたけど……毒かフェロモンあたりかと思いきや、まさかの催眠とはね」
「ひひっ、紅葫蘆みたいなやつだな」
「まったく。効果が凶悪なくせに条件が簡単すぎるよ。ほんと“個性”って何でもアリだね」
紅葫蘆とは『西遊記』に登場する宝貝であり、おそらくはエピソードの中でもトップクラスに有名なアイテムだろう。
『名前を呼び、返答した相手を実力を問わず吸い込んでしまう』という初見殺しのその性能はさまざまなフィクションで題材にされ、あるいは西遊記を読んだことが無くてもそのアイテムは知っているという人間もいるかもしれない。
催眠なのか洗脳なのか詳細なカテゴライズはさだかでないが、『話しかけられた声に返答すれば少なくとも身体は制御下に置かれる』という件の一般科生徒の“個性”を例えるのにはぴったりな比喩だった。
第一種目であえて下位に甘んじ情報収集に努めていなければ、第二種目以降で足元を掬われていた可能性も低くはない。
言葉を交わしながらも彼らの動きに停滞はない。
自転車を初見で乗りこなせる人間は稀なように、いくら優秀なサポートアイテムでもそれを装備して実力のプラスに変えられるかというのは別の話。
そんな常識など自分たちには無縁と言わんばかりにヒーロー科の実力にサポートアイテムのブーストをしっかり上乗せして足場から足場へと飛び移る。
ロープは飾り。むしろ
つまり、ハマれば即死系の一撃必殺を持つ厄介な相手を合法的に潰すのならここだ。
「じゃあね、ブサイク」
「えあ?」
すれ違いざまに梅の『帯』がひらめく。
収納具としての用途はむしろ副産物。下手な金属を凌駕する硬度と布のやわらかさを併せ持つこの帯はむしろ武器として使うのが本来の用途だ。往年ならば複数の家屋をまとめて輪切りにする威力があったが、劣化した今でも手首ほどの太さのロープを切断する程度なら容易だ。
一般科の生徒はどうしてもヒーロー科と比べ実戦経験に乏しくとっさの判断に遅れが出る。いくら強力な“個性”を持ち、その力でサポート科からアイテムを強奪していたその少年も、それは変わらなかった。
彼が使っていたのががっちりロープを挟み込み移動を補助するタイプのサポートアイテムだったことも災いした。緊急離脱することもできず、振り子のように崖に叩きつけられたその肩から嫌な音が響く。
苦痛が表情に反映される暇もなく、受け身を取り損ねた少年は蛇のように切断の反動でうねるロープから振り落とされて奈落の底へと消えていった。
「まあ、なんだ。来年頑張るんだなあ」
妓夫太郎のあまりにも白々しいエール。これでルールにはなんら抵触していないというのだから恐ろしい体育祭だ。
この悪逆非道一味の一員になってしまった善逸は心の底から戦慄した。ちょっぴり涙も出た。
最終関門、一面地雷原・怒りのアフガンに関しては第一関門、第二関門以上に特筆するべきことが無かった。
もともと地雷は事前に埋められているものが全部で、少なからず先に行くものが処理してくれている。先頭ほど不利になり逆転が起こりやすいが下位争いにドラマは生まれない、お茶の間に向けたエンターテイメント性の強い障害だ。
つまり地雷なんぞ気にしなくても、文字通り先に行くものを踏みつけにすれば(自分は)地雷の爆発に巻き込まれることはない。
「ぎゃ。あ」
爆発。
「ぐぎゃ、おま、ふざけ」
爆発。
「ありがとうございます!」
「キモッ! しねっ!」
爆発。
たとえ踏まれた面々がそれでバランスを崩し、地雷を踏んで爆風の中に消えていったとしてもルールの範疇だ。
どこに地雷が埋まっているのかよく観察すればわかるステージになっている以上、把握し終えた場所に地下でギミックが作動して新規追加される仕様ではない、つまり途中で地雷が補充されることはないのだから。
かくして善逸たちは狙い通り三十一位から三十四位までを獲得し、第二種目の騎馬戦へとコマを進めるのであった。
【雄英こそこそ話】
◆原作あれこれ話
・USJ襲撃時の敵連合の総数ってどんなもん?
2巻p.129の轟くんがセンサー持ちについて言及しているコマでは、ここだけでも人影らしき黒点が目算で32は確認できるよ。
同じく2巻p.173の山岳ゾーンを俯瞰しているコマでは、ヒーロー科の三人を囲むヴィランと思しき黒点が40ほど確認できるよ。どちらも目算だから数え間違いはあるだろうけど。
これだけでも総数72名。緑谷が飛ばされた水難ゾーンで確認できるのがだいたい8~10名くらいだから、本作でも触れたように重要拠点に兵力を集中させて、他は10名程度なんだろうけど……。
セントラル広場と山岳ゾーンで最低72名、残る5つのゾーンにそれぞれ10名ずつ配置されていたと仮定すれば、概算で122名はいたことになる。
なのに原作3巻p.90では『検挙されたヴィランは72名』とのこと。筆者も執筆するまでは勝手に死柄木と黒霧を残して第一期敵連合は壊滅したものだと思い込んでいたけど、けっこー逃げられてるねこれ。あのBARみたいな拠点はあくまで幹部専用だったのかな?
あくまで仮定に仮定を重ねた推測だけど、主犯格と50名以上の実行犯に逃亡されておいて、それでも体育祭を決行したのなら、警備が五倍になるのも開催に批判的な声が上がるのもむべなるかなって感じぃ?
・サポートアイテムの強奪を原作では想定しているの?
たぶんしている。
筆者がそう判断した根拠は原作3巻№25、『ザ・フォール』で発目がサポート科の仕様を説明した直後に、心操が「いいなぁ…」と笑っているコマ。
道中や『ロボ・インフェルノ』、『怒りのアフガン』と違って、流石に洗脳した生徒に運搬してもらいながら綱渡りは無理そう。
だからのちに明かされる彼の“個性”やなりふり構わずヒーローに憧れるスタンスから鑑みるに、これはサポート科から綱渡りに適したアイテムを強奪した暗喩だと思っているよ。
心操くんはわりと筆者のお気に入りのキャラなんだけど、その分描写し始めたらプロットを狂わせる勢いで書き込みかねないので早々に退場。許せサスケ、また今度だ……。