そのすべてにリアクションが返せているわけではありませんが全部に目を通し、活力に変えさせていただいております。
……しかし、書くときに読み直しによる人力とWord機能でダブルチェック、投稿時に再度読み直して合計三回チェックしているはずなのですが、誤字脱字が消えませんね。
自分が特別多いのでしょうか? それとも世の編集さんたちは毎回これを乗り越えて出版にこぎつけているのでしょうか。
ルールブックのエラッタが出るたびに仕事しろ出版社と思っていましたが、他人のこと言える立場じゃ全然無かった。
「えっ」
「いやごめんなさいね突然こんな失礼なこと言いだして! でもどうか怒るのは後にしてとりあえず聞くだけ聞いてみてくれませんかねえ!?」
「えっと、別にそんな卑下しなくても。ヒトの意見は貴重だし、聞かせてもらえるっていうのなら僕としてもありがたい限りだけど……」
『おおっと、どうしたあ!? なんと我妻、まさかの緑谷の“個性”の遣い方にダメ出しだあ! ちゃんと普段から教えてやってんのかイレイザー・ヘッド?』
『教育カリキュラムは共有してんだろうが。お前も一年担当なんだから。お前こそしっかり把握してるんだろうな』
『こいつはシヴィー!!』
少なくとも解説陣は話を中断させる様子は見せず、しばらく続けさせてくれるようだ。だがあまり長いこと話ばかりしていると、さすがに審判から試合遅延の警告が出されることだろう。雄英体育祭は開催たった一日の超過密スケジュールなのだから。
そうは思うのだが、気が急くばかりで上手くまとめられない。五加や妓夫太郎のように頭は回らないし、梅のように人に自分を上手く魅せる方法も知らない。
それが善逸で、そんな自分が大嫌いだった。それでも逃げたって逃げきれるものではないから、そんな自分のままヒーローを目指すのだ。
とりあえず言えるうちに言ってしまおうと善逸は舌を動かした。
「たぶん緑谷ってさ、“個性”を使えるようになってから一年くらいしか経ってないんじゃないか?」
「うっ!? ……わ、わかるもんなの?」
ワン・フォー・オール関連は緑谷にとって絶対に隠し通さねばならないウィークポイントだ。そこをざっくり突かれたので変なところから声が出ていたが、自分のことで手一杯な善逸は触れなかった。ひとまず緑谷が怒っていないのならOKだ。次のステップに進める。
「ああ、使い慣れていない感じがする」
ちなみに緑谷がワン・フォー・オールをオールマイトから受け継いだのは入試当日。まさか実技試験をぶっつけ本番の“個性”初使用で合格を勝ち取っただとか、いまだに“個性”を使い始めて三か月程度しか経っていないなどとは、さすがの善逸でも想像の埒外だった。
「いやいや、ありえねーだろ! “個性”の発現は四歳までだぞー!」
観客席からヤジが飛ぶ。こちらもスルーしてよかったのだが、何となく無視するという行為が持つプレッシャーに耐え切れず善逸は返答する。
このあたりの教養は五加と共に、様々なジャンルに手を伸ばしたものだ。試験には出ない範疇なのでついこの間まで受験生であった一年生には馴染みがないかもしれないが、ヒーローを目指すのなら早めに知っておくに越したことはない知識は意外と多い。
「発現はしても自覚できない症例は、少数ながら世界各地で確認されている。たとえば“個性”『サキュバス』の場合、本人が二次性徴を迎えたあと、性交が叶う肉体になってから一気に自覚症状が出たというデータが」
「サキュバス!?」
観客席のA組が座っている辺りから聞き覚えのある声がしたが、これはスルーした。賢明にして妥当な判断である。
「緑谷の超パワーも似たような感じなんじゃないか? あんまり幼いころに発動するとそれこそ四肢が爆散しかねないから、ある程度ダメージに耐えられる器ができあがるまで脳が無意識にリミッターをかけてたんじゃないかなって」
「あ、あってます、かも?」
緑谷は眉一つ動かさずに嘘をつける性分の持ち主ではない。
真実は中学三年まで“無個性”で、
ステージから確認できる、観客席の爆豪が『そういうことだったのか』と微妙な納得顔になりつつあるのがとても心苦しいが、言葉を濁して肯定するのが彼の精一杯だ。
「たぶん初めて“個性”を使ったときに反動でバッキバキに身体が壊れたんだろ。それで『全力を出すとパワーを注ぎ込んだ部位が壊れる』と学習してしまった。
でもな、本当に全力を出したらそんな壊れ方はしないんだ」
「えっ!?」
緑谷にとっては思いもよらぬ一言だったのだろう。驚愕を隠そうともしていない。
善逸は緑谷の“個性”を、個性把握テストと戦闘訓練では自損するフルパワー発動で、そして騎馬戦と先の一撃ではセーブされた限定発動で、それぞれ見て聞いた。
だからわかるのだ。緑谷の強化のしかたがどれほど歪なのか。
「自分の身体の寸法、筋肉のひとつひとつの形、血管の一筋に至るまで、それらすべてを認識してこそ本物の“全集中”なり」
「?」
「じいちゃん……えっと、うちの流派の師範がよく言っていたんだ」
雷の呼吸は一番脚に意識を集中させるが、当然のことながら脚だけにパワーを溜めれば速度が出るほど人体は単純ではない。
人間の身体は繋がっている。“神速”を連続で使えば善逸の足だって歪むがあれは足にもっとも影響が出ているだけで、まんべんなく全身にガタがきている。
投擲の瞬間、リリースポイントの指一点にパワーを集中させることで爆発的に飛距離を伸ばす。一見、理屈は通っているように思える。
だが指だけではあんな飛距離は出ない。身体のどの部分がどこに繋がっているのか。たとえば竹刀を持つとき、力を入れるのは小指、薬指、中指だ。人差し指と親指は添える程度。それは何故なのか、しっかり五指で握った方が力が出そうだと初心者は首をかしげる。
「本当にきちんと力の流れを意識して、必要な部位に余さず強化できていれば、壊れるのは指先だけなんてピンポイントに留まらねえよ。広背筋を中心に、指先から足先までゆるーくぶっ壊れるはずだ。
パワーを引き出した反動で壊れているのなら、指先だけってのは矛盾してる」
善逸の言っていることは半分的外れだ。
緑谷の指先ピンポイント強化はワン・フォー・オールをコントロールできず、しかしその上で行動不能にならないためダメージを最小限に抑える苦肉の策なのだから。
しかし半分は当たっている。いつしか緑谷は苦肉の策のはずのそれを『最小限のダメージで100パーセントを使う技』として自身の作戦に組み込んでいたのだから。
「じゃ、じゃあ僕の指が壊れているのって……」
「……注ぎ込んだ力が過剰過ぎて破裂してるんだと思う」
引き出している力と壊れている部位が一致していない。その事実が導き出す答えは『超パワーを出した反動』ではなく『単なるエネルギーの過剰供給』だった。おそらく込めた力の半分も活きていれば上等だろう。それはそれで恐ろしい話であり、仮に100パーセントを文字通りに『生かせる』日が来ればそれはまさに一撃で天候を変えるようなオールマイト級の呼び名に恥じぬパワーを見せつけるかもしれない。
ただ現時点としては目と口をこれ以上なく開いた緑谷の顔が前にあるだけであり、今ここであごを掠めるように一発入れたら終わるんだろうなーと現実逃避するのが善逸の精一杯だった。
たとえ自分が悪くなくとも自分の言葉で誰かが傷つくのは罪悪感を覚えるから苦手だ。傷ついた“音”を聞くと心の一部の血流がぐっと停滞する。
雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃
緑谷の傍をただ通り過ぎる。連撃ではないので雷鳴のような爆音はない。ただ単発でもドンと踏み込みの音はステージの上に響き、緑谷に正気を取り戻させた。
「落ち着け。試合中だぞ」
「う、うん!」
仕切り直しだ。言っておいて何だが、善逸も意識の切り替えを求めた一人である。むしろ筆頭かもしれない。
あと、審判と観客に『ちゃんと戦っていますよー。試合中であること忘れていませんよー』アピールも兼ねていた。このあたりの状況を俯瞰する感覚、それに対応するそつの無さの片鱗は五加の影響だろう。
「緑谷からはずっと考えている“音”がする。ブツブツつぶやいているのもそうだけど、完全に感覚派じゃなくて理論先行型だよな。
だから生物学とか、スポーツ医学とかを学んでさ。運動に全身がどのように作用しているのか、目的によって強化するべき部位をひとつひとつ知識としてしっかり把握していくのが上達の近道だと思うんだ。まあ、一番いいのは全身を完全に掌握した上で全身を余さず、絶えず強化することだけどさ」
「『絶えず強化』……?」
「そ。“全集中・常中”……って俺たちの流派では呼んでいる」
同じ強化系でも、たとえばこれが砂藤の『シュガードープ』なら適用できない理論だ。あの“個性”はその名が示す通りドーピング、コストとして糖分を摂取することで一時的に爆発的な力を得るというものだし、一定時間を過ぎると脳内の糖分まで消費してしまい思考能力が低下するというデメリットもある。
だが善逸の見る限り、緑谷の“個性”は制御しきれていないから身体がばきばきに壊れているものの、能力発動そのものに対するコストやデメリットは無いように見受けられた。ならば“全集中の呼吸”と同じ理屈が通用する見込みは十分にある。
「四六時中、強化の状態を維持するんだ。比喩じゃないぞ? 朝も、昼も、夜も、眠っているときだって解除しちゃダメだ」
「……できるの、そんなこと?」
緑谷のマヌケ面が懐かしい。初めて聞いた時は善逸もひどい冗談だと思ったものだ。
「死ぬほどキツイ。出来始めても維持するのはめちゃくちゃしんどい。何度睡眠中に呼吸が途切れて叩き起こされたか」
思い出すだけで涙が出そうになる。というか出た。ぼろぼろ零れ落ちた。前世であんなしんどい思いをして会得したのに、今世で再履修なんてひどい詐欺だった。
何度途中で投げ出して、すべて忘れて逃げだそうと思ったことか。でも修行のつらさ以上に前世のことを忘れてしまうのは怖かったし、今世で会得に協力してくれた五加への義理もあった。流石に自分から助力を嘆願して、自分から投げ出すのは無責任が過ぎる。それに加えて五加が上手い具合になだめすかして善逸を誘導してくれたおかげで、ギリギリ踏みとどまることができた。
「じゃあ、もしかして我妻君は」
「ああ、会得しているよ! しましたよ“全集中・常中”! ほんときつかったんだからな、ふざけんなよマジで!!
でもあれがあるのとないのとでは基礎体力に雲泥の差が出ますからぁ!」
キレ気味に返されて緑谷もいい迷惑だっただろう。
「とにかく! 強化を技と組み合わせて必殺技として確立するのは良い手段だと思う。うちの“雷の呼吸”の型だって要するにそういうことだしな。
でも“個性”ってのは身体の一部だろう。必殺技だけに使うんじゃもったいなすぎるぜ」
カン、と緑谷の頭の中で何かが噛み合った音がした、気がした。ブツブツブツブツとハードディスクが読み込むときのような異音が緑谷の口から洩れる。軽くホラーだった。
材料は揃った。
“個性”が己の血肉、自分自身であるという考え方はオールマイトがテレビのインタビューで述べていた考え方だ。オールマイトオタクを半歩踏み外してオールマイト信者に片足を突っ込みつつある緑谷が知らないはずがない。
そして“個性”を己の一部としてフラットに扱う好例は爆豪がいた。能力違法行使なんのそのとばかりに日常的に“個性”を使う彼の幼馴染は、それでも長年憧れ分析し続けた緑谷の最も身近なヒーローだった。
それらの経験値にこの体育祭中に得た気づきが化学反応を起こし、急速に緑谷の中で形を成す。
(呼吸だ。我妻君が言っていた。『睡眠中に呼吸が途切れて叩き起こされた』って。呼吸なんだ。肺から取り込んだ熱が血液に溶け込み血管を巡り、心臓から送り出されて筋肉が稼働し、その動きを骨が支えて繋げる。いまの僕は腕の一部分にしか熱が通っていない。呼吸に、脈動に合わせて、熱が全身に満遍なく伝わるイメージ!
この試合までに機織さんに反復動作について聞いた時に言っていた。短いやり取りだったけど収穫はあった。全身のスイッチを切り替えるイメージだって。反復動作に使えるような蓄積は僕には無い。でもせめて、定義づけによって意識を集中させる手法はマネできるはずだ。スイッチを、名前を、付けろ!)
「ワン・フォー・オール……フル、カウル……!」
緑谷の全身にエネルギーが循環するのを察し、善逸は鼻水を噴き出した。
「……うっそだろおい」
「え?」
「ふざけんなよ! ふっざけんなお前マジで!!」
驚いた緑谷がせっかく成功した全身強化を解除してしまっているが、そんなの関係ない。
善逸は激怒した。必ずやこの無知蒙昧を気取る暴虐なる天才に思い知らせてやらねばと誓った。善逸は物の道理がわからぬ。善逸は嫉妬深く狭量な少年である。
「お前なあ! 気づきから形になるまで半年から二年はかかるものだろうが! それが二十秒!? キューピーなお手軽クッキングでももう少しもったいぶるわ! 謝れ。俺の地獄の修行漬けの日々に謝れ。俺が可哀想だと思わないのかよおお!!」
「な、なんかごめん。本当にごめん」
血走った目をかっぴらき、びょんびょんと跳ねながら涙をまき散らす善逸に緑谷は謝ることしかできなかった。
締まらない。本当に格好がつかない。
もともと善逸がこうして緑谷に世話を焼いているのは純粋な善意なのだ。
この二か月足らずの短い期間の間に、緑谷は何度も自傷ダメージを受けている。それも捻挫や打撲、擦過傷といった軽傷ではない。大正時代なら一発で再起不能になりそうな粉砕骨折だ。リカバリーガールがいるからこその無茶なのだろうが、リカバリーガールがいなければ高校の三年間は治療とリハビリで潰れていたのではないかと思うほどの重傷。
かつて前世で蝶屋敷に入り浸りになっていたとき、“蟲柱”しのぶに忠告されたことがある。
『表面上の傷は治っても肉体が受けた負荷は長い間残留し、蓄積し続けます。だから勝手に完治したと判断してはダメですよ。病室を勝手に抜け出したり、薬を捨てたりするなんて論外です。
もし善逸君が鬼のいなくなった世界で禰豆子さんと添い遂げる未来を目指しているのなら、ちゃんと言われた通り治療を受けてくださいね』
しのぶのお説教は怖かったし、声の色合いから彼女がその『鬼のいなくなった世界』に自分がいる展望をまったく描いていないのが察せられて二重に怖かった。
でもそんなの無理だと笑われなかった。彼女は誠実に忠告してくれた。それが嬉しくて、いまだにその優しさに応えられなかった罪悪感が善逸を蝕む。
もしも炭治郎なら臆面もなく踏み込んでいたのだろうか。
たとえば『怒っていますか?』だなんて、まっすぐ己の死へ歩んでいる彼女の内面へと。
立場が上の相手だから、既に覚悟を決めたことだから、いまさら他人が声をかけたってどうしようもないことだから、なんて。言い訳を探して見て見ぬふりをしなければ、善逸は今よりももっと自分を好きになれたのだろうか。
過去はどうしようもないからこそ、後悔は後悔のまま在り続ける。だが、未来は今からなら変えられるはずだ。
現代に生まれ変わってしのぶの忠告は正しかったということを知った。
不死身、無敵とたたえられた格闘家、プロレスラーのたぐいが晩年、蓄積したダメージが噴出し悲惨な最期を迎えたエピソードはひとつやふたつではない。
超人社会の到来とヒーローの台頭で人気は衰えてしまったが、前時代のプロボクシングでは試合に勝利しても試合中にパンチを貰っていれば試合後二週間はロードワークすら自粛させられた。KO負けした日には三~四か月は次の試合が組めなかった。
『ヒーローを現役で続けたいのなら怪我はしないに越したことは無いよ』
五加もそう言っていた。
彼女にとってヒーローは夢ではなく
厳密な階級分けとラウンド制によって管理されたプロボクシングですら上記の通りだったのに、いわば無差別級時間無制限デスマッチのヴィラン鎮圧を担うヒーローの仕事は当人に活動の是非が委ねられている。
いかに怪我をしないかがヒーローとしての寿命にダイレクトに繋がっている。
五加の姿勢がヒーローの理想像だとは善逸とてさっぱり思わないが、緑谷にはあまりにもその視点がすっぽりと抜け落ちているように思える。
行き着く先は彼が憧れるオールマイトの二の舞だ。いや善逸はオールマイトが半死半生の重態だなんて知らないが。まったく全然知らないが。
下手をすれば緑谷には学生の間に再起不能になってしまいそうな不安定さがある。事実としてあれだけ短期間に腕を破砕し続ければ、プロヒーローどころかいずれ日常生活すら危ぶまれるだろう。
リカバリーガールの『癒し』は患者の治癒力を飛躍的に高めているだけであり、ダメージを無かったことにできるわけではないのだから。
それはとても、もったいないことだと善逸は思うのだ。
善逸にとって、最もヒーローという概念に近しい人間は炭治郎だ。そして、たしかに緑谷は炭治郎とは違うだろう。炭治郎はもはや無意識領域から湧き出る優しさによって誰かを助けているのに対して、緑谷はなんだか『自分は誰かを助けなければいけない』という強迫観念に突き動かされて泣きながらトラブルに飛び込んでいるように見える。
少しだけ親近感を覚えてしまうほどだ。自分に親近感を覚えられてしまう時点でヒーローとしてはかなりアウトだと善逸は思う。
だが、誰かを助けたいという意志に貴賎はないはずだ。
緑谷はヒーローに向いていると善逸は思う。ヒーローに不向きな人間が雄英のヒーロー科に入学できるのかと言われたらそれまでだが、いまだに善逸は自分がそれにふさわしいのか自信が持てない。
善逸は炭治郎にはなれない。でも、炭治郎を助けることならできるはずだ。
目の前の誰かを助ける。誰かを助けられる人間を助ければ、巡り巡ってそれは助けた人間が助ける多くの誰かの間接的な助けになるはずだ。
それが善逸がこのヒーローアカデミアで見出した己のヒーロー像、その第一歩だった。
そういう意味合いでは緑谷が即座に善逸のアドバイスを形にしたことは決して悪いことではない、むしろ善逸の目的にも沿うものであるはずなのだが。
まあ理屈で感情が割り切れたら苦労はないのである。雄英ブランドに対する劣等感や苦手意識、自分がうだうだと時間をかけて苦労したところを一足飛びに飛び越えていく天才たちに対する醜い嫉妬は健在だ。
「チクショウメェ! ああもう、出来るようになったのなら即実践だ! 反復練習だ! いくぞ!!」
「っうん!」
そこからの応酬は雄英体育祭最終種目にふさわしいハイレベルな攻防だった。
A組の面々は緑谷の動きがまるで別物になったことを知る。平面のステージを立体的に使い、縦横無尽に動き回る彼の姿はどこか既視感のあるものだった。
「デクくんの腕バキバキってほんとに制御しきれなかった反動だったんだねー。てっきりハイリスクハイリターンのそういう“個性”なんだと思ってたよ」
「ああ、しかし本当に動きが変わったな。緑谷くんの実力もさながら、この重要な局面でも変化を恐れず貪欲に吸収していく姿勢は尊敬に値するよ。俺も見習わなくては」
「あの動き。まるで爆豪ちゃんみたいね」
「ああ、やっぱり? オイラもそう思った」
「……チッ」
周囲の視線を受けた爆豪は不機嫌そうに舌打ちしたものの、何も言わなかった。
そして緑谷の動きが格段に良くなったからこそ、浮き彫りになるものがある。
「しかしなー。去年みたいなスポーツチャンバラならともかく、今年の試合形式って刀を使う我妻には不利かなドンマイって勝手に思ってたんだが」
「ある程度、武の根底は共通しているものがあるらしいから。俺はまだそんな領域には至れていないけどさ。我妻の動きは体術を本格的に学んだものじゃないからたぶん、実践剣術の応用なんだと思う」
ドンマイのお裾分けに失敗した瀬呂が頭をかき、当人もそれなりに格闘技の経験を積んでいる尾白が所感を述べる。
次元の変わった緑谷の、善逸はさらに数段上の次元にいた。拳を握りこむことは少なく、体幹がぶれることを避けているのか蹴りも放たない。
抜き放つような鋭い手刀と、速度をそのまま威力に転じる体当たり。基本的にその二枚の手札で縦横無尽に駆け巡る緑谷を圧倒している。ただ、不慣れな緑谷が全身強化を解除してしまった時は咎めるように決まって一発腹パンを入れていた。
「緑谷くんって逆境の中で大きく成長する性質みたいだし、善逸はガンガン追撃入れちゃってもいいと思うんだけどなー。一発で終わらせてもっかい強化が済むまで見守っちゃうあたり、甘さが捨てきれていないっていうか」
「緑谷のあの余裕のない表情を見て追撃を示唆できる機織サンぱねえっス……」
五加が耳郎からドン引き交じりの畏怖の視線を向けられている間にも試合は佳境に入る。
【雄英こそこそ話】
◆雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・
雄英体育祭までの二週間、妓夫太郎とのスパーリングで善逸が編み出した新たなる霹靂一閃のバリエーション。
霹靂一閃の動きを『体当たり』と『手刀』に分割することによって殺傷力を減らし、使い勝手を向上させた徒手空拳前提の派生技。
思いつきをその場で形にできる才覚をもつ緑谷と違って、一つのことを極め抜いてようやく派生に繋げられる不器用な善逸はしっかり事前に修行パートが存在している。