本当に励みになります。
『ここすき』機能も面白いですね。自分の作品に適応されているのは初めて見ましたが、なるほどあのように見えるものなのですね。
一番ポイントが入っていたのが『アニメ版善逸の声優選抜に使用された例のセリフ』だったのが流石だと思いました。
キリの良いところで切ったので少し長めです。
今回は予約投稿を試してみたのですが、ちゃんと投稿できているかしら。
△ △ △
(ここからようやく文字の態を取り戻す)
……前半戦はそれなりに点数を稼げたと思う。
でも霹靂一閃を五連で放ったところで持ち込んだ木刀が折れてしまった。もっといいのをケチらず買っておくべきだったと後悔しても後の祭り。ほんとうに俺はダメな奴だ。なんとか代わりの鉄パイプを見つけることはできたものの、探すのにかなり時間を取られた。
日輪刀がどれだけ優れた武器だったのかを今になって思い知らされる。すっぱりと断ち切るための技を鈍器で放っている反動も大きいのだろうけど。
後半はもう、ダメだ。
でっかいロボットに驚いて気絶して、気が付いたときには試験終了直前で、何故か俺は助けてくれた女の子に全力でセクハラしていた。自分が女好きである自覚はあったけどここまで見境がないとは自分で自分に全力でガッカリです。
この試験って減点あるのかな? ありそうだなぁヒーロー科だし。
前半だけでも俺より得点を稼いでいたやつはいるだろうに、後半はセクハラによる減点要因しかないってこれなんてムリゲー?
ヒーロー科受験生の多くは普通科も併せて受験していて、仮にヒーロー科を落ちてもそっちで虎視眈々と年次編入を狙うらしい。
たしかに自主退学や除籍処分で40名しかいない(今年から44名だけど)枠が減る一方なら、どこかで補充しないといけないわけだしな。
でも落伍者が続出するヒーロー科に、大学進学を第一目標とする普通科から年次編入されて付いていけるっていうのなら、普通科の上層部もたいがいバケモノの巣窟だと思う。
俺は普通科を受験していない。
雄英体育祭に出るだけなら普通科でも可能だが、例年注目されるのはヒーロー科。たまにサポート科だ。
参加賞が欲しいわけじゃなくて、俺はみんなに見つけてもらいたいんだ。独学でヒーロー科を押しのけるようなバケモノになれる気はしなかった。
それにこれが一番現実的で切実な問題。普通科に入る金がない。受験料的な意味でも、授業料の面でも。ヒーロー科だからこそ優遇される奨学金でギリギリ卒業後までのプランが成り立つんだ。無計画な借金は前世でこりごりなんだよ。
もちろん俺に高校浪人なんて贅沢が許されるはずもなく。
最終学歴中卒で就職かぁ。まあ超人社会と言われている現代でも、呼吸の補正があれば肉体労働系なら何とかなるか?
就活を始めるには早いに越したことはないと思ったんだが。
「合否の通知がわかるまでは、はやまったマネはしないように」
でも五加には、何か別のものが見えてるみたいだった。
この状況からの巻き返しなんてあるのか?
まあ、俺の頼りになる親友がこう言っているのだ。俺は俺なんかより、五加のことをよっぽど信頼している。こいつがこう言うのであれば、信じて待ってみるのもやぶさかじゃない。
仮に五加の見込みが外れたとしても、この豊かな時代ならフリーターでもホームレスでも食っていく分にはあまり困らなさそうだし。
つーわけで。
久しぶりに何も考えず遊びまくるぜひゃっほう!
わーい善逸、だらだら怠けるの大好きー。
とりあえず今日は五加の買ってきてくれた雄英まんじゅう(コーラ味。なお雄英高未公認)をあいつと一緒に食べながら、ひさしぶりにマンガでも読むか。
【○月●日】
合格した。
は?
いやさ、届いた封筒が微妙に分厚いとは思ったんだ。
お祈りメールって形式的で、簡潔に薄っぺらくなるもんじゃない?
中から書類一式と共に立体映像投影装置が出てきたときは意味がわからなかったし、さらにオールマイトが映し出されたときは悲鳴を上げてしまったものだ。
相変わらず変なところで金をかけ過ぎだろう。いやまさか、受験生全員分これと同じものを用意したんじゃ?
同封されていた書類一式は受験準備中に遭遇したあれやこれやと比べると驚くほど薄かった。つまりこの装置には合否通知のみならず、合格後の案内の大半も封入されていることになる。雄英高はメディアの露出が激しいものの、一方で実際に学校が始まるまでは『誰それが合格した』っていうのを極力第三者にわからないようにしたいのかもしれない。ざっと俺が考えただけで十通りはトラブルが思いつくしね。
いやいやまさか、12000人分だ。金も手間暇も洒落にならない。しかし、オールマイトなら。
あのデビュー動画で、大災害から一人で千人以上救い出すという伝説を創った“平和の象徴”なら万が一やりかねない。そう思わせてしまうカリスマがあのヒーローにはある。
いまどきメディアがヒーローを取り扱わない日はないが、俺から見てもあのヒトだけ別格だ。“柱”もたいがいバケモノ揃いだったけどステージが違う。少なくともあの人たちは、あるいは鬼だって腕の一振りで天候を変えることはできなかったからな。
そんな混乱のあまり関係のないことをつらつらと考えているうちに投影は終わっていた。慌てて再生し、合否を聞き直す。
曰く、オールマイトが今年から雄英の教師になったこと。これはオールマイトのファンからすれば嬉しすぎるサプライズだろう。どちらかといえばファンではない俺からすると『え、大丈夫なのそれ』って感じだけど。
前世の“柱稽古”だって鬼の出没がぱたりと止んだから実現したのだ。
いくら“平和の象徴”の影響で
おえっ。存在そのものが抑止力と言われているオールマイトが衰えているとか想像するだけで怖すぎるわ。きっと全盛期なのだろう。そうに違いない。そう決めた!
気が付けば二回目の再生も終わりかけていたので、学習しろよ俺と思いつつもう一度映像を巻き戻す。
概要だけ掻い摘めば、俺は合格。
なんでもあの試験はロボットの破壊によって得られる『ヴィランポイント』とは別に『レスキューポイント』というものが存在していて、俺の悲鳴やら何やらがそのレスキューポイントにおおいに加算されたそうな。
……心当たりがないことで褒められるのって正直つらいです。
実力でエリートどもをバッタバッタとなぎ倒して合格できるとはそりゃ俺だって思っていませんでしたけどさぁ。そんなまぐれと勘違いで合格しちゃったなんて、俺がいなければ合格していたかもしれない将来のトップヒーローに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「合格できたんだから素直に喜んどこうよ。ほら、一緒に制服とコスチューム注文しにいこ?」
ちなみに五加は当然のように合格していた。
当人曰く『実技が対ロボットじゃなきゃ危なかった。わりとギリギリだった』らしいけど、合格通知を片手に顔色も変えてないのを見ると全然そうは思えない。
あとこいつ、なんとレスキューポイントの存在に気づいていたらしい。
「だってヒーローの適性を測る実技試験なのに、プリントには対
教えろや! 十分な証拠が揃うまではホームズに推理を聞かせてもらえないワトソン君の気持ちがよくわかった。
でもたしかに『こういう試験です』とプリントを渡されて、それ以外に採点項目があるかもしれないとは思っていても、はっきりとこうやって説明されるまでは確証には至らないか。
「ぬか喜びさせたくなかったんだよ。仮にこの想定が間違っていたら、仲良く二人で落ちていただろうしね。そのときはそのときで一緒に次を考えたらいいかなって」
逆に言えばこいつは、確証には至らないレスキューポイントを稼ぐために試験中に行動して見事合格を勝ち取っているわけだ。心臓に毛が生えていやがる。
物証が足りない推理と自分を信じて心中できるのも、それでしっかりリターンをつかみ取るのも、トップヒーローに求められる素質なのかもしれない。
【○月●日】
……疲れた。
雄英に合格してから、もうあからさまに周囲の反応が変わった。
今年度偏差値79の倍率300倍は伊達じゃないんだなって、いまさらながらに思う。
しかもなんというか、“音”が慌てて媚を売っているって感じじゃあないんだよな。
『もとから自分はあなたのことを信じていましたよ』って、すり寄って来る張本人たちが信じている。過去にあった俺の数少ない加点部分をピックアップして、その頃から自分だけは君を評価していたんですよって都合よく記憶を辻褄合わせしている。
学校の先生、クラスメイト、施設のやつら、俺の日常で関わる人たちからあらかた褒められた気がする。
なんというか、きつい。
前世と違うベクトルで“音”が聞こえるのがつらい。
みんなに認められるって、もっと心が温かくなるものだと思っていたんだ。周囲の信頼を得るって、もっときれいで素晴らしいことだと思っていたんだ。
今はただ、炭治郎のあの泣きたくなるような優しい音が懐かしい。ついでに猪も。あいつらの言葉も“音”も、いつもまっすぐだった。
嘘じゃないけどなんだろうこの、歪んだ“音”のアンサンブルを聞いているとぶっちゃけ人間不信になりそうだ。
はやいとこ新学期が始まって学校にいきたいとこの俺が考えちゃっている時点でかなり重症だと思う。
そういや、それはそれとして聞き捨てならないことを聞いたんだが。
『さすがうちの中学の名物カップルだ!』ってなに?
は? 俺って五加と付き合っていると思われていたの。マジかよ。
つまりそれって……俺がフリーだってわかっていたらバレンタインであんな侘しい思いをせずに済んだってことか!?
「善逸って基本的に自己評価が低いくせに変なところで夢見がちだよね」
毒舌ぅ! ぐうの音も出ねえ。
でも、もしかしたらいたかもしれないだろ! 俺のことを好きになってくれる可愛くて健気でお金持ちで頼りがいのある女の子とか!!
ゴミを見る目で見られた。ごめんなさい。
「善逸って女の子好きだよね、本当に。大事にしちゃうって方向で好き。
万が一善逸を好きになってくれる子がいたら、きっと善逸はその子に尽くしちゃうと思う。雄英高への対策なんて二の次にしてさ。でもね、善逸がどれだけその子を優先しても、中学が終われば関係なんて切れるもんなんだよ。きっとその子はついてきてくれない。雄英への道を閉ざしてまで選んだ子だとしてもね」
……どうも五加はこの噂を知っていて、その上で俺への防波堤になるために意図的に放置したみたいだ。俺の親友の面倒見が良すぎてそろそろヤバい。俺自身ですらデキる女とそのヒモみたいに思えてきた。
あまりに不安になってきたので、うっかり聞いてしまった。どうしてここまでしてくれるんだって。
五加は笑った。にっこりとほほ笑んだ。
「べつに。それがぼくの目的に叶うってだけ。善逸はそれに巻き込まれているだけだから、気に病む必要は無いよ」
俺は五加がどうしてヒーローを志したのか、実は聞いたことが無い。
最初は嫌味なエリートお坊ちゃんだと思っていたし、そうじゃないと気づいた時には既に出来上がっていた距離感の居心地が良すぎた。今さらこれまでの関係を壊して新しい関係性を築こうと思えるほど、俺は積極的になれなかった。
目指す場所があるから、そんな余裕なんて無いって言い訳して。雄英高に受かった今でも、嫌なことから逃げ続ける俺の性根は変わらないままだ。
五加も俺の前世のことを知らない。話したことがない。
超人社会においてもこんなオカルトめいたバカげた話、信じる信じられない以前に俺が誰にも話したくない。
俺の出所もわからぬ怪しい知識や言動を、五加が一方的に飲み下してくれたのだ。
俺たちの距離は近いようで遠く、関係は深いようで浅い。
結局このときも俺はそれ以上の真意を問いただすことはせず、ただそうかと流した。
それでも俺は五加を親友だと思っているんだ。だめかな?
【4月●日】
学校いきたくない。
今日から雄英高で学園生活だ。怖すぎて早朝に目が覚めてしまった。
いつもは寝る前に書くことが多い日記だけど、これは朝に書いてるってわけだ。
なんで半月前の俺は早く学校に行きたいなんてふざけたことを考えることができたんだ。
緊張でゲロ吐きそう。むしろ胃袋が喉元でスタンバイしてる。あとはゴーサインが出るだけだ。
だってまぐれで入試を潜り抜けた俺と違って、クラスメイト全員が300倍を潜り抜けてきた超絶エリートだぜ? きっと五加と炭治郎を足して伊之助を掛けたような陽キャの集まりに違いない。想像するだけで足の震えが止まらなくなる。
炭治郎はひとりだからギリギリ許容範囲なんだよ! あんなのが二十人も集まれば目が焼けるっての。
くそうくそう、じりじりとプレッシャーに押しつぶされているうちに気づけば登校時間だ。初日から遅刻はありえないし、そろそろ家を出ないといけない。
頁の余白が大きいし、帰ってきてから続きを書くことにしよう。願わくば『学校楽しかった』と書けるような初登校になりますように。
△ △ △
雄英高校は日本でも屈指の敷地面積を誇る。
雄英体育祭でおなじみ十二万人収容可能な『体育祭会場』、入学試験でも会場として使用された『演習場』など多種多様な施設を有しており、それらすべてが異形系の“個性”に対応可能なユニバーサルデザインなのだ。
広大な敷地が必要とされるのもむべなるかなというものであり、同時に現代社会にとってどれほどヒーロー科、ひいてはヒーローという存在が重要視されているかという証明でもある。
「善逸ぅ。いい加減歩きにくいんだけど。そろそろ諦めて根性決めたら?」
「お、おまえな。俺が仕方がないから根性据わるようなやつだと思っているのかよ? 何年付き合いのある幼馴染なんだよコラ」
「どうしてぼくが怒られているんだろ……」
そんな広大な校舎の廊下を、制服に身を包んだ一組の男女がよろよろと歩いていた。
公式HPから演習場や演習場や教室に案内してくれる専用の地図アプリがダウンロード可能というのだからその広さは筋金入りだ。二人ともしきりにスマホを覗き込んでそのアプリを確認している様から、新入生であることがうかがえる。
先導するのは女子生徒の方。
身長は140センチ少しとかなり小柄だ。それを平均身長よりやや上の男子生徒が盾にするように縋りついているので、二三歩歩くごとにバランスが崩れてふらふらとしていた。
男子生徒――善逸は顔面蒼白で、今の段階から涙と鼻水で彩られている。こうなることを見越して女子生徒――五加が箱ティッシュとゴミ袋を渡していなければ、入学式に出る前から彼女の制服は背中が涙と鼻水でべちょべちょになっていたかもしれない。
さいわいだったのは、二人の目的地が同じ1-Aだったことだろう。いったい誰にとっての幸か不幸かなのかまでは知らないが。
例に漏れず、1―A教室の扉もバリアフリーの適応で大きかった。善逸が五加を肩車して、さらにそれを二段重ねの組体操で行進してもまだ余裕があるだろう。にもかかわらず、五加が手をかけると音もなくスイと開く。
『
「ヒャ――――ッ! なに開けてんだ、何勝手に開けちゃってるんだよ五加!! せめて合図してくれよぉ」
もちろん先ほどから幼馴染が荒い呼吸をしながら心の準備をしていることに気づいていたが、きっとその準備は日が暮れるまで終わらないので勝手に開けさせてもらった。
「おまえな、もう少しで心臓と胃が口からまろび出て死ぬとこだったぞ! せっかく合格したのに些細な気遣いの欠如で俺は死亡に五加は猟奇殺人の罪で塀の中なんてあんまりにもあんまりだろっ!?」
「善逸は今から
どうやら教室内ではいかにも不良といった態度&外見の爆発頭と、四角四面がシルエットに反映されるレベルで生真面目オーラが漂っている委員長風メガネの、男子二人が喧々諤々とやり合っている様が注目を集めていたようだが、善逸の悲鳴により順当な結果として入り口に視線が集中する。
「イヤアアアアッ! 見られてる、めっちゃ見られてるよ。ノックも手土産も無しに入ろうとしてすみませんでしたぁっ!!」
「善逸、ねえ善逸。ここ学校、教室、あんだーすたん? あとサイズ差、考えよう?」
まるで猛吹雪から身を守るかのごとく五加の陰に隠れる善逸であったが、身長差はゆうに頭ひとつ分ある。悪目立ちが強調されるだけだった。
言っている傍から委員長風メガネ少年が爆発頭不良への説教を切り上げ、つかつかと入り口に歩いてくる。
「おい
「うおええええ! 至極もっともな理由で説教されたよぅ。正論が一番ひとを傷つけるって知らないのかよう。それはそれとしてすびばぜんでしたぁっ!!」
「ごめんなさい。こいつ――我妻善逸っていうんですけど、見ての通りちょっと情緒不安定なだけで悪気があるわけじゃないんです」
――いや、あれを『ちょっと情緒不安定』で処理するのは無理があるだろう!?
やりとりをうかがっていた第三者たちの心が一つになったが、メガネ少年は言葉通りに受け取ったようだった。
「む、そうか。わかってくれたらいいんだ。彼の言う通り、正論ならば無遠慮に突き付けていいというものでもなかったな。俺の配慮が足りなかった。申し訳ない」
びしりと直角に頭を下げる少年に『真面目だッ!』とまたもやクラスの心がひとつになる。真面目が過ぎて言動がきつくとれるだけらしいと悟った五加の顔もほころんだ。
「まだ名前も知らない顔見知り未満のため積極的に注意して、頭を下げてくれてありがとうクラスメイトさん。ぼくの名前は機織五加。これからよろしく」
「失礼した、まだ名乗っていなかったな。俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ。一年間ともに切磋琢磨し合える関係になることを望む」
差し伸べられた手と手が自然と組み交わされる。日本の中学校ならば通常気恥ずかしさが先立つ光景だが、最高峰のヒーロー科の教室には不思議とぴたりと当てはまる光景だった。
「クッソそういえばコイツ超陽キャだった! こうやって光の速さで友達百人つくる五加の横で俺はこうやってカビとキノコだけがともだちの蔑まれる学園生活を送るんだっ! みじめだよう、たすけてくれぇ!!」
いちおう注意されたことを留意したのか小声で咆えるという器用な真似をしつつ、血走った目を見開いて頭を振りたくる善逸の前に新たな影が来訪する。
「おい。おめぇ我妻っつったか?」
「ひゃ、ひゃい!? 何でございましょう」
声の主に合わせて善逸は腰を折りたたんだ。相手が極端な低身長だったからだ。頭髪がまるでブドウのような球状になっているその少年は、小柄な女子の五加よりも優に30センチは低い。それだけ聞くとファンタジーに登場する
オノマトペを当てるのなら『ドドドド』、あるいは『ゴゴゴゴ』だろうか。先までの善逸に負けず劣らず見開いた目が血走っていた。
「オイラは笠木山中
善逸はガタガタ震えながら彼の言葉を待った。『メロンパン買ってこいや』などと言われた日には
「どうやったら入学初日からあんな可愛い女の子ゲットできますか!? 教えてくださいお願いします!!」
「へっ?」
土下座であった。
漢の
「お願いします、師匠!!」
「うぇ、増えた!?」
さらにそこに金髪のチャラチャラした雰囲気の男子生徒が続く。これがのちに『A組女好き三天王』として知られる伝説のトリオ結成の瞬間であることを、このときはまだ誰も知らない。
「へへっ、わりぃわりぃ。オレ上鳴電気な。でもさ、実際気になんじゃん。機織もちっちゃくてしっかり者で面倒見がよさげでめっちゃいい感じだけどさ、それだけじゃなくて葉隠にも意識されてるっぽいし? テクニックとかコツとかあんならマジで知りたい」
「は、はがくれ……?」
鼻水を垂らしながら上鳴の示す方を見ると――見えなかった。宙に浮く制服で女子と判別できるが、透明である。
見えないが見覚えがある。入試の際に助けてくれたのに、セクハラをはたらいてしまった少女だ。やはり合格していたのかという納得と、よりによって同じクラスかという気まずさ。耳のよい善逸には彼女が発する不満といらだち、そして聞き覚えの無いどこか切ない“音”が聞こえてくる。
「つーん」
「ひぇ」
口で言った。わざわざ口に出して『わたし不機嫌です』アピールされた。透明でなければ頬を膨らませてぷいっと顔をそむけたのが見えたと確信できた。
しかしあのときのことを謝りに行こうにも、近場で騒がれれば善逸も対応せざるをえない。
「なあいいだろ、教えてくれ! オイラモテたくてヒーローになったんだよぉ! なのに入室のときからベタベタイチャイチャと、初日からこうもまざまざと格差社会を知らしめてくるなんてあんまりだろぉ!? ヒーローになる前からその顔と態度でモテる秘訣をオイラにも分けてくれよぅ!!」
「ナチュラルにディスるのやめてくれませんかねえ!?」
峰田、漢のガチ泣きだった。滝のような涙が、己に恥じることなく、とめどなく溢れていた。周囲から見れば恥しかない醜態の極みだった。
自然とクラス中の女子から向けられる視線の温度が下がっていくが、残念ながらその場にいる三人とも女子の冷たい視線には慣れたもの。麻痺した感覚器官は警鐘を鳴らすことはなく話は続く。
善逸は何気なく頭に手を当てた。そのままタンポポのように金髪パッツンが連なった頭をがしがしとかき回す。
「うーん、五加ねぇ……」
「名前呼びかよ見せつけやがって!?」
「落ち着け峰田。師匠のお話が聞こえんだろうがよ。それで付き合ってんの? いつから?」
「いや、ただの幼馴染」
「あんな可愛い女の子が毎朝起こしに来てくれて一緒に登校なんて良いご身分だなぁ!!」
「お前さっきからキレたいのか聞きたいのかどっちなん?」
上鳴があきれているが、善逸としては峰田の方が共感できる。むしろ客観的な立場であればまったく同じかそれ以上に過敏な反応を見せただろうと確信できるほどに。
『言われてみれば異性だっけ』という感想が正直なところだが、改めて振り返ってみると壮絶にもったいないことをしている気になってくる。五加との関係性はどこまでも積み重なった惰性であり、深い事情や複雑な背景が存在しているわけではないのだ。
「うっせえんだよ端役が!」
「うわっとぉ」
だから、その行動もまるで思考は介在していなかった。
五加は善逸の知る中で随一の陽キャではあるが、実は小動物のように怖がりな一面がある。そしてその内面の怯えを小動物のように表に出さない。自然界で生きる彼らにとって弱みを見せることは即死に繋がるゆえに、弱い生き物ほど窮地を周囲に悟らせないのだ。
五加もポーカーフェイスはハムスター
ダイレクトに“音”を聞ける善逸を除いて。
峰田や上鳴と馬鹿話をしていた善逸に、彼らの間に何があったのか前後関係を知るすべはない。
ただ、A組に入ってきたときに飯田とやり合っていた爆発頭の不良顔に襟首をつかまれ、身長差からまるで釣り上げられるようにつま先立ちになっている五加から聞こえる怯えの“音”に、とっさに反応してしまっただけだ。
「んだよ、離せや雑魚が」
教室の椅子と机とクラスメイトたちの間を素早く縫って五加の襟首を掴む爆発頭の腕をつかんでいる善逸に、一番驚いているのはきっと自分だと善逸は自信をもって断言できた。
はたしてこれをトップヒーローの
ところで人間は未知に踏み出す時、既知から使えるものを引っ張り出す習性を有する。何もないところから自信満々のふりをするより、自分の知っている自信満々な人間の真似を演じる方がずっと難易度は下がるということだ。
どうして日本最高峰のヒーロー科の教室にいるのか不思議になるほど
「――この子から手を放せ。離さないなら折る」
しかしアーカイブしたのがよりによって、自分の口から飛び出したセリフが最終選別時の炭治郎だったときには絶望しそうになった。
最終選別時終了直後、疲労と焦りによる苛立ちからか試験官役の少女に狼藉を働いた玄弥に対し、炭治郎は一度の忠告のあと躊躇なく『有言実行』したのだ。きわめて印象的だったのは事実だがこんなところでフラッシュバックしてほしくなかった。
「ハッ、やってみろや!」
完全にこちらを見下した歪んだ笑みにやっぱそうなるよねー! と善逸は内心で涙する。表情に反映されなかったのはただの奇跡だ。
あるいはキャパシティぎりぎり一杯で、反映される余力がなかっただけか。表面上だけは当時の炭治郎を再現してきりりと女の子を守る表情のまま、次の段階も見事に
常時から戦闘へとギアが切り替わり、シィイイイイと“全集中の呼吸”独特の呼吸音が周囲にも聞こえる音量へと跳ね上がる。
みしり、と骨が軋む手ごたえ。
「っ! チィ!」
振り払われた。
掴まれたのとは逆の腕の手のひらが爆発したのは“個性”だろうか。その反動を余すところなく推進力に変え善逸の拘束を外し、さらに回転の勢いを殺すことなく空中で一回転して蹴りを放ち距離をとるのと同時に自身の態勢を整えるさまは見事の一言。
彼が“個性”に溺れたチンピラではなく、強力な“個性”を自身の血肉として完全に馴染ませるストイックな修練を積んできたことを窺わせる。やはりここは雄英高のヒーロー科。偶然や気まぐれで紛れ込んだ者などひとりも存在していない。
「クソがぁ……」
口でこそ悪態をついているものの、教室内でアクロバティックが過ぎる立ち回りを演じた直後の彼の目にもはや嘲笑の色はない。明確に、己にとって脅威であると認めている。
しかしここは何度も繰り返すが教室。五加を庇うかのように前に立った善逸と、その後ろで尻もちをついている五加。対面で危険な角度に目と口角を吊り上げつつ手のひらを起爆させている爆発頭しか存在していないわけがない。
一拍置けば他の誰かが介入してくることは自明の理であった。
「ちょ、待てって! いきなり喧嘩はマズいだろ」
「どけやクソ髪。殺すぞ」
「殺すな! 俺、切島鋭児郎な。もうすぐ担任だって来るだろうし、入学初日から“個性”を使った喧嘩で停学なんて洒落になんねーぞ。
今日から始まる生活のためにお互い努力してきたんだろうが。その初日から躓いてどうすんだよ」
「……チッ!」
善逸からすれば理性も知性もない凶悪
「喧嘩にあけくれる高校生活を送りたいのならさっさと退学届を提出しろ。ここはヒーロー科、うちに停学なんぞ悠長に時間を浪費する暇があると思わないことだ」
噂をすれば影が差すというか。
切島の言う通り、直後に寝袋に身を包んだ不審者――もとい担任教師の相澤が教室に到着し、教室での騒動は一段落と相成った。
さらに相澤が入学式もガイダンスもオリエンテーションもなく初日から個性把握テストを行い、最下位は除籍処分と宣言したことにより津波で細波が消されるがごとく事態は強制的に鎮火。生徒たちはヒーロー科の洗礼をくぐりにけることに必死となる。
つまり、スーパー善逸タイムも終了だ。
「うおおおん五加ぃ! だいじょうぶ? 怪我してない? それと怪我させてないよね? 手ごたえ的にちょっと手首を痛めたくらいだと思うけど、俺初日からクラスメイトの不良の手首へし折るような凶行に及んじゃってないよね!?」
「よしよし善逸。助けてくれてありがと。ついでに離してくれる? はやく着替えにいかないとマズいから。あの先生、たぶん遅刻とかめちゃ嫌いなタイプだと思うんだよね」
ギャン泣きしながら女子に縋りつく善逸と、あやしているのかあしらっているのか定かでない五加を前に『さっきまでと雰囲気違い過ぎね!?』とまたもやクラスの心がひとつになった瞬間であった。
案外、このクラスが仲良くなるのに時間はそうかからないかもしれない。
また、なんだかんだ生徒のことをしっかり見ている相澤が保健室利用書を爆発頭――もとい爆豪に渡し保健室にいかせたため、彼は個性把握テストに10分ほど遅刻。
代わりにテストのデモンストレーションは入試の実技総合成績表二位だった切島が担当することになったのだが、完全な余談であろう。
【雄英こそこそ話】
男と思われていたことが何気にショックだったのか、五加は中学時代は髪を伸ばしていたよ。
雄英に合格したのを機に『ヒーロー活動の邪魔になるから』とまたバッサリ切っちゃったけどね。
ちなみに善逸は『合格祈願の願掛けだったのか』と軽く流していたよ。女の子が好きな癖に乙女心に疎いやつめ。そんなんだからモテないんだよ、ぺっ。