いちおうバックアップを兼ねて『Wordで書く⇒誤字脱字チェック機能と読み直しでダブルチェック⇒ハーメルンにコピペして投稿前にもう一度チェック』というトリプルチェック体制で投稿しているのですが、それでも無くなりませんね。
誤字脱字報告はそれなりに手間なはずです。それでも報告してくださっているのですから、「この作者は仕方ねえなあ。でもまあ面倒見てやるか」と思ってくださるような作品を投稿していければと思います。
今回、ついに彼女の正体が……?
△ △ △
いったい何があの
五加はしみじみと述懐する。
「うーん、ヘドロ事件について聞いてみたかったんだよね。ぼくが悪かったよ、読み違えた」
なんでも今から一年ほど前、とある寄生能力を有するヴィランが中学生を襲ったものの被害者の少年は強力な“個性”と驚異的なタフネスにより自力で長時間抵抗。
被害者はヒーローでもなんでもない未成年。当然プライバシーはぼかされていたが、目に黒線が入ったところでなかなか個性的な爆発頭ゆえに特定は容易。
言うまでもなく、事件の被害者というのは興味本位で触れていいものじゃない。
でも条件が悪い具合に揃っていた。
まずヴィラン事件であったこと。ただの一般人ならともかく、ヒーローを志す人間にとって『ヴィランの襲撃を退けた』というのはなかなかのステータスだ。がっつりヒーローを目指すヒーロー科在籍中の出来事ならば逆にそれどころではない
次に爆豪の性格。謙虚や自重とは程遠い、ありていに言ってしまえば武勇伝を好きこのんで語りそうなタイプの人間に見えた。
最後に、五加も爆豪も同じクラスのヒーロー科生徒としてあの場にいた。最前線の空気を(被害者の立場とはいえ)知る相手に当時の状況を尋ねるのは、興味本位とは異なる意欲的な行為になると判断可能な状況だった。また、仮に実を得られなくても初対面の相手との話題の切り口になるという見込みもあった。
それらのことから五加は、爆豪のプライドをくすぐるような形で『ヘドロ事件』のことを口にし――
「まさかあそこまで爆発するとはねー。どうも本人にとっては武勇伝じゃなくて触れてほしくない黒歴史だったみたい。悪いことをしたよ。
あんなに激昂されるような聞き方をしたつもりはないけどさ、きっとこれまでにぼく以外からもさんざん興味本位でつつかれた話題だろうし。積もりに積もった苛立ちがぼくの番で爆発したって無理もないよね」
こんど機会をみつけて謝ってみるよ、と肩をすくめる五加。できれば俺の分も……いや、一緒に謝りたいからそのときは俺も呼んでくれると嬉しいかな。
この話題が終わったあたりで五加の家についた。
別に送っていったわけではなく、ただ単に俺の通学路の途中に五加の自宅があるだけの話である。まあちょいと遠回りにはなるが。
明日からがっつり授業があるので早く帰ろうと思っていたが――
「ひとりで勉強できる? せっかくだしうちで少し見通し立てていけば?」
五加のその言葉で陥落。偏差値79の授業内容がどんなものなのか、怖くて実は今日まで教科書開いてないんだよな。
小学校で友達になってから、何度も俺は五加の家に遊びに来た。中学に入り俺専用のスリッパが常備され始めたときは流石にヤバいと思ったが、何だかんだ来訪頻度は下がらなかった。施設じゃあ雄英を目指すには十分な環境が無かったし、必要に迫られてってのも大きい。
女の子の部屋に入るなんて一大イベントのはずなのに、まったく胸がときめかないのは慣れ過ぎたせいだろうか。すごくもったいないことをしている気がする。
そのまま五加の部屋でごろごろしながら、帰宅直後にいきなり勉強するモチベーションに切り替えることもできず、しばらく駄弁ることになった。
しかし爆豪の一件もそうだが、憧れの雄英高生活もなかなか幸先の悪い滑り出しになったものだ。……まさか俺たちの担任が、例のヒーロー科定員増化の遠因になった除籍大好き教師だったなんて。
どうしよう。小学校のころから奇跡的に努力を続けて、奇跡に奇跡を重ねてせっかく雄英に入学できたのに。雄英体育祭までに除籍される気しかしない。泣きそう。むしろ吐きそう。
個性把握テストはなんとか突破したけど、なんか目を付けられていた緑谷が相澤先生にいびられるたびに俺も泣きそうになったもん。緑谷が目を引き付けてくれなければ俺がいびられていたと思う。
テストが終わった後に合理的虚偽って前言撤回してたけど絶対に嘘だゾ。
でも、緑谷も目を付けられるだけあって変なやつだ。
増強系ってふつう、自分の身体を徹底的に鍛え上げるよな?
なのに増強型の
なんで彼女たちの“個性”を知っているかって?
女の子と仲良くするのに理由がいるのか?
とにかく緑谷は“個性”が活かせない科目でも基礎体力で負けている。俺の見立てが間違っていなければたぶんこいつ、身体を鍛え始めて一年弱程度だ。その一年分はしっかり鍛え上げられているけど、どうしようもなく積み重ねが浅い。
いつから雄英高を目指し始めたんだ? “個性”の発現って例外なく四歳までじゃなかったっけ。明らかに馴染んでいないんだが?
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ
実際、緑谷の“個性”も妙な感じだ。
『個性』っていうのは読んで字の通りそのひとの血肉、身体の一環だ。
やっぱり一番わかりやすくそれを体現しているのは爆豪だろう。性分はさておき、あいつの身体能力とセンスは既に準プロヒーロー級だ。
普通の人間の手が爆発したら指が吹っ飛ぶし、反動で腕が折れたり手首が壊れたり肩やひじの関節が外れたりするものだ。そうならないのはあいつの『爆破』に全身が適応されているから。たぶんアイツの掌の皮はグローブみたいにそうとう分厚くなっているだろうし、手首をはじめ腕全体が反動に耐えられるように強化されている。それに伴い全身が骨格レベルで『爆破』に適応しているかもしれない。
五十メートル走では掌からの爆風を推進力に変えるなんて無茶をやっていた。あれを成し遂げるには鍛え抜かれた体幹が大前提だが、それだけではとうてい足りない。スタートラインそのものが周囲とは異なるのだ。いや掌の爆発の方が氷山の一角で、もともと“個性”とはそういうものだって方が正確か。
緑谷にはそれがない。増強系っぽい“個性”だけが身体能力の内側に収まりきらず突出してしまっている。“音”も変だ。緑谷自身の“音”と噛み合っていない。無理やり例えるのなら重厚な
これらの要素を点と点で繋げれば…………やめた。どうしてこの俺が男についてこんなじっくり考察せにゃならんのだ。
同じ男なら相澤先生対策を考える方がずっと建設的だ。合理的だ。
「たしかに善逸とは合わないタイプかもねぇ」
のんびり苦笑する五加。
ちくしょう、他人事だと思いやがって。そりゃあ五加が除籍されるころにはクラスの大半が除籍処分を受けているだろうけどさ、俺は緑谷に並ぶ筆頭候補だからな!
「善逸は特殊個体だからねぇ。優れ過ぎたところと劣り過ぎたところが相殺しない、群れに馴染めない社会不適合者だ」
俺に優れたところなんてあるぅ? 褒められたと思っていいのかな、これは? 俺の性分がばれたら明日にでも『見込みゼロ。除籍』と言われそうで――ああ、そうか。
どうして俺が相澤先生をひどく苦手に感じるのか、わかった気がする。
俺の中で『先生』っていったら、じいちゃんなんだ。
俺が何度も何度も逃げてもサボっても、何度も何度も根気よく叱って引きずり戻してくれた。けして諦めたり、見限ったりしなかった。
『消えろよ。わかるだろ?』
『お前みたいなやつに割く時間がもったいない』
『先生がお前に稽古つけている時間は完全に無駄だ!』
『なぜお前はここにいるんだ!! なぜお前はここにしがみつく!!』
もしも『先生』にまであぁもうこいつは駄目だって見限られたら、そう考えるだけで心が千切れそうになるんだ。
あのひとは、じいちゃんじゃないのにな。
「合理主義者を謳っていた相澤先生だけど、ぼくから見たらあのひとはかなりの理想家だよ。あのひとはあのひとなりの理念をもって教師をやっているんだと思う」
見立て違いで初日から爆豪とトラブルを起こした五加の見立てかぁ。
そんな俺の思いが表情に出たのか、五加はぷっくりと頬を膨らました。変なところで子供っぽいやつだ。
「もー、ちゃんと聞いてよ。つまりね、相澤先生が除籍するのは悪意とか面倒だとか雄英の品質管理とかじゃなくて、第一に生徒のためを思ってのことなんだよ。ものすごくわかりにくいけど善意なんだ。
除籍後の話はあのとき出なかったけど『生徒にヒーロー以外の進路を与える』のが目的なら、たぶんだいぶ手厚いサポートが受けられるんじゃないかな。雄英高に入学するのって生半可な覚悟と努力じゃあ出来ないし、合格すればぼくらみたいに周囲から評判になる。
それをぶった切って別の道に進ませようっていうんだ。もちろん、中途半端な対処じゃあ生徒は別ルートでヒーロー目指すだけってのは目に見えている。最悪自殺者だって出かねない。進む側もそうだけど、奨める側も並大抵の意欲と労力じゃあできないよ。もはやひとつの戦いだよ」
『半端に夢を追わせることほど、残酷なものはない』
何故かこっそり個性把握テストの様子をうかがいにきていたオールマイトと相澤先生が話していたときの言葉と、聞こえた“音”を思い出す。
前世で鬼殺隊に所属しているときに何度も聞いたことのある“音”だった。取り返しのつかない喪失と、それを無理やり乗り越えて進み続ける覚悟と、信念――そして優しさの“音”。
……すげえ苦手ってだけで、俺もべつに教師として信頼していないとか、嫌いってわけじゃあないんだよな。すげえ苦手ってだけで。
入学初日で雄英の施設には目の飛び出るような金額が湯水のようにつぎ込まれていることを実感できた。それはきっとヒーローを支援する資産家からの寄付金もあるだろうけど。雄英は国立、根幹を成すのは国民の血税のはずだ。
ヒーロー科以外の在校生の方が数が多いとはいえ、その施設の大半が将来のヒーローたちのために用意されたものだなんてこと、誰だって知っている。
今年度から多少数が増えたとはいえ、全学年合わせても160人ばかり。それにいったいどれだけの金額がつぎ込まれているのか。資本主義国家であるこの国において、つぎ込まれた金額と価値はイコールで結ばれる。入試のロボたちだけでもいったいどれだけの金が溶けたのやら。
それを独断と偏見で切り捨てる。
書類にサインして、ハンコを押してはいお終いなわけがない。
ひとり除籍するたびに、いったいどれだけの事務作業が相澤先生の業務に追加されるのだろう。いったいどれだけの人間に頭を下げる必要が出てくるのだろう。
きっとそれは想像を絶する激務。寝袋を常備し少しでも暇を見つければ睡眠をとり、ろくに食事をとる時間すら用意できずパウチゼリーで済ませなければならないほどに。
重ねて言うけど死ぬほど苦手ってだけで、生徒のことを心から思って身体を張れる先生だって意見には賛成だ。
「だからね、大丈夫だよ。たとえ相澤先生の思う
まっとうな職業じゃあ社会貢献できない善逸って人間を理解してもらえれば、先生だって生徒から
相変わらず俺への毒舌に容赦がないなコイツ。
でもたしかに、スーツを着てネクタイを締めてビジネスマナーを完璧に覚えバリバリ仕事をこなすサラリーマン俺って
前世で鬼殺隊に所属していなければ、俺はいったいどうなっていたのかな。適当なところで野垂れ死にか。妥当だな。
「それでももし善逸が除籍処分を受けちゃったら、こんどは
「いや、それは無理だ。俺は
自ら望んで所属した鬼殺隊ではなかったとはいえ、あそこで得たもの、積み上げたものは多すぎる。
古より存在し、代々夜の闇、鬼からひとを守り続けてきた鬼狩りの一員。俺はひとは狩らない。この感情を誇りと呼ぶのなら、俺がこの誇りを捨てることは二度目の死を迎えてもないだろう。
それにじいちゃんから受け継いだ技を無辜の民の血で穢そうものなら、じいちゃんにぶん殴られるだけじゃあ済まないだろうしな。
「だったら
まるで一緒についてきてくれるみたいな口ぶりだった。
「とーぜん。善逸がいきたいところまで導くのが、いまのぼくのやりたいことだもの。ねえ善逸、この世界は広いよ? たとえ青空じゃなくても、空が続く限りどこまでも飛んでいっていいんだ」
初めて聞いた、五加の目的。
自分でもびっくりするくらい驚かなくて、そういうものかと納得した。変な話だがとてもしっくりきて、やってもらって当然と受け入れるほどに自分は果たして傲慢だったのかと、そっちの方にショックを受ける。
ひとりで百面相する俺を前に、五加はころころと楽しそうに笑っていた。
これで付き合っているわけでも、お互いに恋愛感情があるわけでもないっていうんだから、本当に我ながら変な関係だと思うよ。
もっと詳しく聞いてみたかったのだが、残念ながらここで時間切れ。
明日の予習をしようと五加に切り上げられ、しぶしぶと英語の教科書を開くこととなった。二日目からがっつり7限まである雄英高マジハード。
△ ▲ △
好きな人や大切な人は漠然と、明日も明後日も生きている気がする。
それはただの願望でしかなくて、絶対だよと約束されたものではないのに。
ひとはどうしてか、そう思い込んでしまうんだ。
自分以外の何かになりたいと思ったことはあるだろうか?
僕はある。カラスになりたかった。
カラスのように賢ければ、ヒトの言葉を話せるようになったんだろうか。
ヒトの言葉が話せるようになれば、きみを困らせることももっと少なかったかな。
カラスのように速く、長く飛べるようになれば――
――僕はちゃんと間に合ったんだろうか。
柱稽古に新生“上弦の陸”が襲撃をかけたのだという。
最終局面に備えて“十二鬼月”どころか普通の雑魚鬼でさえ姿を消していた中、どうしてそんな我儘が許されたのかはわからない。
集まっている隊士たちを一網打尽にしようと画策したのか、はたまた無惨の気まぐれだったのか。理由はどうあれ惨劇は成った。最終的に新生“上弦の陸”は集まった“柱”たちに討ち取られたものの、それまでに多くの一般隊士が死んだ。
その中に、新生“上弦の陸”が目の敵にしていた“雷の呼吸”継承者の片割れがいた。
知っていたのに。
きみが必死に努力している姿を。何度も何度も自分の吐瀉物に塗れながら、きみだけの“漆ノ型”を編み出す姿を見ていたのに。
最後のさいごできみは心から尊敬していた『兄貴』にその刃を向けることができなかった。あれは『兄貴』と肩を並べて戦うために生み出した技だったから。それが勝負の分かれ目だった。
僕がカラスなら間に合ったのかな。きみの大切な『じいちゃん』がアイツのせいで、“雷の呼吸”の遣い手から鬼を出したせいで介錯もつけずに自刃したって知らせをきみに届けることができていたのなら。きっときみは覚悟を決めて振り切っていただろうに。
僕は役立たずの雀だ。
きみが望む場所に導くことも、きみの最後まで寄り添うこともできなかった。
――『僕』は『ぼく』になった。
カラスにはなれなかったけど、ヒトの言葉は話せるようになった。前が雀だったからこそ、今の頭の出来がずっとずっといいのを感じる。
この身体に翼はないし空も飛べないけど、今の世の中じゃそんなことより顔立ちがいいとか、家がお金持ちだとかいうことの方がよっぽど速く、遠くまで飛べるんだよ。
今度こそ、きみを目的地にまで導いてあげられる。最後のさいごまで寄り添ってあげられる。
前世の未練を一方的に晴らすようで悪いんだけどさ。
これからもよろしくね、善逸?
△ △ △
【4月●日】
懐かしい夢を見た。
チュン太郎、元気にしているかな。
ときどき鬼の禰豆子ちゃんより凶暴なやつだったけど、那田蜘蛛山で俺が蜘蛛の毒をくらったときは、鬼だらけの山の中たったひとり助けを呼びに行ってくれた。あいつがしのぶさんを見つけてきてくれなきゃ、あの時点で俺は再起不能になっていたか、下手すれば死んでいただろう。
あれで愛想のいいところもあったし、任務で子供と関わるときは愛敬を振りまいて相手の恐怖や緊張をほぐす機転のよさもあったから、俺の死後はきっと別の隊士と上手いことやっているだろう。
でも、いまだから俺の鎹鴉はチュン太郎でよかったと思えるけどさ、なんで俺だけ雀だったんだ? 当時は新手のいじめかとこっそり泣いたりしたんだぞ?
それはさておき、今日からがっつり本格的な授業開始だ。
午前中は必修科目、いわゆる英語や数学などの普通の授業。プロヒーローが教師をやっているから覚悟していたんだが、思っていた以上に普通の授業でほっとしている。予習と復習をしっかりしていれば授業についていけないってことにはならないだろう。
問題は午後からのヒーロー基礎学。これはヒーロー科限定科目で、週二日の3~4限が割り振られる。もちろん他の学科がやる内容に純粋にプラスアルファされるわけだからヒーロー科のみ一日7限になったり、土曜もガッツリ6限まであったりする原因となる。
……これを求めてヒーロー科に来たわけなんだけど、実際にこうやって三年間目に見える形で時間が圧迫されることを示されるとだいぶげんなりするな。やっぱり俺の性根は怠け者のサボり魔のままだ。コツコツ努力とか大の苦手です。だましだましやってるけど。
記念すべき第一回は
内容はなんと『
え、いきなり? と思ったのを梅雨ちゃんが質問してくれてとても助かった。曰く、基礎を知るためのまず実戦らしい。大丈夫? 天才ゆえの感覚任せとかじゃないよね?
「入試の実技試験を潜り抜けてきた以上、ぼくらが最低限の戦闘能力を有していることは大前提だからね。その上で詳細に『今の自分に何ができて、何ができないのか』を自覚することを目的としたプログラムって感じがするよ。ほら、初日の個性把握テストもそうだったでしょう?」
五加が入れてくれた解説でひとまず納得できたけど、俺としては型稽古あたりからじっくり始めたかったな。怖いじゃん。危ないし。
ともあれ、
入学前に『個性届け』と『身体情報』を提出すると、学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる素敵システム。その名を『被服控除』という。
さらに『要望』を添付することで、自分の希望に合わせた最新鋭で機能的なコスチュームを調整してもらうことも可能だ。
ひとによっては自作のコスチュームを持ち込むこともあるらしいけど、とうぜん俺は被服控除を申請した。だんぜん安く済むうえに機能性がはるかに上なんだもん。
俺のコスチュームは学ランをベースにした和装アレンジ。はやい話が鬼殺隊の隊服を記憶にある限り再現してもらった。背中の『滅』の文字もそのまんまだ。著作権侵害で訴えられたら負けそう。
そこにじいちゃんと同じ柄の黄色い着物を羽織る。正直これはかなり迷った。前世でじいちゃんの期待に応えることができなかった俺が、じいちゃんに認められているわけでもない今世にこれを着る資格があるのかなって。
でも、ヒーローを名乗るならこれを着ないのはありえない。
だからもしダメなら、ふざけんなって叱りに来てほしい。ぶん殴りに来てほしい。ちゃんと謝って脱ぐからさ。
もっとも、形を再現しても機能性まで同じってわけじゃない。前世の隊服は速乾性、不燃性、防刃などさまざまな機能を有し、冬はあったかくて夏は涼しいという謎スペックだった。特殊な繊維でできてるってじいちゃんは言ってたけど、いったい何で出来ていたんだろうあれ。今から見てもオーバーテクノロジーなんだけど。
今のコスチュームにだって防弾、防刃のたぐいは付けようと思えば可能だけど、当然頑丈になれば動きやすさは制限を受ける。乗り心地で戦車が乗用車にかなわないように、鎧としての機能を突き詰めれば着心地は悪化する。何を優先するかって話だ。
俺は一に動きやすさ、二に着心地、防御力は三の次に回してもらった。
だって前世で隊服の防御力が生きた経験ってあんまり記憶にないし。雑魚鬼との戦闘じゃあ基本、相手の攻撃が当たる前に首を斬ることができたし、攻撃を避けきれないレベルの鬼との戦いじゃあ隊服の耐久性スパスパ抜いてくるし。つーか“上弦の陸”との戦いのときには隊服さえ着ていなかった覚えがある。
伊之助もずっと上半身裸だったしな。アイツは例外っつか特殊過ぎる例だけどさ。
仮にこのコスチュームでヒーロー活動すると考えたら、年がら年中全国各地この格好で通すんだ。夏は暑く冬は寒いこの国で、着心地が悪いとか論外だろ。
そしてサポートアイテムだ。
重厚な武装で行う戦闘はヒーロー活動としては正しくても、見る者に凄惨さを印象付けてしまう。ヒーローはその成り立ちが特殊だが分類としては立派な公務員だ。守るべき主権者に威圧感を与えてしまうのは望ましくない。
そのことからヒーローの装備はテーマやアイデンティティを強調する方向へと転換していき、結果としてコスチュームの多様性が生まれた。近代ヒーロー美術史で習う『クラウン・ショック』である。
つまり“個性”に関連しない武装はいい顔をされない。たとえ“個性”の方が圧倒的に殺傷力が高かったとしても、剣や銃で武装している方が問題視される。まあ超人社会の到来で実質形骸化しているとはいえ、銃刀法が無かったことになったわけじゃないからな。
そのうえで俺は強固に主張して、サポート会社に殺傷力を有した『刀』を作成してもらった。誰に何を言われようと、斬らなければ取りこぼしてしまうことを俺は知ってしまっている。ここだけは妥協できなかった。
『
日輪刀に代わる、新たな俺の刃だ。ちなみに大仰な銘は企業側のネーミングであって俺のセンスじゃない。そりゃあちょっとはカッコいいかもなんて思わなくもないけどさ。
前々から薄々感じてはいたが、不死身の鬼を滅するための“雷の呼吸”はヒーロー社会では殺傷力が高すぎる。だからといって、俺が霹靂一閃以外の技を急に使えるようになるわけでもないし、鍛え抜いたこの技以外に命を預ける気にもなれない。かかっているのは自分の命であると同時にヒーローに守られる人たちの命であり、俺の前に立ちふさがる
そのための対策がこれだ。技を変えられないのなら、得物を変える。全力で技を放っても相手が死なない武器を用意する。
双天時雨は最低限の被害をコンセプトにした『
【雄英こそこそ話】
五加の正体はチュン太郎の生まれ変わりだったのさ!
ナ、ナンダッテー!!
うん、わかるひとにはわかるバレバレの伏線だったね。感想欄でネタバレしなくてありがと!
さーて、今回のこそこそ話は少しばかりシリアスだよー。
チュン太郎は善逸が死んだショックでものがのどを通らなくなり、三日と経たずに衰弱死したよ。
善逸が命をかけて守り通した隊士たちは『守ってもらった』ではなく『あいつのせいで上弦に襲われた』と文句を言い、弱っていく彼女を気遣うことも無かったんだ。
身体の前に心が死んでいたから、苦しみも悲しみもあまり感じなかったのがせめてもの救いかな?
その記憶があるせいで五加は奉仕的に誰かを守るということを嫌悪しているし、人間と言う種に対して根本的な不信感を抱いているよ。
本人は無自覚だし、周囲も気づいていないけどね!
ヒーローを目指したのはヒーローを志している善逸をとなりでサポートするためで、それ以上の理由は無いよ。
【制作ひそひそ話】
◆五加の名前の由来
・「機織」…スズメの属する『ハタオリドリ科』より(なお、調べた当時のデータ。現在スズメの分類は『スズメ科』に変更されているとか)。彼女の“個性”の方向性を決めるキーになったし、『鶴の恩返し』にちなみ『鳥だったころに結んだ縁を、人間に姿を変えて清算しにきた少女』の暗喩にもなって、なかなかいい具合の名字なのではないかと自己満足。
・「五加」…アニメ版鬼滅の刃15話『大正コソコソ噂話』より。チュン太郎の本名という公式設定。アニメではひらがなだったが、人間の名前らしくちゃんと漢字を当てている。
次回は戦闘訓練開始!