─────1─────
廃団地から帰宅後、夕食を済ませた俺たちは今後の行動について話し合っていた。あの死体を喰らっていた奴を早急に見つけ排除しなければ被害は増す一方だ。
「当面の目標は死体喰いの犯人だ。あんなもんに町中うろつかれちゃ堪ったもんじゃねェ」
「別に私たちが必死になってやる必要はないんじゃないですか?他にもマスターはいるんですから、そっちが勝手に片づけるかもしれませんし」
カーマは気だるげにそう答えた。彼女の言い分には一理あるが、それでも黙って見過ごすことはできない。
「駄目だ。まだ町の住人から被害者は出ていないはずだが、それも時間の問題だ」
「燃やしちゃいましたからね、餌。あれだけ溜めこんでいたものが無くなってしまったんですから明日には餌を求めて町を徘徊するんじゃないですかね」
「ただの馬鹿なら餌を奪った俺らにすぐにでも仕返しに来ると思うが、そんな都合のいい話はあるまいて」
「それに放っておけないって言いましたけど、探す手立てはあるんですか?私、流石に追跡のための魔術は使えませんからね。さっきは偶々魔力の香りが漂ってきただけですから」
「手立てか・・・・・・」
正直言って手立てはない。てっきりカーマがそういう魔術を使えると思っていたからそれに頼るつもりだったんだが─────
「はあ、やっぱり何も無いんじゃないですか」
ため息と共に冷ややかな視線を向けられる。その態度に文句の一つでも言ってやりたいが、実際俺が悪いからここはぐっとこらえる。
「明日また団地に行ってしらみつぶしに探すしかねェな」
「このあとすぐには行かないんですか?今夜も見回りするんでしょう?」
「今夜は東の港の方へ行く。一点を絞るよりもまずは全体を把握しておいた方がいいだろ?運が良けりゃ奴と遭遇できるかもしれんしな」
「そうですか。ま、何でもいいですけど」
「ところで、お前乗り物は平気だよな?」
「なんです唐突に」
「いやな、港までは距離があるからせっかくだしバイクで行こうと思ってな」
「平気どころか私は騎乗スキルAを所持しているんです。現世の乗り物なら何でも乗りこなせます」
先日買った本に彼女には確かオウムが乗騎という随分ファンシーな逸話が書いてあったな。そこからきているスキルなのだろう。今のところ暗殺者らしい特徴が無いのだが、本当にアサシンなのだろうかこいつは・・・
「弓使ったり騎乗スキル持っていたり、なんかアサシンっぽくねェなァ?アサシンってのは気配遮断スキルってのを持っているって前に話してたがお前持ってないんだろ?」
「う、そこを突かれると何も言えないんですけど・・・ま、まあ!私にはそんなもの無くても他のスキルでどうにでも出来ますから!」
揺るがない事実を誤魔化すかのように声を高らかにして胸を張る彼女を見て、先行きが少し心配になる。
「ま、いいさ。闇討ちだけが全てじゃねェしな。ああ、それと。お前が持ってるクナイみたいなやつあんだろ?それ一本くれねェか?」
霊衣を身に纏っているときの彼女の太ももに掛かっている金色の装飾がされた物。あれが武器ならサーヴァントに襲われた際に役に立つはずだ。
「クナイ?ああ、これは金剛杵といってインド神話の武器です。この小さいのは独鈷杵、これ他に三鈷杵を私は持っています。それで、なにに使う気なんですか?」
「護身用だ。サーヴァントに襲われた時に役に立つかもしれんからな」
「なるほど。別に一本くらいは構いませんよ。使わずに済めばいいですけど」
彼女の手から独鈷杵が実体となって浮かび上がる。金色に輝くそれはどことなく美術品めいた神々しさを感じられた。触ってみると金属らしい冷たさが伝わってくるかと思えば、逆に人肌のような心地良い暖かさが伝わってきた。
「サンキュー。じゃ、十一時過ぎに出るからそれまで好きにしてくれ。俺ァ庭に居るから」
*
「こいつに乗るのも久しぶりだな」
車庫の奥に停められた埃をかぶったSR400を表に出す。
「埃まみれじゃないですか。ちゃんと手入れしてるんですか?」
濡れたタオルで車体を拭き、エンジンがかかるかを確かめる。威勢の良い音と共にエンジンがかかる。最近手入れさえ出来ていなかったから動くか分からなかったが問題ないようだ。
「よし、行くぞ。乗れよ」
「神を乗せるんですから事故らないでくださいよ」
俺の腰に腕を回しながらカーマが軽口をたたく。
「どうだかな。せいぜい事故らんように祈っときな」
街灯の明かりに照らされながら、夜の町を走る。真夏の暑さも多少マシになった何とも言えない生温い風が体をぬけていく。自分たちの他に通行人はいない。
治安が落ち着き始め人が増えてきたこの町も、未だに商店街周辺以外の人通りはほとんどない。隣のM市が大きく発展した分、この町は時代に取り残されたような気さへ感じられる。
しばらく走っていると潮の香りが流れてき、エンジンの音に紛れて波の音が耳に入ってくる。遠目にぼんやりと堤防と船が見える。もう港まですぐそこだ。
港に到着すると、近くの街灯の下にバイクを停める。
「ちゃんと事故らなかったぞ」
「少し荒かった気がするんですけどね」
「ビルから飛び降りられるんだから怖かねェだろ?」
「怖いとかじゃなくて、もっと丁寧に運転しろって言ってるんです」
「分かった分かった。帰りは気を付けるよ」
ぶつくさ文句を言う彼女に適当に返事をしながら、堤防の上で胡坐をかき暗い海を眺める。昔はよくここでこうしていたもんだ。
「どうしたんですか?黄昏ちゃって」
「黄昏てなんか・・・いや、そうかもな」
ここにいは良い思い出があるが、悪い思い出もある。
俺を蝕む血濡れた記憶。“親父”と生きたこの場所は“親父”を失った場所でもある。
「なあ、神様。身体を失ったあんたに訊きたい。大切なものを失った奴ってのはよォ、どうなっちまうんだ?」
彼女の方には振り返らず、背を向けたまま問いかける。
彼女だから訊く意義がある質問。失ったもの同士、何か納得のいく答えが返ってくることを勝手に期待して。
「・・・・・・・・・」
返答は返ってこない。聞こえてくるのは波の音だけ。
彼女は今、どんな顔をしているのだろうか?情けなく黄昏ている俺を嘲笑っているのだろうか、過去のトラウマに触れられ怒りの表情を浮かべているのだろうか。
「すまん、忘れて─────」
「失い方にも─────」
俺の言葉を遮って、彼女が話しだした。
「失い方にもよりますけど、それがもし奪われたんだとしたら、醜く歪んでしまうでしょうね。歪んで、歪んで、歪みきって、最後には何を奪われたのかも、自分がなんなのかも分からなくなってしまうんです。ですが─────」
「ですが、なんだ?」
「ですが、そうなってしまっても・・・誰か寄り添ってくれる者がいれば、元に戻れるかもしれませんね」
意外な発言だった。彼女なら、そんなことは言わないと思っていた。
だが─────
「そうか・・・・・・お前が言うならそうなんだろうな」
立ち上がり彼女の方を見る。彼女は一瞬悲哀に満ちた表情をしていたがをしていたが、それを隠すようにニヒルな笑みを浮かべた。
「冗談ですよ。私がそんなロマンチックなことを言うとでも?下らないこと訊いてないでさっさと見回りして帰りますよ」
そう言って彼女は俺を置いて船着場へ歩いて行った。
「へいへい、分ァりやしたよ」
彼女の後を追って船着場へ向かう。船着場には漁船が四隻と漁に使う道具が乱雑に置いてあり周辺には倉庫が点在している。
「人の気配はするか?たまに地元のチンピラがここいらの倉庫で薬キメてることがあるんだが」
「さっき人払いの魔術を使ったので港周辺に人は寄り付きませんよ。居たとしてもすぐに離れます」
「手際がよろしいようで」
*
港にこれといった収穫は無かった。念のため倉庫の中も一つ一つ調べたが奴の痕跡どころか魔力の反応さえ無い有様だ。聖杯戦争はなにもこの町だけで行われているのではないのだからこのパターンの方が多いのは当然と言えば当然なのだが。奴ももしかしたらもうこの町から離れたのかもしれない。
「これで明日は団地で探索ですか。あーあ、面倒くさいですねぇ」
「そう言わんでくれよ。人喰い野郎の件が片付いたら労ってやるからよ。何処か行きたい所とかあるか?」
「行きたいところですか?・・・そうですね、競馬場とかいいです」
「競馬場だァ?お前そんなところで─────いや、堕落然り人の不幸然りああいった賭博場とは切っても切れないもんがお前は好きだったな」
「分かっているじゃないですかマスターさん」
「趣味嗜好を把握するのは良好な関係を築くためには重要だからな」
「別に貴方とそんなものを築くつもりはありません。私、人間は嫌いなので。あくまでも当たり障りのない契約関係ですから」
「つれねェなァ、命預けてんだから仲が良い方が安心できるってもんだろ?俺は諦めんぞ」
「・・・勝手にしてください」
「おう、勝手にするぜ─────ッ!?」
彼女に笑いかけた刹那、背後に今まで感じたことのないような殺気が漂った。
「しまっ─────」
振り返った先には日本刀を今まさに自分に振り下ろそうとする男の姿があった。
間に合わない、反応が遅すぎた。今の今まで何も感じなかったのにどうやって俺とカーマに気付かれずに背後まで!?
「甘いですよ」
カーマが俺と男の間に割り込み棍棒のようなもので攻撃を弾いた。俺が彼女から受け取った独鈷杵に似ているそれは両先端が三つに分かれておりサイズは彼女と同じくらいあった。さっき言っていた三鈷杵というものだろうか。
攻撃を弾かれた男はこちらから距離を取りもじゃもじゃの髪の隙間から血に飢えた目を覗かせ口を開いた。
「やるのぉ。あとほんの一瞬遅れとったら真っ二つじゃったがけんどな」
「殺気が駄々洩れなんですよ。あんなの気付いてくれと言っているようなものです」
「気付いたところで同じことやき。次はないぜよ。おまんのような女、わしにかかれば朝飯前じゃ」
背筋が凍るような笑みを浮かべ男が刀を構える。
日本刀に訛りのあるあお喋り方。すでに俺はあの男の正体が絞れつつあった。しかしこの予想には一つ問題点がある。男が俺たちに気付かれずに背後に忍び寄れたあの能力、それは恐らく気配遮断。だが気配遮断はアサシンのクラススキルであり、アサシンはすでにカーマが召喚されている。カーマと同じように特殊なサーヴァントなのか、それとも─────
「アサシン、気を付けろ。日本のサーヴァントなんてろくなもんじゃねェぞ」
「言ってくれるな。わしのこと馬鹿にしゆうがか?」
「馬鹿にするなんてとんでもない。あんただけに限ったことじゃなく、日本人なんてどいつもこいつも狂人だ。ましてや人を斬って上り詰める時代に生きている奴なんてそれの代表だろ?」
「なるほどのぅ、一理あるわい。けんどそういうことならおまんも大概じゃろ」
「否定はしない。なァあんた、殺り合う前にせめてクラスくらい教えてくれよ。アサシンか?セイバーか?」
「勘違いすな、わしにそんなもんはない。だがそうじゃのう、強いて言うなれば・・・わしは人斬りじゃ!」
「下がってください!」
男が再び切りかかってきたのと同時にカーマが言う。俺は従い男の脅威範囲から離れ二人の戦いを眺めた。魔力反応が無いならここに男のマスターはいないだろう。だったら前回は出来なかったサーヴァント同士の戦いを見ておくのも今後の立ち回りの参考になるだろう。
「そがに馬鹿でかい獲物でわしの剣にいつまでもつかのぉ女!」
一太刀、二太刀、三太刀と繰り出される攻撃を難なく弾き続けるカーマ。対して男は疲れる様子もなく次々と斬撃を浴びせる。刀と三鈷杵が打ち合うたびに火の粉が散りその度に薄暗い空間に二人の姿が照らし出される。
「どいた?弾くだけで攻められんか!」
カーマは軽やかな動きで大きく後退し、男の間合いから離れる。
「あまり調子に乗らないでください」
彼女は三鈷杵を手放すとそれは地面に落ちることはなく、独りでに宙に浮かんでいる。そして人形を操るかのように手を動かすとそれに連動し三鈷杵が宙を舞う。
「貴方では私に傷一つつけることすら叶わない。さあ、手足をもがれた哀れな虫のように足掻きなさい」
蒼炎を纏った三鈷杵が男に飛んでいく。男は三鈷杵の攻撃は弾けても蒼炎までは対処しきれず、徐々に劣勢に追い込まれる。
「チィ!面倒な術を使いよって!」
「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたんですかぁ?」
「こんのっ!───あ?・・・・・・ジャアッ!」
男が怒声を上げ、振り上げられた刀によって三鈷杵の動きが鈍る。その隙をついて男は跳躍し倉庫の屋根に乗り移った。
「マスターがお呼びやき、今日はこんくらいにしちょいちゃる」
「このまま逃がすとでも思ってるんですか?」
「勘違いすな女。わしはおまんらを見逃しちゃる言いゆーんじゃ。次会うときはおまんもそこのも斬っちゃるけぇ覚悟しちょけよ」
男はそう言い残して一瞬で闇に消えていった。
「なんだったんだ・・・やるだけやってさっさと消えやがった」
「あの男。さっきの奇襲といい今のといい、奴は人斬りと名乗っていましたけどやっぱりアサシンのサーヴァントみたいですね」
「そんなことあり得るのか?お前と被ってるじゃねェか」
「普通はあり得ません。・・・どうやらここの聖杯戦争は多少なりとも歪んでいるみたいですね」
「おいおい、前に俺が訊いた時は平気だとか言ってなかったか?」
「仕方ないじゃないですか!私の知識だって万能じゃないんですよ!」
「開き直るかね普通・・・はァ、目の前で戦った以上確かに言っても仕方がないか」
「これからどうするんですか?」
「気配遮断を使われたら追うことも出来ねェしな。帰ェるぞ」
*
先ほどの彼女のクレームを考慮して、緩やかなスピードで走っていると彼女が話しかけてきた。
「さっきの会話。マスターさんはあの男の正体が分かったんですか?」
「ああ。あいつは多分、岡田以蔵だ。人斬りを自称し土佐弁を話す刀の使い手の日本人なんてそれくらいしかない」
「ふーん。そうですか」
「訊いたくせに興味無さげだな」
「ええ、知ったように話していたのが気になったのであって別にその岡田以蔵に興味はありませんから」
「にしてもなァ。サーヴァントってのは全員が真名を隠したいわけじゃないんだな。ありゃ答えを言ってるようなもんだ」
「明確な弱点が無ければ真名を知られたところでどうってことない者も一定数います。真名看破が敗因に繋がるのは私みたいな者たちです」
「つまりお前の場合はシヴァと関わりがある奴にバレたら拙いってことか」
「それどころか、私の神性のせいでシヴァ系のサーヴァントにはすぐに正体がバレます」
「よりによって相性最悪の相手に速攻で身バレするのか。あからさまに不利だな」
「本当ですよ・・・憎いったらありませんよ。身体を奪われただけじゃなくサーヴァントになってからも苛まれるなんて笑い話にもなりません」
「もはや呪いだな。シヴァ系の奴らが召喚されないことを祈るしかねェな・・・・・・いや、口は禍の元ってな。こう言っている時にはもうすでに召喚されてるかもなァ」
「縁起でもないこと言わないでくれます!?もしシヴァ系と当たるようなことがあっても絶対に闘いませんからね!」
「お前が嫌ならそれで構わねェよ。もし避けられねェようなら俺が守ってやる」
「図に乗らないでください。私より弱い貴方がどうやって守るっているんです?団地の時も散々言ったのにまだ分からないんですか?」
声色を不機嫌なものに変えて腰に回している手で猫のように俺の脇腹に爪を立ててくるが、大して痛くない。
「俺やお前が弱いとかそういうのは関係ねェよ。俺はお前のことを信じているし、そもそも守るって行為はよォ、大切なそいつに傷ついてほしくねェから、悲しんでほしくねェからするんだ。俺ァそういうもんだと思ってる」
「じゃあ私は貴方にとって大切な存在だとでも?」
「当たり前ェじゃねェか。お前は命の恩人で俺のサーヴァント。大切な存在以外の何だって言うんだ」
ひときわ回された腕に力が籠る。それによって彼女の豊満な胸がより密着し柔らかい感触が背中に伝わる。こういうことには慣れていても少なからず意識してしまう。
「・・・・・・・・・馬鹿なひとですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マスターさん?急に黙ってどうしたんですか?」
「カーマさんよォ・・・腕に籠める力をもうちっと抑えてくれねェか?・・・爪が食い込んで痛ェんだが・・・・」
「あ・・・・・・えい」
「いや待て何故さらに力を籠める!?イデデデデデ!運転中だぞこの野郎!」
「今まで散々私を困らせた罰です。ほらほら、しっかり運転してくださ~い♪」
その後、痛みに気を取られて何度か事故りかけながらも何とか無事に家に着いた。そして仕返しにカーマににデコピンをしたせいでムキになった彼女と小競り合いになり余計に疲れた。
─────2─────
嫌な気配を感じ目が覚めた。時計を確認すると午前二時を回ったころだった。
「草木も眠る丑三つ時ってか。人喰い野郎か人斬りか、はたまた新手のサーヴァントか、時間帯的には妖怪か?できれば気のせいであってほしいが」
机にしまった独鈷杵をポケットに入れ、部屋から出る。縁側に行くとカーマがすでにいた。
「お前がいるってことは、残念ながら気のせいじゃないらしいな」
「嫌な言い方してくれますね」
「おっと、こいつァ失礼。で、どうなんだ?」
「感じたことのない魔力です。何というかこう、寒気がするというか、とにかく気味の悪い得体の知れない感じが。マスターさん、分かりますか?」
目を瞑り意識を集中させる。先ほどよりも強く何かしらの気配を感じる。彼女の言う通り気味の悪い、誰かに首筋を舐められたかのようなゾッとするものを。
「これは、幽霊とかそういう類の奴かもしれねェなァ。何度か感じたことがある。まさか本当に妖怪とかじゃねェだろうな・・・」
「妖怪?」
「妖怪ってのはあれだ。まァ日本特有のものというか海外だと精霊とかがその類か?まァそんな可愛いのんじゃねェが」
「大体分かりました。私の国にもそういったものはいましたから。こんな気味の悪い魔力は漂わしていませんでしたけど」
「神が信仰心を糧にしているなら妖怪は人の恐怖心を糧にしているんだ。だからこんな魔力、この場合は妖気だな。それを漂わせているんだ」
「詳しいんですね。なんだか意外です」
「死んだおやっさんがこういうのが好きでな。それの影響だ。で、話を戻すが、なんでそんなもんがこんなに感じられるんだということになるが─────は?」
この状況に似つかわしくない、大勢の賑やかな声と祭囃子がどこからか聞こえてきた。
「・・・・・・あれが原因でしょうね」
星輝く夏の夜空に、謎の飛行物体が。次第に暗闇に慣れてきた目がゆっくりと移動するそれの全貌をとらえた。
「お、おいおい・・・マジかよ」
妖怪の群れだ。創作物で何度も目にしてきた魑魅魍魎が、百鬼夜行となってある者は祭囃子を奏である者は踊り夜空を縦横無尽に闊歩していたのだ。
できることならもっと近くで見てみたいが、状況が状況だけにガキの頃の憧れの存在を目撃したことを素直に喜んでばかりもいられない。
「カーマ、ありゃあ・・・」
「勿論サーヴァントですよ。あの量の使い魔を従えているということは多分キャスターのクラスかと」
「妖怪でキャスターか。定番はぬらりひょんってところだな・・・・・・」
「どうしますか?私たちには気付いていないようですけど」
「ほっとけほっとけ。前回のランサーの時と違って一筋縄じゃいかんだろうし」
「町に侵入した者には容赦しないんじゃなかったんですか?」
「妖怪にとっちゃ日本が住処みたいなもんだからな。それに見た感じ危害を加えるようには見えん。お前最初ん時に言ってただろ?全部の敵を倒す必要はないって」
「ええ、まあそうですけど。わかりました。私も戦わなくて済むなら楽でいいので。じゃ、もう寝ますので。おやすみなさい」
そう言って彼女は欠伸をしながら家の中へ戻っていった。
「俺も戻るか・・・にしてもなァ、まさか妖怪と会ってみたいっつうガキの頃の夢がこんな形で叶うたァなァ。親父にも見せてやりたかったよ」
平和だったころのことを思い出しながら通り過ぎていく百鬼夜行を眺めていると─────先頭の者がこちらを見ていることに気が付いた。
「っ!」
依然敵意は感じないが、もしもの時に備え戦闘態勢に入る。すると夏のものとは思えない冷えた風と共に老人のしゃがれた声が聞こえてきた。
「小僧、
妖怪たちの一層大きくなった笑い声が夜空にこだまする。
「・・・・・・明日から忙しくなるな」
皆目見当のつかないこれからの自分の道行きに期待を抱きながら百鬼夜行に背を向け、自室へ戻った。
遅れました第四話です。今後もこのようなペースになると思いますので気長にお待ちください