Gerthena   作:mashi

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その主

三人は薄暗く、気味の悪いその空間を突き進んだ。

ミッシェルとヴィラが先行し、ギャリーがその後ろにつく。ギャリーはまだ不安が抜けきっていないのか、ミッシェルのコートの裾を左手で握っている。

 

「こっちで合ってるよな?」

ヴィラは周りをきょろきょろ見渡しながら言う。

 

「ああ、おそらくな」

いつ何が襲ってくるかはわからない。三人は警戒しながら慎重にあの絵を目指す。

 

「本当に、本当にここから出られるのよね?」

 

ギャリーは不安そうに二人に問いかける。

 

「100%...と言ってやりたいところではあるが、ここでは何が起こるかはわからない。ただ一応切り札はある。役に立てばいいが・・。」

 

そういってミッシェルは小瓶を取り出してそれを見つめる。

「シンナーか、いざとなればそれでハイになろうぜってオチか?」

「・・・それも悪くないかもな」

「ジョーダンきついわよアンタたち・・・。」

 

ギャリーは引きつった顔をする。

 

「まぁあれだ、アリスだって不思議の国から帰ってこれたんだ。どうにかなんだろ。」

「あれは夢オチだ。」

「マジかよ。じゃあこれも夢だってオチはどうだ?」

「実に理想的だが、編集部は通してくれないだろうな。」

 

ミッシェルも環境に対応してきたのか、口数が多くなる。

「あんたたち緊張感ってものないの!?ここには危険な連中がいっぱいいるってのに・・・って!!」

 

その時ミッシェルが急に立ち止まり、ギャリーはミッシェルの背中に軽く頭を打ち付けた。

 

「なんなの・・・!!」

 

三人の前には首なしの銅像、緑色と青色の『無個性』が二体立ちふさがっていた。

彼らは腕をこちらに伸ばし、小走り気味で向かってくる。その様子はどこか焦っているようにも見えた。

 

「ちょ...ちょっと!!逃げなきゃ!!ほら!こっち!!」

 

ギャリーはミッシェルの服をグイっと引っ張るが、ミッシェルはそれに従わなかった。

 

「大丈夫だ。俺たちには逃げる以外の選択肢がある。」

無個性たちから目線をそらすことなくミッシェルは言う。

 

「何言ってんの!?どうするつもり!」

「こうすんのさ!!」

そういうとヴィラは無個性たちに向かって駆け出す。

「ちょっと!」

 

自身の射程圏内に敵が入ったことを確認すると、ステップを踏んで二体のうちの緑色の個体に跳び蹴りを浴びせる。それを受けた緑の無個性は後方に吹き飛ぶ。倒れる際に腕がボロッと崩れた。

 

その後もう一体がヴィラに両腕でつかみかかり、取っ組み合いの形になるが、ヴィラは冷静にその右腕のみ振り払う。そして左腕をホールドしたまま体を無個性の懐に忍び込ませ、大腿部を腕で巻き付けるように取ると、ファイヤーマンズキャリーの要領で無個性を持ち上げる。

 

「はは!ちょっと重いんじゃねぇのか!!ダイエットしろよ!」

 

そういうとヴィラは左手を無個性の頸椎部分に添え、右手で無個性の膝を突き上げるように押すと、相手を旋回させながら、自身ごと倒れこんだ。

無個性はヴィラのF5により、うつ伏せの状態で地面に叩きつけられ、活動を停止させた。

 

「首無し野郎に、アルゼンチンバックブリーカーはできそうにねぇな。」

ヴィラは上機嫌に笑いながら起き上がる。

「こんなの滅茶苦茶・・。」

 

ギャリーはそれを呆然と見つめていた。

 

その時にふと背中に気配を感じる。ふっと振り返ってみるとそこには、額縁から上半身だけ出た女の絵がこちらに這いずってきていた。

 

「ぎゃああ!!」

 

ギャリーの叫び声にいち早く反応したミッシェルは、その『赤い服の女』を目視にて確認すると懐から拳銃を取り出し、二発銃撃を浴びせる。今度の彼に迷いはなかった。

弾は二発とも綺麗に女に命中し、女は額縁の中へ消えていった。

 

「はぁ・・・はぁ・・、もう・・なんなのよ。あんたたち。・・・なんで拳銃なんてもってんのよ。」

へたっと座り込んだギャリーは文句にも近い言葉をつぶやく。

「ただのお守りさ、ちょいと攻撃的だけどな。」

「先を急ごう、奴らなにか活発的だ。」

 

そう言いミッシェルは先陣を切って前進する。

 

「ああ、少し肩がいてぇな・・。」

「あんなマネするからでしょ!」

 

二人もその後に続いた。

 

 

・・・・・・・・・・・

 

三人は脱出を急いだ。難解な謎や作品たちに阻まれながらも、あの美術館へ通じる階段へもうすぐといったところまでたどり着いていた。

 

「もうすぐだ・・!」

 

ミッシェルは小走りでそこへ向かう。

そしてすぐに立ち止まった。

そこで三人は目の当たりにする。

 

ヤツ(・・)を・・・・。

 

「ヴヴヴヴ・・・ア゙・・・ア゙ア゙ア゙ア・・・!!!」

「・・・・このっ」

 

ミッシェルは強く拳を握る。

 

「この野郎・・。まだ生きてやがったのか・・・。」

「な・・・なに?なんなのこいつ・・・!!」

 

それは銃弾の跡が残った服とボロ布を纏い、手枷を鈍器のように振り回しながら、まるで彼らを待ってたかのようにそこに佇んでいた。

 

「こいつがお前の薔薇を持ってた張本人さ。」

ヴィラは拳銃を取り出す。

「こんなヤツ・・・見たことないわ・・こんなのがいたなんて・・・!!。」

 

その発言にミッシェルが反応する。

「見たことない?じゃあなぜこいつは、君の薔薇を・・?」

「おしゃべりは後だ!来るぞ!!」

 

二人は失敗作(それ)に容赦のない銃撃を再び浴びせる。その空間を獰猛な銃の声と硝煙の臭いが支配する。

ギャリーは二人の背後で耳を抑えてその様子を見守る。

 

失敗作は銃弾に倒れはしないタフさはあるものの、やはりそれを無効化にはできない。じりじりと後退を余儀なくされるが、何かを狙っているのか姿勢を低く構えていた。

 

その時、ヴィラの拳銃が排莢不良を起こした。スライドとバレルの間に上手く排出されなかった薬きょうが挟まり込み、次の弾が撃てない状態になっていた。

 

「クソ!!ジャムった!!」

 

ヴィラは急いでスライドに手をかけるが、その隙を失敗作が見逃すはずもなかった。

失敗作はヴィラに向かって身をかがめ突進する。それはあの時のタックルさながらだ。

 

「くッ!!」

 

対応が間に合わないと悟ったヴィラは防御の姿勢をとるが・・・。実際のそのタックルはあまり大したものではなかった。

どれだけタフであろうと所詮は手負い。その屈強な男を相手にとる余力はそれほどなかった。

 

ヴィラは銃を捨て、そのタックルをキャッチすると、無個性を頭を抑え込んで膝を一発叩き込む。

「どうした!しょっぺぇな!!」

 

そのまま、前かがみ状態の失敗作の胴体に上から腕を回し、抱えるようにそのまま大きく持ち上げる。

「このクソッタレが!!くたばりやがれ!!!」

持ち上げられた失敗作は天を仰ぐような向きになり、そのまま地面に落とされた。

「1.2.3....KO!!」

豪快なパワーボムが決まったヴィラは立ち上がって、銃を拾いスライドを手動で動かして排莢した。

 

「手入れはサボってねぇハズなんだけどな。」

「あなたって・・・何者?」

「ハゲてねぇステイサムだとでも思ってくれ。」

 

ヴィラは上機嫌にわらう。

「どっちかっていうと、ドウェイン・ジョンソンの方なんじゃない・・?。」

呆れたようにギャリーはそう返した。

 

その時、ヴィラのその背後から呻き声が聞こえてくる。

 

「ヴヴヴ・・・ヴヴヴ!!ヴォオオ!!」

 

そう雄叫びにも似た奇声を上げながらそれはゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「しつけぇ野郎だ。もはや執念だろ。言ってみろよ誰に恨みがあんだ?」

それは立ち上がりはしたものの、ふらふらとした状態でまともに動ける気配がなかった。

しかしその見えない視線からは十分な殺気を感じ取れる。

 

「ああそうかい。なら、最後に親父直伝のベネット・スペシャルでも見せてやろうか?」

 

ヴィラは指をポキポキ鳴らしながら、失敗作を目標に近づいていく。

ミッシェルとギャリーはその様子を見守る。

その二人の背後から何者かが声を上げた。

 

「おいお前ら・・。俺の作品に何しやがる。」

 

二人が慌てて振り返ると、そこには一人の初老の男がいた。

齢50程であろう無精ひげを生やした男は、ラフなシャツにエプロンをかけ、ジーンズに四本指を入れたまま、少し猫背で三人に近づいてくる。

 

ミッシェルはその男を見て目を丸くし、言葉を失う。

 

「邪魔だ、どけ。」

 

男はそう言ってヴィラを軽く押すと、失敗作の様子を医者のように診始めた。

「なに、あの人?」

ギャリーがミッシェルに問う。だが依然、ミッシェルは固まったままだった。

「おい!オッサン!なにすんだ!」

「口の利き方に気を付けろクソガキ。」

「ああ?」

 

男はヴィラに目をくれることもなく、そういった。

 

「・・・随分と酷くやられたもんだ。可哀そうにな。」

 

男は失敗作の腕をとって担ぎ、どこかへ立ち去ろうと歩みを進めた。

 

「おい!話は終わって・・」

「待て!」

 

ミッシェルはヴィラの肩に手を置いて言葉を遮る。

そしてゆっくりと男のほうに視線を合わせる。

 

「なぜ生きてるんだ・・。爺さん。」

「お前に爺さん呼ばわりされたくねぇよ。」

 

二人は互いをけん制するように睨みあったまま。動かなかった。

 

「ねぇ、どういうこと?お爺さんって・・。」

 

ギャリーがミッシェルに問う。

 

「つまり・・・あれか・・?ワイズ・ゲルテナ・・。」

 

ヴィラは男を指す。

「指さすんじゃねぇよ。」

男は不機嫌そうに言った。そして男は三人に背を向け、再び立ち去ろうとする。

 

「なるほど、つまりお前がコトの元凶なワケだ。つまり大ボス、ジョーカーだ。」

ヴィラはゆっくり男に向かう。

「じゃあつまりお前をぶちのめせば、いいってことだろ?」

「・・・バカは気楽でいい。」

 

男は吐き捨てるように言う。

ヴィラにとってみれば相手はただの中肉中背、そのへんにいる男とさほど変わりない。

ならば、自身が怖気づく理由もない。

 

ヴィラは男に向かって一気に駆け出す。

 

「ヴィラ!」

 

ミッシェルには男がポケットに手を入れる仕草が見えた。直感的に何かあると悟ってヴィラに忠告を投げるも、ヴィラにそれは届かなかった。

 

男が取り出したものは小さな絵具のチューブだった。

男はそれをヴィラに向かって強く握る。そのチューブの中身は勢いよく飛び出し、ヴィラは顔を始めとする体中にそれを浴びてしまった。

 

「うわっ!!なんだ気持ちわりい!!」

 

ヴィラは絵の具の黒い色にまみれる。顔についたものを取り払おうと顔をこするもなかなかとれない。

 

「ちきしょう!姑息なマネしやがって・・・・」

 

その瞬間、ヴィラを猛烈な苦痛が襲った。

 

「あ・・・・っ・・・・が・・・っ・・・!!」

 

窒息の苦しみだとか、裂傷ややけどの痛みなどが一気に彼を襲う。

もちろんその苦痛に耐えられることもなく、ヴィラはその場に倒れこむ。

 

「ヴィラ!!」

 

ミッシェルは一目散にヴィラに駆け寄る。片腕でヴィラの肩を支えながら、もう片方の手で男に銃を向ける。

ヴィラが懐から引きずりだした紫色の薔薇は、花弁が一気に散り、茎もろとも枯れようとしていた。

 

「喧嘩を売る相手はよく見たほうがいいぞ。」

 

ヴィラは鬼のような形相で男をにらみつける。

 

「・・・ん?お前・・。」

 

男が何かを言うおうとするが、意識が薄れるヴィラにそれが届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱりプロレスは偉大だった。
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