Gerthena 作:mashi
リロード
...やっぱり、記憶違いなんかじゃねぇ。
俺は確かにあの日、あの場所に。
なぜ..今まで..。
再び「空間」を彷徨う彼の前に幼い彼が映し出される。
幼い彼は、薄暗い空間でとある絵画に手を伸ばしていた。
はは..そうだ。
俺は行ったんだ。
...................ミッシェルの家の地下に。
・・・・・・・・・
「.....っく」
彼は現実の世界で覚醒する。
うまく立ち上がろうにも、ぐらぐらと揺れる頭がそれを拒む。
「...二日酔いより...ひでぇや」
なんとか壁を這って体を起こし、自らが安定するのを待つ。
ふと後ろを振り返ると、あのパノラマ絵画。
一度は感銘を受けたそれも、今となっては憎悪を覚える対象。
ヴィラはそれに一瞥をくれると、傍らで眠るギャリーをたたき起こす。
「いつまで寝てんだよ。ほら!」
腕をとってギャリーを無理やり引きずり起こす。
「うっ.....ちょ....まって....」
傍目から見れば、まるで道に転がる酔っ払いを介抱しているように見えるだろう。
「あ..ったた...頭が...。」
「水でも飲むか?」
「...いい...って?..あれ?」
なんとか目を見開くギャリー。そこには、あの恐ろしい怪物たちのいない。普通の美術館。
「ここ....私って..。」
「安心するのは早え。一度出るぞ」
二人は美術館の通路を伝い、階段を目指す。
角から、死角から、奥から、背後から、奴らが来ないかと警戒するが、それらすべてが杞憂に終わる。
その道中、ギャリーがあるものを見つける。
「ねぇ!これって!」
ギャリーの言葉に引かれ、ヴィラは一枚の絵画に注目する。
そこには、薄暗い背景に、淀んだ顔を浮かべた、一人の青年。
先程まで、生死を共にし、希望を託された友人の姿がそこにはあった。
その絵画の名は『売れない小説家』
「....」
「....」
二人は、張り詰めた顔でその絵画を見た。
「...まってろ、すぐに戻る。」
そういってヴィラはその絵画に暫しの別れを告げた。
・・・・・・・・・
「外....」
いつ振りかの日光を全身で浴びるギャリーはその感動あまり言葉をなくしていた。
ただ茫然と空を見上げて、体全体で呼吸を繰り返していた。
いままでの出来事はなんだったのだろう。すべて夢だったのかな。
意識までも空に吸い上げられそうになる彼の肩を、ヴィラはたたいた。
「大丈夫か?」
「...あ、ああ!だい..じょう」
そう気丈にふるまおうとした彼だったが、その瞳からは汗が滲んでいた。
もう二度と戻ってこれないと覚悟を決めた現実世界。そこに、自分は帰ってきたのだ。
「本当に...かえってこれた...。」
溜息にも似た大きな呼吸をする彼に、ヴィラはいう。
「感傷に浸ってるとこ悪いが、もう一仕事あるんだぜ?」
「ええ..!行きましょう!」
ギャリーは一瞬の涙をぬぐって、迷いのない瞳でヴィラに応える。
「あ...!ああ..!」
そこに枯れた声の主が、驚きの声を上げていることに二人は気づく。
「ああ..館長さん。」
今にも飛び出しそうなほど見開かれた目。そしてその目線の先にはあの絵画と瓜二つの男性。
「これは....なんと...!」
目の前の光景は現実なのだろうか、自分自身も半信半疑だったミッシェルの証言が証明された瞬間だった。
「こいつ、ちゃんと生きてんだぜ?」
どん、とギャリーの肩をたたくヴィラ。
「は、はじめまして...」
少し気まずそうにギャリーは挨拶をするが。
「こんなことが、現実で...」
「館長さんよ、まだコトは終わってねえんだ。美術館、まだあのままにしてくれるか?」
いまだ情報の整理がつかない館長にヴィラはそう告げる。
「え..ええ。..一体..美術館の中で、何が..?」
「全部終わったら説明する。...ミッシェルがな。」
そういうと、ヴィラとギャリーは駐車場へ向かい、車へ乗り込む。
車のセルを回し、エンジンに火を入れると、乱暴にクラッチをつないでアクセルを床まで踏み込む。そうして正面ゲートの花道を全開で突っ切った。
ロケットのように勢いよく飛び出る大柄な車を、ある黒人の男は茫然と見ていた。
「...帰り...寄ってくれねぇのかよ...。」
・・・・・・・・・
「ちょっと!飛ばしすぎじゃない!!」
「時間がねぇのさ!!」
市街地のアップダウンが激しい道路を、車はまるでローラーコースターのように激走する。
やっと外へ出れたというのに、これらか立ち向かう不安と、このどこかへすっ飛んでいきそうな車にシェイクされる不安がギャリーを襲う。
クラッチをけっとばし、なんならサイドブレーキまで引いて無理やり車の向きを変えるヴィラの荒っぽい運転は、今の彼の焦りを体現しているのだろうか。
アシストグリップや、サイドポケットをしっかりつかんで体幹を保つギャリー。半ば呆れながらちらっと横目でヴィラのほうを見る。
そこに映る彼の顔は、いつもの調子のいいものではなく、張り詰めたものだった。
こんな運転が彼をそうさせるのか。だが、それとは違う要因があるようにもギャリーは思った。
「ねぇ!ヴィラ!」
「なんだ!」
「メアリーをどうやって捕まえるつもり?」
「どうやってって」
「だって!あの娘、また何か武器を持ってるかもしれないし!それに、ポルターガイストまで操れるんでしょ!?」
「...俺に、考えはある..。」
「..どんな?」
「まだ言えん。」
「え?」
ヴィラはここを開けろと言い、助手席のダッシュボードをたたく。ギャリーは言われるがままそのダッシュボードを開ける。
しかしそこには何も入ってないかった。
「なにもないけど?」
「その奥だ!」
訳も分からずダッシュボードの奥のパネルに触れてみると、それは横にスライドした。
「...ちょっ!」
そこからは銀色に輝く、小型の回転式拳銃が顔をのぞかせた。
「な...なによこれ!」
「38口径のお守りだ。ちょっと便りねぇが、ないよりマシだ。」
「こんなもの..。」
「撃ったことは?」
「あるわけないでしょ!」
「なら教える。ダブルアクション式だからハンマーはわざわざ立ててやる必要はねぇ。構え方くらいわかるだろ?」
「えっと...こう?」
ギャリーは映画の見様見真似で銃をフロントガラスに向けて構える。
「シリンダーからはもっと手を離せ。火薬で焼かれるぞ。」
ヴィラはハンドルを握る片手とは逆の手で、ギャリーの構える銃の矯正をする。
「少しグリップの下あたり。そう、そこだ。引いてみろ」
「え!?」
「弾はまだ入ってない」
恐る恐る引き金を引くと、カチンと音を立ててシリンダーは回転し、撃鉄は元の位置に戻った。
「.....」
ギャリーは険しい顔でそれを見つめる。
「どうしても銃は嫌か?」
ギャリーは目を閉じる。
「...いいえ。もう、後戻りはできないんだもの。それに....イヴを救うためなら..。」
目を開く。
「..OK。貸しな」
ヴィラは信号付近で止まると、ギャリーの拳銃に弾を入れる。
フルスモークで中の様子は見えない。なので堂々と銃の手入れくらいならできる。
「ほらよ。」
ヴィラは銃を渡す。そしてフロントガラスから外の様子を見る。
「おっと。そうこうしてるうちに、みえて来たぜ。ホラーハウスが」
二人の前には、夕日に包まれたあの町が、彼らを招いていた。
ご無沙汰してました。エタらないように頑張るのでよろしくです。