Gerthena 作:mashi
ドラマチックな再開というものは、きっとその名の通りドラマの中でしか起こらないのだろう。
せいぜい、しばらく会わなかった両親や友人に会って多少の昔話や近況報告に花を咲かせる。私たちの日常に似合う再開とはその程度のものだ。
確かにドラマチックな再開は美しいとは思う。
上手く排出されない言葉を飲み込んで、目に涙を浮かべ、抱き合って、その永遠に思えるほどの一瞬を、言葉もなく語り合う。
そんなものは作り話の中で起こるものなんだと、ずっと思っていたし、私たちには縁のないものだと思っていた。
こんな日が来るまでは。
・・・・・・・
「.....ヴ。」
ギャリーの前にいる赤毛が特徴の少女は、確かにあの時、最期の言葉を告げることもなく別れたあの少女だった。
「...........」
そして少女の目の前にいる男は、あの時自分を犠牲にしてまで、少女を守りぬいた人。
目の前にあるその瞬間が夢なのか、現実なのか。その場にいる誰もが疑った。
「...ギャ...りー?」
「ほんとに...ほんと...に?」
笑みを知らず、いつも強張っていた少女の顔の鎧は少しづつ剝がされていく。
「....ギャリー!!」
少女は男の胸に飛びついて、今までのすべてを吐き出すかの如く、咽び泣く。今まで彼女を支配していた緊張の糸がやっと切れた瞬間だった。
「もう...ほんとに.....会えないと...思ってた..!!」
「イヴ..!貴女が無事で...本当に良かった!」
まるで筋書があるかのような再開の場に居合わせたウォーレン家の夫妻。婦人はその様子にもらい泣きをするが、主人は怪訝そうな目で男を見つめていた。
自分の娘にどこの馬の骨もわからない男が近づいてるのを快く思わないわけではないのだろう。
「な..なぁ。ヴィラ君。」
「ん?」
本当は先を急ぎたいところだが、束の間の瞬間に水を差すこともなかれと、それを見守っていたヴィラに主人が問いかける。
「彼が...あの絵の...?」
「まぁ、そういうこった」
「これは本当に...現実で起きてることなのか..?私はいまだに...」
「もう、考えるのはやめたほうがイイ。いっそのこと夢でも見てると思ったほうが気が楽になる。」
「...そうか。...彼は?ミッシェル君は?」
「今度はあいつが絵の中さ。だからまだ、コトは終わっちゃいない。」
「え?」
ヴィラはもたれかかった背を起こして、主人に問う。
「なぁ、ウォーレンさん。あの、アンタが壊したあの絵。まだあるか?」
「え?...えっと。」
「メアリーが逃げ込んだ、あの絵だ。」
「...ママ。」
主人は婦人を呼びつける。そしてあの絵の在処について話した。
「まさか...捨てた?」
「い..いえ!確か納戸に。もったいなくて捨てられなかったから。」
そういい、婦人は納戸から絵を回収する。
その絵は卒業証書のように丸められ、ビニールに仕舞われていた。
あまり丁重な扱いではないと知りつつも、今の彼らにはこのくらいの扱いがちょうどよかったのかもしれない。それは既に『呪われた絵』なのだから。
丸められたそれをゆっくりと広げる。
その全体的に陰鬱な印象を醸し出すそれは、絵画に関して素人なヴィラでも異彩さを感じさせるものだった。
「これを、どうするんだい?」
正直この絵にあまりかかわりたくはないというのが本音だろうか、主人は苦虫をかみつぶしたような表情でその絵に目を落とす。
「この絵の中に入る、って言ったらどうする?」
ヴィラは懐からペンティングナイフを取り出しながら、そういった。
「.....もう、驚かないよ。」
「ギャリー!」
ヴィラはギャリーを呼びつける。
「ええ!...ごめんね、イヴ。私たちにはまだやることがあるの。」
「ギャリー!ダメ!いかないで!」
「イヴ...。」
少女の反応は当然のものだった。二度と会えないと思っていた彼にやっと再開できたというのに、また離れ離れになるどころか。もう一度生死を賭けた旅路へ出るというのだ。止めないはずがない。
「嫌!!嫌!!もう...あんなお別れ...したくない..!」
「......」
イヴは力強くギャリーに抱き着く。
ギャリーにしても、本当はもうこんな危険な思いはしたくなかった。望めるのなら、イヴと平和な時間を過ごしたいというのが本音だった。
だが、そういうわけにはいかなかった。彼には、彼を救ってくれた恩人からの託されごとがある。それを無碍にはできなかった。
「ごめんさい...イヴ。」
「いやだよ...そんな..。」
「ワリぃな、イヴ。」
そこにヴィラが割って入った。
「イヴ、確かにな。コイツだって戻ってこれたワケだし、一見解決したかのように見える。俺たちだってこれで終わりでいいんならそうしたいさ。だけどよ、逃げ出したメアリーはどうする?このまま放置してりゃ、俺たちだけじゃない、ほかの人たちが犠牲になるかもしれない。」
必死に涙を拭うイヴにヴィラは続ける。
「それにな、ギャリーを連れ出した代わりに、今はミッシェルが絵の中に閉じ込められてんだ。」
「....え?」
「俺たちは
ヴィラの言葉に、イヴはうつむく。
本当はこれで終わりじゃないことくらい、彼女も理解はしている。だけど、もうこれ以上の傷を負いたくないという恐怖が彼女の前進を阻害した。
「ギャリー...。」
「私は大丈夫よ!だからね、イヴ..」
ギャリーは小指を差し出す。
「約束。またここへ戻ってきてあなたと会う。約束しましょう。」
「本当に..戻ってきてくれる..?」
「もちろん!私だって、ここの世界が一番だもの!」
「.....」
「心配しなくても、俺がこいつを何度だって引きずりだしてきてやるさ。だからな、イヴ。わかってくれるか?」
イヴは油の切れた古い機械のように、やっとの思いで首を縦に振り、ギャリーと再会の約束を結んだ。
そうしてウォーレン家が見守る中、ヴィラは絵にペンティングナイフを突き刺す。
婦人があっと声を出したのもつかの間、絵からは見たこともないような黒い光が漏れ出す。この色彩をなんと比喩すべきか、今までの記憶と照らし合わせても、こんな色に出会ったことはなかった。
あえて言うのなら、恐怖を色にするとこんなのだろうか。
そしてそれは二人を誘い、再び絵の中へと戻っていった。
そしてリビングにはその絵と家族だけが残された。
「な...なんだったんだ?」
主人がへたっと座り込むと、ふぅと息を漏らす。
「これで終わってくれればいいんだが..。」
その時、主人は何か違和感を覚える。
「うん?」
瞬間的な不快感、冷たい何かが滴るそれは、雨水が顔に落ちてくるそれに酷似している。
いくら天候の移り変わりが激しいこの町だといっても、ここは家の中。だとすれば。
「雨漏りか?」
主人は上を見上げ冷たい何かを拭ったときに、それが何かを知ることとなった。
普通雨水ならば透明か、少し濁った程度のものだ。だがしかし、それはどうだ?
青く変色した水が降ってくることなどあり得るだろうか。
「....??絵のぐ....うっ...うう!!...」
その瞬間主人は倒れこむ。
「あなた!!!」
すぐに婦人が駆け寄って、主人を抱え上げる。
「どうしたの!?あなた!しっか...ああ...」
主人を抱え上げた婦人もその場に倒れこんだ。
夫人の背中には、先ほどと同じ青い絵の具のシミがあった。
「お...お父さん...お母さん..?」
イヴは突然のことに驚愕し、後ずさると、その足元に青い絵の具が降ってくる。
「ひ!」
おそらくこの絵具が両親をああさせたのだということは想像に難くないが、ならばどうするべきか。
下手に動きまわることはできない。
そのとき、背後に何かがいると気づいたイヴは振り返る。
そこには、先ほどの絵と...。
それに乗っかる青い人形。
「...え?」
この人形は確か...メアリーが持っていた青い不気味な人形。
彼女が失踪した後は処分をしたはずなのに。
「ク...クク....」
「!!」
その人形はおもむろにしゃべりだす。
「アア....ダメダ...ダメダダメダ...チガウ...ソウジャナイ....。」
その人間の声とも、機械音声の音でもないその声は、この世のものとは思えない。
「め...メアリ...の...お..トモダチは....ボク...だ...チガウ...アイツラジャ..ナイ...おまえ...デモ..ナイ。」
そういいながら人形は絵の中に同化していくように溶けていった。
イヴはその光景をただ茫然と見ることしかできなかった。