Gerthena   作:mashi

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売れない小説家

『その時エレンは隠し持っていたナイフを・・・』

 

 

「・・・違うな。」

ミッシェルは執筆途中であった原稿用紙をくしゃくしゃに丸めて、ごみ箱に向けて放り投げる。

それは綺麗な軌道を描き、狙ったところへするっと入っていった。

「こればっかりは上達したな。くだらん特技だ。」

そこへジリリリリ!と電話のベルが鳴り響く。相手が誰だかは大方察しが付くものだ。できれば出たくはないが。

 

 

「・・・はい。」

「おお!シェリーか。調子はどうかね。」

受話器から聞こえる声、は電話越しからでも油が乗った体系が容易に想像できるなんとも野太いものだった。

「編集長。それが筆のノリがイマイチでしてね。」

担当ではなく編集長からの直電。嫌な予感が走った。

 

「ほう。いっちょ前なことを言うじゃないかね。そういうのはヒット作を生み出してからいうものだぞ。」

「・・・期日には必ず仕上げます。」

「はっはっは!あまり気負い込むなよ!どうせお前の書く話なんて売れはしないんだ!」

 

 

心の中で舌打ちをする。

「それはそうと、今のお前の連載だが、打ち切りが決まった。」

「えっ!?そんな!」

 

 

あまりの唐突さにミッシェルは目を見開く。

「いやぁ実に残念。最近の若手の作家がこれまた実に優秀でね、枠を確保する為にも必然的にお前の・・・」

 

 

そこからの編集長の声は彼に届いては来なかった。

受話器を叩きつけるように本体へ戻すと、彼は頭をくしゃくしゃにかきむしった。

小説家としての彼は行き詰っていた。デビューしたての頃は彼の持つ独特の世界観が真新しさもあり、多少の人気を獲得していたのだが、読者というものは実に薄情でもあり、すぐに飽きられ、いつしか彼の作品を手にするものは少なくなっていた。

 

 

「俺はもうダメか・・。爺さんはこれだけの評価を受けてるってのにな・・。」

ミッシェルは作家として活動するにあたって、あえてゲルテナという姓を伏せていた。

曽祖父の七光りとして色眼鏡で見られるのを嫌ったからだ。そのため彼がゲルテナの子孫であるということは編集長含め知るものは少ない。

そのおかげて今や世間からは無情ともとれる、あまりにも現実的な評価を突き付けられることとなっていた。

 

 

「やっぱり俺に、ゲルテナの名はふさわしくないか」

へたっと椅子へ座りこみ、今まで積みかさねてきた原稿に目をやる。どれだけ自身の魂がこもっていようとも、誰も評価してくれなければただの紙屑同然だ。

 

 

「クソッ!」

彼は目の前にあった万年筆を勢いよく持ち上げ床に叩きつけようとするが、その手が頂点に来たところでそれを止めた

 

 

その年季の入った蒼い万年筆は唯一の父の形見だ。自身が作家を目指すと言ったとき、背中を後押ししてくれた。新しい万年筆を買ってもらってもいたが、彼にとってのお気に入りはこっちだった。そんな大切なものさえ手に掛けようとしてしまうほど、彼はうちのめされていた。

 

 

手のひらで目を抑え、仰向けにベッドへ横たわった。もう続きなんて書く気にもなれない。

そこにまた、電話のベルが鳴り響く。

「・・・」

 

 

そのまま無視しようとも考えたが、しぶしぶ受話器に手を伸ばす。

「あぁ!お世話になってますミッシェルさん」

それは柔らかくも通りのいい例の美術館の館長の声だった。

 

「館長。どうかしましたか。」

なにかあったら連絡を、最後に言い残した言葉だけに少し身構える。

「いえいえ!本日が最終日でしたのでそのご報告をと思いましてね!」

電話越しからもご機嫌な様子がうかがえる。

「異常はありませんでしたか?」

「ええ!もちろん!なーにも異常はございません!それよりも総来場者数と売り上げの結果が出ておりますので、良ければお越しになっていただけませんか?」

「わかりました」

 

そうか。何もなかったのならよかった。ずっと心配だった。また自分と同じ目にあってしまう人がいるのではないのかと。

今も忘れない忌まわしい記憶。それは断じて夢ではなかった。

 

 

絵の回収も兼ねてミッシェルは美術館へいつものトレンチコートを羽織り赴いた。

 

 

 




彼はどんな小説を書いているのでしょうね。
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