Gerthena   作:mashi

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黄色の造花

彼は血眼になって館内のリストを漁った。

初日、二日目、三日目・・・どこを探しても手掛かりは掴めていなかった。

 

「・・ミッシェルさん。何かの間違いではありませんか?」

「間違いありません!あんな絵は存在しない。きっと、彼は!」

 

 

館内の職員たちの目に映る彼はまるで奇人だろう。来客の一人が絵の中へ閉じ込められたというのだ。精神がおかしくなったか、変な薬でも決めてるに違いない。と。

それでも構わなかった。

 

絵の中の数少ない情報から手掛かりを探る。だがリストにあったのは日付と名前と簡易的な情報記載のみであり、絵の中の彼への情報は何も得られていなかった。

職員がみな、ひそひそと会話をする中、ミッシェルはその絵その場に掲げた。

 

「誰か!この絵の彼を知っている人はいませんか!?何処かでここへ来ている筈なんだ!」

その問いかけむなしく、その場には沈黙が流れる。かと思われた。

 

「・・・私、知ってるかも」

その声の主は眼鏡をかけた冴えない女性職員だった。

「本当に!?」

「た・・・多分ですけど、なんか特徴的な人だったから、その、なんとなく似てるなって」

「なんだってかまいません、教えてください!」

 

ミッシェルは詰め寄る。

 

「えっと、初日の・・だったかな。男性でしたけど、女性みたいなしゃべり方をする方でした。その後も熱心に絵を見てて、お好きな方なんだなって。」

「初日ですね?」

 

ミッシェルはまた初日のリストを漁る。

「ミッシェルさん。少し落ち着いて。まだ何か捜索願いが出てるという話もききません。それに。あなたも見られた通り、退場者も一致してたではありませんか。」

 

その言葉にミッシェルはふと気づく。

 

「館長。退場者の調査はどうやって?」

「ええと、チケットを回収してたのです。記念に持ち帰えられたい方には別のチケットを退場口で配布しておりましたから。」

「初日の分は?」

「その箱に」

 

館長が指すそのステンレス製の箱を彼は開け、中を探った。

 

「数えるおつもりですか?相当な数ですよ?」

「いえ・・・」

 

 

ミッシェルは一心不乱に探り続ける。そのうち一枚のチケットを手にとった。

「それは・・?」

 

一見なんの変哲もないただのチケットのように見えたが、それはよく見ると何かが妙だった。

 

「・・・!これは!」

「気づきましたか?このチケット、印刷じゃありません。精巧に作られていますが、油絵だ。」

 

館長はそのチケットを手に取る。

 

「・・・こんなものが、誰かのイタズラでしょうか?」

「失礼、このチケットの後の予定は?」

「ええ、廃棄するのみです。あなた様のご要望での計測に用いていた物ですので。」

「では」

 

というとミッシェルは懐から取り出した小瓶に入った液体を取り出した。

「それは?」

「シンナーです。窓を開けてください」

 

職員たちは訳も分からずその指示に従う。

そして彼が一滴のシンナーをチケットに垂らすと、そのチケットは急にドロドロに溶けだした。

 

「!!」

 

彼がその場にそれを投げ捨てる。そのチケットは溶け切った後、とある形へと変化を遂げた。

「・・・?これは・・?花びら?」

不思議そうに見つめる館長を横目にミッシェルはそれを拾い上げる。

「薔薇の花ですね。造花だ。」

「黄色の薔薇の造花ですか・・?」

「間違いない・・。あいつのだ・・!」

「あいつ・・?ですか・・?」

 

何かを確信したミッシェルはすぐさま館長へ詰め寄る。

 

「初日の監視カメラを見せてください!」

 

 

・・・・・・・

 

彼は寝る間も惜しみ、カメラを見続けた。

館内には彼に呆れて帰った者もいれば、何か不可思議なことが起こっていると興味津々なオカルト好きが残ってたりもした。

 

「ね、ね、ミッシェルさん!この子なんて怪しくないですか?一人で館内をうろついてて」

「いや、それは普通の少女です。ただの迷子でしょう」

「あ、ご両親、いましたね・・・」

 

そんなもの好き達の後押しもあり、ミッシェルは手掛かり探しに集中できていた。

 

彼らのおかげで例の絵の男性と思しき人物を特定することができた。映像の時間帯、そのリストに名前を書した人物「ギャリー」という男だった。

 

もの好き職員の彼らには新たに「怪しげな少女の捜索」という抽象的な人物探しを手伝ってもらっていた。

 

 

「ふぃ~、もう一通り見ましたよね~」

「あぁ~眠くなってきた・・。」

「すみません。皆さん」

 

 

ミッシェルは彼らの好意に甘えていたが、やはり時間外での活動をさせていることはどこか忍びなかった。

 

「いえいえ!私たちも楽しんでやってることですから!」

「あ、あの!」

 

その時一人の職員があることに気が付いた。

「これ、見てください。」

ミッシェルはその画面をじっと見つめる。

 

 

「ここ、エントランスの映像なんですけど、ミッシェルさんが出ていかれた後の・・これ、この家族です。最初三人で入ってきてますよね?」

両親と白シャツと赤スカートの少女。ミッシェルは記憶を巡らせ、その少女たちとすれ違ったことを思い出す。

 

「それで、二時間後くらいでしょうか。ここ!この家族、ここへ来たときにはいなかった金髪の少女を連れて出て行ってるんですよ。しかもまるで家族のように!」

「それって普通に知り合いの子とか、先に入っていてた姉妹とかじゃないの?」

 

他の職員が最もな指摘をするが。

 

「それはおかしい。この家族、全員が赤毛であることに対して、この少女だけは金髪。それに顔つきも血縁のある家族には見えない。実際に一人の子を授かっているのだから、養子をとったとも考えにくくないか?それに、この金髪の少女が入館する姿はどこにも見られない。」

 

ミッシェルはその金髪の少女をじっと見つめていた。それは何かを思い出すかのように。

「ミッシェルさん・・これ。」

「間違いないでしょう。こいつが、事の元凶に違いない。」

「リストありました!この家族です!」

気の利く職員はリストをミッシェルへ渡す。

 

「これ、情報を貰ってもいいのですか?」

「それは、・・・館長の許可がいるかもしれません」

「構いませんよ」

 

そこへ館長が現れた。

 

「・・・ミッシェルさん。私は未だ現状を受け入れられませんが、私も彼の作品で不思議な体験をしたことがあります。」

ミッシェルは館長をじっと見る。

 

「ワイズさんに会った時の話です。彼は私の両親に薔薇の造花をくれました。それは永く飾っていたのですが、父の造花がある日急に散ったのです。それと同じくして父は逝きました。そして母にも同じことが起きました。単なる偶然かもしれませんが」

 

 

館長は腰を椅子に据える。

「しかし私は彼を信じています。彼の作品が人を陥れるなんて、私はそうは思えない。あなただってそうでしょう?」

「ええ・・・まぁ・・・」

「協力できることなら致します。真実を確かめてください。」

館長の目は悲しげだった。

 

「ありがとうございます、館長。それに皆さんも。」

ミッシェルはそのリストの一部をメモし、美術館を後にした。

 

ここから彼の戦いが始まるのだった。

彼は懐から小型の携帯電話を取り出す。

 

 

「俺だ。明日会えないか?お前の協力が必要だ。」

 

 

 

 

 

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