Gerthena   作:mashi

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コンタクト

「おい!このボロもうイかれるんじゃないか!?」

「まだあと数年はいける。オイル漏れもない。」

 

 

もう月も顔を出し始める黄昏時。郊外の外れをやけにくたびれた車が一台何かを急ぐように走っていた。

室内はガタガタと路面の振動を直に室内へと伝え、エンジンは必要以上の唸り声をあげていた。

 

 

「・・・サスだけでもどうにかしろよ。俺の車引っ張ってくりゃ良かったぜ。」

「そんな余裕はない。金も、時間も。」

 

 

ミッシェルはギアを四速へと叩きこみ、即座にクラッチを繋ぐ。その際のショックも車内へと伝わる。

 

 

「あとどのくらいなんだ?日が暮れるぜ?」

「もうじきだ。もう見える。」

 

 

太陽を背にした信号が赤に変わる。見にくいことこの上ないが、認識できないほどではない。ブレーキを踏みこみながら、クラッチを踏み込みギアを落とす・・。

その際にガガガガガっと歯車同士の叩き合うような音が二人の耳に響く。

 

 

「クソっ!またか!この!」

ミッシェルは無理やりにもギアをローへと叩きこんだ。

 

 

「クラッチ板も終わってんな。寿命だろ。」

「そのうち自分で交換する・・・・。やり方知ってるか?」

「この時代に未だにキャブレター車に乗ってんの、お前かモノ好きのどっちかだぞ。今なら電子制御(インジェクション)の車も高くはねぇ。ディストリビューターとハイテンションで火を飛ばすってのも時代遅れだぞ。」

「流行には興味がない。動くんならそれでいい。・・・見えた。あれだ。」

 

 

二人を乗せた車はとある住宅街へとたどり着いた。

そこは、まだ出来て間もないような新築同然の家々が並び、どこか高級感の溢れる一角だった。

 

 

「ほう、いい場所じゃねぇか。ちょっとしたセレブ街か?治安もよさそうだ。」

「だが、ここに悪魔が住み着いている。行くぞ・・。」

「おうよ」

 

 

二人は路肩に車を停め、一件の住宅へと向かう。

そして、インターホンへと手を伸ばし、それを押した。

ジーと呼び鈴が鳴り響く、二人にとってはこれが戦闘開始の合図に等しかった。

 

 

「はぁい。どなた?」

 

 

家の中からは女性の声が玄関越しにもはっきり分かるほどの声量で届く。

彼女の問いかけに対し、二人は何も答えることは無かった。

彼女にしてみれば、隣人だとか配達であるとか。何かしらの返答はあるのが普通であるという認識から、何も返答がない来客のことを不審に思ったのか、玄関のドアを両手でゆっくりと開けた。

 

「ひっ!」

 

開けた先には全く面識のない男二人がやけに固い表情でこちらを見ていた。彼女はそれに驚き、玄関を閉めようとするが。

「おっと、奥さんちょいと待った!怪しい野郎ってのは認めるが大事な用があるんだ!・・・こいつがな!」

玄関の隙間にヴィラはすかさず足を挟み込んで玄関が閉まるのを防ぐ。

 

 

「なんなんですか!あなたたちは!」

 

 

ぐっと手に力を入れ玄関を閉めようとする婦人。しかしヴィラの履くシューズは鉄板入りの頑丈なもの、彼はびくともせず交渉を続ける。

「頼むから、話だけ聞いてくれって!セールスとか勧誘じゃないんだからさ!おい!ミッシェル!」

ミッシェルは懐から一つの切り抜きを取り出し、婦人へと見せつけた。

 

 

「すみません。この女の子がこちらに居ると思うのですが。」

「・・え?メアリー?」

彼女の手が少し緩む。ヴィラはその隙をつき、玄関をいっぱいに開いた。

 

 

「おい!・・・何事なんだ?」

そこに現れたのはここの主人であろう男性だった。

 

「あなたがご主人?」

「ええ・・・そうですが、この騒ぎは・・?」

「この子がここに居ると聞いて」

 

 

ミッシェルは再び切り抜きを提示する。

「これは・・・メアリー。どうしてこの子の写真を?あなたたちは一体?」

主人は明らかに二人を訝しむ目で身構えた。夫人も自身の手を握りしめ、その様子を怯えながら見守る。

 

 

「・・・ビンゴだ。」

「まじかよ。絵だろ?」

 

二人は互いに目で疎通をとる。

 

 

「ミッシェルと申します。こいつは連れのヴィラ。この子を連れ戻しに来ました。」

「連れ戻す!?私の娘に何をするつもりだ!!」

「違う!この子はあなたたちの子供ではない!!」

 

 

ミッシェルは強い剣幕で夫婦に真実を突き付ける。

「・・・何てことを!」

 

婦人は口元を押さえその場にヘタっと座り込む。そこにヴィラが寄り添う。

「オクサン。まぁ、俺たちがイカれてるってのは確かだけどよ。こんままにしてるといろいろヤベェみたいなのよ。」

「君たち!なんのつもりなんだ!出て行ってくれ!警察に通報するぞ!」

「ああ、そりゃヤだな。」

 

 

・・・・

 

 

「なんだろう?騒がしいなぁ。」

夕食を終えた少女たちはリビングでチェスを嗜んでいる所だった。お互いに一歩たりとも引かない接戦だけども、どうも玄関の様子が気になる。

 

「チェックメイト」

「あ!イヴ!待って!」

 

その接戦も気が付けば一瞬のゆるみで勝敗が付くのだった。

 

 

「ぶー。イヴの連勝だよ。もっかいもっかい!」

「うん。・・・お母さんたち、大丈夫かな・・?」

「なんだか随分と揉めてるみたいだね。パパも行っちゃったし。セールスのおじさんかなぁ。」

二人は玄関の方をじっと見つめ。その届いてくる微かな音を頼りに状況を推測しようとする。

 

 

「うーん。私、見てくるね!」

「え?」

「見てくるだけ!イヴはそこで待ってて!」

 

 

それはメアリーの好奇心が勝ったのだ。この世界に来てからは物珍しいものを沢山見てきた。今回のそれもまた自身の刺激になるものと期待して、玄関の方へ駆けていった。それが崩壊の始まりとも知らず。

 

 

・・・・・・

 

 

玄関ではその接戦が未だに続いていた。

 

 

「お願いです。彼女に会わせてください!」

「いいや!ダメだ!帰ってくれ!」

 

 

断固として彼らを通さない主人と一歩も引かないミッシェル。パニックに陥り座り込んだまま涙をこらえる婦人に、さっさと終わらねぇかとタバコをふかすヴィラ。

 

 

「早くしないと、犠牲者が既に居るんです!」

「なんの話なんだ!?ええい!警察だ!ママ!警察を!」

「・・・・どうしたの?」

 

 

玄関の奥には一人の少女があった。緑色の服に蒼い瞳。金髪が魅力的なその少女は騒ぎを聞きつけやってきたのだ。

それを見たミッシェルとヴィラは固まった。

 

「メアリー!来ちゃダメ!奥に隠れてて!」

婦人がそう叫ぶが、今のメアリーには好奇心の方が大きかった。

「おじさんたち誰?」

「・・・・ぶったまげた。マジで絵のまんまじゃねぇの。」

ヴィラは加えていたタバコをポロっと落とす。

 

 

ミッシェルはグッと歯を食いしばり、目の前に居る主人を押しのけた。

「うお!メアリー!逃げなさい!」

「なんなの・・・?」

 

 

メアリーに映る光景は見知らぬ男二人に両親が襲われている。これが強盗というものなのか!?

いかにも柄が悪そうな男と・・・もう一人は・・・・?。

 

「メアリー。久しぶりだな。お前は俺のこと忘れたかもしれないが、俺は忘れない。」

 

久しぶり?なんのこと?でもこの人、いつか、どこかで・・・・!!

 

!!!!!

 

 

「・・・なんで!どうして!?」

「覚えていてくれて光栄だ。だが、お前の居場所はここじゃないだろ?さぁ!帰るんだ!」

 

 

そういいミッシェルは懐からシンナーの入った小瓶を取り出した。

その小瓶を見たメアリーの表情は青ざめたものとなっていった。

 

 

「いや!!やめて!!」

「うちの子に何を!!」

「警察!警察よ!早く!!」

 

メアリーはそのまま家の奥へと駆け出した。

それを見たミッシェルとヴィラは全力で追跡する。

メアリーはそのまま先ほどのリビングへと戻ってきた。はぁはぁと息を切らしてイヴに近寄る。

 

 

「メアリー・・?どうしたの?」

「イヴ・・・。私・・・私・・・!」

 

その時、バン!と扉が勢いよく開き、二人の男が入ってくる。

 

「終わりだ・・!メアリー!大人しく絵に戻れ!」

「イヤ!イヤイヤイヤイヤ!!!!!」

 

 

メアリーは叫び声をあげると同時にその場にうずくまった。

イヴは不安そうに男たちを見つめる。

 

 

「君!そこから離れて!そいつは君の家族なんかじゃない!」

「おい!ミッシェル。なんかヘンだぞ。」

 

ヴィラがそういうとミッシェルもその異変に気が付いた。

カタカタカタカタと家具やチェス盤、皿などが大きく振動し始めた。

 

 

「地震か!?」

「違う。あいつの力だ!」

 

 

そして、台の上にまだ片付けられずにいた皿が二人をめがけて飛来した。

「クッ!」

なんとかしゃがみ、それを回避するが、モノが次々に縦横無尽に飛来し、身動きが取れない状況に陥った。

 

「クソッタレ!」

 

そういうとヴィラは懐に手を入れ、忍び込ませていた小型のオートマチック式の拳銃をメアリーに向ける。トリガーに指を掛けるが、それを引くのを躊躇った。

なぜなら銃口の先に居たのは赤毛の少女だったのだからだ。

 

 

「オイ!お嬢ちゃん!どきな!痛いじゃすまねぇぞ!」

 

イヴはメアリーの前に立つと小さい身体を震えさせながらも、手を広げメアリーを守る格好を見せた。

 

 

「どくんだ!そいつは君の家族じゃない!君の家庭をめちゃくちゃにした悪魔だ!目を覚ませ!」

 

しかしイヴはそこをどかなかった。小さい体を恐怖で震えさせながらも、首を横に振った。

その刹那。一瞬の隙をついたメアリーはその場から駆け出し、部屋に飾ってあった油絵の中へと飛び込んだ。

 

 

「なっ!?」

それを見たヴィラは茫然とした。

「ジョーダンだろ・・・」

「クソっ!」

 

 

折角追い詰めた獲物を逃してしまった。その悔しさから、ミッシェルは地面を蹴った。

ヴィラは銃を降ろし、イヴへと寄る。

 

 

「ごめんな。お嬢ちゃん。俺もワケわかんねぇんだ。

イヴはその場にへたりこむと顔を押さえて泣き出した。

「ああ、どう収集つけんだよ。」

「振り出しだ。優先順位を変えよう。まず」

「イヴ!メアリー!」

 

 

そこに両親が現れる。どこかから持ってきたバットやゴルフクラブなどをこちらに向ける。

両親の目に映る光景は凄惨であろう。見事に荒らされたリビングに、座り込んで泣く娘、もう一人はどこへ?そして入れ墨の入った男の手には拳銃。

 

 

「うおおおお!娘たちに手をだすなぁあああ!」

そういい男二人に主人はゴルフクラブで殴り掛かった。

 

 

ただ、どれだけ装備を整えようと、体術にはかなり長けているヴィラの相手ではなかった。彼はその振りかぶられたクラブを軽くよけると、足でクラブを蹴り、武器を落とさせた。

 

「うぉっと!これ結構イイやつだろ!武器にするにゃ、ちょいと惜しいな。」

あえなく無力化された主人は、そのままイヴのもとへと寄り、抱きしめる。

「・・・金か?金ならある!だから・・大事な娘たちを傷付けないでくれぇ・・!」

 

 

「そうじゃありません。俺たちの要件は・・。」

そこへウーウーという誰しもが震え上がるようなサイレンが轟いてくる。

「あーあ。いつ聞いてもヤな音だナ。」

「警察か。マズいな。ここで足止めを貰うのは。」

「なぁ、また昔みてぇに誤魔化せねぇの?」

「無理だな。状況が状況だ。第一真実を話しても信じてもらえるまい。」

「だよなぁ。」

 

 

二人はその場に立ち尽くす。夫妻はその様子をじっと身を寄せ合い、何とか救出したイヴを抱きながら、男たちを睨みつけた。

「メアリーはどこなんだ!どこに居る!」

 

 

「そこだよソコ」

主人の問いかけにヴィラは油絵を指す。

「ふざけるな!」

「大真面目さ。」

 

そこにガチャッと玄関の開く音が聞こえる。

「警察です!通報があったのはこのお宅ですか!!」

「お巡りさん!こっち!こっちよ!!」

「ああ、マズいな」

「なぁヴィラ。こういう時って。お前ならどうするんだ?」

「決まってんだろ!逃げるのさ!」

 

そういうと二人はあまり大きいとは言えない窓から飛び出して、夜の住宅街を駆け出した。

 

 

 




イヴは大人しく、内気な女の子ってイメージで
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