Gerthena   作:mashi

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架空の家族

「ミッシェル・ノーツ・ゲルテナ。26歳。職業は小説家。現住所は・・」

 

 

陰鬱で先の見えない夜がやっと開けた朝。ミッシェルはコンクリートの壁に机が中央と端に一つづつ置かれた殺風景な部屋でスーツを着た齢40程であろう妙な貫禄のある男の向かい側に、机を一つ挟んで座っていた。

スーツを着た男は、一つ一つ機械的に彼の個人情報を読み上げていく。まさか自分が取り調べ室に居るだなんて数日前の自分が想像できただろうか?

 

 

「・・・で、間違いないな?」

「ええ・・間違いありません」

 

 

そこに居る自分はなんて惨めなんだろう。目標も捉えられず、友人を道づれに警察暑へ連行され・・・地位も名誉も失い、これでとうとう俺はお終いだろう。

 

 

考えれば、俺は冷静ではなかった。いくらヤツがそこに居たとしても、他人様の家に強引に押し入れば、こうなることなんて火を見るより明らかだ。

 

 

これから、どうする?こうしている間にもヤツはこちらの世界に溶け込み、もう彼《ギャリー》はこちらへ戻ってくることは出来ないだろう。文字通りゲームオーバーだ。

 

 

俺自身は・・・こんな零細作家を大大的に記事に載せるとも思わんが・・。社会的地位は奈落の底だ。作家はおろかまともな職に就けるかも怪しくなるだろう。

 

 

ヴィラ・・・。あいつは大丈夫だろうか。今は堅気としてやってるらしいから、余罪こそないだろうが、だが過去が過去だ。どうか無事を祈るしかない。

 

 

俺の全てが甘かった。曾爺さんの作品を持ち出したこと。居場所を突き止め、ロクな下準備もなしに飛び込んだこと。そのせいでギャリーは絵に閉じ込められ、あの一家はメアリーに洗脳され、ヴィラは俺と共に手錠をかけられた。

 

 

俺は馬鹿か・・。自身への嫌悪感に押しつぶされそうな感覚に陥る。

 

 

「・・・聞いているのかね?」

「・・・え?ああ」

「もう一度訊こう。君は昨夜の19時過ぎに、ウォーレン夫妻の家に押し入った。」

「ええ。」

「金目的か?」

「いいえ・・。」

「そう隠すな。あそこ一帯の家庭はどこも裕福だ。狙うにはいいロケーションだ。聞いたところによると君は作家だそうだな。だがしかしイマイチ日の目を浴びない。カネには困っていただろう。」

「金に困ってるのは事実ですが、金目的の強盗じゃあありません。」

 

 

その刑事はよく刑事ドラマであるような、恐喝まがいの怒号を浴びせることは無く、むしろ子を諭す親のような優しく問いかけるものだった。しかしその奥には見えないナイフのような鋭利な何かを突き付けられているような緊張感を醸し出し、こちらが気を抜こうものなら、一気にやられてしまうのではないかと、恐怖が全身に纏わりついた。

 

 

「ほぅ、じゃあなんだというのかね?まさか家に押し入ってまで幼女たちを誘拐したかったとでも。」

「・・・・・」

 

 

これは否定すべき言葉か?確かに俺たちはメアリーを連れ戻しにここまで来た。それは誘拐?ばかな。あいつはそもそも存在しない。否定されるべきモノなのだ。

彼はうつむいた顔を上げることができなかった。

 

「なるほどぉ。読めたぞ。君たちは家に押し入り、両親を殺害または拘束した後に、家にある金品を強奪後、少女たちを誘拐し、売ろうとしていたワケだ。うーん、少女ってのはお偉いクズどもに高く売れるからなぁ?だから姉妹の居るあの家族に決めたんだ。」

 

 

「憶測です!」

「じゃあなぜの場から少女が一人消えた!説明できるか!若造!」

 

刑事の口調は今までの優しいものから一変。激しいものへと変わった。まるで仕上げにでも入るようなスイッチの入れ替わりだった。

 

「あのヴィラという男、かなりマエ(前科)が付いてるみたいじゃないか?そいつと手を組んだワケだ。計画したのはヤツか?そうだ。君はあいつに乗せられたんだろう?手を組めば分け前だと。」

「違います!彼は巻き添えになっているだけだ!」

「じゃあ君が計画者か?」

 

 

刑事の口調はまた緩やかなものへとすり替わる。この緩急の切り替えが聞かされる者の精神を強く揺さぶる。たとえやってないことだとしても、認めてしまうほどの。

「・・・・」

彼は口を噤むしかなかった。真実を話せればどれほど楽だろうか?

 

「ミッシェル君。否定と沈黙じゃあ、話は進まないぞ?」

「黙秘権は認められているはずです。」

「おお!その通りだ!好きなだけ黙りこくるといい。それだけ話したくない理由があるんだろうとこちらも邪推するしかないがね」

 

どうすればいい。どうしたらここを切り抜けられる・・?ろくに睡眠もとれなかった頭を回転させるのはそう容易ではなかった。

だが、その時、彼に一つの策が浮かぶ。

 

「押し入った理由は・・。」

 

彼はおもむろに、語りだす。

 

 

刑事の目がキッと切り変わったのがこちらからもはっきり感じ取れた。

近くの書記も机に突っ伏すように記入の準備に入る。

 

 

「俺の持ち物に少女の写真があったでしょう。金髪で緑色の女の子の」

「おお、あったな。よっぽどなファンらしいな。」

「その子を訪ねたのです。あの子はあそこの家庭の子供ではない。」

「・・・・?どういうことかね?あの子が養子だったとでも?」

 

刑事は眉を顰めながら、無精ひげで全体的に青くなった顎を撫でる。

 

 

「彼女は、この世に存在しない者です。彼女はある男の存在と引き換えにこの世界へやってきて、あのウォーレン夫妻の娘になりすましていたのです。だから俺は彼女を元の世界へと連れ戻す為にウォーレン家を訪ねたのです。」

 

 

彼は腹を括って話してみる覚悟を決めた。どうせ信じてはもらえまいだろうが、そんなことはどうでもいい。真実を話すことで証言に一貫性が生まれ、現実離れしていることを逆手に、心神喪失による減刑を狙ったのだ。そう上手くいくかは彼にも分からないが、小説家としての知識をフル活用した彼なりの最大の奇策だった。

 

 

「ほう」

刑事は目を細くし、肘を机について聴いていた。

 

 

「彼女は絵の中の住人です。俺は彼女をあの家で追い詰めました。しかし、やっとのところであの家に飾ってあった絵の中へと逃げ込まれてしまいました。・・もう少しだったのに・・。」

「・・・っはっはっは!!さすがだよミッシェル君!さすがは小説家だ!私は新作のあらすじでも聞かされているのかね?」

 

数秒の沈黙の後、刑事と書記は隠すこともなく肩で彼のことを笑った。

 

「本当のことです!」

「ああ分かった分かった。そう怒るな。はやくここから出て、その話を出版してもらえるといいな!おい!」

 

刑事が扉の外に向かって呼びかけると、それは開き、複数人の警官が入ってくる。

 

「今日はもうお終いだ。楽しいメルヘン話の続きは今度きかせてもらおう。ゆっくりと、時間をかけてな。」

 

そういうと刑事は席を立ち、警官の方へ向く。

 

「あいつ、なかなかぶっ飛んでるぞ。後で薬物検査にもかけろ。もう一人はどうなった。」

「沈黙を続けているようです。」

「とことんしょっ引け。叩けばまだ埃は出るぞ!」

 

そこへ一人の警官が走って取り調べ室に入ってきた。

 

「失礼します!オリバー警部補!実は・・!」

こちらには聞こえないほどの声量で告げられるそれは自分の+になることだろうかと期待を寄せていた。しかしそれは宝くじ当選にすがるような淡いものだった。

しかし、その知らせを聞いた刑事は苦虫を噛み潰したような表情になり、こちらを睨みつけるようにして再び着席した。

 

 

「・・なにか?」

「・・・釈放だ。」

「え!?」

 

 

あまりにも唐突な宣告に頭の処理が追い付かなかった。寝耳に水というのはこのことか。

 

「ウォーレン夫妻が被害届を取り下げた。ましてや、君たちの釈放を望んでいるそうだ・・・。どんな手を使った?娘と引き換えか?」

 

自身にも何が起こっているのか皆目見当がつかなかったが、これが好転であるということには紛れもなかった。

 

「私にもわかりませんが、これから先は任意の取り調べということですか?」

 

この好機をふいにするわけにはいかない。なんとしてでもここから出ることを最優先に捉えた。

 

刑事は先ほどとは一変、鬼のような形相でこちらを睨みつけるが、もう被害届がない以上、強制的な取り調べを続けることは難しかった。

 

 

・・・・・・・・

 

「よぉ!兄弟!刑事のオッサンに虐められたか?」

「ヴィラ!良かった・・。済まなかったな。」

「気にすんな。俺にとっちゃあ里帰りみたいなモンさ。」

 

そこで二人は低いポジションでのハイタッチを交わした。

そこへ例の刑事がまたずかずかとこちらへやってくる。

 

 

「運がいい連中だ。だが覚えておけ。お前たちの資料はこちらにある。何か妙なことでもしてみろ。すぐに出戻りさせてやる。」

「安心しなオッサン。そんなもんただの保管室に眠る紙屑になるだけだ。」

 

刑事の表情は不満のそれだった。

 

「とっとといけ!」

「おーおー。手柄にできなかったからって、大人気ねぇよな。」

 

ケラケラ笑いながらヴィラはタバコを探す。

 

 

「そういえばヴィラ。お前」

そこからはささやくように小さな声にトーンを落とす。

「銃はどうした。押収されなかったのか?」

「ああ?これのことか?」

ヴィラは懐から拳銃を取り出した。

 

それを見たミッシェルは目を丸くした。近くの警官もそれに反応するが。

「おい!」

 

ヴィラはそれを天井に向け引き金を引いた。そうするとその銃口からは3センチ程度の炎が立ち上った。

 

「・・・ライター?」

「そゆこと」

 

ヴィラはそれに加えたタバコを近づけ、火をつける。

 

「イかしてんだろ?昔ルパン三世に憧れてな、特注でつくってもらったのさ。」

「じゃあ、あの時のも?」

「いや」

 

 

そこからはヴィラもトーンを落とす。

 

 

「アレはマジモンだ。お前と逃げてるときに、走りながら分解して捨てたのさ。」

「現場検証と周辺捜査でバレるんじゃないのか?」

「その辺はご安心を、お嬢さん。小物はその辺に、スライド、バレル、グリップは不燃ごみ置き場があったからそん中に、プラスチック製だからな。せいぜい物好きのモデルガンパーツとしか思わんだろ。マガジンは川に捨てた。水の中なら最悪暴発してもリスクは低い。そして、コイツを持ってりゃ、オクサンの拳銃を持ってたという証言もクリアできるワケよ」

 

「器用に逃げてた訳だ。」

「悪いが、ソレに関しちゃプロだからな!・・・それで」

「何故俺たちは釈放された・・か?」

「ああ、いくら何でも気味がわりぃな。立てこもり犯とかを同情したり英雄視したりする事例は聞かなくもないが、いくら何でも俺たちには当てはまらんだろ。」

 

 

「そうだな、もう一度あそこへ行ってみるか?」

そういいながら二人が、警察署を出た時だった。

それを先に見つけたのはヴィラだった。

 

「お、おい!アレ!オクサン達じゃねぇの?」

 

そこにはウォーレン一家が三人揃ってそこに居た、向こうもこちらに気が付いたようで何か言いたげな様子だった。

 

二人は家族の下まで走っていく。

 

「どうも、先日は申し訳ないことをしました。だけど、何故?」

 

そう問うと夫婦は二人とも顔をうつむいたまま自信がないとばかりに弱く言葉を発した。

 

「私たちにも、分からないんです・・。あの晩はパニックで、娘達を守ることに必死でした。『もう一人』の娘がいなくなって、もう無我夢中で探し回りました。しかし一晩立って、改めて思いなおすと、私たちって三人家族なんです。娘はイヴのただ一人だけ。」

 

明らかに動揺を隠しきれず、狼狽していた。

 

 

「私たちは、何を探していたのでしょうか?誰を守っていたのでしょうか?『メアリー』とは一体誰なんですか!?」

 

主人がミッシェルの両腕をがっしり握った。

 

「おい、これって・・。」

「洗脳が解けている・・?」

 

 

二人は目を合わせ現状を認識する

 

 

「あなたの言ったことは正しかった。うちにメアリーなんて娘はいなかったんだ!あなたは何か知っているんですよね!?」

 

 

昨晩とは打って変わって、メアリーという虚像を守る両親は既にそこには居なかった。

 

 

 

 

 




物語の進行上仕方なくイヴのファミリーネームをウォーレンとしました。

元ネタは「死霊館」のウォーレン夫妻からです。
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