ツルハシが好きだ。地名の鶴橋ではない。道具である鶴嘴が好きだ。
何時から好きだったのか定かではない。何故好きなのか理由も定かではない。
ただその洗練された形に。ただその道具を振るい岩を砕く人の姿に。
魅せられた。夢中になった。物心ついた時には既に、私という人物は狂おしい程に、ツルハシという工具を愛していた。
自分がおかしいことは自覚している。実際、両親にツルハシの話題を出すことは一度としてなかったし、小中高で出来た友人たちに自分の好きなものを紹介することもなかった。
せいぜい携帯の待受画面をツルハシにしていた程度の狂った私に転機が訪れたのは、高校卒業間近の頃。
全国で一斉に行われる艦娘適性検査。小学校入学時には駆逐艦娘の適性者を。中学校入学時には巡洋艦娘の適性者を。高校卒業時には戦艦と空母の適性者を。それぞれ判別する検査。私も例に漏れず人生3回目の検査を受けることになった。
空母や戦艦にはどんな種類があるのか。女子は皆、やいのやいのともらった艦娘一覧を楽しそうに眺めている。ツルハシではない船ごときになんの興味もない私だったが、隣の席に座る友人に誘われて一覧表に目を通した。
なんとなくめくったページに、たまたまいた1人の少女。彼女の容姿と名前を見た瞬間、頭に電流が走った。
航空母艦翔鶴型二番艦 『瑞鶴』
この子になりたい。その時私はそう思った。
名前に鶴が入っている。それだけでなく、頭の両サイドに結わえられたツインテールはまるでツルハシを模しているようではないか。
姉である翔鶴の姿も見たが、そこまで心惹かれない。やはり瑞鶴だ。私はこの子になりたい。
過去2回ともボンヤリ気怠げに過ごしていた艦娘適性検査だったが、多分この時学校で1番張り切っていたのは、たぶん私だったろう。とにかく瑞鶴になりたい。やる気を出してどうにかなるものではないと分かってはいたが、それでも気合いを入れざるを得なかった。フンスフンスと鼻息荒く挑んだ面接では、机の上に小人が蠢いているのを見て思わずギョッとした。幻覚を見るくらい頭に血が上ってしまっていたのだろう。とにもかくにも近所の神社に1日100回参りを敢行するほどには、『瑞鶴』になりたいと願っていた。
卒業式前日。家に届いたのは艦娘適性検査の合格通知。大喜びで封を開ける。私の夢は叶ったのだと奇声を上げながら封筒をビリビリに切り裂いて中の紙に目を通す。
加賀瑞季(かがみずき)殿
厳正なる検査の結果、貴殿を航空母艦加賀型一番艦『加賀』に任ずる。
海軍省人事局
クソッタレの狂いまくったこの世界を、私はこの日初めて憎んだ。
ずいずいずずいのずいずいずい₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾