「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか 隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた
だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」
帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ
帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、漸くハジメの存在に気がついた
「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」
ハジメは、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる
「ああ、人間だ」
「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうハジメに命令した
当然、ハジメが従うはずもない
「断る」
「……今、何て言った?」
「聞こえなかったのかな?ハジメくんは断ると言ったんだよ」
香織が帝国兵を煽ったあとハジメが続けて言った
「こいつらは今は俺のもの。アンタ等には一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」
聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ
「……小僧達、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「俺達はテメェらの様に脳ミソが小さくて下半身に付いている訳じゃねえんだよ。そんなこともわからねえのか?」
「愚かにもほどがあります」
ショウとアシストの言葉にスっと表情消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる
その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、ハジメの後ろから出てきたユエと先ほどからしゃべっている香織とアシストに気がついた途端、下碑た笑みを浮かべた
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。テメェが唯の世間知らず糞ガキだってことがな ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
その言葉にハジメは眉をピクリと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした
だが、それを制止するハジメ。訝しそうなユエを尻目にハジメが最後の言葉をかける
「つまり、敵ってことでいいよな?」
「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しを「うっせえから『黙って跪け』」!?」
ショウの言葉と同時に帝国兵達は言葉通りに喋るの止めて、跪いた。
――ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
「何で俺達が、テメェらの言うことなんざ聞かなきゃなんねえんだよ?俺がテメェの指図を受けるわけねえだろ?」
――ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
「そもそも何で、テメェらは誰の許可を得て俺達に話しかけているんだ?身の程をわきまえやがれ!」
――ドキュンッ!ドキュンッ!ドキュンッ!
「で?さっきの威勢はどうした?ずいぶんと楽に殺されてるじゃねえか?」
ショウがそう言っている間にハジメと香織とアシストは帝国兵をチマチマと片付けていった。
そして、帝国兵は一人だけとなった
(ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!)
帝国兵は命乞いをしたいがすることが出来ない。ショウの『言霊魔法』によって黙らされている。
「ショウ、そいつに聞きたいことがある。喋らせてくれ」
「……わかった。『おいテメェ、ハジメの質問に嘘偽りなく答えろ』」
そう言い帝国兵を質問に答えられる様にした。
「おい、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」
ハジメが質問したのは、百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいて道中でかち合うようなら序でに助けてもいいと思ったからだ 帝国まで移送済みなら、わざわざ助けに行くつもりは毛頭なかったが
「 ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」
“人数を絞った”それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう…… 兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。ハジメは、その様子をチラッとだけ見やる
直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した
ハジメの殺意に気がついた兵士は只々怯え、そして……
――ドパンッ!
一発の銃声が響いた。
息を呑む兎人族達
あまりに容赦のないハジメ達の行動に完全に引いている様である その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずとハジメに尋ねた
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」
「はぁ?」
「何言ってんだ?」
という呆れを多分に含んだ視線を向けるハジメとショウに「うっ」と唸るシア 自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい………
ハジメが言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにユエが反論した
「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」
「そ、それは……」
さらに香織も反論する
「そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメくんに向けるのはお門違いだよ」
「……」
ユエと香織は静かに怒っているようだ 守られておきながら、ハジメに向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである 当然といえば当然なので、兎人族達もバツ悪そうな表情をしている
「ハジメ殿、ショウ殿、申し訳ない…… 別に、貴方に含む所がある訳では無いのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」
「ハジメさん、すみません」
シアとカムが代表して謝罪するが、ハジメは気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった
「ハジメ、片付け終わったぞ」
そう言うと一向は、無傷の馬車や馬の所へ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、折角の馬と馬車を有効活用しようというわけだ 。
ハジメは魔力駆動二輪を“宝物庫”から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとったショウはデスティバーンフォームに変わってアシストと共に目的地に飛翔した。
数日後、様子を見に来た帝国兵が死体の無い血溜まりに驚いた事は言うまでもない………
どっちが悪役かわからねえ………
清水どうする?
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殺れ
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助けて