魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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フェアベルゲン 前編

    

 

 

 

 ハジメ達と頭に大きなたんこぶを作ったハウリア族達はアルフレリック達エルフ族に案内されてフェアベルゲンの道を進んで行った。

 

「父様、私たちまで巻き込まないでくださいよぉ~」

 

 涙目のシアと対称的にどこか開き直ってるカムは満面の笑顔であった

 

「わっはっは、我らハウリア族はどんな時も一緒だ!」

 

 第二次ウサギバトルまで後数秒というところでハジメは目線を斜め前のアルフレリックに戻す。

 

「それで…霧が弱まるまで本当に十日もかかるのか?」

 

「こればかりは我々でもどうしようもないな。」

 

 アルフレリックはそう言葉を返して立ち止まる。ハジメ達も立ち止まり前を見る。そこには木々で出来た綺麗な国が広がっていた。

 

「さぁ、着いたぞ。我々の故郷…『フェアベルゲン』だ。」

 

 ショウ達はそのあまりの綺麗さに言葉が出なかった。…それはまさしく村ではなく亜人族達の国が広がっていた。ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ ハジメ達は、そんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

 

「うん、元の世界じゃあ、こんなこと出来ないよ」

 

「ん……綺麗」

 

「「右に同じく」」

 

 掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている

 

 

「では、我々長老会議に説明をさせてもらおうか」

 

 そう言ってアルフレリックは長老達の会議場へとハジメ達を案内した

 

 

 

 

 

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「………なるほど。この世界は神の遊戯盤であったか……」

 

 会議場で、ハジメとショウはアルフレリックに自分達の知る限りの事を話した。この世界の裏で人間族・亜人族・魔人族を操り、戦争を引き起こす神を名乗る狂人、それに抵抗した【解放者】達の遺した遺産たる【神代魔法】。試練の場である【七大迷宮】 自分達が異世界の人間であり、七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれない事等だ

 

 

 アルフレリックは、この世界の神の話しを聞いても顔色を変えたりはしなかった 不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた 神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないという事らしい。【聖教教会】の権威も無いこの場所では信仰心もない様だ。あるとすれば、自然への感謝の念だという

 

 

「でも、何で貴方が【解放者】の事を知っているの?」

 

「詳しくは何も知らんよ。古くから伝わる、長老達に引き継がれる言い伝えだ」

 

 香織の問いに、アルフレリックはそう言って続ける

 

 

「【七大迷宮】は【解放者】達の創ったもの。曰く『迷宮の紋章を持つ者には敵対しないこと』、『その者を気に入ったのなら望む場所へ連れていくこと』 お前さんの持っている指輪はその紋章の一つだった。故に敵対せず案内しただけだ」

 

【ハルツィナ樹海】の創設者『リューティス・ハルツィナ』が生み出した樹海。彼女は自身が【解放者】である事を【フェアベルゲン】の祖先達に話し、この口伝を遺した。他の大迷宮を攻略した者と敵対するのはならないと遺したのも理解できる。その実力は彼等を圧倒出来るからだ

 

そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ

 

 

「それで、俺達は資格を持っているというわけか……」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由が解った しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではない筈なので、今後の話をする必要がある

 

 

「しかし、知っていてもそれを守らない者もいるのも事実だ」

 

 そうアルフレリックが呆れる様なため息を吐いた時だった。会議場の扉を蹴破って、誰かが入ってきた

 

 

「アルフレリック!! 貴様、どういうつもりだ! なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ! 忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ!!」

 

 2m半はあろう巨体の熊の亜人が、怒りを露に此方を睨んでいた

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前も長老の座に在るならば事情は理解できる筈だ」

 

 当のアルフレリックは柳に風と熊人の巨漢にピシャリと言う

 

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけの事だ お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧達が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリックに熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメとショウを睨む

 

 【フェアベルゲン】には、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい 裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ

 

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう……アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ 二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ

 

 

 そんな訳で、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならない様だ

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている

 

 

 一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた

 

 亜人の中でも、【熊人族】は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている シア達ハウリア族と傍らのユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となったハジメ達を幻視した

 

 

 しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた

 

――グシャ!

 

 折れる音と共に振り下ろされた拳は、ハジメに届く前に、割り込んだショウにあっさりと掴んだ途端にぎりつぶす。

 

「ギャアアァ「『黙れ』」!!」

 

 そう言って、ショウはヴィランキングフォームにチェンジし、熊の亜人を黙らせる。驚愕の表情を浮かべながらも恐怖を覚え、必死に逃げようとする熊の亜人。必死に腕を引き戻そうとするが、体長が半分程度しかないにもかかわらず、ショウはビクともしない 当たり前だ。筋力『アノス』ととんでも無いことになってんだからそりゃそうよ。そんなことは知らない熊の亜人からすれば、ショウを不動の大樹の様に感じただろう

 

「『大気の弾丸』」

 

 

 ――ドスン

 

 〝言霊魔法〟を発動し、ショウは大気に命令をした。その途端空気の塊が遠慮容赦無く熊の亜人族の腹に突き刺さり、その場に衝撃波を発生させ、文字通り猛烈な勢いで吹っ飛ばす

 

 

 熊の亜人は、悲鳴一つ上げられず、体をくの字に折り曲げながら背後の壁を突き破り虚空へと消えていった。暫くすると、地上で悲鳴が聞こえだす

 

 

 誰もが言葉を失い硬直していると、ショウが長老達に殺意を宿らせた視線を向けた

 

「で? お前らもああなりたいか?」

 

 ハジメの言葉に、頷ける者は居なかった……

 

 

 

 

 

 

清水どうする?

  • 殺れ
  • 助けて

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