魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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フェアベルゲン 後編

 

 

 ショウが熊の亜人を吹き飛ばした後、アルフレリックが何とか執り成し、ショウによる蹂躙劇は回避された

 

 

 熊の亜人は内蔵破裂、ほぼ全身の骨が粉砕骨折という危険な状態であったが、何とか一命は取り留めたらしい 高価な回復薬を湯水の如く使ったようだ。もっとも、もう二度と戦士として戦う事は出来ない様だが………

 

 

 現在、当代の長老衆である虎人族の『ゼル』、翼人族の『マオ』、狐人族の『ルア』、土人族(ドワーフらしい)の『グゼ』、そして森人族の『アルフレリック』が、ハジメと向かい合って座っていた ハジメの傍らには香織とユエとカム、シアが座り、その後ろにショウとアシストとハウリア族が固まって座っている

 

 

 長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた 戦闘力では一・二を争う程の手練だった熊の亜人(名前はジン)が、文字通り手も足も出ず瞬殺されたのであるから無理もない……

 

「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいか解らないのは不味いだろう? あんた達的に殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

 ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆 言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう

 

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

 グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻く様に呟いたが、香織が反論した。

 

 

「何言ってるの? 先に殺意を向けてきたのは、あの熊でしょ? 蒼くんは返り討ちにしただけだ 再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 

「それが、ハジメくんを問答無用に殺していい理由に成ると思っているの? 」

 

「そ、それは! しかし!」

 

 さらにハジメからも反論した。

 

「勘違いするなよ? 俺が被害者で、あの熊野郎が加害者 長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたが履き違えるなよ?」

 

 

 おそらくグゼはジンと仲が良かったのではないだろうか。その為、頭ではハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、ハジメも他の皆もお人好しでは無い

 

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

 アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む

 

 

「確かに、この少年達は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す

 

 

 その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはある様だが、同意を示した。代表して、アルフレリックがハジメに伝える

 

 

「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える……しかし……」

 

「絶対じゃない……か?」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 

「それで?」

 

 アルフレリックの話しを聞いてもハジメの顔色は変わらない。すべき事をしただけであり、すべきことをするだけだという意志が、その瞳から見て取れる

 

 アルフレリックは、その意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」

 

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちは解るけどな、そちらの事情は俺にとって関係の無いものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

 

 奈落の底で培った、「敵対者は殺す」という価値観は根強くハジメの心に染み付いている 殺し合いでは何が起こるか解らないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない………その為、ハジメがアルフレリックの頼みを聞く事は無かった

 

 

 しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟む

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 

 その言葉に、ハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった そのことは、彼等も知っている筈である。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった

 

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える 何があって同道していたのか知らんが、此処でお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ

 

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めた事なのだ。お前が気に病む必要はない」

 

「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった

 

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた 長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。おそらく、忌み子であるという事よりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ

 

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

 それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。しかし、そこで事態は急変する

 

 

「いや、お前らのルールなんて知らないよ。ハジメ達を故郷に帰して、神(笑)を殺す。その邪魔をするなら、どこの誰でも関係ない、俺が潰す!どこの、誰でもだ!」

 

 

 

――ゾクッ!!!

 

 

 

 まるで極寒の地に放り出されたかの様な寒気を、長老達は感じる。その根源である者を見やる。そこに居たのは………

 

 

 

 ショウがメカチックなイヌミミと黒いラバースーツに紺の塗装が入った白い鎧を身につけ、両腕には10mmバルカン砲、胸部サイドと肩部と膝部には超小型マイクロミサイルポット、背部にはスラスターを装備し、腰部には大型のメイスを携帯し、その両手には直径80cmの実弾式のバスターライフルレールガンを握り絞めている

 

 

 

「ハウリアは、ハジメが雇った案内人だハジメが雇っている間は手出しさせない。それでもと言うなら、【フェアベルゲン】ごと霧を吹き飛ばすこともできる」

 

「は、ハッタリを言うな! 人間!!そんなこと出来るわけが「できます!」!?」

 

 ゼルの言葉を遮る様にショウの背後からアシストが声を上げた。そこには凶悪な兵器を大量に詰め込み、人が乗り込めるほど巨大な物体が浮いていた…………

 

 

「これは【エクステンド】って言ってな。こいつで派手に射てば、爆破の勢いでお前らも霧もまるごとフッ飛ぶ。案内がいないのなら邪魔するものを全て蹴散らせばいい!ただそれだけだ」

 

「わかったらその汚い口を閉じなさい。あなたの前にいるのは只の人間ではありません。暴乱狼王の救世主、アオイ ショウ ランペイジルプスレクスフォームですよ」

 

 長老達は固まったショウの力に驚いただけではなくアシストの言葉の意味が分からなかったのだ。……当たり前や

 

 それにハジメが口を挟んだ

 

「俺はお前らの事情なんて関係無いんだよ。このままコイツ等を処刑するって事は俺達の邪魔をするって事だろうが」

 

 そして、ハジメは左手でシアの頭を撫でる

 

 

「俺の行く道を拒もうってんなら、覚悟を決めてもらおうか?」

 

「………本気かね?」

 

「当然だ。俺達の案内人は【ハウリア】だ」

 

「何故そこまで拘る? 大樹に行きたいだけなら案内は誰でも良い筈だ。案内人を変えるだけで我々と争わずに済むのだ。問題なかろう」

 

 アルフレリックの問いに、ハジメは何の迷いもなく

 

「問題大有りだ。案内するまで助けてやるって約束したんだ。途中で良い条件が出てきたからって鞍替えなんざ格好悪いだろ?」

 

 続けてショウが、

 

「ハジメが惚れた女の前では格好良くありたいって望んだ。俺が動くにはそれだけで十分だ」

 

 そう答えた。

 

 

 ハジメとショウに引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く 他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。暫く、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した

 

 

「仕方無い………ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう 【フェアベルゲン】の掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まった事が確定した者は、死んだものとして扱う 樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼ無い。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

 完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた

 

 

「ゼル。解っているだろう。この少年が引かない事も、その力の大きさも ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対する事に成る。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが……」

 

 ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり、危険因子とそれに与するものを見逃すという事が、既になされた処断と相まって簡単には出来ない様だ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう

 

 

 だが、そんな中、ハジメが敢えて空気を読まずに発言する

 

 

「ああ~、盛り上がっているところ悪いが、シアを見逃す事については今更だと思うぞ?」

 

 ハジメの言葉に、ピタリと議論が止まり、どういうことだと長老衆がハジメに視線を転じる

 

 

 ハジメはおもむろに右腕の袖を捲ると魔力の直接操作を行った。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、“纏雷”を使用して右手にスパークが走る

 

 

 それと同じくして香織も左手を翳す。途端、虚空に電気の塊がスパークし現れる

 

 

 それに便乗してショウが右手から魔力の、左手から反魔力の塊を作る。

 

 

 

 長老衆は、三人のその異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣もなく魔法を発動したことに驚愕を表にする

 

 

 ジンを倒したのはショウの筋力だけのせいだと思っていたのだ

 

「俺達も、シアと同じ様に、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える 次いでに言えばこっちのユエもな。あんた達のいう化物って事だ。だが、口伝では『それがどのような者であれ敵対するな』ってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。シア一人見逃すくらい今更だと思うけどな」

 

 暫く硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる

 

 

「はぁ~、【ハウリア族】は忌み子『シア・ハウリア』を筆頭に、同じく忌み子である『南雲ハジメ』・『アオイ ショウ』の身内と見なす。そして、資格者『南雲ハジメ』・『アオイ ショウ』に対しては、敵対はしないが、【フェアベルゲン】や周辺の集落への立ち入りを禁ずる 以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。漸く現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

「しょうがないよ。そっちにもそっちの事情があるし」

 

 ハジメ達の言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ 恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。その様子に肩を竦めるハジメはユエやシア達を促して立ち上がった

 

 

 

 しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配が無い ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

 ハジメの言葉に、漸く我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行くハジメの後を追うシア達。アルフレリック達も、ハジメ達を門まで送る様だ

 

 

 シアが、オロオロしながらハジメに尋ねた

 

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

「? さっきの話し聞いてなかったのか?」

 

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた

 

「……素直に喜べばいい」

 

「ユエさん?」

 

「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

「……」

 

 ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める

 

 

「まぁ、約束だからな」

 

「ッ……」

 

 シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアが必死に取り付けたハジメとの約束だ

 

 

 元々、“未来視”でハジメが守ってくれる未来は見えていた。しかし、それで見える未来は絶対ではない シアの選択次第で、いくらでも変わるものなのだ。だからこそ、シアはハジメの協力を取り付けるのに“必死”だった。相手は、亜人族に差別的な人間で、シア自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の“女”か“固有能力”しかない。それすら、あっさり無視された時は、本当にどうしようかと泣きそうになった

 

 

 先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 

 シアは、ユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく!

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

「どわっ!? いきなり何だ!?」

 

「「むっ」」

 

 泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている

 

 

 それを見た香織とユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか、ハジメの反対の手と背中を取るだけで特に何もしなかった

 

 

 喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆も漸く命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っていた

 

「素直じゃない………けど、今はそれで良いか」

 

 四人を少し後ろからショウはそう呟いて見、フッと微笑んだ

 

 

清水どうする?

  • 殺れ
  • 助けて

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