翌日から早速訓練と座学が始まった。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったショウだったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。
メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろうか?副団長に敬礼!!
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は
ショウ達もその方が気楽で良かった。遥はるか年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪くてしょうがない。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰めながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ショウも同じように血を擦りつけ表を見る。
すると……
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蒼 翔 17歳 男 レベル:1
天職:救世主
筋力:不破さん
体力:限りない
耐性:メイプル
敏捷:消える
魔力:-∞
魔耐:ヤバイ
技能: 全属性適性・回復魔法・結界術適正・全属性耐性・物理耐性・状態異常無効・複合魔法・魔力反転・武器召喚・戦闘術・天歩・魔力変換・気配操作・魔力感知・限界突破・成長促進・偽装・重力魔法・空間魔法・再生魔法・魂魄魔法・昇華魔法・変成魔法・言語理解
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表示された。
いやマテマテ待て、なんだこれ完全にバグだろ。魔力-∞だし。しかも、なんだよ救世主って痛々しいわ!
そんなことを考えていると、メルド団長からステータスの説明がなされた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。不便だな。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。めんどい。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
ショウは自分のステータスを見る。確かに天職欄に〝救世主〟とある。ぶっちゃけ見るたびに精神的ダメージをガンガン食らう。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
(間違いない俺のステータスは異常すぎる。特に魔力。ぶっちゃけ見せたくない。)
そんなことを考えていると技能欄に「偽装」という文字を見つけた。
(まさかこれでステータスプレートを偽装できたりして……)
そう考えてながら技能名を小声で唱えた。
『偽装』
(できた)
できちゃいました。こんなに簡単に。実はこれ技能:「成長促進」の効果で今この瞬間ちょっとだけ成長しただけなのだ。
「ハジメ、どうだった?」
「僕はうん、何も言わずにこれを見て」
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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これは酷い。でも逆に考えればこれはこれで安全かもしれない。 このステータスに非戦闘職の天職のハジメを戦場に出すような真似はしないし。
「ショウはどう?」
「俺はこんな感じだよ」
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蒼 翔 17歳 男 レベル:1
天職:救世主
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:-50
魔耐:10
技能:魔力反転・言語理解
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「あれ? 天職はかっこいい名前なのに僕と同じくらい、いや魔力に関しては0どころか-だし。や、やっぱり最初はこれくらいなのかな.….なら、僕のステータスも別に酷いわけじゃ」
メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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まさにチートの権化だった。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。
ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。
光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……
そんなこんなで俺達の報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。
今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。
その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにハジメのステータスプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。
その様子にハジメを目の敵かたきにしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。
まあ、凡人だったらそうだろうが、実際は違う。鍛冶職は頼りになることこの上無い。例えば八重樫の剣術は日本刀――刀が主流だがこの世界にあるとは思えない。なので作ってもらわなければならない。そして刀を知っていて作る事ができるのはただ一人、ハジメだ。さらに刀だけでなく、やろうと思えば銃などの現代兵器が作れるかもしれない。もしかしたら最終的にこの中で一番強いのはハジメかもしれない。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
そんなことを考えていたら檜山達がハジメを馬鹿にしてきた。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。うざったらしいから一回シメとくか。
「いい加減にしろよクソガキが!!」
そう言いながら檜山を蹴ったら筋力10にしてはあり得ない飛びかたをした。
(スゲーな筋力)
そう思いながら変な姿勢になっている檜山に言った。
「防具や武器を作ってくれるハジメは戦闘職しか
いない俺らには一番必要な存在だ。それとも檜山、お前は何も防具を装備せずに体育館裏の時見たいに全裸で魔物の前に飛び出すわけ? そんな死にたがりの変態と一緒に行動したくないし、それに、ステータスなら俺もハジメとほぼ一緒だよ」
俺はメルド団長に自分のステータスプレー
トを見せる。
ハジメの時以上に言葉に詰まるメルド団長
メルドさんの持つステータスプレートを覗き込んだ女子生徒の一人が尋ねる。
「あ、あのこの魔力反転って技能はなんですか?」
「それは、俺の魔力マイナスだろ?それを反転、つまりプラスに変える技能らしい。」
「ということは、魔力だけ高いと………」
ハジメに対しては嘲笑だったけど、俺に対しては哀れみの視線が多く向けられる。
ただまあ、幾らかは「ざまあみろ!」という視線も混じっている感じだ。
昨日の学校の件やイシュタルとのやり取りでヘイトを集めに集めたし仕方ない。
次々と笑い出す生徒達の中、ウガーと怒りの声を発する人がいた。愛子先生だ。
「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません!」
ちっこい体で精一杯怒りを表現する愛子先生。その姿にクラス中の男子の毒気を抜かれた。
愛子先生はハジメと俺に向き直ると励はげますように肩を叩いた。
「南雲君、蒼君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君達だけじゃありませんからね!」
そう言って「ほらっ」と愛子先生はショウ達に自分のステータスを見せた。
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畑山愛子 25歳 女 レベル:1
天職:作農師
筋力:5
体力:10
耐性:10
敏捷:5
魔力:100
魔耐:10
技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解
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ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。ショウは、
「先生、それ止め刺してますよ。」
と突っ込んだ。
「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。
確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。
「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」
「な、南雲くん! 大丈夫!?」
「先生、ハジメのライフはもう0です」
反応がなくなったハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄る。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。
(とりあえず、ハジメにヘイトがいかなくなっただけいいか)
檜山いつ殺す?
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ハジメを落とした後
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原作通り