「えへへ、うへへへ、くふふふ~」
同行を許したことで上機嫌になったシアは――はっきり言ってキモかった。奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当て、クネクネと身を捩らせる。ハジメと問答した時の真剣な表情はなんだったのか。だから、お前は残念ウサギなんだ。
「……キモい」
見かねたユエがボソリと呟く。全くもって同意見だ。だが、言われた当人からすれば受け入れ難い言葉だったらしく、無駄に優秀なウサミミでユエの呟きを捉えたシアは、猛然と抗議のような惚気のような何かを口にする。
「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ハジメさんの初デレですよ? 見ました? 最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」
―……ウザい。完全に調子に乗ってるな、コイツ―
「「「……ウザウサギ」」」
「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」
「「「……」」」
「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」
シアを放置してハジメは今後の予定について香織とユエと話し合うとするか。 まず、下僕共の帰還を待つ。ハジメの課した訓練卒業の課題を突破したか確認する。次に、ショウとアシストが担当するハウリア二班との合流。が鍛えた成果も確認しておきたい。
「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」
雑音を無視して話し合いを進めていると、数人のハウリア族が霧を掻き分け、俺が課した課題をクリアした証拠となる魔物の部位を片手に戻ってきた。 よく見れば、そのうちの一人はカムだ。なかなかやるじゃないか。
久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせるシア。 本格的に修行が始まる前、十日前から家族に会っていない筈だ。早速、シアは父親であるカムに話しかけようとした。だが、話しかける寸前に発しようとした言葉を呑み込む。……気付いちまったか。 歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべる。 そして、直ぐに視線をハジメに戻す。
そう、ハウリア達は……
「ボス。お題のハイベリアの尻尾、きっちり狩って来やしたぜ」
完全に出来上がってた………
ハジメが鍛えたハウリアは、完全にバーサーカー状態になっていた……
「ハジメ!!おまっ、やりやがったな!!」
丁度、合流したショウは盛大に声を荒らげた。ハウリアは変わっていた、争いを嫌っていた最弱種族は完全に血を求める戦争狂の様なモノに変わっている。あまりの変貌ぶりに、盛大なツッコミが出てきた。
「ハジメ!香織!……お前、これはさすがにやり過ぎだろ!!」
「うん、やり過ぎた……ショウは………どうしたんだ?あれ」
「まるで……雫ちゃんの道場の門下生みたい……」
「まあ、戦いに関する事だけじゃなくて精神面や、料理に洗濯など教えてたからな。ハジメ達の鍛えた方をドン引きしてるぞ」
やり過ぎたと反省しているハジメと香織にはそう言う。その時、ハウリアの一人が木陰から出てきた
「ボス。報告いたします!大樹へのルートに武装した熊人族の集団を発見!おそらく我々に対する待ち伏せと判断します!」
「お…おう……よく見つけられたな…」
「はっ! 勿体無きお言葉!!」
ハジメもこの変わり様に冷や汗を流していた
「ボス。宜しければ我々にお任せ願えませんでしょうか?」
ハジメ達の背後から誰かが声をかけてくる。振り向くと其処には
「カムさん……ですか?」
「ええ。生まれ変わった気分ですがね」
カムだった。その雰囲気はまるで………ヤバイ奴の一言に尽きる。
「我等の力……奴等に何処まで通じるか試させていただきたくなに、そうそう無様は見せませんよ」
カムの眼は不気味な光を宿していた
「出来るんだな?」
「肯定であります!」
「なら任せる」
若干引き気味にハジメが言うと、カムが叫ぶ
「行くぞ野郎共!!」
『YAAAAAHAAAAAAAA!!!』
『殺せ! 殺せ! 殺せ!!!!』
「うん。完全にやり過ぎたな、コレ」
「うん。完全にやり過ぎたね、あれ」
「バッキャロー!!!!そんな呑気なこといってる場合か!?どうすんだよ、あれ!!!!」
その有り様にハジメと香織はやり過ぎたと言い、怒るショウ。ショウ達が指導したハウリア達は「ヤバイな、あれ………」とか、「大丈夫か? アイツら」とか、「ホントにうちの家族……?」とか、そういった表情をしていた………
「うわぁ~ん、私の家族が半分死んでしまったですぅ~」
崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。それを見たハジメと香織は、どことなく気まずそうに視線を彷徨わせている。ユエは、ハジメ達に視線を転じるとボソリと呟いた。
「……流石ハジメと香織、人には出来ないことを平然とやってのける」
「ユエさん、何でそのネタ知ってるの……」
「……闇系魔法も使わず、洗脳……さすが二人とも、すごい」
「「……正直、ちょっとやり過ぎたとは思ってる(わ)。反省も後悔もないけど(ね)」」
「いや、反省しろ!!この似た者夫婦!!!」
しばらくの間、ハウリア族が去ったその場には、ショウのツッコミとシアのすすり泣く声と、微妙な空気が漂っていた。
清水どうする?
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殺れ
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助けて