魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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ウサギと大樹

       

 

 

「へー、やっぱりシアはんは身体強化に特化してるのか」

 

「ああ、しかも俺の五割、つまり約6000以上。マジで化物レベルだ」

 

「正直言って、ライセン大迷宮で一番有利かも」

 

 ハジメ達からシアとユエ勝負の事やこれからの旅に連れていく事とかを聞きながら、ショウはハジメに聞いた

 

 

「にしてもハジメ、もしかしてハーレム要員増加するのか?個人的にはおいし───大歓迎だけど」

 

「しねえよ!俺は香織とユエだけで十分だ」

 

「うちの妹は?」

 

「イヤそれは………ってまだ中1だろ!お前の妹は!俺はロリコンじゃないぞ!」

 

「でもアイツ、お前の事好きだぞ。今のお前を好きかどうかは知らんが」

 

「ハッく~ん?どういうことかな?かな?」

 

「……ハジメ、もしかして、増える?」

 

「増えるも何もお前達のように〝特別〟な存在だと思ってはないぞ。……大切だとは思うが」

 

「ホ~~そうか、じゃあ今はそれでいいや、

今はな」

 

 ショウはニヤつきながらそういった。

 

 

「……ショウ、嬉しそう」

 

「ああ、そうかもな」

 

「でもその子、ここにはいないよ」

 

「ああ、そうだな」

 

 ショウはずっとニヤニヤしながらそう答えた。

 

 

「ショウ、お前気持ち悪いぞ」

 

「さすがにそれは酷いな」

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 雑談しながら進むこと十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。

 

 

 大樹を見たハジメの第一声は、

 

「……なんだこりゃ」

 

 という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。香織とユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。ショウも、その有り様を呆然と見上げる。

 

 

 三人は、大樹について【フェアベルゲン】で見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。

 

 

 

 しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 

 

 大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない 枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視される様になりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

ハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた

 

「これは……オルクスの扉の……」

 

「……ん、同じ文様」

 

 石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す 指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

 

 

「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだな……だが……こっからどうすりゃいいんだ?」

 

 ハジメは大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみたりするが、当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。

 

 

 隠していた可能性もない訳ではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。

 

 

 その時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

 

「ハジメ……これ見て」

 

「ん? 何かあったか?」

 

 ユエが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

 

 

「これは……」

 

 ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

 

すると……石板が淡く輝きだした。

 

 

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。暫く、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

―四つの証―

 

―再生の力―

 

―紡がれた絆の道標―

 

―全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう―

 

「……どういう意味だ?」

 

「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

 

「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

 頭を捻るハジメにシアが答える

 

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

 

「……なるほど。それっぽいな」

 

「あとは再生と来たら、ただ一人………………………

………………………………………………………………………俺だ!」

 

 ショウが自分の神代魔法〝再生魔法〟を連想し自分を指差す。試しにと、再生魔法を使ってみるが……特に変化はない。

 

「再生魔法が効かない!?」

 

「……ん~もしかして、最低でも、七大迷宮の半分を攻略した上で、再生魔法を手に入れて来いってことじゃないかな?」

 

 目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは? と推測する香織。ハジメもユエも、そうかもと納得顔をする。

 

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理って事か……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

 

「だね……」

 

「ん……」

 

「だな……」

 

 ここまで来て後回しにしなければならない事に歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。しかし、大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れる事にする。

 

 ハジメはハウリア族に集合をかけた

 

「今聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指す事にする 大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういう訳で、ここでお別れだ」

 

 そして、チラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 

「とうさ「ボス! お話があります」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

 シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるで自衛官のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

 

「あ~、何だ?」

 

「我々も共にボスの旅に同行させていただけませんか? 我々は最早ハウリアであってハウリアでない存在です! ならば、ボスに助けられた恩を返したいのです!!」

 

「我々もです! 先生!!」

 

 カムだけでなく、ショウが鍛えたハウリア達も続く。彼等も恩に報いたいと告げる。しかし、ハジメはそれをバッサリと断る。

 

それもそうだ。彼等が集団で行動すれば、目を引く。神を騙る狂人のシンパである【聖教教会】の干渉を受けるのは確実だし、なにより【ヘルシャー帝国】が狙っている………あの軍事国家の事だ、【フェアベルゲン】を狙うのは目に見えている。

 

 

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使える様だったら部下として考えなくもない」

 

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

 

「無い無い」

 

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

 

「お、お前等、タチ悪いな……」

 

「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

 

とても逞しくなった部下達? に頬を引きつらせるハジメ。香織がぽんぽんと慰める様にハジメの頭を撫でる。ハジメは溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。

 

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけている………それをが慰める様に肩をポンポンと叩いていた。

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 樹海の境界でカム達の見送りを受けたハジメ、香織、ユエ、シアは再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走し、ショウ『ディスティバーンフォーム』、アシストは低空飛行で飛んでいた。バイクの位置取りは、ユエ、ハジメ、香織の順番でサイドカーにシアである

 

 横からシアが質問する。

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

 

「あ? 言ってなかったか?」

 

「聞いてませんよ!」

 

「私は知ってるよ」

 

「……私も知っている」

 

 得意気な香織ユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

 

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

 

「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」

 

「ライセン大峡谷?」

 

 ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である 確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。その疑問を察したのかハジメが意図を話す。

 

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

 

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

 

「大迷宮なら有るよ。なあ、アシスト」

 

「はい。良ければ、大迷宮までナビゲートしますか?」

 

「じゃあ、先行く?」

 

「いや、先ずは町だ。出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後の為にも素材を換金しておきたいからな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」

 

 ハジメとしてはいい加減、まともな料理を食べたいと思っていた所だ。それに、今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。

 

 

 それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたい事もあったのだ。

 

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

 ハジメの言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。香織が訝しそうに「どうしたの?」と聞き返す

 

 

「いやぁ~、ハジメさん達の事だから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂で良かったです。ハジメさんもまともな料理食べるんですね!」

 

「そりゃそうだ。俺、魔物食えないし」

 

「当たり前だろ! 誰が好き好んで魔物なんか喰うか! ……お前、俺を何だと思ってるんだ……」

 

「プレデターという名の新種の魔物?」

 

「OK、シア、町に着くまで車体に括りつけて引きずってあげるよ」

 

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」

 

「……自業自得」

 

 ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む四人。

 

「ほどほどにな」

 

 ショウは苦笑いしながら飛行していた。

 

清水どうする?

  • 殺れ
  • 助けて

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