魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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町とギルド

        

 

 

「ステータスプレートを」

 

「ああ」「はい」「どうぞ」

 

 町の少し離れた所でシュタイフとを宝物庫に仕舞い、俺は執事に戻り、町の門の前で、門番にステータスプレートを見せる。

 

 

「この町に来た目的は?」

 

「食料の補給がメインだ。あと素材の換金もしたい」

 

 ハジメがそう言う

 

「ああ、それなら冒険者ギルドに行くといい 町の簡単な地図をくれるから役立つ筈だ」

 

「そいつは親切だな」

 

 門番がステータスプレートに表記されているのを確認して驚く。

 

 

「全ステータス値一万超えに何だこの記号…? 技能もいったい幾つ有るんだこれ……!」

 

(ヤベ……隠蔽すんの忘れてた……)

 

 慌てるハジメ。それを香織がフォローする。

 

「ちょっと前に魔物に襲われちゃって、……その時に壊れちゃったみたいなんだよ」

 

「…そんな壊れ方、聞いたこと無いが……」

 

「壊れてなきゃそんな表示可笑しいでしょ? まるで化け物みたいじゃない」

 

 半ば壊れ気味に笑う香織に、門番も笑う

 

「そうだよな、こんなんじゃ指一本で町が滅ぼされちまう。で、そっちの三人のプレートは?」

 

 そう言って門番はハジメ達の背後にいるユエとアシストとシアを見る

 

「連れは、………魔物の襲撃で無くしちまってな…… こっちの兎人族はステータスプレートを持ってない。理由は………解るだろ?」

 

「俺の連れもそんな感じです。」

 

「成る程、綺麗所を手に入れたな。まぁいい、通って良いぞ」

 

 そう言って門番はハジメ達にステータスプレートを返して続ける

 

「冒険者ギルドは中央の道を真っ直ぐだ。ようこそ【ブルック】へ」

 

 ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。門の所で門番が言っていたが、この町の名前は【ブルック】というらしい 町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアド程ではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

 

 こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。ハジメだけでなく、ユエも楽しげに目元を和らげている。しかし、シアだけは先程からぷるぷると震えて、涙目でハジメを睨んでいた。

 

 

 怒鳴る事もなく、ただジッと涙目で見てくるので、流石に気になって溜息を吐くハジメ。楽しい気分に水を差しやがって、と内心文句を言いながらシアに視線を合わせる。

 

 

「どうしたんだ? せっかくの町なのに、そんな上から超重量の岩盤を落とされて必死に支えるゴリラ型の魔物みたいな顔して」

 

「誰がゴリラですかっ! ていうかどんな倒し方しているんですか! ハジメさん達なら一撃でしょうに! 何か想像するだけで可哀想じゃないですか!」

 

「……脇とかツンツンしてやったら涙目になってた」

 

「面白かったよね」

 

「まさかの追い討ち!? 酷すぎる! ってそうじゃないですぅ!」

 

「シアはん、落ち着いて、ハジメ君達も例えが例えだよ」

 

 怒って、ツッコミを入れてと大忙しのシア。手をばたつかせて体全体で「私、不満ですぅ!」と訴えて、ショウが宥める。ちなみに、ゴリラ型の魔物のエピソードは圧縮錬成の実験台にした時の話だ。決して、虐めて楽しんでいた訳ではない。ユエと香織はやたらとツンツンしていたが。ちなみに、この魔物が“豪腕”の固有魔法持ちである。

 

 

「これです! この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! ハジメさん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

 シアが怒っているのは、そういう事らしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられたことが相当ショックだった様だ。勿論、ハジメが付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束するような力はない。それは、シアも解っている。だが、だとしても、やはりショックなものはショックなのだ。

 

 そんなシアの様子にハジメはカリカリと頭を掻きながら目を合わせる

 

「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだ?」

 

 言い訳あるなら言ってみろやという感じでハジメを睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。

 

「も、もう、ハジメさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 

 調子に乗って話を盛るシアのでこに、香織の黄金のデコピンを放つ。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった額をさすりながら起き上がる。

 

 

「調子に乗っちゃだめ。だよ」

 

「……ずびばぜん、香織ざん」

 

 冷めた香織の声に、ぶるりと体を震わせるシア。そんな様子に呆れた視線を向けながら、ハジメは話を続ける。

 

「あ~、つまりだ。人間族のテリトリーでは、むしろ奴隷という身分がお前を守っているんだよ。それ無しじゃあ、トラブルホイホイだからな、お前は」

 

「それは……わかりますけど……」

 

理屈も有用性もわかる。だがやはり、納得し難いようで不満そうな表情のシア。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。そんなシアに、今度はユエが声をかけた

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

 

「ユエさん?」

 

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

 

「………………そう、そうですね。そうですよね」

 

「……ん、不本意だけど……シアは私が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

 

「……ユエさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

 曾て大衆の声を聞き、大衆の為に力を振るった吸血姫。裏切りの果に至った新たな答えは、例え言葉少なでも確かな重みがあった だからこそ、その言葉はシアの心にストンと落ちる。自分がハジメ達の大切な仲間であるということは、ハウリア族の皆も、ハジメや香織にショウ、アシストとユエも分かっている。いらぬトラブルを招き寄せてまで万人に理解してもらう必要はない。もちろん、それが出来るならそれに越したことはないが……

 

 

「あとな、その首輪だが、念話石と特定石が組み込んであるから、必要なら使え。直接魔力を注いでやれば使えるから」

 

「念話石と特定石ですか?」

 

 念話石とは、文字通り念話ができる鉱物のことだ。生成魔法により“念話”を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になる。もっとも、現段階では特定の念話石のみと通話ということはできないので、範囲内にいる所持者全員が受信してしまい内緒話には向かない とどの詰りはトランシーバーだ。

 

 

 特定石は、生成魔法により“気配感知[+特定感知]”を付与したものだ。特定感知を使うと、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことでビーコンのような役割を果たすことが出来るようにしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。魔力式のレーダーと言っても良い。

 

 ハジメの説明に、感心の声を上げるシア

 

 

「ちなみに、その首輪、きっちり特定量の魔力を流す事で、ちゃんと外せるからな?」

 

「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというハジメさんの気持ちという訳ですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」

 

「……調子にのるな」

 

「ぐすっ、ずみまぜん」

 

 今度は美しい曲線を描いて飛来したユエの蹴りが後頭部に決まり、奇怪な悲鳴を上げ乍倒れるシア。ユエから、冷ややかな声がかけられる。近接戦苦手だったんじゃ……と言いたくなるくらい見事なハイキックを披露するユエに、シアは涙目で謝る。旅の同行は許しても、ハジメへのアプローチはそうそう許してもらえないらしい。それは香織も同じだ。もっとも、シアの言動がアプローチになっているかは甚だ疑問ではあるが

 

 そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい

 

 ハジメ達は看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

 ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、ハジメは、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰一人酒を注文していない事からすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けと言う事だろう。

 

 

 ハジメ達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない六人組という事で細やかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が香織とユエとアシストとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 

 

 テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。足止めされなくて幸いとハジメはカウンターへ向かう。

 

 

 カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分はある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。世界が変わっても現実はいつも非情だ。ちなみに、ハジメは別に、美人の受付なんて期待していない。していないったらしていないのだ。

 

 

 だから、ユエとシアは、冷たい視線を向けるのは止めて欲しいと思うハジメ。先程から視線が突き刺さっている。香織からは生暖かい視線を感じる、冷たい視線よりも心が痛い。ショウとアシストはそれを少しニヤリと見ていた。

 

 

「冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ!ご用件はなんだい? そっちの兄ちゃんは抱えきれないほどとびきりの華を持ってるのに足りかなかったかい?残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

 そう言って笑うオバチャン。ショウはよく大阪にいるオバチャンを連想した。かなり好感の持てる人の様だ。

 

 

「素材の買取りと冒険者登録をお願いしたい」

 

「あいよ」

 

 そう言ってショウはあらかじめ取り出しておいた魔物の素材を渡す。

 

 

「これは……!とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物かい?」

 

「ああ、買い取ってくれますか?」

 

「勿論さ。此処での買取りで良いかい? もっと大きい町ならもう少し高く売れそうだけどね」

 

 それにハジメが答える。

 

「いや気遣いは有り難いが此処で構わない」

 

 そう言ってハジメも樹海の魔物の素材を出す。換金の値段も計算して硬貨を出した。

 

 

「はい、お待たせ。眼帯の子が全部で四十八万七千ルタだよ。茶髪の子のが四十七万九千ルタだよ」

 

 冒険者登録もしといたからねとオバチャンは言う。

 

 

 この世界【トータス】の貨幣はルタと呼ばれる硬貨で、青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いた事に貨幣価値は日本と同じだ。

 

 

「あと町の簡素な地図もサービスでつけとくよ」

 

 そう言ってオバチャン――キャサリンはハジメ達に町の地図を渡す。

 

 

「お薦めの宿や店も書いてあるから参考にでもしなさいな」

 

 ハジメは手渡された地図に目をやる

 

「!」

 

 これが簡素? 簡単どころか立派なガイドマップだ。

 

「おばちゃん、本当に良いの? 十分金が取れるレベルだよ?」

 

「構わないよ。あたしが趣味で書いてるだけなんだから。それよりも良い宿に止まりなよ! その二人を見て暴走する男連中が出そうだからね!」

 

 ショウ達は、キャサリンにお礼をすると、ギルドを出た。

 

 

 

清水どうする?

  • 殺れ
  • 助けて

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