宿を探す中、ショウはステータスプレートを見る
項目に職業:冒険者が追加されており、青い点がかれている。
これはルタ硬貨と同じ様にその色でランクをつけている様だ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。
ガイドマップを見て、決めたのは“マサカの宿”という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が“まさか”なのか気になったというのもあるが……
宿の中は一階が食堂になっている様で複数の人間が食事をとっていた ハジメ達が入ると、お約束の様にユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ“マサカの宿”へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
ハジメが見せたキャサリン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
女の子がテキパキと宿泊手続きを進めようとするが、ハジメは何処か遠い目をしている。ハジメ的に、あのオバチャンの名前がキャサリンだったことが何となくショックだったらしい。女の子の「あの~お客様?」という呼び掛けにハッと意識を取り戻した
「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるハジメとしては譲れない所だ。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」
ちょっと好奇心が含まれた目で俺達を見る女の子。
―そういうのが気になる年頃なのは分かるが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたい。 4人共美人だとは思っているが、想像以上に4人の容姿は目立つみたいだな。 ハジメと共に幻覚効果を持つアーティファクトを作るべきかもしれない―
そう考えるショウを置いてハジメは尋ねる。
「四人部屋は空いてないのか?」
「すみません」
「なら、三人部屋で頼む。シアは床で眠ればいいだろうし」
「ちょっ、私の扱いが酷すぎませんか!?」
「ハジメ!?もうちょっとシアはんに優しくしよう!」
何やら雑音が聞こえるが無視するハジメ。同様に周囲のざわつきも無視だ。女の子が少し頬を赤らめているのも気にしない。だが、そんなハジメの言葉に待ったをかける人物がいた。
「……駄目。三人部屋と二人部屋二つで」
ユエだ。周囲の客達、特に男連中がハジメとショウに向かって「ざまぁ!」という表情をしている。ユエの言葉を男女で分けろという意味で解釈したのだろう。だが、そんな表情は次のユエの言葉で絶望に変わる。
「……私と香織とハジメで一部屋。ショウとアシストでもう一部屋。シアは別室」
「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 二人部屋三つでいいじゃないですかっ!」
猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言う。
「……シアがいると気が散る」
「気が散るって……何かするつもりなんですか?」
「……何って……ナニ?」
「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」
ユエの言葉に絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にハジメに対して嫉妬の炎や宿った眼を向け出す。宿の女の子も顔を赤くしてチラチラとハジメ達を交互に見ていた。……いい加減、これ以上羞恥心を刺激される前に止めるべきかと、ハジメは口を挟もうとしたが、ハジメの目論見は少しだけ遅かった。
「だ、だったら、ユエさん達こそ別室に行って下さい! ハジメさんと私で一部屋です!」
「……ほぅ、それで?」
指先を突きつけるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。 あまりの迫力にシアは訓練を思い出したのかプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。
「そ、それで、ハジメさんに私の初めてを貰ってもらいますぅ!」
その瞬間、誰一人言葉を発する事無く、物音一つ立てない。今や、宿の全員がハジメ達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥から、女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。
ユエが瞳に絶対零度を宿してゆらりと動いた
「……今日がお前の命日」
「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」
女の戦いが始まろうとしているのを、香織は二人に拳骨を落とす。
「時と場合を考えようね。まったく、二人共子供なんだから。あ!部屋は二人部屋二つで」
「俺とアシストも二人部屋で」
「……こ、この状況で二人部屋……つ、つまり二人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」
女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。
何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、未だ蹲っているユエとシアを肩に担ぐと、ハジメと香織は、そのまま二階の部屋に逃げるように向かった。
「二人部屋の鍵だよ。大変だね、君達も」
何ぞ「ごゆっくり」といった目で誰も彼も見てくる。大きなお世話だ
「はぁ……ハジメ達が御迷惑おかけしました。あの調子ですので」
そう言ってショウは二階に登る。二人部屋に鍵を刺して回して扉を開けて二人で部屋に入る。
「なんか、どっと疲れた」
そんな呟きが静かに響いた。
清水どうする?
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殺れ
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助けて