魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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痛い二つ名

       

 

 

 次の日の朝、ハジメは、ユエとシアに金を渡し、旅に必要なものの買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なのでまだ数時間は部屋を使える。なので、ユエ達に買出しに行ってもらっている間に、部屋で済ませておきたい用事があったのだ。

 

 

「用事ってなんですか?」

 

 

 シアが疑問を素直に口にする。しかし、ハジメは、

 

 

「ちょっと作っておきたいものがあるんだよ。構想は出来ているし、数時間もあれば出来るはずだ。ホントは昨夜やろうと思っていたんだが……何故か妙に疲れて出来なかったんだよ」

 

「……そ、そうだ。ユエさん。私、服も見ておきたいんですけどいいですか?」

 

「……ん、問題ない。私は、露店も見てみたい」

 

「あっ、いいですね! 昨日は見ているだけでしたし、買い物しながら何か食べましょう」

 

 

 サッと視線を逸らし、きゃいきゃいと買い物の話をし始めるユエとシア。自分達が原因だと分かってはいるが、心情的に非を認めたくないので、阿吽の呼吸で話題も逸らす。

 

 

「……お前等、実は結構仲良いだろう」

 

 そんなハジメの呟きも虚しくスルーされるのだった。

 

 

「ハジメくん、あとでマッサージする?」

 

「………頼む」

 

「じゃあ俺も仕入れて来るわ」

 

「同行します」

 

「私も行ってくるね」

 

 そうして香織、ユエ、シア、ショウ、アシストは買い出しに出掛けた。

 

 

 

 

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 現在、シアとユエと香織は町に出ていた。昼ごろまで数時間といったところなので計画的に動かなければならない。目標は、食料品関係とシアの衣服、それと薬関係だ。武器・防具類はハジメやショウがいるので不要である

 

 

 町の中は、既に喧騒に包まれていた。露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしている

 

 

 道具類の店や食料品は時間帯的に混雑しているようなので、二人はまず、シアの衣服から揃えることにした

 

 

 オバチャン改め『キャサリン』さんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。やはりオバ……キャサリンさんは出来る人だ。痒い所に手が届いている

 

 

 二人は、早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着もまとめて買えるという点が決め手だ

 

 

 その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった

 

 

 

ただ、そこには……

 

「あら~ん、いらっしゃい♥ 可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 ……化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう

 

 香織とユエとシアは硬直する。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしている

 

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの二人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

 どうかしているのはお前の方だ、笑えないのはお前のせいだ! と盛大にツッコミたいところだったが、三人は何とか堪える。人類最高レベルのポテンシャルを持つ三人だが、この化物には勝てる気がしなかった

 

 

 しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれずユエは呟いてしまった

 

 

「……人間?」

 

「ちょっ、ユエ!?」

 

 その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユエがふるふると震え涙目になりながら後退る。シアは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。香織は驚いて呆けてしまった。ユエが、咄嗟に謝罪すると化物は再び笑顔? を取り戻し接客に勤しむ

 

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 

 シアは未だへたり込んだままなので、ユエが覚悟を決めてシアの衣服を探しに来た旨を伝える。シアは、もう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが、化物は「任せてぇ~ん」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。その時の、ユエや香織を見つめるシアの目は、まるで食肉用に売られていく豚さんの様だった

 

 

 

ユエとシアは、『クリスタベル』店長にお礼を言い店を出た。その頃には、店長の笑顔も愛嬌があると思える様になっていたのは、彼女? の人徳ゆえだろう

 

「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」

 

「ん……人は見た目によらない」

 

「ですね~」

 

「だね~。じゃあ私はこれから薬草とかのお店見てくるね」

 

「ん」

 

「了解です~」

 

 そう言って香織は、ユエとシアとは別行動で薬屋へ向かった

 

 

 

 

 

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「よし、このくらいでいいかな」

 

 そう呟きながら戻ろうとする香織。しかし、唯でさえ目立美少女だ。すんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

 

 

 その内の一人が前に進み出た。香織は覚えていないが、この男、実はハジメ達がキャサリンと話しているとき冒険者ギルドにいた男だ。

 

 

「香織ちゃんで名前あってるよな?」

 

「あってるけど……」

 

 何のようだと訝しそうに目を細める香織。香織の返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目で香織を見つめた。他の男連中も前に進み出て、香織の前に出る。

 

 

 そして……

 

 

 

「「「「「「「「「「香織ちゃん、俺と付き合って下さい!!」」」」」」」」」」」

 

 で、告白を受けた香織はというと……

 

「お断りします」

 

「ぐぅ……」

 

 正面から断られて、男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちる。 だけど、諦めが悪い奴は何処にでもいた。まして、香織の美貌は他から隔絶したレベルだ。多少、暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

 暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。 香織を逃さないように取り囲み、ジリジリと迫ってくる。 そして遂に、最初に声をかけてきた男が、雄叫びを上げながら香織に飛びかかった。

 

 

 ― ……フッ、見事な某怪盗式ダイブね。『感動的だな。だが、無意味だ』だよ―

 

――ドパンッ!!

 

 直後、男の顔面にゴム弾が激突する。

 

「グペッ!?」

 

 情けない悲鳴を上げて地面に転がる某怪盗式ダイブの男。周囲の男共は、魔法も使わず一撃で意識を刈り取った私に困惑と驚愕の表情を向ける。  そして、それ以外の人達はヤンヤヤンヤの歓声を上げる。

 

「これどうしようかな?」

 

 香織がダイブした男の処遇を考えていると、聞き慣れた声で、聞きなれない呼び方をした一組のカップルが現れた。

 

 

「「香織様、ここにいましたか」」

 

「へ?……アオイ………くんと………アシストちゃん?」

 

 そう、ショウとアシストだ。敬語を使い、香織の前で左膝を付き、右手を胸に当てて頭を下げている。

 

「はい。そうですが、どうしました?」

 

「どうしたもなにも、え!?え!?」

 

 香織は訳が解らず、戸惑ったけどショウが魂魄魔法、『心導』で意図を伝えた

 

 

『その男はこちらで処理する。この姿でいることとこの態度は後々の為だ。堂々として任せろ』

 

 そう伝えると香織はにこやかな笑顔で任せた。

 

「アオイくん、アシストちゃん、そこにいる男の人達を頼めるかな?」

 

「「仰せのままに」」

 

 そう言うと香織は宿に戻ろうとして、他の男達が追いかけようとするが……

 

 

――ズドンッ!!

 

 と響いた。人達が音の方を向くとそこには━━

 

 

「ハアッ!!」「グヘッ!」「セイッ!!」「グハァッ!」

 

 切れのいいコンビネーションで男を蹴るショウとアシストと空中を舞う男がいた。

 

 

 周囲の男は、囲んでいた連中も、関係ない野次馬も、近くの露店の店主も関係なく、あまりの仕打ちに絶句していた。

 

 

 やがて永遠に続くかと思われたリレーは、男の意識の喪失と同時に終わりを告げた。

 

 

 リレーが終わった後、ショウとアシストは香織に告白した男達に向かってこう言った。

 

 

「「貴方達が手を出そうとした香織様はンッ我が主の奥方です。香織様の心には我が主しか居りません。それでもと言うなら……………………致し方ありませんがそれなりの覚悟をお願いします」」

 

 そう言い残し、二人は、宿屋に向かった。

 

 

 その後、香織には『漆黒の姫君』、ショウとアシストには『白執事と白メイド』の二つ名がつけられた…………

 

 

 

 

 

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 ショウとアシストが宿に戻ると、ハジメ達がちょうど準備を終えたところのようだった。

 

 

「お疲れさん、何か、町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 

 

 どうやら、先の騒動を感知していたようである。

 

 

「いや、何もなかったよ。」

 

「正確には、『何も無かったに等しい』ですがね」

 

「………そうか」

 

 ハジメは聴かなかった事にするかの様に、話題を変えた。

 

 

「こっちの準備は出来たが、そっちはどうだ?」

 

「フッ、準備万端。いつでもいいぜ」

 

 その返答にハジメはニヤリと笑いながら、出発の声をかけた

 

 

「よし、じゃあ行くか!」

 

「うん!」

 

「ん!」

 

「ですぅ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

 それに答える様にそれぞれが返事する。

 

 

 外に出ると太陽は天頂近くに登り燦々と暖かな光を降らせている。それに手をかざしながらハジメは大きく息を吸った。振り返ると、香織とユエとシアが頬を緩めて、ショウとアシストが不敵の笑みを浮かべながらハジメを見つめている。

 

 

 ハジメは五人に頷くと、スっと前に歩みを進めた。皆も追従する。

 

 

 ―さあ、旅の再開だ。―

 

 

清水どうする?

  • 殺れ
  • 助けて

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