魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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使徒、再来

 

 

 

 アレから数分後、清水は目を覚ました。しかし、その姿は無様な物だった。

 

 

 手足をハジメ特製のワイヤーで縛られ、うつぶせの状態となっていた。

 

「な、何だ!これは!?」

 

「清水君、落ち着いて下さい。あなたに危害をくわえた事はお詫びします……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

 膝立ちで清水に視線を合わせる愛子に、清水のギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話……というより悪態をつき始めた。

 

 

「なぜ?そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

 

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

 

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

 

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

 反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。その勢いに押されたのか、ますます顔を俯かせ、だんまりを決め込む清水。

 

 

 愛子は、そんな清水が気に食わないのか更にヒートアップする生徒達を抑えると、なるべく声に温かみが宿るように意識しながら清水に質問する。

 

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

 

 

 愛子のもっともな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと笑みを浮かべた。

 

 

「……示せるさ……魔人族になら」

 

「なっ!?」

 

 清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、ハジメ達を除いた、その場の全員が驚愕を表にする。清水は、その様子に満足気な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。

 

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

 

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

 戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

 

 

 そんな愛子に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

 

「……え?」

 

 愛子は、一瞬何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛子よりは早く意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して清水を睨みつけた。

 

 

 清水は、生徒達や護衛隊の騎士達のあまりに強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれて一瞬身を竦めるものの、半ばやけくそになっているのか視線を振り切るように話を続けた。

 

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか?ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ!何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ!何で異世界にあんな兵器があるんだよっ!お前は、お前らは一体何なんだよっ!」

 

 最初は嘲笑するように、生徒から放たれた〝殺す〟という言葉に呆然とする愛子を見ていた清水だったが、話している内に興奮してきたのか、ハジメの方に視線を転じ喚き立て始めた。その眼は、陰鬱さや卑屈さ以上に、思い通りにいかない現実への苛立ちと、邪魔したハジメ達への憎しみ、そして、その力への嫉妬などがない交ぜになってドロドロとヘドロのように濁っており狂気を宿していた。

 

 

 もちろん、ハジメにそんな目を向けて彼が黙っている訳が無い

 

 

―よし、〆よう―

 

 そう、我らが救世主。ショウさんだ

 

 

「まさか、俺に気づかないとは。無能は君じゃないか?」

 

 そう言ってショウは変身を解き、元の姿へと戻る。すると清水は驚愕と共に声を荒らげる。

 

 

「お、お前は蒼!何でお前がいるんだよ」

 

「我が主の旅に動向してね。さて、僕の事が分かったら、この二人も分かるかな?」

 

 そう言ってショウは南雲夫婦の後ろに跪く。すると清水は「ウソデショ」と言わんばかりの表情で二人の名前を言う。

 

 

「まさか…………南雲と白崎さんなのか………………いや、そんな筈は無い。だってあの日二人は………」

 

 と、ボソボソブツブツと呪詛の様に何かを呟く清水。そこに追い討ちが入る。

 

 

「貴様がどれほど否定しようと、この二人は正真正銘『南雲ハジメ』と『白崎香織』だ。テメェはこの二人に負けたんだ。認めろ」

 

「……でだよ……」

 

「ん?何だって?」

 

 次の瞬間、清水は荒れ狂う様に叫んだ

 

 

「何でだよ!何で〝落っこちただけ〟でそんなんになってんだよ!何でそんな〝簡単に〟チートになれんッ」

 

 「なれんだよ!」そう言おうとした途端、叩かれた。叩いたのは他でも無い、香織だ。

 

 

 香織はそのまま、豆鉄砲を食らった鳩の様な表情をした清水の胸倉を掴み、言い放つ

 

 

「落っこちただけ?簡単に?本当にそう思うの?そんなわけ無いでしょ!ハッくんは、私を守る為に自分の身をていして、生きるために戦い抜いた!左腕を失いながらも、右目を失っても戦った。だから強くなれた!私もその隣に立っていたいから私も強くなった!貴方に分かるわけ無いよね?絶望の底で誰も助けに来ない奈落の底での事なんて!」

 

「そ、それは…………」

 

 香織の言葉にたじろく清水。そして、その話を聴いてうつむく愛ちゃん護衛隊と先生。

 

 

 「生きるために戦い抜いた」その言葉が彼らの心に重く突き刺さる。あの「最弱」があそこまで強くなったのは落ちたからだ。「落ちただけで」強くなれた。そう勘違いしていた自分を反省するように。

 

 

「……………でも………」

 

 そんな中、清水は顔を上げる。ソコにはまるでもう後が無い様な顔をしていた。

 

 

「それでも………俺はもう、止まれない…………止まる事が出来ねえんだよぉおおおおお!」

 

 すると清水は口の中に隠していた〝何か〟を飲み込む。すると清水の魔力が爆発的に膨れ上がり、あのハジメが作ったワイヤーを自力で千切った。

 

 

「総員、退避!」

 

 そう言ってショウは生徒を数人担ぎ、ハジメは拾い損ねた先生と園部を抱え、他の皆もそれぞれ下がった。

 

 

 先生と護衛隊の皆が慌てふためく中。清水の方は立ち上がったかとと思えば、髪の毛が汚い灰色へと変色し、背中には灰色の翼が生えた。両手にはそれぞれ大きな大剣が握られており、後ろにはそれに呼応するかの様に無数白く光る楕円形の輪っかが現れ、ソコから〝アシストと同じ顔の美女〟が大量に現れた………

 

 

「え、あ、アシストさんがいっぱい!?」

 

「使徒…………!」

 

「先生は下がってろ。アレはアシストじゃない。前に話していた糞野郎の手駒みたいな奴だ」

 

 ハジメが先生に簡単に説明して、下がらせようとしたその時。使徒が分解攻撃を繰り出し、退路を絶った。

 

 

「この前は同胞が世話になりましたね。私は『ミリオン』と申します。主の命により、イレギュラー。貴方を排除します。さあ、行きましょう!勇者様。貴方が正しい事をこの世界に示すのです!」

 

「ああ、そうだな。この俺が正しい事を示すんだ!」

 

 清水はミリオンと名乗る女が『勇者様』と呼び、褒め称えると嬉しいのか優越に浸っているのか気持ち悪い笑みを浮かべ、俺達に剣を向ける。

 

 

「アシストと白崎はん達は皆を守ってくれ。ハジメは俺と一緒に戦ってくれ」

 

「了解」

 

「分かったよ!」

 

 アシスト達は即座に動いて結界を張り、皆を守る。

 

 

「俺って事は、アレを試すのか」

 

「ああ、こんだけ使徒がいるんだ。実践で試すには持ってこいだろ?」

 

 そう言ってハジメはショウの隣に立ち、義手の手の甲に紅く輝く宝玉を胸の前に寄せて、右手で勢い良く回転させる。ショウは空間魔法で異空間に仕舞っていた、蒼い宝玉が付いた大きめのブレスレットを右腕に着け、構える。そのまま左手で真ん中にある蒼い玉に触れると一気に振り下ろして回転させる。

 

 

 二人は背中を合わせ、お互いに宝玉の付いた方の手をつきだして唱える。

 

 

「「『融合』」」

 

 紅と蒼の光がぶつかり合い、まるで恒星の様な光が二人を包んでいった………

 

 

 




次回、魔王と救世主で世界最強 『やがて最強は一つになる』(ハジメ&ショウボイス)

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