魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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今日は勇者のお話です!


魔人族

 

 

 

 

ーオルクス大迷宮ー

 

 

勇者(笑)が迷宮の探索を続けて約4ヶ月。

 

 

今迷宮の攻略を進めているのは光輝、龍太郎、鈴、恵里、雫の他、永山 重吾を含める5人及びくたばった檜山を除いた小悪党組達3人の13人。

 

 

香織が落っこちた影響で回復役が居なくなることを心配した私だったが、永山パーティーの中に香織と同じ『治癒師』の天職を持った子がいた。

 

 

お陰で迷宮の90階層に辿り着いた私達は、異常事態に頭を悩ませていた。

 

 

異常事態と言っても、魔物が大量発生しているとか、トラップが大量に仕掛けられてるとかじゃない。

 

 

その逆で魔物が一切見当たらない。

 

 

その事実に、雫は嫌な予感が拭えなかった。

 

 

「……どうなってる?」

 

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

他のメンバーもそれは思っていたようで、思わず口に出した。

 

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

 

 

「……光輝。一度、戻らない? 何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

 

 雫が警戒心を強めながら、光輝にそう提案した。光輝も、何となく嫌な予感を感じていたので雫の提案に乗るべきかと考えたが、何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならない。

 

 

 光輝が迷っていると、不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

 

「………これ、魔物の血………だよな?」

 

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

 

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

次々に異変に気付くメンバー。

 

 

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

 

永山君がそう言う。

 

 

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

光輝の反論に永山君は首を振った。

 

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

 

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

雫の言葉に永山君が頷く。

 

 

その言葉でようやく光輝にも事態の異常性が理解できたようだ。

 

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 

「ここが終着点という事さ」

 

光輝の言葉を引き継ぎ、聞いた事の無い女の声が響いた。私達は警戒を最大限に引き上げてその声をした方を向いた。

 

 

コツコツと響く足音と共に、広い空間の闇の奥から肩に白い鳥を乗せた、赤い髪をした女が現れた。

 

 

しかも、その女の耳は僅かに尖っていて、肌も浅黒い。座学で散々聞かされた、魔人族の特徴だった。

 

 

「………魔人族」

 

その呟きに、魔人族の女は冷たい笑みを浮かべる。

 

 

「そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたが勇者でいいんだよね? アタシらの側に来ないかい?」

 

魔人族の女は光輝に視線を向けるとそう言った。

 

 

「何………? どういう事だ!?」

 

「勧誘してんの」

 

光輝の問いかけにさも平然と答える魔人族の女。

 

 

「断る!!」

 

しかし、光輝は即答する。

 

 

「お仲間も一緒でいいって言われてるけど?」

 

「答えは同じだ!」

 

光輝は考える素振りすら見せない。

 

 

「………そういえば、1人私らの誘いに乗った御仲間がいたみたいだけど………?」

 

その言葉に生徒達は一瞬動揺するが、

 

 

「騙されないぞ! そんな奴はいない!」

 

光輝の言葉で我に返る。根拠の無い言葉だけど、今回は助かった。

 

 

「どうかしら………?」

 

女は含み笑いをする。その時、鈴が全員に障壁魔法を使った。それを戦闘の意志と判断したのか、

 

 

「あらそう………勧誘できないなら用は無い」

 

すると、その女は目付きを鋭くして、

 

 

「魔物の餌にしてあげる!」

 

その時、空間が揺らぐと同時に何かの攻撃を受けて吹き飛ばれ、鈴も吹き飛ばされたが恵理に受け止められて事なきを得る。

 

 

「光の恩寵と加護をここに! 〝周天〟!」

 

治癒師の女の子が周天という持続系回復魔法を辺り一帯に唱えた。この魔法は暫くの間自動で回復魔法がかかる代わりに光がまとわりつくという特性を持っている。その魔法によって見えない敵が露になった。それはライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物。所謂キメラと呼ぶに相応しい魔物だった。そのキメラは雫に向かって爪を振った。

 

 

私は咄嗟にその場を飛び退く。その一撃は先程まで私が居た場所を砕いた。

 

「雫から離れろ!」

 

光輝が飛び込んで来て、龍太郎や恵理が拳圧や火の魔法で攻撃する。

 

 

だが、

 

 

「「ルゥガァアアア!!」」

 

「グゥルゥオオオ!!」

 

また別の3つの咆哮が上がったかと思うと、キメラとは違う別の影が光輝達に襲い掛かった。

 

 

それは、オークやオーガと呼ばれる豚顔の魔物で、私達も戦った事のあるブルタールという魔物に近い。

 

 

だけど、その体躯はそれらよりも明らかに引き締まって強靭になっており、光輝は咄嗟に躱したけど、龍太郎は吹き飛ばされた。

 

 

更に、恵理が放った炎の魔法は、こっちも突然現れた巨大な亀の様な魔物の口に吸い込まれていき、炎を吸い尽くしたと思ったら、再び口を開けてその口に赤い輝きが生まれる。

 

 

「拙い………!」

 

恵理が思わず声を漏らす。でも、

 

 

「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」

 

鈴が10枚の光のシールドを展開。

 

 

直後に亀の口から超高熱の砲撃が放たれたが、それは何とか上方に逸らすことに成功した。

 

 

「ちくしょう! 何だってんだ!」

 

「なんなんだよ、この魔物は!」

 

「くそ、とにかくやるぞ!」

 

 

 

その時になって漸く元小悪党達や永山君の他のメンバーが動き出す。

 

 

私も先程攻撃を受けそうになったキメラと相対する。

 

 

「はぁああああああああっ!!」

 

すれ違いざまに抜刀すると同時に蛇の尾の半ばあたりを切り裂く。

 

 

「グゥルァアア!!」

 

怒りの咆哮を上げて振り向きざまに鋭い爪を振るうキメラ。雫はそれを躱してキメラの両翼を切り裂く。

 

 

―大丈夫、攻撃は通じる―

 

―強い相手だけど、勝てないわけじゃない―

 

彼女がそう思った瞬間、

 

 

「キュワァアア!!」

 

魔人族の女の肩に乗っていた鳥が鳴き声を上げる。すると、目の前のキメラの傷が見る見る癒えていく。

 

 

いや、キメラだけじゃない。光輝や他の皆が相手をしていた魔物達のダメージも回復していく。

 

 

「回復役まで!?」

 

雫は思わず叫ぶ。

 

 

「今までの魔物とレベルが違い過ぎる………! 八重樫さん! どうする!?」

 

「………………」

 

遠藤君の言葉に、雫は一瞬思案すると、

 

 

「遠藤君、あなたの能力を見込んで頼みがあるの」

 

「えっ?」

 

「この事を、メルド団長に伝えて。天職が〝暗殺者〟のあなたなら、敵に気付かれずにメルド団長の所まで行ける………!」

 

「お、俺が………!?」

 

「これはあなたしか出来ない……!」

 

「…………必ず伝えるから…………必ず………!」

 

その言葉を最後に遠藤君の姿も気配もまるで感じられなくなる。

 

 

―相変わらず見事な物ね―

 

雫は魔人族の女に向き直ると、目の前のキメラが地に沈む様に消えていく。

 

 

「勇者様どうする? このままだと………」

 

どうやらその女はまだ懐柔する気がある様だ。それなら交渉すると見せかけて時間を稼げば助かるかもしれないが

 

 

「俺達は屈しない!」

 

光輝がにべもなく拒否する。彼のお花畑脳には卑怯な手を使う考えは無いらしい

 

 

「それを証明してやる! 〝限界突破〟!」

 

『限界突破』は一時的にステータスを3倍にする技能。

 

 

だけど、強力な分リスクも高く、常に魔力を消費する上に、使用後は使用時間に比例して弱体化してしまう諸刃の剣。

 

 

例のブルータスのような魔物が光輝に向かってメイスを振り下ろす。

 

 

でも、ステータスの上がった光輝はその一撃を受け止めることが出来た。

 

 

「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り裂け 〝光刃〟!」

 

その一撃はその魔物を両断する。

 

 

だけど、その直後魔人族の女が詠唱していることに気付いた。

 

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主 宿るは暗闇見通し射抜く呪い もたらすは永久不変の闇牢獄 恐怖も絶望も悲嘆もなく その眼まなこを以て己が敵の全てを閉じる 残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ! 〝落牢〟!」

 

その詠唱が完了すると、魔人族の掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて私達の方へ飛来した。

 

 

その速度は余り早くなく、私達には危険は少ない様に思えた。

 

 

が、次の瞬間

 

 

「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」

 

「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず!『聖絶』!」

 

 

 切羽詰った野村の指示に鈴が詠唱省略した光系の上級防御魔法を発動する。輝く障壁がドーム状となって敵味方関係なく光輝達全員を包み込んだ。

 

 

直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。灰色の球体は、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかけ、複数体の魔物が一斉に鈴を狙い始めたのだ。

 

 

「鈴!」

 

「谷口を守れ!」

 

 恵里が鈴の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタールモドキを妨害する。鈴を中心に恵里とは反対側でキメラや四つ目狼と戦っていた斎藤良樹と近藤礼一が、野村の呼びかけに応えて鈴の傍に駆けつけようとする。

 

 

 が、〝聖絶〟の維持で動けない鈴に、隙間を縫うようにして黒猫が一気に接近した。野村が、咄嗟に地面から石の槍を発動させて串刺しにしようとするが、黒猫は空中でジグザグに跳躍すると、身をひねりながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。

 

 

「谷口ぃ!」

 

「あぐぅ!?」

 

 野村が鈴の名を呼んで警告するが、時すでに遅し。触手は、咄嗟に身をひねった鈴の腹と太もも、右腕を貫通し、背中から地面に叩きつけられた。

 

 

「あぁああああ!!」

 

「鈴!」

 

余りの痛みに絶叫する鈴と思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ恵里。そして、それがどうしたと言わんばかりに迫る灰色の渦巻く球体

 

 

「全員、あの球体から離れろぉ!」

 

 野村が焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、その警告は遅すぎた。

 

 

それはそのまま地面に着弾すると音もなく破裂し猛烈な勢いで灰色の煙を周囲に撒き散らし、

 

 

近くに居た野村君や他の数人のクラスメイトを呑み込んだ。

 

 

「鈴ちゃん!」

 

「鈴!」

 

「皆!」

 

呑み込まれたクラスメイトに向かって叫ぶ。

 

 

「来たれ 風よ! 〝風爆〟!」

 

光輝が、咄嗟に、突風を放つ風系統の魔法で灰色の煙を部屋の外に押し出す。

 

 

煙が晴れたその先には、完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤君と近藤君。そして下半身を石化された鈴と、その鈴に覆いかぶさった状態で左半身を石化された野村君の姿があった。

 

 

「そんな、鈴!」

 

「野村くん!」

 

「斎藤! 近藤!」

 

「貴様! よくも!」

 

その姿を見て、光輝が怒りの表情で叫ぶ。だが、そんな光輝をストッパーの雫が声を張り上げて諌める。

 

 

「待ちなさい! 光輝! 撤退するわよ! 退路を切り開いて!」

 

「仲間をやられて逃げられるか!!!」

 

光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、雫は柳に風と受け流し、険しい表情のまま光輝を説得する。

 

 

「冷静になりなさい! 悔しいのは私も一緒よ! それに、〝限界突破〟もそろそろヤバイでしょ? この状況で、光輝が弱体化したら、本当に終わりよ!」

 

 今の説得で、冷静さを取り戻したのか光輝はいつもの表情になる。

 

 

「わかった! 全員、撤退するぞ! 雫、龍太郎! 少しだけ耐えて!」

 

「任せなさい!」

 

「おうよ!」

 

二人は光輝の詠唱の時間を稼ぐために敵に立ち向かった。

 




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