あの後、辛くも逃げ切った勇者達は、メルド団長達が居るはずの七十階層に差し掛かっていた。
鈴の傷も何とか塞がっている。石化したクラスメイトも何とか皆で後退しながら運んでいた。
けどそんな時、
「あ、あの!わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」
震えながらも、恵里が言葉を紡いだ。
「何言ってんだテメェ!」
「ヒィっ!?」
龍太郎がすかさず反発し、恵里が怯えた為、雫が間に入り、雫は問返した
「わ、私はただ、皆に死んでほしく無くて………!」
恵理の言葉に私は押し黙る。確かにこのまま戦っても勝ち目は薄い。ならば、従う振りをして生き残る道もアリだというのは子供でも分かる。
「魔人族なんて信用するな!」
「だけどよ、このまま撤退を続けたって、一体何人が生き残れると思ってるんだ!?」
「そうだそうだ!あん時逃げるのに手一杯だったじゃねえか!」
光輝は元檜山組の言葉に何も言い返せない。
「1人でも多く生き残るためには、従うしか無いと思う!」
恵理の精一杯の主張。その言葉に全員が俯いた時、
「お前達は………生き残ることだけ考えろ………!」
メルド団長の声が聞こえた。彼らは僅かな希望を持って振り向いたけど、それは幻想に過ぎなかった。
メルド団長は、血塗れで見るからに満身創痍。剣を杖代わりにして立っているのもやっとの状態だった。
「メルドさんっ!?」
光輝が悲痛な声を上げる。
「これは………最初から私達の戦争だったんだ………!」
メルド団長は精一杯の声で光輝にそう告げるが、
「ッ!?うぐあっ!?」
メルド団長の目が見開かれ、背中から血が噴き出る。同時にメルド団長の背後にあのキメラの魔物と魔人族の女が現れた。メルド団長はゆっくりと地面に倒れる。
「…………すまない」
メルド団長はそう呟くとゆっくりと瞼を閉じて力尽きた。
「メルドさぁああああああああん!!!」
光輝の悲痛な悲鳴。誰もがメルド団長がやられた事に動揺を抑えきれなかった。
「あ………あ、ああ…………あああああああああ!」
その時、光輝の身体に限界突破の輝きが宿る。雫は咄嗟に叫んだ。
「ダメよ光輝! 今〝限界突破〟したら身体が持たないわ!」
雫は叫んだ。でも、今光輝を包む光は今までの『限界突破』とは何かが違っていた。この時の誰もが知る由も無かったけど、それは『限界突破』の派生技能[+覇潰]。
それは基本ステータスの5倍の力を得るものだった。
「貴様だけは……………貴様だけは!!倒す!!!」
光輝は光を纏いながら襲い来る魔物達を切り伏せる。光輝はそれでも一瞬も足を止めずに魔人族の女の元まで踏み込んだ。
「チィ!」
魔人族の女は咄嗟に砂塵の盾を作るけど、大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。その一撃はその砂塵の盾を容易く切り裂き、魔人族の女に深手を負わせ、更に背後の壁まで吹き飛ばした。
「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」
魔人族の女は皮肉気に口にする。光輝は即座にその女の元まで駆けると、止めの一撃をその胸に突き立てんと剣を振りかぶった。魔人族の女はいつの間にか手にしていたロケットペンダントを見つめ、
「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」
「!?」
そんな呟きを漏らす魔人族の女に、光輝は思わず聖剣を止めてしまった。覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく魔人族の女。
光輝の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。
「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」
「ッ!?」
光輝にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだろう。
「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」
「ち、ちが……俺は、知らなくて……」
「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」
「お、俺は……」
「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の1匹がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい? おまえが今までそうしてきたように……」
「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」
―あの馬鹿!―
雫は刀を抜いて出来る限り最速で魔人族の女を『殺す』為に駆ける。
「雫!? 何を!?」
「はぁああああああああっ!!」
雫は深手を負っている今が最後のチャンスと斬りかかる。
「やめろ雫!」
雫の前に光輝が立ちはだかって彼女の剣を受け止めた。
「馬鹿! 邪魔しないで!」
雫は思わず怒鳴るも
「何をしようとしているのか分かっているのか!? 彼女は〝人間〟なんだぞ!?」
光輝は雫がその事を理解していないと思っているのか言い聞かせるようにそう言ってくる。
「そんな事分かってるわよ! それこそ、この『戦争』に参加すると決めたその時からね!」
「なっ!?」
雫の言葉に光輝は驚いている。
「自覚の無い坊ちゃんだね………私達は『戦争』をしてるんだよ!!」
彼らの背後に新たな魔物が現れ、その攻撃で吹き飛ばされてしまう。雫は咄嗟に立ち上がり、光輝も立ち上がろうとしていたけど、ガクンと崩れ落ちた。
「こ、こんなときに!」
おそらく限界突破のタイムリミットだろう。その威力に比例して、光輝は身動きすることもままならないらしい。
雫はそんなことを気にせずに魔人族の女に向けて剣を構える。
「……へぇ。やっぱりあんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」
魔人族の女は白い鳥の固有魔法で回復したらしく、しっかりとした足取りで立っている。
「……そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」
馬頭の魔物は頭上で両手を組み合わせて振り下ろしてきたので、雫はスライディングでその魔物の股下を潜り抜けると、隙だらけになった背後から斬りかかった。
でもその瞬間、その馬頭の魔物の背後に魔方陣が現れ、同じ馬頭の魔物が現れた。
「ッ!?」
その振りかぶって殴りかかってきた拳を何とか刀で防御するけど、その威力は私が防ぎきれるものじゃなかった。
刀が圧し折れ、その拳が私の腹部を捉える。
途轍もない衝撃が私の体を突き抜け、雫は後方に吹き飛ばされて岩の柱を一本砕いて、更にその後ろの岩の柱に激突して止まる。
その瞬間、大量の血が込み上げ思わず吐き出す。
馬頭の魔物はそんなことに構わずに拳を振り上げる。
―動きなさい!こんな所で終わるわけには行かないのよ!香織を助けるためにも!死ねないのに!絶対に勝たなきゃいけないのに!死ぬ!負ける!!死…―
そう思ったその時、走馬灯が走る。
死の直前に
人が走馬灯を見る理由は
一説によると
今までの経験や記憶の中から迫りくる死を回避する方法を
探しているのだと言う
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『ねぇ、雫ちゃん見て!この漫画可愛い剣士さんもいるよ!』
『あ〜それね。確か今流行ってる漫画でしょ?』
それは、日本にいた時。親友が想い人の趣味を理解しようとして漫画とかをあさっていた頃のこと。
『雫ちゃんもこういうの出来る?』
『いや、漫画の技とかを現実で出来るの何でそうそう無いでしょ。確かにリアルに近いけど流石に無理よ………』
『う〜ん………ま、別に出来なくてもいっか!それより雫ちゃん一緒に読もう!』
『はいはい』
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「まだよ!私は……まだ………終われない!!」
雫は重い体に鞭を打って立ち上がり。折れた刀を構え、呼吸を整える。その時、自分の中で何かが変わる。
―何?この感覚は………今までの疲れが嘘みたい―
それは体が軽く思考が晴天の様に透き通る
今、この瞬間。彼女はさっきの走馬灯の中の漫画の知識と友への思いが「剣術」から派生技能として[+透き通る世界]を発現させた。
それにより魔物や魔人族の体内や存在を感じ取れる様になり、雫は急所に一撃一撃を入れていく。
「凄い…………」
誰かがそう呟いた。それもそのはず、今までの苦戦がまるで嘘の様に彼女が圧倒していく
―でも、これなら…………やるしかない!―
雫は未知の感覚に疑問を思考から外し、魔物を全て切り伏せる。そして
「悪いけど、貴方には死んで貰うわ!」
そう啖呵を切った雫は躊躇いなく折れた刀で斬りかかるが女の魔人族は肩にいた白い鳥を盾にしながら距離を取り、ポケットに手を入れる。
「舐めるなぁ!ガキが!」
すると女の魔人族はポケットから小さな銀色の珠を取り出し、そのまま口へ放り込む。
すると魔力が爆発的に膨れ上がり、背中から翼を生やす。それは清水と同じ変化、使徒に変わった。
爆発的な魔力の衝撃波でノックバックを食らい下がる雫。次に視線を転じた時には数万を超える使徒の軍団が降り立っていた。
「行きな、お前ら!」
と、魔人族の指示に従い使徒が一気に迫る。
が、その標的は雫ではなく、その後ろにいるクラスメイト達
「させない!」
と使徒を食い止めようとするもその数の差に追いつけず、何体かはクラスメイトに向かっていく
「もう駄目だ」誰もがそう思ったその時、迷宮の天井を貫く何かが落ちた。
──天より降り注ぐ断罪の光。
そう表現する他ない空と奈落を繋ぐ光の柱。触れたものを、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で使徒を薙ぎ払う。
キュワァアアアアア!!
独特な調べを咆哮の如く世界に響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径一メートルくらいだろうか。光の真下にいた使徒は地面ごと一瞬で蒸発し奈落への大穴を開けた
誰もがこの事態を理解できずに静寂がその場を制す中、天井の大きな穴から一筋の紅い光を纏った何かが走る。
それは、まるで天使なシルエットをしていたが、色合いはまるで悪魔のようだった
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―数分前―
オルクス大迷宮についたハジメは『革新者』系統の技能を全て発動させ
「一気に突っ切るぞ!」
と右手を掲げると上空に大きなレンズが取り付けられた巨大な機体──【ヒュベリオン】が降臨する。
「出力は20%前後。指向性モードの小規模の一点突破」
と、設定を済ませてそれを起動させるとキュイイイイインと言う音を立ててエネルギーがチャージされ、ものの5秒でそれが発射される。
ソレは一分程で迷宮に大穴を開け、ハジメは飛び込んだ。ソレに続くように香織、ユエ、シア、ティオ、遠藤の順で飛び込んで行く。先頭のハジメは【宝物庫】から【フォームチェンジャー】を取り出し、自分の足元へ投げる。ソレをくぐって目的の場所についた時には………機械の翼を背負った天使でも悪魔でも無い「新たなハジメ」の姿があった
次回、魔王と救世主で世界最強『無能/最凶』