必死に感情を押し殺した光輝の声が響く中、その言葉を向けられている当人はというと、まるでその言葉が聞こえていないかのように、スタスタ『フォームチェンジャー』を潜り、元の眼帯黒コートに着替えながら血涙を拭い、香織達の元へ向かうと
「ありがとうハッくん。お疲れ様!」
と労いの言葉をかけながら香織が抱きつく。更に、ユエがその細い腕を精一杯伸ばして二人に抱きつく。
「………ハジメ、香織、オツカレ」
「おう、お疲れ様。ありがとなユエ。頼み聞いてくれて………」
「ありがとう。ユエ」
視線で「気にしないで」と伝えながらも、嬉しそうに目元を綻ばせるユエ。自然、三人の眼差しも和らぎ見つめ合う形になる。
「……三人共、空気読んで下さいよ……ほら、正気に戻って! ぞろぞろ集まって来ましたよ!」
既に病気と言ってもいいくらい、いつも通り三人の世界を作り始めたハジメと香織とユエに、シアがパンパンと手を鳴らしながらツッコミを入れて正気に戻す。周りを見るとメルド団長を含めたクラスメイト達が集まってきた。
「………おい南雲、何故彼女を………「香織! さっきも言ったけど、本当に無事だったのね!」」
光輝の言葉を遮って八重樫さんが白崎さんに駆け寄って改めて再会の感動を噛み締める。
「うん。約束通り、ハッくんと一緒に戻って来たよ!」
「南雲君も無事でよかったわ。生きててくれて安心した………」
「………香織を一人にさせるわけにはいかないからな………運の割合もデカかったとは思うが………意地で生き延びたよ」
と、再会を喜び合ってる所に、水を刺すものが現れる。そう、光輝だ
「……ふぅ、雫は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。香織も、南雲から離れた方がいい」
「ちょっと、光輝! 南雲君は私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」
「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」
「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」
光輝の物言いに、雫が目を吊り上げて反論する。クラスメイト達は、どうしたものかとオロオロするばかりであったが、元檜山組達は、元々ハジメが気に食わなかったこともあり、光輝に加勢し始める。
次第に、ハジメの行動に対する議論が白熱し始めたが、そんな彼らに過冷却水の様に冷たい言葉がかけられる。
「え?なんでハッくんと離れなきゃいけないの?」
と、香織が光輝を蔑む様な目で睥睨する。
「何を言ってるんだ!? 香織! 南雲は人殺しなんだぞ!? そんな奴の傍に香織を置いておけるわけないだろう!?」
「ハッくんが人を殺す所なら何度も見てるよ?それに私も何人か殺したし」
「なっ!?」
香織の言葉に光輝だけではなく、クラスメイト全員が絶句する。
「……………な、なんで人殺しなんて………そんな事を……はっ!そうか!脅されているんだな!」
と、光輝はご都合主義をフル回転で弁解しようとするが
「勝手な事言わないで欲しいな。私は自分の意思でハッくんの傍に居るの」
香織が心外だと言わんばかりにそう言う。
「何故だ!?何故…………」
と光輝が問い続けようとしたが
「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」
「あー、うん、そうだね」
「だな」
絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、光輝達を〝くだらない〟と切って捨てたのはユエだ。その声は、小さな呟き程度のものだったが、光輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた。一瞬で、静寂が辺りを包み、光輝達がユエに視線を向ける。
ハジメは、元々遠藤から話を聞いて、香織のお願いで来ただけなので用は済んでいる。なので、二人の手を引くユエに従い、部屋を出ていこうとした。シアとティオも、周囲を気にしながら追従する。
そんなハジメ達に、やっぱり光輝が待ったをかけた。
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
「……」
光輝が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。
ユエは、既に光輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。光輝は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとした。
このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。
「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」
「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
ハジメから心底面倒です!という表情を向けられ、不機嫌そうにハジメに反論する光輝に取り合わず、ハジメは言葉を続けた。
「誤魔化すなよ」
「いきなり何を……」
「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」
「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」
「敵を殺す、それの何が悪い?」
「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」
「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?──俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら……」
ハジメが一瞬で距離を詰めて光輝の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメの〝プレッシャー〟が発動し周囲に濃密な殺気が大瀑布のごとく降りかかった。息を呑む光輝達。仲間内でもっとも速い雫の動きだって目で追える光輝だったが、今のハジメの動きはまるで察知出来ず、戦慄の表情をする。
「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」
「お、おまえ……」
「勘違いするなよ? 俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。香織のお願いを聞いて来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺には俺の道がある」
それだけ言うと、何も答えず生唾を飲む光輝をひと睨みして、ハジメはドンナーをホルスターにしまった。〝威圧〟も解けて、盛大に息を吐きハジメを複雑そうな眼差しで見るクラスメイト達だったが、光輝は、やはり納得出来ないのか、なお何かを言い募ろうとしたが、そこで言葉は遮られた。
「もう黙っててくれないかな?」
「か、香織………!?」
「ハッくんは必死なの奈落に落ちたあの日から、ずっと。私達を護る為に必死だったの………今回だって私が雫ちゃんを助けて欲しいってお願いしたから動いただけ」
「だからって殺さなくても「敵は殺す。コレはハッくんだけじゃなくて私も一緒なの」!?………」
「もし私がハッくんの立場でも、敵なら私はあの人を殺す。だから………もう黙って」
と、香織から辛辣な言葉をかけられ、更にユエが
「……戦ったのはハジメ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」
冷たい口調で非難するというフルボッコである
「なっ、俺は逃げてなんて……」
「よせ、光輝」
「メルドさん!」
メルド団長が反論しようとする光輝を止めた。そして、ハジメや俺達を見回すと、
「お前達……………すまなかった………!!」
メルド団長は土下座する勢いで頭を下げた。
「あの時………俺はお前達を助けられなかった…………本当にすまなかった………!!」
「それから、お前達が生きていたことを本当に嬉しく思う」
メルド団長は本当に嬉しそうにそう言った。そして、天之河達に向き直ると同じように頭を下げた。
「メ、メルドさん!? どうして、メルドさんが頭を下げるんだ?」
「当たり前だ…………俺はお前達の教育係……………『戦争』をする上で『敵を殺す』ことは避けて通れない問題だ…………本当ならもっと早く盗賊などをけしかけてお前達に『殺す覚悟』を教えるはずだった……………だが、お前達はこの世界とは関係の無い人間だ。俺達の世界の都合でそのような事を教えていいのかとずっと悩んでいて、自分に言い訳をしながら先延ばしにしてしまった………それが今回の結果だ。これは俺のミスだ。本当にすまなかった」
そう言って、再び深く頭を下げるメルド団長に、クラスメイト達はあたふたと慰めに入る。どうやら、メルドはメルドで光輝達についてかなり悩んでいたようだ。団長としての使命と私人としての思いの狭間で揺れていたのだろう。
そんな傍ら、依頼は完了したとばかりにこの場を去ろうとしたハジメ達だが、メルド団長の頼みで勇者パーティーを地上まで護衛することになった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
遡る事、数十分前。ミュウのお守り中のショウとアシストとミュウは━━━━
「上手い事やってるかな〜?」
「そうですね〜」
「みゅ?」
現在、露店でお昼ごはん中。パスタを美味しくいただいている。
「アシストはどう思う?魔人族の事」
「そうですね………清水さんみたいに使徒に━━『使徒化』と名付けましょうか。そんな感じになったとしても今のハジメなら新フォームの「
「うーん、そうなんだけど………その後よ。問題は」
「その後………ああ、確かに」
ショウの懸念する問題。それはアシストの顔だ。元々使徒の体を改造した物だが、顔に関しては一切手を加えていない為、使徒そのまんまなのだ。
「このままだと阿呆之河が間違えて攻撃しそうでな。俺、手加減とかする気は無いし」
「髪色でも変えますか?」
「う〜ん、『銀剣の騎士』って名乗った後だしな〜………そうだ!」
と、ショウは異空間収納から布を一枚取り出し、目にも止まらぬ速さでリボンをいくつか作る。
「髪型変えれば見分けくらいつくんじゃないか?」
「まあ、妥当ですね。ソレはそれでショウの好みの髪型はありますか?」
「あー………う〜ん………」
肝心の所を決めて無かったので何にするか考え始めるショウ。だが、その結論はいつまでも出なかった
「?どうしました………あ!」
「あ、見た?」
心配になったアシストは【ANW】でショウの頭の中を見ると直ぐに分かった。
―どれになろうとアシストカワイイわbyショウ―
「………もう!」
と勝手に見たのに何故か照れるアシスト。めっちゃカワイイです。
「とにかく、目立ちやすいツインテールにしときますよ!」
と、リボンを受け取り少し大きな声で話しながら髪を結ぶアシスト。
「うん、こっちもアリだな………」
「アシストお姉ちゃんカワイイの」
ミュウからも絶賛の可愛さだ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「よし。そろそろ迎えに行くか」
あの後ミュウも「ツインテールにしたい」と言ったのでアシストに結んでもらい、少しショッピングを堪能し、そろそろ片付く時間と確認して、ハジメ達のお迎えに向かった。と言っても空間魔法でオルクス大迷宮の入口前まで転移するだけだ
「あ、ハジメだ!」
「パパぁー!! おかえりなのー!!」
入口がある広場に、ミュウの元気な声が響き渡る。
ミュウはステテテテー! と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきた。
テンプレだと、ロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかり受け止めた。
「ミュウ、迎えに来たのか?いい子にしてたか?」
「ミュ!」
とハジメの顔を見て元気よく返事をするミュウ。するとハジメはミュウの変化に気づいた。
「あれ?ミュウ髪型変えたか?」
「アシストお姉ちゃんに結んで貰ったの!」
「私とお揃いです」
「どうだ、二人とも似合ってるだろ?」
と、話してるのを呆然と聞いていた光輝達。ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然と香織にユエやシア、そしてティオ、更に突然現れたメイドと執事に向き、明らかに邪推をしていた。ハジメが、迷宮で無双した時より驚きの度合いは強いかもしれない。
冷静に考えれば、行方不明中の四ヶ月で四歳くらいの子供が出来るなんて有り得ないのだが、いろいろと衝撃の事実が重なり、度重なる戦闘と死地から生還したばかりの光輝達には、その冷静さが失われていたので見事に勘違いが発生した。
そして、唖然とする光輝達の中からゆらりと一人進みでる。雫だ。雫は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。
「南雲君! どういうことなの!? 本当に南雲君の子なの!? 誰に産ませたの!? 香織!?ユエさん!?シアさん!?ティオさん!?それとも、メイドさん!?まさか、執事さんにっ……………て!蒼君!?ナンデアオイクン!?ちょっと南雲君!!説明しなさい!!!」
ハジメをガクガクと揺さぶりながら雫は問いかける。
「し、雫ちゃん落ち着いてぇ~~~~!」
と香織が諌めながら羽交い絞めにするも、雫には聞こえていないようだ。
そうこうしているうちに、周囲からヒソヒソと噂するような声が聞こえて来た。
「何だあれ? 修羅場?」
「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」
「一人や二人じゃないってよ」
「五人同時に孕ませたらしいぞ?」
「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」
「でも、妻には隠し通していたんだってよ」
「なるほど……それが今日バレたってことか」
「ハーレムとか……羨ましい」
「漢だな……死ねばいいのに」
どうやらハジメは、妻帯者なのにハーレムの主で何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠していた鬼畜野郎という事になったらしい。未だにガクガクと揺さぶってくる雫を尻目に天を仰ぐハジメは、不思議そうな表情をして首を傾げる傍らのミュウの頭を撫でながら深い溜息をついた。
が、問題はそれだけでは無かった
「よくもノコノコと俺達の前に現れたな。蒼!」
光輝が幼稚な睨み顔で怒鳴るが、ショウは無視して雫に執事らしく丁寧な口調で雫に説明を始める。
「一先ずは落ち着き下さい。八重樫様。そちらの少女は我が主が旅の途中で保護し、ギルド支部長からの依頼でエリセンまで送り届ける為同行しているので血縁関係は一つもありません。更に言えば4ヶ月で子供が生まれてここまで育ちませんし、何より種族自体が違いますので」
「え!?そ、そうなの…………」
と、雫は的確な説明を聞いて勘違いと理解した途端、トレードマークのポニテで目元を覆い見事に羞恥で蹲っていた。
「穴があったら入りたい………」
「良ければ、お掘りしますか?」
「例えよ!」
と軽く茶化して、一段落ちつこうとしたら。ショウの背後から3つの人影が現れる。
斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人だ。大方、殺された檜山の仇討ちだろう。
「死ねぇ!檜山の仇!!」
「お前さえ居なければ!!」
「くたばりやがれ!!」
と、ほざくが生憎ショウには攻撃を全て無効化。反射する技能があるので何もしなくても返り討ちに合う
「「「ぐああああああぁぁぁああああ!」」」
と耳障りな声を上げる転がる三人。ソレを見たクラスメイトの誰もが呆然する中、光輝だけがつっかかる。
「蒼!お前何をした!?」
が、当の本人はガン無視して光輝を見さえしない。
「おい!無視をするな!!」
ショウの態度が癪に触れたのか怒鳴り声を上げる光輝。だが関わるだけ時間の無駄なのでほっとくショウ。
だが、このままだと無限ループでしかない。ソレを見かねたハジメはため息をつきながら言う
「ショウ。無視しないで話してやれ」
「………御意」
とショウは光輝の方を向き、先程とは態度を変え、傲慢かつ不遜な口調で話しかける
「で?何の用だ?勇者(笑)」
「何の用だじゃない!斎藤達に何をしたと聞いているんだ!」
「ああ、俺は何もしてねえよ。アイツ等が攻撃して、それが反射されて、勝手にのたうち回ってるだけだろ?」
と、ごもっともな説明をするが光輝はまだくいかかる。
「だとしても仲間にこんな事を「え?誰が仲間だって?」ッ!」
「多分ハジメにも言われてると思うけどアンタらは仲間じゃねえし、仲間だと思われたくもない」
ショウは「それに」と続ける。
「正直言えば、アンタらほっといても別に良かったけど白崎はんが八重樫はん助けたいって言ったからハジメが助けに来たんだし、あんたらはそのオマケどころかそのおこぼれを貰って生きてる身なんだから。もう少し立場をわきまえたらどうなんだい?守ると言いながら何も守れない勇者(笑)君」
と、全てを見下す様な目で光輝を蔑み、笑いながらそう言う。
「……だが、お前がした事はそれだけじゃない!お前は檜山を「
と怒鳴る光輝だが、ショウはスラスラと答える
「じゃあなんでハジメを殺そうとした檜山は許されて、俺は駄目なんだ?」
「話をそら「内容は合ってんだよ馬鹿が」ッ!」
「アイツはハジメを殺そうとした。だから殺した。1+1=2よりも簡単な原理だぞ?」
かなりの暴論ではあるが、彼にとってはハジメは恩人にして今の彼を作り上げる上で重要な存在。言わば彼の全てと言っても過言では無い。
「いい加減現実を見ろ。ここは異世界で日本の常識は通じない。誰かが誰かを殺す事で成り立っているクソッタレな世界だ。話はこれで終わりだ」
と、会話を打ち切り、ハジメの元へ歩み寄る
「おい、ま「『もう黙れ』」」
天之河が懲りずに叫ぼうとした瞬間、『言霊』で口を塞ぐ。
「あ、忘れてた」
と、ショウは何かを思い出したかの様にその足をメルド団長の方へ運ぶ
「ど、どうしたんだ。ショウ」
メルド団長の表情は固く、緊張している様だった。
「団長、冤罪時の猶予を作っていただき、ありがとうございました」
と、俺は深々と頭を下げる。その光景に団長やクラスメイト達は驚く。
「お、おい、何を言ってるんだ!」
「団長が猶予を作ってくれたお陰で、俺は城を出てハジメを助けに行くことが出来ました。この借りはいつか必ず返します」
団長が慌てる中、ショウは感謝の言葉を残してその場を後にした。
そうこうして、旅立とうとしたその時、何かを決意したように雫が顔を上げてハジメ達に駆け寄って来た。
「待って!」
そう言ってハジメ達を呼び止める。
「何?雫ちゃん。いくら雫ちゃんに言われても私達は行くよ」
「ううん、違う!止めるつもりは無いわ!だから………私も連れてって!」
雫が信じられないことを言いだした。
「えっ!? 雫ちゃん!?」
流石の香織も予想外だったのか、驚愕の表情で声を漏らす。
「皆には勝手言って悪いんだけど、私は香織達の傍に居たいの」
「勇者(笑)の事は良いのか?」
と、ショウは問いかけたら、雫は首を縦に振って答える。
「ええ、あんな奴もういいのよ。光輝は二人が居なくなってからは香織『だけ』の生存は疑ってなかったわ。南雲君のことはあっさりと見限った癖に、強くなった途端に仲間とか言い出したり、蒼君の言い分を聞かずに悪と決めつけて罰しようとしたり、挙句に私達を助ける為に『殺す』という行為からも逃げたり………もううんざりなの!あんなの、私の手には負えないわ!!」
「八重樫はんに見捨てられるとか………終わってんな。勇者(笑)」
「何か、闇落ち復讐物のラノベの序盤の様な展開だね………」
「……消す?」
「いいですね。やりましょう!」
「待て待てお主ら、気持ちはわからんでもないが抑えんか。それではせっかくご主人様が生かしといた意味が無かろう」
と、『雷龍』をすてんば〜いするユエとドリュッケンで肩をトントンし始めたシアをなだめるティオ。その姿からは竜人らしい思慮の深さが伺える。本当にケツパイルで悦んでた変態なのだろうか?
それは置いといて、雫はハジメの方を向くと、再び頼む
「だからお願い。私も連れて行って………」
「連れてけと言われてもな…………」
ハジメが困った顔をする。八重樫さんの実力を考えると、大迷宮攻略に連れて行くのは不安が残るからだろう。ショウが「ミュウちゃんと一緒に面倒みるよ?」と提案するが、乗り気では無いハジメ。未だ迷っているハジメを見ると、雫が近付き
「………連れてってくれないと……大変な事になるわよ?」
「? 大変なこと? 何が………」
「〝白髪義眼の処刑人〟なんてどうかしら?」
「……は?」
「それとも、〝破壊巡回〟と書いて〝アウトブレイク〟と読む、なんてどう?」
「ちょっと待て、お前、一体何を……」
「他にも〝終焉の暴虐〟とか〝煌めく紅翼の錬成師〟なんてのもあるわよ?」
「お、おま、お前、まさか……」
突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。
「ふふふ、今の私は〝神の使徒〟で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」
「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」
「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を〝ちゅうに……〟」
「やめろぉー! やめてくれぇ!」
「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」
「こ、この悪魔めぇ……」
既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を突いているハジメ。蘇るのはリアル中学生時代の黒歴史。記憶の奥深くに封印したそれが、「呼んだ?」と顔をひょっこり覗かせる。
「ふふ、じゃあ、連れて行って?」
「……」
「ふぅ、
「わかった! わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」
「じゃあすぐに荷物纏めてくるから! その間に出発したりしたら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」
「おまえ、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」
「え?駄目なの?俺、ハジメを題材にしたギャルゲー作って、
「おい、裏ボス!マジで止めろよ!父さんに関しては洒落にならねぇからな!!」
羞恥心に大打撃をくらい発狂寸前となって頭を抱えるハジメ。そんなハジメを少し離れたところから見ていたユエ達や他のクラスメイト達は、圧倒的強者であるハジメを言葉だけで跪かせた雫とショウに戦慄の表情を浮かべた。
ハジメが、己の中の黒歴史と現在の自分の見た目に対するあれこれと戦っていると、雫がパタパタと足音を鳴らして戻ってきた。そして、雫の前で項垂れるハジメを見て目を丸くする。
雫の事が気になって詳細を聞きに来たユエと香織が情報を交換する。ユエは、どうにも気心知れたやり取りをした挙句、言葉責めでハジメを下した雫に「むぅ~」と唸り、香織は、そう言えば、二人でこっそり話している事がよくあったような……とハジメと雫の二人を交互に見やる。そして二人は結論を出した。もしかして、女の戦いでもラスボス? と。
名状しがたい表情のユエと香織を気にしつつ、いよいよ出発するハジメ達。恵里や鈴など女性陣と永山のパーティー、それに報告を済ませて駆けつけたメルド団長が見送りのためホルアドの入口に集まった。そして、ハジメが取り出した魔力駆動四輪や俺のディスティバーンフォームとアシストの翼に、もはや驚きを通り越して呆れた視線を向ける。
「さあ、『救世主と行く。日本への帰還ツアー』に1名様ご案な〜い」
「それ今思いついただろ」
「うん」
とふざけながらも、次の街へと出発した。
が、この時彼等は知らなかった。
これをキッカケに、新たな神の使徒が現れる事を………
サブタイに特に意味は無い