魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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砂漠の国アンカジ公国

 

 

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 

どうやらこのビィズと名乗った男は結構な大物だったようだ。

 

ビィズ曰く、四日前、アンカジにおいてオアシスの汚染が原因で、高熱を発し倒れる人が続出し、国がピンチらしい

 

 

その為ビィズがゼンゲン公の代理として、救援要請直接救援要請をする必要があった。

 

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

 治りたてで力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。護衛をしていた者達も、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

 

 僥倖だったのは、サンドワーム達が、おそらくこの病を察知して捕食を躊躇ったことだ。病にかかったがゆえに力尽きたが、それゆえにサンドワームに襲われず、結果、ハジメ達と出会うことが出来た。人生、何が起きるかわからないものである。

 

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 

 

そう言って深く頭を下げた。領主代理が、そう簡単に頭を下げるべきでないことはビィズ自身が一番分かっているのだろうが、降って湧いたような僥倖を逃してなるものかと必死なのだろう。

 

 

 全員の視線がハジメを向く。決断はハジメに任せるということなのだろうが、香織とユエとティオとアシスト以外は、皆、その眼差しの中に明らかに助けてあげて欲しいという意思が含まれていた。懇願するような眼差しが向けられている。ミュウは、もっと直接的だ。

 

 

「パパー。たすけてあげないの?」

 

 そんなことを物凄く純真な眼差しで言ってくる。ハジメなら、何だって出来ると無条件に信じているようだ。ミュウにとって、ハジメは、紛れもなくヒーローなのだろう。そんなミュウの眼差しに、ハジメは「しょうがねぇな」と苦笑い気味に肩を竦めた。

 

 

 ユエとシアとティオは、そんなハジメに「ふふ」と笑みをこぼしている。雫もハジメの行動に安堵する。ハジメが、ふと傍らの香織を見ると、彼女は……いつも通りだ。ハジメが、どんな選択をしても己の全てで力になる。言葉にしなくても香織の気持ちはハッキリ伝わった。ハジメは、そっと香織の頬をひと撫ですると、ビィズに向かって了承の意を伝えた。

 

 

もともと、【グリューエン大火山】行く際に、ミュウはアンカジに預けていこうと考えていた。いくら何でも、四歳の幼子を大迷宮に連れて行くのは妥当ではない。感染症に関しては、そもそも大体の問題を解決可能なショウがいるのでミュウのお守りを頼みながら全員治療で粗方問題無いだろう。

 

 

そう考えてハジメがミラー越しにショウを見ると、彼は良い笑顔を浮かべながらサムズアップしていた

 

 

 

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赤銅色の砂が舞う中、たどり着いたアンカジは、中立商業都市フューレンを超える外壁に囲まれた乳白色の都だった。外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

 

 

 ただ、フューレンと異なるのは、不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登っており、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成していることだ。時折、何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がり、まるで水中から揺れる水面を眺めているような、不思議で美しい光景が広がっていた。

 

 

 どうやら、このドームが砂の侵入を防いでいるようだ。月に何度か大規模な砂嵐に見舞われるそうだが、このドームのおかげで曇天のような様相になるだけでアンカジ内に砂が侵入することはないという。

 

 

 ハジメ達は、これまた光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。砂の侵入を防ぐ目的から門まで魔法によるバリア式になっているようだ。門番は、魔力駆動四輪を見ても、驚きはしたがアンカジの現状が影響しているのか暗い雰囲気で覇気もなく、どこか投げやり気味であった。もっとも、四輪の後部座席に次期領主が座っていることに気がついた途端、直立不動となり、兵士らしい覇気を取り戻したが。

 

 

 アンカジの入場門は高台にあった。ここに訪れた者が、アンカジの美しさを最初に一望出来るようにという心遣いらしい。

 

 

 確かに、美しい都だとハジメ達は感嘆した。太陽の光を反射してキラキラときらめくオアシスが東側にあり、その周辺には多くの木々が生えていてい非常に緑豊かだった。オアシスの水は、幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。町のいたるところに緑豊かな広場が設置されていて、広大な土地を広々と利用していることがよくわかる。

 

 

 北側は農業地帯のようだ。アンカジは果物の産出量が豊富という話を証明するように、ハジメが〝遠見〟で見る限り多種多様な果物が育てられているのがわかった。西側には、一際大きな宮殿らしき建造物があり、他の乳白色の建物と異なって純白と言っていい白さだった。他とは一線を画す荘厳さと規模なので、あれが領主の住む場所なのだろう。その宮殿の周辺に無骨な建物が区画に沿って規則正しく並んでいるので、行政区にでもなっているのかもしれない。

 

 

 砂漠の国でありながら、まるで水の都と表現したくなる……アンカジ公国はそんなところだった。

 

 

 だが、普段は、エリセンとの中継地であることや果物の取引で交易が盛んであり、また、観光地としても人気のあることから活気と喧騒に満ちた都であるはずが、今は、暗く陰気な雰囲気に覆われていた。通りに出ている者は極めて少なく、ほとんどの店も営業していないようだ。誰もが戸口をしっかり締め切って、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているかのような、そんな静けさが支配していた。

 

 

「……ハジメ殿や皆様にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間がない。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

 一行は、ビィズの言葉に頷き、原因のオアシスを背にして進みだした。

 

 

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「父上!」

 

「ビィズ! お前、どうしっ……いや、待て、その方は誰だ!?」

 

 

 ビィズの顔パスで宮殿内に入ったハジメ達は、そのまま領主ランズィの執務室へと通された。衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

 

 

 そんなランズィは、一日前に救援要請を出しに王都へ向かったはずの息子が帰ってきたことに驚きをあらわにしつつ、その息子の有様を見て、ここに来るまでの間に宮殿内で働く者達が見せたのと全く同じ様に目を剥いた。

 

 

 無理もない。なにせ、現在ビィズは、ショウにおんぶされている。

 

 

 執事(本職:救世主)に背負われる微妙に情けない姿でありながらも、事情説明を手早く済ませるビィズ。話はトントン拍子に進んだ。

 

 

「じゃあ、動くか。俺とショウはオアシスの浄化に向かう。香織達は医療院と患者が収容されている施設へ。魔晶石も持っていけ」

 

ハジメがメンバーに指示を出す。ハジメ達のやることは簡単だ。香織が、『廻聖』と言う魔法を使って、患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、『万天』で病の進行を遅らせてショウが来るまで患者を持たせる。その間にショウが『滅魔』でオアシスの汚染を浄化する

 

 

 ハジメの号令に、全員が元気よく頷いた。

 

 

 

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現在、領主のランズィと護衛や付き人多数、そしてハジメ、ショウはオアシスの前に来ていた。

 

 

オアシスは、相変わらずキラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えなかった。

 

 

 しかし……

 

 

「……ん?」

 

「ハジメ、気づいたか?」

 

 二人が、眉をしかめてオアシスの一点を凝視する。様子の変化に気がついたユエがハジメに首を傾げて疑問顔を見せた。

 

 

「ああ。今、魔眼石に反応があったような……領主。調査チームってのはどの程度調べたんだ?」

 

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

 

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

 

「? いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

 ランズィのいうアーティファクトとは〝真意の裁断〟といい、実は、このアンカジを守っている光のドームのことだ。砂の侵入を阻み、空気や水分など必要なものは通す作用がある便利な障壁なのだが、何を通すかは設定者の側で決めることが出来る。そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る。その探知の設定は汎用性があり、闇系魔法が組み込まれているのか精神作用も探知可能なのだ。

 

 

 つまり、〝オアシスに対して悪意のあるもの〟と設定すれば、〝真意の裁断〟が反応し、設定権者であるランズィに伝わるのである。もちろん、実際の設定がどんな内容かは秘匿されており領主にしかわからない。ちなみに、現在は調査などで人の出入りが多い上、既に汚染されてしまっていることもあり警備は最低限を残して解除されている。

 

 

「……へぇ。じゃあ、あれは何なんだろうな」

 

 

 アンカジ公国自慢のオアシスを汚され、悔しそうに拳を握り締める姿は、なるほど、ビィズの父親というだけあってそっくりである。そんなランズィを尻目に、ハジメは、口元を歪めて笑った。ハジメの魔眼石とショウの全事象把握には、魔力を発する〝何か〟がオアシスの中央付近の底に確かに見えていたのだ。

 

 

 あるはずのないものがあると言われランズィ達が動揺する。そんな中でハジメがショウに命じる。

 

 

「ショウ。そいつを釣れ」

 

「御意」

 

 ショウは新たな札を切る。【フォームチェンジャー】をくぐり抜けたショウの姿はまたも一新。

 

 

下から順に茶色いブーツに黒のカーゴパンツを蛇のベルトで止め。上半身はジュストコールを素肌の上から纏い、指ぬきグローブと指輪や首飾りにピアス等の装飾品を身に付け、頭には髑髏マークが刺繍された三角帽子(所要、海賊帽)を被り、その背中には錨をモチーフにした釣り針が付けられた釣竿を背負っている。

 

 

これぞ、ショウの第7のフォーム【波乗海賊(WAVE パイレーツ)】だ。

 

 

「さーてと。キミ、俺に釣られて見る?」

 

そう何処ぞのキザな青い亀みたいな台詞を吐きながら釣竿を手にし、針を飛ばす。そのままリールを回して糸を伸ばし、水中へどんどん沈める。

 

 

そして、オアシスの底にいる〝何か〟と接触。

 

 

「ヒット」

 

ショウがそう呟くと釣竿の持ち手から魔力を流し、釣竿に付与されている『纏雷』を発動し、

 

 

バチバチバチバチバチバチ!

 

 

オアシスごと〝何か〟に電撃を浴びせる。

 

 

シュバ!

 

 

 風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかった。咄嗟に、ハジメはドンナー・シュラークで迎撃し水の触手を弾き飛ばす。

 

 

 何事かと、オアシスの方を見たランズィ達の目に、驚愕の光景が飛び込んできた。

 

 

ショウの電撃に怒りをあらわにするように水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったのである。

 

 

「なんだ……これは……」

 

 

 ランズィの呆然としたつぶやきが、やけに明瞭に響き渡った。

 

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