【グリューエン大火山】
それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけで。
この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。
その原因は、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。
しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。
…………一部例外を除いては
その砂嵐の壁を物ともせず進む人影、否。それは人影と言うには余りにも武骨で大きくかった。
地面を力強く踏みしめる車輪のついた太い足。まるでゴムの様にしなやかで固い3本の指を持つゴツい腕。進を覆う黒い金属。こちらの言葉で言う「トランスフ○ーマー」の様な存在であろう。
が、その正体は──
「………ハジメさん、この車どうなってるんですか?」
「俺とショウがロマンを積めれるだけ詰め込んだ過載機だ。」
魔王と救世主が遊びまくった結果何か凄い事になった魔動四輪である。
正直な所、「アンタら何やってんの!?」と突っ込みたい所だが、これがまた滅茶苦茶強いのである。
ショウ作成の分解砲撃だけでなくミサイルにパイルバンカー。さらに攻撃反射結界までついて魔力はハジメから無限供給と隙が全くない。更に中は空間魔法で見た目以上に広く、暖冷完備でマジで快適である。
やがて、たどり着いた頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。
そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長十メートルほどの岩石である。
ハジメ達は、その場所にたどり着くと魔動四輪を降り、アーチ状の岩石の下に【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。ハジメは、階段の手前で立ち止まると肩越しに背後に控える香織、ユエ、シア、ティオ、雫の顔を順番に見やり、自信に満ちた表情で一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。
「やるぞ!」
「うん!」
「んっ!」
「はいです!」
「うむっ!」
「ええ!」
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【グリューエン大火山】の内部構造は、他の大迷宮よりもヤバかった。
まず、マグマが宙を流れている。亜人族の国フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。
また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。
しかも、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。普通なら、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだ。
そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ──もとい熱だ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だ。
のだが──
「ねぇハッくん。この装備どうなってるの?」
「……マグマの暑さが感じられない」
「すっごい快適ですぅ!こんなに楽して良いんでしょうか?」
「マグマの熱で悶えられ無いのは残念じゃが、冷静に考えるとこのアーティファクトとんでもないのじゃ」
「南雲君、聞きたくは無いのだけれど………説明求むわ?」
と女性陣から新装備への疑問の声が上がる。
それぞれの装備を解説していくと、人形の方の神の使途のソレとはまた違うベクトルの黒い戦衣装にそれぞれの装飾がされていた。
香織には薄黒にハジメの魔力光の様な紅い宝石で装飾されたディアラにガーターベルトと一体になっているホルスター。右腕にはハジメの義手に酷似したデザインのガントレット、左手の薬指に指輪が嵌められている。
ユエには胸元に深紅のブローチが付き、袖は分割しフリルがあしらわれている。スカートは一回り大きくなり、鎧を彷彿とさせるような黄金のプレートを纏い、赤いマントを身に付けていた。もちろん、左手の薬指には指輪をつけている
シアにはウサギの横顔が向かい合っているデザインの赤いサングラスに青みがかった白い軽装。そして、腰の辺りには大剣の様な物が追加されている。
ティオにはいくつかの装甲がついているがソレを繋ぐ様に血の様な赤い導線が接続されており、胸部の中央には地球に似た絵が描かれていた。
雫には戦衣装の上から黒に赤いラインの羽織に刀が2本装備されていて、靴の代わりに足袋と草履でかなり和風テイストになっている。
「ああ、ショウ曰く【
「まって!今王妃って言わなかった!?」
雫は、装備の機能より名前の単語に反応したが、ハジメはスルーしつつ、話題を変えようとした。
「ま、名前はともかく。ショウのびっくりチェンジと比べたら霞んで見えるかもしれないがアイツのはお前らのとはまたベクトルが違うから気にするな」
「そう言えばショウさんってフォームチェンジしたらガラッと戦い方が変わりますぅ。アレって何でですか?」
シアがショウのフォームチェンジについて疑問を持つ。
「あ?そう言えば知らなかったか?アイツのフォームチェンジの理由」
「え?アレってロマン的なのじゃないの?」
「…ん」
「確かにそれもあるが………ロマンは3割位だ」
ハジメの言葉に香織達は驚きながらハジメは続ける
「アイツは技能の数がとんでもない位多い。それで手札に迷う事がある。だから、合えて絞る事で戦い易くしているんだ」
「………因みに、どのくらいあるのかしら?」
「確か派生抜きで22個。それも含めたら50は余裕で越える」
「………」
八重樫さん、あまりのチートっぷりに絶句。偽装状態の頃の面影が一つも無くてかなり引き吊った表情をしていた。
「ってな感じでロマン三割、実用六割、後付け様に一割残して出来たのがあのフォームチェンジャーだ」
「多分、全部乗せだね」
「……遺影」
「いえ、仏壇ですぅ!」
「意外と見た目が変わらぬかものう」
「いや、ショウの最終フォーム予想大会開くなよ。それに、まだ作って無いし」
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「っへくちゅ!」
「こんな暑い所で風邪ですか?」
「いや、多分違うと思うけど………」
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大迷宮の道中で装備をならしながら進む一向。先へ進んで行くと、明らかに今までと雰囲気の異なる場所にたどり着いた。
「……あそこが住処?」
ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。
「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だね……でも、そうなると……」
「最後のガーディアンがいるはず……じゃな? ご主人様よ」
「ああ、一応正規ルートの筈だが………どっかに見落としがあったのか………?」
と警戒しつつも見落としが無いか思考を巡らせるハジメ。それが正しかった事は、直後、宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸のごとく飛び出してくるという形で証明された。
「むっ、任せよ!」
ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマの海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊が相殺された。
しかし、その攻撃は唯の始まりの合図に過ぎなかったようだ。ティオの放った炎塊がマグマと相殺され飛び散った直後、マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンのごとく炎塊が撃ち放たれたのだ。
「ちっ、散開だ!」
このままでは、今いる場所に釘付けにされると判断したハジメは、近くの足場に散開するように指示を出した。凄まじい物量の炎塊が一瞬前までハジメ達がいた小舟を粉砕し、マグマの海へと沈めていく。
ハジメ達は、それぞれ別の足場に着地し、なお、追ってくるマグマの塊を迎撃していった。迎撃そのものは切羽詰るというほどのものではなかったのだが、いつ終わるともしれない波状攻撃に苛立たしげな表情を見せるハジメ達。
そんな状況を打開すべく、ハジメは、ガンスピンしてドンナー・シュラークのリロードを終えると同時に、振り返らず肩越しにシュラークの銃口を真後ろに向けた。そして、前方に向けた義手の肘から散弾を発射してマグマの塊を迎撃しつつ、背後で香織に迫っていたマグマの塊を、シュラークの連射で撃ち落とした。
遠くにいるユエに視線を飛ばすハジメ。それを瞬時に読み取ったユエは重力魔法を発動する。
「『絶禍』」
響き渡る魔法名と共にハジメ達五人の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せていった。黒き小さな星は、呑み込んだ全てを超重力のもと押し潰し圧縮していく。
ユエの魔法により炎塊の弾幕に隙ができ、ハジメは、『空力』で宙を跳ぶと一気にマグマドームのある中央の島へと接近した。
ハジメ達を襲う弾幕で一番厄介なのは、止める手段が目に見えないことだ。場所的に、明らかに【グリューエン大火山】の最終試練なのだが、今までの大迷宮と異なり目に見える敵が存在しないので、何をすればクリアと判断されるのかが分からない。そのため、もっとも怪しい中央の島に乗り込んでやろうと、ハジメは考えたのである。
ハジメは、中央の島へと宙を駆けながら『念話』を使う。
─中央の島を調べる。香織はこっちに、他は援護を頼む─
─うん!─
─了解─
ユエの『絶禍』の効果範囲からマグマの塊がハジメを襲うが、そうはさせじとティオがマグマの海より無数に炎弾を飛ばして迎撃し、シアもドリュッケンを戦鎚に展開せずショットガンモードで迎撃していく。ユエは、『絶禍』を展開維持。雫は【魔王妃】の刀に魔力を流し、斬撃を飛ばしてマグマを落としていく。
ユエ達の援護をもらって、一直線に中央の島へと迫ったハジメ達は、『空力』による最後の跳躍を行い飛び移ろうとした。
だが、その瞬間、
「ゴォアアアアア!!!」
「「ッ!?」」
そんな腹の底まで響くような重厚な咆哮が響いたかと思うと、宙を飛ぶハジメの直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。
全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからない。また、マグマの海全体に魔力が満ちているようなので魔力感知にも引っかからなかったことから、完全な不意打ちとなった巨大なマグマ蛇の攻撃。
しかし、ハジメは超人的な反応速度で体を捻り易々とその顎門による攻撃を回避した。
「ハッくん!」
一瞬前までハジメがいた場所を、マグマ蛇がバクンッ! と口を閉じながら通り過ぎる。近くに居た香織が銃口を離れていくマグマ蛇の頭に照準し発砲した。必殺の破壊力を秘めた閃光が狙い違わずマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばす。
「えっ!?」
しかし、上がった声はマグマ蛇の断末魔ではなく、香織の驚愕の声だった。
当然、その原因は、マグマ蛇にある。なんと、マグマ蛇の頭部は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。今までの【グリューエン大火山】の魔物達は、基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。断じて、マグマだけで構成されていたわけではない。
ハジメ達は直ぐに立ち直ると、物は試しにと頭部以外の部分を滅多撃ちにした。幾条もの閃光が情け容赦なくマグマ蛇の体を貫いていくが、やはり、どこにも肉体はなかった。どうやら、このマグマ蛇は、完全にマグマだけで構成されているらしい。
二人は驚きつつも、取り敢えず、体のあちこちを四散させたことでマグマ蛇を行動不能に出来たので、その脇を通り抜け『空力』で中央の島へ再度跳ぼうとした。
だが、マグマ蛇の攻撃は、まだ終わっていなかったらしい。ハジメが、脇を抜けようとした瞬間、頭部を失い体中を四散させておきながらも突如身をくねらせ香織に体当たりを行ったのだ。
香織は、ガントレットのショットシェルを激発させ、その反動で体を流しギリギリ回避に成功した。と、その時、香織の背筋を悪寒が駆け抜けた。香織は、本能に従って、間髪入れずガントレットのショットシェルを連続して激発させながら、『空力』も併用してその場を高速で離脱する。
すると、ハジメの軌跡を追うようにしてマグマの海からマグマ蛇が次々と飛び出し、その巨大な顎門をバクンッ! バクンッ! と閉じていった。
香織は、宙をくるくると回りながら後退すると近くの足場に着地する。その傍にハジメやユエ達もやって来た。香織が襲われている間に、炎塊の掃射は一時止んだようだ。
「香織、無事か?」
「うん、大丈夫だよ。それより、ようやく本命が現れたね」
「らしいな」
敵から目を離さずに安否を確認するハジメに、香織は前方から目を逸らさずに応える。その二人の目には、ザバァ! と音を立てながら次々と出現するマグマ蛇の姿が映っていた。
「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」
「でも、さっきハジメさん達が撃った相手、普通に再生してますよ? 倒せるんでしょうか?」
遂に二十体以上のマグマ蛇がその鎌首をもたげ、ハジメ達を睥睨するに至った。最初に、ハジメや香織から銃撃を受けたマグマ蛇も、既に再生を終え何事もなかったかのように元通りの姿を晒している。
シアが、眉をしかめてその点を指摘した。ライセン大迷宮のときは、再生する騎士に動揺していたというのに、今は、冷静に攻略方法を考えているようだ。それを示すようにウサミミがピコピコと忙しなく動き回っている。ハジメは、随分と逞しくなったものだと苦笑いしつつ、自分の推測を伝えた。
「おそらく、バチュラム系の魔物と同じで、マグマを形成するための核、魔石があるんだろう。マグマが邪魔で俺の魔眼でも位置を特定出来ないが……コイツなら場所が分かる」
そう呟くとハジメの瞳が黄金に輝く。『革新者』の派生技能[純粋種]による輝きだ。効果は『革新者』の他の派生を見たら察する通りである。
ハジメの言葉に全員が頷くのと、総数二十体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。
マグマ蛇達は、まるで、太陽フレアのように噴き上がると頭上より口から炎塊を飛ばしながら急迫する。二十体による全方位攻撃だ。普通なら逃げ場もなく大質量のマグマに呑み込まれて終わりだろう。
「久しぶりの一撃じゃ! 存分に味わうが良い!」
そう言って揃えて前に突き出されたティオの両手の先には、膨大な量の黒色魔力。それが瞬く間に集束・圧縮されていき、次の瞬間には、一気に解き放たれた。竜人族のブレスだ。
前回はショウの反射で分かり難かったが、恐るべき威力を誇る黒色の閃光は、ティオの正面から迫っていたマグマ蛇を跡形もなく消滅させ、更に横薙ぎに振るわれたことにより、あたかも巨大な黒色閃光のブレードのようにマグマ蛇達を消滅させていった。
一気に八体ものマグマ蛇が消滅し、それにより出来た包囲の穴から、ハジメ達は一気に飛び出した。
流石に、跡形もなく消し飛ばされれば、魔石がどこにあろうとも一緒に消滅しただろうと思われたが、そう簡単には行かないのが大迷宮クオリティーだ。
ハジメ達が数瞬前までいた場所に着弾した十二体のマグマ蛇は、足場を粉砕しながらマグマの海へと消えていったものの、再び出現する時には、きっちり二十体に戻っていた。
「まだ来るってことはただ倒すって訳じゃねぇな………」
ハジメはティオのブレスがマグマ蛇に到達した瞬間から『革新者』系統を全て発動し、跳ね上がった動体視力と直感で確かにマグマ蛇の中に魔石がありブレスによって消滅した瞬間を確認したのである。
ハジメが迷宮攻略の方法に疑問を抱いていると、シアが中央の島の方を指差し声を張り上げた。
「ハジメさん! 見て下さい! 岩壁が光ってますぅ!」
「ほう?………なるほどな」
言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだ。
ハジメが確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。そして、現在、光を放っている鉱石は八個……先程、ティオが消滅させたマグマ蛇と同数だ。
「このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」
「あの暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってるね」
「温度管理機能があるから暑さの意味が………」
「………意外と簡単?」
「やっぱりショウさんチートですぅ!」
「これはクリアしても神代魔法貰えるのかのう?」
本来ならただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。大迷宮に相応しい嫌らしさと言えるだろう。
しかし、熱が温度管理で仕事していない以上、この程度何とでもないと全員が不敵な笑みしか浮かんでいなかった。
そうして全員が、やるべき事を理解して気合を入れ直した直後、再び、マグマ蛇達が襲いかかった。マグマの塊が豪雨のごとく降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。
ハジメ達は再び散開し、それぞれ反撃に出た。
ティオが竜の翼を背から生やし、そこから発生させた風でその身を浮かせながら、真空刃を伴った竜巻を砲撃の如くぶっ放す。風系統の中級攻撃魔法『砲皇』だ。
「これで九体目じゃ! 今のところ妾が一歩リードじゃな。ご主人様よ! 妾が一番多く倒したらご褒美お仕置きを所望するぞ! もちろん、二人っきりで一晩じゃ!」
九体目のマグマ蛇を吹き飛ばし切り刻みながら、そんな事をのたまうティオ。呆れた表情で拒否しようとしたハジメだったが、シアがそれを遮る。
「なっ! ティオさんだけずるいです! 私も参戦しますよ! ハジメさん、私も勝ったら一晩ですぅ!」
そんな事を叫びながら、シアは、跳躍した先にいるマグマ蛇の頭部にドリュッケンを上段から振り下ろした。インパクトの瞬間、淡青色の魔力の波紋が広がり、次いで凄絶な衝撃が発生。頭部から下にあるマグマの海まで一気に爆砕した。弾けとんだマグマ蛇の跡にキラキラした鉱物が舞っている。『魔衝波』の衝撃により砕かれた魔石だ。
一体のマグマ蛇を屠った空中のシアに、背後からマグマの塊が迫る。シアは、ドリュッケンを激発させ、その反動で回避した。しかし、それを狙っていたかのように、シアが落ちる場所にマグマ蛇が顎門を開いて襲いかかる。
しかし、シアは特に焦ることもなく、腰の大剣を抜き手首をスナップする。すると、刀身が傾き、銃身が現になる。シアはそのまま引き金を引くと、射ち出された漆黒の球がマグマ蛇を押し潰す。
シア専用【魔王妃】フォーム追加武装アーティファクト『タンクバスター』
ショウ考案の大砲仕込みの大剣で重力魔法を付与しており、発射と同時に銃口先の広範囲を潰すだけでは無く。大剣状態で扱うと剣自体の重量を自在操れる為、動くときは重量を下げて身軽に、インパクトの瞬間に重量を上げる事で一刀両断の破壊力を誇るシアの新たな装備である。
因みに、名前の「
「おい、コラ。お前ら、なにかって……」
「……なら、私も香織と三人で一日デート」
「私も!?」
ハジメは、ティオとシアの勝手な競争にツッコミを入れようと口を開いたが、それを遮ってユエも討伐競争に参戦の意を示した。夜のアレコレは別として、最近仲間が増えてめっきりと減ってしまった三人の時間を丸一日欲しいらしい。
ユエは、楽しみという雰囲気を醸し出しながら、しかし、魔法についてはどこまでも凶悪なものを繰り出した。最近十八番の『雷龍』である。
ただし、熟練度がどんどん上がっているのか、出現した『雷龍』の数は十体。それをほぼ同時に、それぞれ別の標的に向けて解き放った。雷鳴の咆哮が響き渡る。ユエに喰らいつこうとしていたマグマ蛇達は、逆にマグマの塊などものともしない雷龍の群れに次々と呑み込まれ、体内の魔石ごと砕かれていった。
「ハッくん、私も参加してきて良い?」
「……もう勝手にしてくれ」
「じゃあ私は全員で一晩!」
「はぁ!?」
ここまでの展開で香織も参戦すると呼んでいたハジメだったが、まさかの一言に驚きを隠せなかった。
ハジメが驚いている間にマグマ蛇に突っ込む香織、そうして香織は右手のガントレットを付き出し、新たなる魔法を叫ぶ
「『極光鎖』」
次の瞬間この場一帯に光の鎖が張り巡らされ、マグマ蛇の身動きが取れなくなる。対してマグマ蛇より小さい香織達は特に影響も無く、むしろ足場が出来たため、戦いやすい位である。
オリジナル光属性最上級魔法『極光鎖』
光属性魔法『光鎖縛』をショウが改良し、アシストが丁寧に解説することで習得出来た香織の新しい魔法だ。今回の様に相手の動きを制限しながら自身の行動範囲を更に広げるサポートと妨害を同時にこなす効率的な効果をもたらす
香織は鎖の足場を飛び回りながらマグマ蛇1体1体を確実に処理いていく。
その光景を見て、「あやつ、いつの間にあんな装備を追加したのか! ご主人様!妾も何か欲しいのじゃ!」とティオが、「香織!足場があるのは助かるけど、あなた何処へ向かう気なの!」と雫が、それぞれ焦りの表情を浮かべつつ、より一層苛烈な攻撃を繰り出し、討伐数を伸ばしていった。
「……別に、いいけどな。楽しそうだし」
ハジメは、そんな自分が景品になっている競争に闘志を燃やす女子四人に肩を竦めると、若干、諦めた感を醸し出しながら、背後から襲いかかってきたマグマ蛇に、振り向くことなく肩越しにシュラークを連射する。
放たれた弾丸は、マグマ蛇の各箇所に均等に着弾し衝撃を以てそのマグマの肉体を吹き飛ばした。同時に、衝撃で魔石が宙を舞う。ハジメは、すっと半身になって前方から飛んできたマグマの塊をかわしながら、右のドンナーでマグマの海に落ちる寸前の魔石をピンポイントで撃ち抜いた。
ハジメは【宝物庫】から【フォームチェンジャー】を取り出し、ハジメも【
「八重樫、コイツ貸してやる」
「え?」
とハジメの光の羽毛が雫の刀に集束する。
「そのまま『マグマ蛇だけ切り捨てる』って強く思いながら剣を振れ!」
「わ、分かったわ」
雫は困惑しながらも、深紅の光を纏った刀を構え──
「はぁああ!」
と水平にに振るう。すると、複数のマグマ蛇はボドボドと崩れていく。よく見ると、核となっていた魔石が真っ二つになっていた。
「な、南雲君、今のは………」
「簡単に言えば、あの光りはちょっとした願いなら叶う力がある。それであのマグマ蛇を切りまくれ」
光子型劣化概念アーティファクト『王者の威光』
この光は【自由暴虐】に搭載されているリアクターから生成される物で、そのリアクターに付与されている魔法がその概念魔法である。
込められた概念は『
世界を越える等の大規模な事は無理でも、必要な事一つ一つを光が実効すると言う。ハジメ達の手助けがしたいと思うショウの心が生み出した魔法である。
【グリューエン大火山】のコンセプトが、悪環境による集中力低下状態での長時間戦闘だというハジメ達の推測が当たっていたのだとしたら、ハジメ達に対しては、完全に企画潰れと言えるだろう。
ティオのブレスが、マグマ蛇をまとめてなぎ払う。
――残り六体
シアの、ドリュッケンによる一撃と、ほぼ同時に放たれたタンクバスターの砲撃がマグマ蛇をまとめて爆砕する。
――残り四体
ユエに対し、直下のマグマの海から奇襲をかけて喰らいつこうとしたマグマ蛇と直上から挟撃をしかけたマグマ蛇が、とぐろを巻いてユエを包み込んだ〝雷龍〟に阻まれ、立ち往生する。そして次の瞬間、その二体のマグマ蛇を四体の〝雷龍〟が逆に挟撃し、喰らい尽くす。
――残り二体
香織に、急速突進してきたマグマ蛇がマグマの塊を散弾のごとく撒き散らす。しかし、ハジメは、ゆらりゆらりと木の葉が舞うようにマグマの塊をかわしていき、マグマ蛇が喰らいつこうとした瞬間、交差しながらシュラークを発砲。弾け飛びながら慣性に従って吹き飛んだ魔石を見もせずにドンナーで狙撃し粉砕した。
遂に最後の一体となったマグマ蛇が、直下のマグマの海から奇襲をかけた。ハジメは、そのまま直上に『空力』で飛び上がると、真下からガバッと顎門を開いて迫るマグマ蛇の口内に向けてシュラークを発砲した。
着弾と同時に紅い衝撃波が撒き散らされ飛び散るマグマ。その隙間から僅かに魔石が姿を現す。香織は、右のドンナーを構えた。ハジメ達が満足気な眼差しで香織が最後の一撃を放つところを見つめている。
「これで、終わりね」
それを視界の端に捉えながら、香織は【グリューエン大火山】攻略のための最後の一発を放った。
――その瞬間
ズドォオオオオオオオオ!!!!
頭上より、極光が降り注いだ。
まるで天より放たれた神罰の如きそれは、ハジメがかつて瀕死の重傷を負った光。いや、それより遥かに強力かも知れない。大気すら悲鳴を上げるその一撃は、攻撃の瞬間という戦闘においてもっとも無防備な一瞬を狙って放たれ――香織を、最後のマグマ蛇もろとも呑み込んだ。