アレから数時間後。焼き尽くしたクリオネ以外に厄介な敵は存在せず、ハジメ達はサクサクと先へ進んでいくき、密林を抜ける。
「これは……船の墓場ってやつか?」
「すごい……帆船なのに、なんて大きさなの……」
密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが、最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだ。
ハジメ達はその中を警戒しながら先へ進む。
「それにしても……戦艦ばっかだな」
「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」
墓場にある船には、どれも地球の戦艦(帆船)のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもハジメが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。
大砲というものがないなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像できた。
そして、その推測は、ハジメ達が船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明された。
──うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
──ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「ッ!?なんだ!?」
「ハッくん! 周りがっ!」
突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めたハジメ達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり──気が付けば、ハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。
「な、なんだこりゃ……」
「ハッくん? 私達、夢でも見てるのかな?」
「いや、全員起きてる。俺の技能がそう言ってる。恐らく、再生魔法で過去を〝再生〟してるんだろう」
ハジメは某救世主の持つ神代魔法の中から該当しそうな魔法を予想し、推測を立てる。
「でもこの迫力………流石は大迷宮ね………」
ハジメの言葉に対して雫がそう言う。
そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。
そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。
ゴォオオオオオオオオ!!
ドォガァアアン!!
ドバァアアアア!!!
「おっ?」
「よっと!」
「んっ!」
「ですぅ!?」
「おぉ!?」
「きゃあ!」
轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。
ハジメ達の乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。船員が直ちに、魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかる。
戦場──文字通り、このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。
その様子を呆然と見ていたハジメ達の背後から再び炎弾が飛来した。放っておけばハジメ達に直撃コースだ。
ハジメは、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか? などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、とにかく攻撃を受けた以上皆殺しOKの精神でドンナーを抜き、炎弾を迎撃すべくレールガンを撃ち放った。
炸裂音と共に一条の閃光となって飛翔した弾丸は、しかし、全く予想外なことに炎弾を迎撃するどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった。
「なっ!?」
もう何度目かわからない驚愕の声を上げながら、それぞれが回避行動をとる。
そんな中、香織は魔王妃フォームに姿を変え、『反射』を試みる。
しかし、炎弾は香織が生み出した『反射』に触れると、まるで防がれる様に消える。
「……そういう事か?」
それを見て、攻撃の有効性についてある程度の推測を立てたハジメは、別の攻撃方法を試してみることにした。ドンナーに『風爪』を発動した。そして、回避と同時に『風爪』で炎弾を斬り付けると、今度は、炎弾をすり抜けることもなく真っ二つにすることが出来た。
「えっと、南雲君?」
「どうやら、ただの幻覚ってわけでもないが、現実というわけでもないようだ。実体のある攻撃は効かないが、魔力を伴った攻撃は有効らしい。全く、本当にどうなってんだか」
「あ、なるほど。ならこっちで行きましょう!」
そう言ってシアは魔王妃フォームへ姿を変え、タンクバスターを大砲モードで幻覚に向けてぶっぱなす。
「私達も………」
「一気に行くかのう!」
そう言って二人は風魔法で広範囲に渡り、兵士をを蹴散らす。
「私だって!」
雫も魔王妃フォームに変身し、黒刀を構え──
「『風爪』」
黒刀に付与された魔法を起動。剣を振るうと同時に風の爪で兵士達を切り裂いていく。
─ほう、結構戦うのにも馴れてきてるのか?ま、そんぐらい出来るならありがたい─
その姿にハジメは満足そうな笑みを浮かべながら、ドンナーを発砲した。ただし、飛び出したのは弾丸ではなく、純粋な魔力の塊だ。
『魔力操作』の派生技能。[+魔力放射]と[+魔力圧縮]によって放たれたそれは、通常であれば、対象への物理作用は殆んどなく、魔力そのものを吹き飛ばすという効果した持たない。
魔力が枯渇すれば人も魔物も動けなくなるので、無傷で無力化という意味では使えるが、そもそも敵を殺す事が前提のハジメには使う事が殆んど無いため、お蔵入りになっていた技だが、今回は役に立つ機会があったようだ。
香織もハジメの見よう見まねで魔力を放ち、一同は一体づつ確実に処理していく。
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最後の兵士達を消滅させた直後、再び、周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば、ハジメ達は元の場所に戻っていた。
「今の、何だったのかな?」
香織は首を傾げながら疑問を上げる。その疑問にティオが少し考えたあと推測を話した。
「おそらくじゃが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんじゃろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいじゃが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」
「それが当たっているとすれば、ここは……」
「狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……」
「そう言う事ね……どうりで気持ち悪かったわけだわ………」
思い返せば兵士達は口々に「全ては神の御為にぃ!」「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」と狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、ハジメ達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所なのだろうが、それにしても余りに凄惨だった。その全て〝神の御為〟というのだから、尚更……
「にしてもやけに平気そうだな、八重樫。アレは俺でも気持ち悪かったぞ」
「…………思い出させないで。これでもキツいんだから」
雫が若干つらそうにそう言うと、香織は手を取り真っ直ぐな優しい眼差しで雫を見ながら言う
「大丈夫だよ、雫ちゃん。一緒に頑張って攻略しよ!」
香織の力強い言葉に雫は安堵する。いくら強くなっても変わらない香織との関係に喜びを感じながら雫は確固たる意思で返事する
「ええ、絶対に攻略するわよ!香織!」
そうしてハジメ一行は、また先へと進んで行く。