魔王と救世主で世界最強   作:たかきやや

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【悲報】メルジーネ大迷宮、3話で片付かず。あ、あとスマホ変えたので表現に多分誤差が出るかもしれせん。それでは、どうぞ。


メルジーネ攻略【後編】

 

 

 

 ハジメ達が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。

 

 

 全長三百メートル以上、地上に見える部分だけでも十階建て構造になっている。そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚、見るものに感動を与えるほどだ。木造の船で、よくもまぁ、これほどの船を仕上げたものだと、同じく物造りを得意とするハジメは、当時の職人達には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

 ハジメ達は、それぞれの方法で飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると、案の定、周囲の空間が歪み始める。

 

 

「またか……お前ら、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」

 

 ハジメの言葉に一同は気を引き締める。そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。

 

 

 時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。

 

 

「パーティー……よね?」

 

「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」

 

 予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、ハジメ達は、おそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。

 

 

 すると、ハジメ達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう。

 

 

 その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。

 

 

「こんな時代があったんですね」

 

「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だね。終戦からどれくらい経っているのか分からないけど……全てのわだかまりが消えたわけでもないのに……あれだけ笑い合えるんだ……」

 

「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかしら? 皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」

 

「そうだね……」

 

 

 楽しげで晴れやかな人々の表情を見ていると、こっちも自然と頬が緩んだ。しばらく眺めていると、甲板に用意されていた壇上に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。彼等の目には一様に敬意のようなものが含まれていた。

 

 

 初老の男の傍には側近らしき男と何故かフードをかぶった人物が控えている。時と場合を考えれば失礼に当たると思うのだが……しかし、誰もフードについては注意しないようだ。

 

 

 やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。

 

 

「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」

 

 そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。

 

 

 どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける。

 

 

 演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。しかし、ハジメは、そんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた。

 

 

「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………()()()()()()()()()

 

 国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に〝?〟を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く。

 

 

「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」

 

「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」

 

 国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。

 

 

 刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。

 

 

 場が騒然とする。「陛下ぁ!」と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。

 

 

「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」

 

 

 膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れた。

 

 

 甲板は、前後を十階建ての建物と巨大なマストに挟まれる形で船の中央に備え付けられている。なので、テラスやマストの足場に陣取る兵士達から見れば、眼下に標的を見据えることなる。海の上で逃げ場もない以上、地の利は完全に兵士達側にあるのだ。それに気がついたのだろう。各国の重鎮達の表情は絶望一色に染まった。

 

 

 次の瞬間、遂に甲板目掛けて一斉に魔法が撃ち込まれた。下という不利な位置にいる乗客達は必死に応戦するものの……一方的な暴威に晒され抵抗虚しく次々と倒れていった。

 

何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく。

 

 

「うっ」

 

「雫ちゃん!」

 

 

 吐き気を堪えるように、雫が手すりに身を預け片手で口元を抑えた。余りに凄惨な光景だ。無理もないと、香織は雫を支える。

 

 

 アレイスト王は、部下を伴って船内へと戻っていった。幾人かは咄嗟に船内へ逃げ込んだようなので、あるいは、狩りでも行う気なのかもしれない。

 

 

 彼に追従する男とフードの人物も船内に消える。

 

 

 と、その時、ふと、フードの人物が甲板を振り返った。その拍子に、フードの裾から月の光を反射してキラキラと光る銀髪が一房、ハジメには見えた。

 

 

─やっぱりそう言う事かよ………─

 

 

 ハジメがそう思っていると、周囲の景色がぐにゃりと歪む。どうやら、先程の映像を見せたかっただけらしく、ハジメ達は元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。

 

 

「八重樫、少し休め」

 

「いえ、大丈夫よ。ちょっと、キツかったけど……それより、あれで終わり? 私達何もしてないのに……」

 

「おそらくじゃが、この船の墓場は、ここが終着点じゃの。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るようじゃが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないかのう? あの光景は、見せることそのものが目的じゃったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向じゃよ。特に、我ら以外の者にとってはな」

 

 この世界の人々は、そのほとんどが信仰心を持っているはずであり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては、相当精神を苛むだろう。そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい魔法の力が攻略の要だ。ある意味、【ライセン大迷宮】の逆なのである。異世界人であるハジメ達や神に信仰心が無いユエ達だからこそ、精神的圧迫もこの程度で済んでいるのだ。

 

 

 ハジメ達は甲板を見下ろし、そこで起きた凄惨な虐殺を思い出して気の進まない表情になった。雫以外の場合、ただ単にウザそうなだけのようだったが。

 

 

 一同は意を決して甲板に飛び降り、アレイスト王達が入って言った扉から船内へと足を踏み入れた。

 

 

 船内は、完全に闇に閉ざされていた。外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か、全く光が届いていない。ハジメは、〝宝物庫〟から緑光石を使ったライトを取り出し闇を払う。

 

 

「………さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうこと?」

 

「そうみたいじゃな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったかのう? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのじゃとしたら、あんなに慕われると思うかのう?」

 

「……そうね……あの人の口ぶりからすると、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かも……問題は何があったのかということだけど」

 

「おそらく、神の回し者だろう。側近のフードの奴から銀髪が見えた」

 

「………1匹いたら、何万匹もいると思え……」

 

「それなんて虫ですぅ?」

 

 ユエが「使徒ゴ○ブリ説」を唱えながら、先程の光景を考察しながら進んでいると、前方に向けられたハジメのライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。

 

 

 ハジメ達は足を止めて、ライトの光を少しずつ上に上げていく。その正体は、女の子だった。白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。

 

 

 猛烈に嫌な予感がするハジメ達。特に、香織の表情は死んでいる。ハジメは、こんなところに女の子がいるはずないので取り敢えず撃ち殺そうとドンナーの銃口を向けた。

 

 

 その瞬間、女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして、手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛のように手足を動かし、真っ直ぐハジメ達に突っ込んで来た!

 

 

ケタケタケタケタケタケタケタッ!

 

 

 奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。前髪の隙間から炯々と光る眼でハジメ達を射抜きながら迫る姿は、まるで何処ぞの都市伝説のようだ。

 

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

 

 ハジメが射つ前に放たれた三発の弾丸。精密なその攻撃は直撃しケタケタの様な少女を確実に仕留める。

 

 

 ハジメが後ろを向くと、某神の使徒並みに無表情の香織がドンナーを発砲した姿があった。

 

 

「か、香織って、こういうの苦手だったわよね?大丈夫なの?」

 

「……奈落よりマシだけど…………ツライ」

 

「あ、ソコは変わってないのね。少し安心したわ」

 

「まあ、魔物とでも思えば良いだろ?」

 

「……頑張る」

 

 その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いてハジメ達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……

 

 

 そのほとんどは、香織が魔力弾で撃ち抜くか、シアとハジメのヤクザキック、ティオやユエの魔法で瞬殺するか、雫が切り捨てたりしたのだが……

 

 

「…………」

 

「か、香織さん。」

 

「…………?」

 

「せめて喋って欲しいですぅ!」

 

「香織!本当に大丈夫!?」

 

「…………」コクコク

 

 と首を縦に振って返事をする香織。ここまで来ると無心の域に近い。

 

 

 【メルジーネ海底遺跡】の創設者メイル・メルジーネは、どうやらとことん精神的に追い詰めるのが好きらしい。大迷宮を作るのには適した性格と言えるだろうか?

 

 

 そんなこんなで船倉までたどり着いた。

 

 

 重苦しい扉を開き中に踏み込む。船倉内にはまばらに積荷が残っており、ハジメ達は、その積荷の間を奥に向かって進む。すると、少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ! と大きな音を立てて勝手に閉まってしまった。

 

 

「ぴっ!?」

 

「お、戻ってきた」

 

 香織がその音に驚いて変な声を上げる。それに対してハジメはクスッと笑いながら、無心の域から帰って来た事を確認する。

 

 

「ハッく~ん~!」

 

「クスッ………」

 

「あ~!雫ちゃんまで~!」

 

「………お帰り、香織」

 

「お帰りなさいですぅ!」

 

「お帰りなのじゃ」

 

「みんなまでからかわないでよ~!」

 

 と楽しそうに無心の域から帰ってきた香織を温かく向かい入れる一同。香織的には不服な様だ。

 

 

 なんて事をしていたら、また異常事態が発生した。急に濃い霧が視界を閉ざし始めたのだ。

 

 

「ハハハハハハ、ハッくん!?」

 

「何か陽気な外人の笑い声みたいになってるぞ。今まで通り、ぶっ飛ばせばいいだけだ。大丈夫だって」

 

 

 ハジメがそう答えた瞬間、ヒュ! と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。咄嗟に、ハジメが左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。更に、連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する

 

 

「ここに来て、物理トラップか? ほんとに嫌らしいな! 解放者ってのはどいつもこいつも!」

 

「でも、ミレディに比べたらなんとでもないですぅ!」

 

 

 ハジメは、一瞬、意表を突かれたものの、所詮はただの原始的な武器であることから難なく捌き、各々も防御や反射、トラップその物に攻撃など各自の対応を取る。

 

 

 直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風がハジメ達に襲いかかった。

 

 

 ハジメは、靴のスパイクで体を固定し飛ばされないようにしつつ、咄嗟に、全員の手を掴もうとしたが、一瞬の差で手が届かなかった。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 雫は悲鳴を上げて暴風に吹き飛ばされ霧の中へと姿を消す。ハジメは舌打ちをして感知系能力や『革新者』を使い雫の居場所を把握しようとした。しかし、どうやらこの霧は【ハルツィナ樹海】の霧と同じように方向感覚や感知系の能力を阻害する働きがあるようで、『革新者』以外では雫を捉えられなかった。

 

 

「ハッくん!ここは任せて、雫ちゃんを!」

 

「分かった!」

 

 ハジメは【自由暴虐】を身に纏い、霧の中へと飛んで行った

 

 

 

 

 

 

 一方、その雫はというと、ハジメ達の姿が見えなくなってしまった事に猛烈な不安と恐怖を感じていた。戦力はハジメ達のお陰で強化されているものの、一人で行動するのは初めてであり、素のステータスはこのメンバーの中で一番低い事や技術の差、様々な事が雫の中で渦巻く。

 

 

 こんなことではいけないと震える体を叱咤して、雫は何とか立ち上がる。と、その時、雫の肩に手が置かれた。おそらくハジメが、あのチートスペックで直ぐに駆けつけたのではと思ったら雫は安堵し、

 

 

「南雲く……」

 

 と直ぐに振り向こうとし、しかし、その前に、雫は、肩に置かれた手の温かみが妙に薄いことに気がついた。いや、もっと正確に言うなら、温かいどころか冷たい気さえする。自分の後ろにいるのは、ハジメではない。直感で悟る。

 

 

 では、一体だれ?

 

 

 雫は直ぐ様、背後の存在から距離を取って刀を構える。

 

 

 振り返った雫の目に写ったのは……目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 その頃、ハジメは、わずか二秒程で五十体近い戦士の亡霊達を撃滅していた。大体、0.04秒で歴戦の戦士を一体屠っている計算だ。と、その時、一瞬、攻勢が止んだかと思うと、霧の中から大剣を大上段に振りかぶった大男が現れ、霧すら切り裂きながら莫大な威力を秘めた剣撃を繰り出した。

 

 

 ハジメは、半身になってその一撃をかわす。しかし、最初から二ノ剣が想定されていたのか、地面にぶつかった反動も利用して大剣が跳ね上がった。

 

 

 ハジメは、その場で跳躍すると、『金剛』をかけつつ大剣に義手を引っ掛けその上に飛び乗る。そして、振り切られた大剣の上に膝立ちするハジメは、スっとドンナーを大男の頭部に向け魔力弾を撃ち放った。

 

 

 頭部を吹き飛ばされ大男が霧散すると同時に、周囲の霧も晴れ始める。

 

 

「八重樫! どこだ!」

 

 

 ハジメは、雫の気配を感知しようと集中する。しかし、そんなことをするまでもなく、雫はあっさり見つかった。

 

 

「ここよ。南雲君」

 

「八重樫、無事だったか……」

 

 

 微笑みながら歩み寄ってくる雫に、ハジメは安堵の吐息をもらす。そんなハジメの様子に、雫は更に婉然と微笑むと、そっとハジメに寄り添った。

 

 

「すごく、怖かったわ……」

 

「そうか……」

 

「うん。だからね、慰めて欲しいの」

 

 

 そう言って、雫はハジメの首に腕を回して抱きついた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で、その瞳がハジメの口元を見つめる。やがて、ゆっくりと近づいていき……

 

 

ゴツッ

 

 

 と音を立てて、雫のこめかみにドンナーの銃口が突きつけられた。

 

 

「な、なにを……」

 

 

 狼狽した様子を見せる雫に、ハジメの眼が殺意を宿して凶悪に細められる。

 

 

「なにを? じゃねぇよ。八重樫はそんなキャラじゃねぇ」

 

 

 そう言って、ハジメは微塵も躊躇わず引き金を引いた。ドンナーから紅色に輝く弾丸が撃ち放たれ容赦なく雫のこめかみを穿ち、吹き飛ばす。

 

 

「南雲君、どうしてこんなことッ!?」

 

 しかし、ハジメは取り合わず再び雫に魔力弾を撃ち込んだ。

 

 

「八重樫の声で勝手に話すな。八重樫の体で勝手に動くな。全て見えているぞ? 八重樫に巣食ったゴミクズの姿がな」

 

 

 

 そう、ハジメの魔眼石には、雫と重なるようにしてとり憑いている女の亡霊のようなものが映っていた。正体がバレていると悟ったのか、雫の姿をした亡霊は、先程までの怯えた表情が嘘のように、今度はニヤニヤと笑い出した。

 

 

「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」

 

 そう話しながら立ち上がろうとした雫(憑)だったが、ハジメに馬乗りに押し倒され再び倒れこんだ。

 

 

「まてっ! なにをするの! この女は、あんたの女! 傷つけるつもりッ!?」

 

「頭の悪い奴だ。話すな、動くなと言っただろう? 別に八重樫は傷つけないさ。魔力弾で肉体は傷つかない。苦しむのは取り憑いたお前だけだ」

 

「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ! それでもいいの!?」

 

 その言葉に、ハジメの手が止まる。ハッタリの可能性も十分にあるが、真偽を確かめるすべがない。普通なら、躊躇し手を出せなくなるだろう。雫(憑)もそう思ったのか、再びニヤつきながら、上からどけとハジメに命令した。それに対するハジメの返答は、

 

 

「丁寧な説明ご苦労さん。だが………無駄だ」

 

「へ?」

 

 次の瞬間、撒き散らされる『王者の威光』。それが雫を包み込む。

 

 

「『八重樫に取り付いたゴミだけ排除しろ』」

 

「ぎやゃああああああああああああああ!」

 

 勅命を受けた威光は雫の中へと入っていき、魂魄魔法で亡霊をジワジワと削っていきながら雫の魂魄を保護し、安全かつ確実に亡霊を消滅させにかかる。

 

 

「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!」

 

「俺”達„の『大切』に手を出したんだ……楽に消滅なんてさせない。散々苦しんだ挙げ句、叫びながら消えろ」

 

 

 ハジメの体から紅色の魔力が噴き上がり、白髪が煽られてゆらゆらと揺らめく。殺気も魔力も荒れ狂い、にもかかわらず瞳だけが氷のように凍てついている。

 

 

 ハジメは、激怒しているのだ。かつてないほど。ただ敵を殺すだけでは飽き足らない、〝残虐性〟が発露するほどに。

 

 

 雫にとり憑いた亡霊は、余りに濃密でおぞましい殺意に、もはや硬直してハジメを凝視する以外何も出来なかった。この時になって、ようやく悟ったのである。自分が決して手を出してはいけない化け物の、否、化け物達の決して触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだと。

 

 

 刻一刻と近づく消滅の瞬間。無限に伝わる激痛を喰らいながら亡霊は絶望しながら絶叫する。

 

 

「嫌だぁああああああああああああああああああああああああ!」

 

 断末魔を響く中、亡霊は苦悶の表情のまま消えていった…………

 

 




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