あれから数分後、香織達と合流した後、大迷宮の中だったこともあり、雫が意識を取り戻すまで担がれた状態で先に進む事になった。
「ん………んん……こ、ここは………」
「お、起きたか?八重樫」
雫が意識を取り戻すと、ハジメは確認するように問う。
「え?南雲君!?ってなんで!?担がれてるの!?」
「ああ、先を急いでな。つーか、目醒めたんなら歩けるか」
と雫を軽々と下ろし、眼の前に立たせる。
「ごめんなさいね、南雲君。迷惑かけちゃったみたいで…………」
暗い表情で気まずそうに言う雫。ハジメは少ししゃがむと━━
ブニ。
「………
ハジメは雫の頬を両手で摘んでいた。はじめはそのまま口を開く
「よく聞け八重樫。お前は真面目過ぎるんだよ。ここには暴走特急だった頃の香織も居なければ天之河も坂上もいない。もっと適当に行け、適当に。取り敢えず、生きてさえいれば後でいくらでも何でも出来るんだ。後俺達を頼れ。俺でもどうしようもない時はショウに頼る」
「いやしれっと蒼君に頼ってどうするのよ!ソコは『俺達を頼れ』だけでいいじゃない!」
ハジメの手を振り切り、盛大なツッコミを上げる雫。
「いや八重樫お前普通に頼れって言ったら遠慮するだろ。どうせショウに関しては何しても負担にならないし。」
「そ、それは………そうだけど………」
と某救世主思い浮かべると何食わぬ顔で何でもこなす所と恋人といちゃつく姿と謎の叔父ちゃんムーヴをこなすシーンしか出てこない。
「………南雲君、蒼君って何なの?」
「何でも無いだろ」
「え?」
ハジメから帰ってきた意外な答えに雫は目を丸くする。
「アイツがどれだけ強くなって、変わって、離れてもアイツは蒼 翔だ。それだけは絶対に間違いない」
「どれだけ強くなって、変わって、離れても………」
雫はそう呟いて二人を見る。どれだけ人外の強さを手にしても、どれだけ見た目が変わっても、どれだけ実力が離れていても、ソコにいるのは紛れもなく白崎香織と南雲ハジメである。
━そっか。私は心の何処かで南雲君達を勝手に遠い存在だと思ってたのね………━
何か大切な物が見えた気がした雫は一呼吸置くと、とんでもない事を口にする
「それじゃあ南雲君達に頼りたいんだけど………私を強くして」
「は?」
「だって頼れって言ったの南雲君でしょ?だから私もフォームチェンジ無しで一緒に戦える様に強くして」
雫はハジメはハジメで、香織は香織であることには納得したがそれはそれとして、そのままでいいなどとは微塵も思っていなかった。二人の隣に立つことを諦めるつもりなど毛頭なかった。
だから雫は力を望む。例えばその手段が誰かに頼ることだったとしても。「頼れ」と言ってくれる人がいるのなら。
「………まあ、分かった。ショウに相談してプランは建てとく」
頭をかきながら歩き出すハジメ。その後ろをついていく雫を見ながら香織達は目を合わせる
「………思ったより攻略早そう?」
「いやー………まだじゃない?もう少しかな?」
「と言ってももう一押しですぅ。もしかしたらラスボスはまた別にいるかもですぅ」
「それはもうラスボスなのかのう……?まあご主人様の方は依然として変わらずじゃが………」
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淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。
その空間には、中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。
その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには人影が立っていた。ハジメ達一行だ。
「……ここは……あれは魔法陣? まさか、攻略したのか?」
「えっと、何か問題あるのかしら?」
「いや、まさかもうクリアとは思わなくてな……他の迷宮に比べると少し簡単だった気が…………」
どうやら、メイル・メルジーネの住処に到着したようだとわかり、ハジメは少し拍子抜けしたような表情になる。それに対して、雫は苦笑いしながら答えた。
「あのね、南雲君。十分大変な場所だったわよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だわ。クリオネみたいなのは、本来は有り得ないくらい強敵だったし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力頼りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならなかったのよ? 十分、おかしな難易度よ………」
「むっ、そう言われればそうなんだろうが……」
「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」
「余計、精神的にキツいか……」
追加で入る香織の指摘は、要するにハジメが強すぎたという事だ。そこまで言われると、確かに、【グリューエン大火山】も最後のフリードの襲撃さえなければ香織も無傷で攻略出来ていたなぁと納得するハジメ。
祭壇に到着したハジメ達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。いつもの通り、脳内を精査され、記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。ハジメ達の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。
「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」
「……見つけた〝再生の力〟」
ハジメが悪態をつく。それは、手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法が〝再生魔法〟だったからだ。
思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに〝再生の力〟が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に【ハルツィナ樹海】に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが。
ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。
人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。
彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。
「証の数も四つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」
シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、脳裏に浮かんだのは「ヒャッハー!」する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる。ハジメは、証のコインを〝宝物庫〟にしまうと、シアと同じように「ヒャッハー!」するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した。
と、証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。
「うおっ!? チッ、強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」
「よっと!」
「……んっ」
「ら、乱暴すぎるわよ!」
「最後の最後で適当ですぅ〜!」
「水責めとは……やりおるのぉ」
凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、〝宝物庫〟から酸素ボンベ取り出して口に装着した。
そして、その直後、天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。ハジメ達も、その竪穴に流れ込んで、下から噴水に押し出されるように、猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。
おそらく、【メルジーネ海底遺跡】のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネらしくない、滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。しかも、強制的だった。意外に、過激な人なのかもしれない。
押し上げられていくハジメ達は、やがて頭上が行き止まりになっていることに気が付く。しかし、ハジメ達がぶつかるといった瞬間、天井部分が再びスライドし、ハジメ達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。ハジメは確信する。メイル・メルジーネは絶対、見た目に反して過激で大雑把な性格だと。
ハジメ達は海面に浮かび上がると、仰向けになり、酸素ボンベを外す。
「お前ら〜大丈夫か〜?」
と一同の安否を確認するハジメ。全員の返事を聞くと、ハジメは〝宝物庫〟から潜水艇を出し、艦のヒレ部分に全員打ち上げられる。
「さぁ、帰ろうか」