聲の形Take2   作:乾燥海藻類

6 / 6
6話 Heart of Gold

修学旅行の班決めが始まった。当然のように俺と西宮はセットにされ、そこから植野と佐原がやってきて、最後に島田と広瀬が来て規定の六人になった。

「しかし奈良・京都ってのも捻りがないよなぁ。あたしはフランスとかのがよかったな」

「予算的に無理でしょ。そもそも小学校の修学旅行で海外はないよ。治安の問題もあるし」

植野の軽口に島田が真面目に返事をする。前回はそれどころではなかったので、実はちょっと楽しみだ。

 

 

 

 

 

一日目は奈良。しかしこれは……。

「予想以上に多いな、鹿」

「直ちゃん凄いよ。この子たち凄い人懐っこい」

「エサをねだってるんだろ。ところで石田、西宮がえらいことになってるぞ」

「え? ――うぉ、西宮、それ捨てろ!」

ちょっと目を離した隙に西宮は鹿に囲まれていた。いつの間に鹿せんべいなんて買ってたんだ。

『ここの鹿は食い意地が張ってるから気をつけろな』

『う、うん。ごめんなさい』

「島田と広瀬は?」

「あっちでチャンバラやってるぞ」

植野の言う通り、ふたりは木刀でチャンバラをやっていた。木刀といえば京都土産のはずだが、奈良でも売ってたのか。

バカは止めると言ってたが、修学旅行のテンションがそうさせたようだ。

「次は東大寺だね」

「あんま興味ないなぁ」

寺に興味ある小学生はあまりいないだろうな。と思ったが西宮は割と乗り気だった。

そこで一日目は終わりとなった。

 

 

 

 

 

二日目は京都。

「ホントに金色だね」

「ちょっと侮ってたぜ、金閣寺」

ふたりは感慨深げに金閣寺を見つめている。西宮も言葉を失っているようだ。

島田と広瀬は池を覗き込みながらバシャバシャやっていた。怒られるぞ。

続いては修学旅行の定番、清水寺。

「そういや知ってるか、佐原。この辺の地域は昔、鳥辺野(とりべの)って呼ばれてて、死体収容地だったらしい。そこの清水の舞台から死体を投げ落としてたんだと。ちょうどアンタが立ってるところだね」

「ちょ、ちょっと直ちゃん!? いきなり怖いこと言わないでよ」

「アンタが一生懸命撮ってるデジカメにもなにか写ってるかもね」

西宮が俺の袖を引っ張っているが、これは訳してもいいのかな。

その後は京都っぽいことをしようということになり、お茶を飲むことになった。

「えーっと、3回回して飲むんだよね?」

「そこまで本格的じゃないと思うけど、縁側だし」

縁側って言い方もどうかと思うけどな。俺たちは店先の長椅子に腰かけてお茶を啜っている。島田はおとなしく飲んでいるが、広瀬は茶請けの菓子が少ないとぼやいていた。

『苦くない?』

『少し、でもお菓子が甘いので丁度いいです』

お茶を飲んだ後は観光客向けの店を冷やかして小物をいくつか買った。広瀬は何故か2本目の木刀を買っていた。俺もつき合いで1本買わされた。

 

 

 

 

 

二泊三日の修学旅行もあっという間だった。

夕飯も終わり、消灯時間がきて後は寝るだけとなった段で、またもや修学旅行の定番が始まった。

「ショーヤって西宮のこと好きなのか?」

消灯後だったので、誰が言ったのかは定かではない。島田や広瀬ではなさそうだけど。

「……違う」

「じゃあ、植野か? まあ見てくれだけは良いからな。性格はキッツイけど」

「それも……違うな」

「じゃあ、佐原だ。 あーでも植野に比べたらちょっとな」

「でも意外と気が利くっつーか、気配りはできるぞ。そう考えるとあり得る」

「佐原も……違うな」

「じゃあ、川井か? でもあいつちょっとウザくね? 仕切り屋っつーかさ」

「あー、確かに」

川井の評価ってそんなんだったのか。つか委員長だから仕切るのは当然、いや、仕切り屋だから委員長になったのか?

「違う。そもそも接点なんてほとんどないだろ」

「じゃあ誰なんだよ!」

真っ暗なはずなのに凄い圧力を感じる。これは名前を出すまで解放されそうにないな。

「あー、き、喜多先生だよ」

「――そうきたかー!」

「分かる。喜多先生は美人だ」

「しかも優しい」

「でも怒ると怖い」

「怒らせたのか?」

「たて笛でチャンバラしてたら怒られた」

「そりゃ怒るだろ。音楽の先生だぞ」

意外にも喜多先生のファンは多いようだ。けっきょく喜多先生談義は見回りの先生に怒鳴られるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ未来が変わった。

前回は修学旅行前に西宮は転校していったが、今回ではそうならなかった。転校する理由であるイジメが起きなかったからだろう。

 

過去をなかったことにはできない。

この世界では起きなかったからといって、俺の罪が消えるわけじゃない。

俺の心に、俺の記憶に、あの過ちは刻まれている。

忘れちゃいけないんだ。

だから、生きていこう。

刻んだまま、生きていこう。

 

今度は逃げない。

彼女のために生きたい。

それが俺の願いであり、"罪の形"だ。

 

 





というわけで、これにて終了です。
石田の想いは単純な恋愛感情ではなく、もっと複雑で根深いものだと思います。
これ以上は蛇足というか、陳腐な恋愛ものみたいになりそうなので、ここで幕を引きます。
短い間でしたが、おつき合いありがとうございました。
ちなみに、前話のラストで出た、人差し指同士をくっ付けるのは「一緒に」、「共に」という手話です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。