石上が高等部の生徒会を訪ねてから、1週間が経過した……その間、石上は頻繁に風紀委員会の仕事を手伝うようになっていた。先月末に部活動も無事引退し、空いた時間を風紀委員会に費やす石上……元々風紀委員は人手が足りなかった事、更に石上の書類処理能力の高さも一役買い、他の風紀委員からの信頼も厚く助っ人枠として自由に風紀委員の教室を出入りする許可が出たのである。今日も資料片手に書類処理をしていると、伊井野ミコの……
「今日の会議内容は、3ヶ月後に迫った体育祭の備品確認の振り分けを行います」
という発言に顔を上げる。
「……伊井野、そういうのって実行委員の仕事じゃないのか?」
「あぁ、石上は知らないみたいね。実行委員はあくまで体育祭の準備担当で、備品の確認は風紀委員がやってるのよ」
「風紀委員が……?」
石上の困惑も当然である。何故ならば、自分が高等部1年の時は体育祭の備品確認は生徒会が担当したからだ。
(そういえば、備品確認の翌日から何故か伊井野の会長を見る目がキツかった記憶があるけど……なんだったんだアレ?)
い、伊井野さんっ……わ、私怖かったぁ!
こ、この……クズめ!
チキショウ! 反論出来ねぇ……
こんな事があったなど石上は知る由もない。
「まぁ石上が変に思うのもわかるよ。こういうのって本来生徒会の仕事だから」
「あ、やっぱりそうなのか……じゃあなんで?」
大仏の言葉に石上が疑問をぶつける。
「要は忙しいのを理由に生徒会が仕事を押し付けて来たって感じかな……」
「それはまた……」
石上の知っている生徒会は、自身も所属していたあの白銀御行率いる生徒会だけである。真摯に生徒と向き合い、学校行事にも手を抜かず真剣に取り組む男の背中を見続けて来た石上からすれば、中等部の生徒会は1つ2つ格の落ちる存在であった。
「じゃあ僕も手伝うよ」
石上の発言に教室が沸く。
「石上君マジでいいの?」
「石上先輩助かります!」
「い、石上⋯⋯本当に良いの?」
沸き立つ他の風紀委員とは違い、伊井野は申し訳無さそうな顔をして訊ねて来る。
「あぁ、大丈夫。男手は必要だろ?」
「そう、だけど……」
「ミコちゃん、石上がこう言ってくれてるんだからお願いしようよ」
「……うん。では、石上を含めたメンバーで振り分けを行います」
メンバーの振り分けが終わると、各班はそれぞれの持ち場へと向かった。
石上は体育倉庫の担当となった。他のメンバーは伊井野ミコ、大仏こばち、2年の男子風紀委員となった。
「けほっ、埃が凄いわね……」
伊井野はハンカチを口に当て顔を顰める。
「仕方ないよミコちゃん。此処って体育祭の備品しか置いてないから、殆ど物置扱いだし……」
「マスクでも持ってくればよかったな」
「仕方ないっすよ、さっさと確認して出ましょう」
後輩に促され各々が備品確認に取り組む。
「……ん? なぁ大仏、コレってなんだ?」
「え? ……あ、それは体育祭のアナウンスで使う持ち運び出来るバッテリーだと思う」
「こんな所にそんなの置いてて大丈夫なのか?」
「うーん、大して埃被ってないし大丈夫じゃない? 充電すればまだ使えるみたいだけど、それは後で要確認って事で」
「了解。持ち運び出来るバッテリーね……」
「石上、どうしたの?」
「いや、なんでもない。さっさと終わらせよう」
30分程で残りの備品確認を終わらせると、一同はやっと倉庫から解放された。
「ふぅ⋯…意外とそのまま使える備品ばっかりで助かったね、ミコちゃん?」
「うん。こっちの備品は新しく申請する必要はなさそうだから助かったわ」
「じゃ、今日は現地解散って事で! 先輩方お疲れさんでした!」
後輩男子はそれだけ言うと走って行った。
「もう、全くあの子は……」
「まぁまぁミコちゃん。石上も……今日はありがとね?」
「あぁいや、少しは役に立てたようで良かったよ。収穫もあったし……」
「ん? 何?」
「いや、なんでもないよ。じゃ、2人共お疲れ」
「うん、お疲れ様」
「お、お疲れ様」
石上は2人に背を向けて歩き出す。
「……」
(バッテリーか。じゃあ、後は……)
石上の思い付きが形を成すのは夏休み明けである。