石上優はやり直す   作:石神

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2度目の再会

10月も下旬に差し掛かる頃、秀知院は二学期中間テスト期間に入っていた。中間テストが終われば、直ぐに体育祭の準備に取り掛かる事になる。僕は既に一度体験した身なので、体育祭開催までに必要な書類や起こる可能性のあるアクシデントに対する対策と準備に余念はない。中間テストまであと数日という事もあり、生徒会の仕事は少量に抑えている。今日も僕は、さっさと仕事を終わらせて……

 

「中間テストか、ダリぃな……」

 

「でも、テスト日は午前で終わりますよ?」

 

中庭で桃先輩とダラけていた。あと1〜2週間もすれば肌寒くなり、中庭で過ごす事が厳しくなる時期だ。去年は流石に校舎内に入り込んでゲームする訳にもいかなかったので、寒い季節は専ら喫茶店で待ち合わせてゲームをしていた。今年はどうしようかと考えていると、別の疑問が浮かんだ。

 

「そういえば……桃先輩ってテスト期間中もゲームしてますけど、頭良いんですか?」

 

「……普通。」

 

「普通ですか……」

 

「別に有名大学へ進学するとか考えてねぇしな……秀知院ならエスカレーター式だから、面倒な事は省略出来るし。」

 

「じゃあ、進学先は秀知院大学ですか?」

 

「今ん所はな……特に何かやりたい事がある訳じゃねぇし。」

 

「へー。」

 

「……お前はどうなんだよ?」

 

頭良いんだろ? と言外に付け足され問われる。

 

「まぁ、会社は兄貴が継ぐでしょうし……大学卒業までにやりたい事がなかったら、ウチの会社に就職するんじゃないですかね?」

 

「そんなもんか……」

 

「……先輩はどうするんですか? その……実家を継ぐ話とか。」

 

「私は女だぞ? 流石にねぇよ。適当に若い衆の中から優秀な奴が継ぐだろ、世襲制とか古臭い。」

 

「良かった……」

 

「何がだよ?」

 

「あ、いや……別に。」

 

「言え。」

 

真下から睨み付けて来る桃先輩に屈する。

 

「……笑わないで下さいよ? その……僕は極道の世界には詳しくないんですけど、もし桃先輩が継いだら危ない目に遭ったりするかもしれないじゃないですか……それが嫌だったので、良かったと。」

 

「……そうかよ。」

 

桃先輩は先程まで見上げていた僕の顔から目を逸らし、ソッポを向いてしまった。

 

「……先輩?」

 

「うるさい、寝る。」

 

「えー……」

 

僕の太腿を枕にされているから動けない。仕方無い、暫くは好きにさせておこう……10分程ゲームに勤しんでいると、スゥスゥと小さな寝息が聞こえて来た。本当に寝たのか……桃先輩って、意外と警戒心無いのかな?

 

……警戒心が無いなどと、そんな事は有り得ない。龍珠桃は広域暴力団龍珠組の愛娘である。他者に対する警戒心に限れば、四宮かぐやに比肩しうる程である。現在秀知院には、龍珠組と敵対する他組織の息子や娘は在籍していないが、それでも……幾ら敷地内だからと言って、睡眠による無防備な姿を晒すなど龍珠桃本来の性格ならば有り得ない。唯一、石上優に対する絶対的な信頼を除く以外は……

 

「……」

(まだそこまで気温は低くないけど、念の為。)

 

僕は起こさない様に気を付けながら、上半身を上手く捻り上着を脱いだ……そして、傍らで眠る少女にゆっくりと上着を被せる。

 

「ふぅ……」

(ミッションコンプリート。)

 

そう思って安心した時だ……

 

「……君は優しいね。」

 

「えっ?」

 

いきなり声を掛けられ、思わず声のした方向へと振り向いた。

 

「久しぶりだね……あ、覚えてるかな? 夏祭りの時に会ったんだけど……」

 

「つばめ……先輩。」

 

「あ、私の事知ってるんだ? よろしくね、石上優君。」

 

つばめ先輩はそう言って、僕の記憶通りの……太陽の様な笑顔を浮かべた。

 


 

男の子の情報はすぐに集まった。友人の中にはマスメディア部の部長を務めている子も居るけど、その子に頼る必要が無い程アッサリと……特に一年生の中では、石上優という子は有名人だった。

 

一年前の中等部で……女子を脅して、他校の生徒へ斡旋業紛いの行為をしていた男子の悪事を全校放送で暴露した張本人だそうだ。その事件は、高等部でもそれなりに大きな話題として友人との会話に上がった。更に高等部に進学して直ぐの頃、小島君とケンカしたらしい……それだけ聞くと野蛮な子……みたいになるけど、近くで見ていた一年生女子の話だと、小島君が龍珠ちゃんを貶す様な事を言って石上君は怒ったらしい。床に叩きつけられても自分の意見を曲げなかったと聞いた。

 

小島君も何か思う所があったのか、それからは少し大人しくなったらしい。その直後に生徒会長直々にスカウトされて生徒会へと入会……なんとも凄い男の子だ。調べ始めてからちょくちょく意識して探して見ると、交流のある人間も凄い人ばかりだった。

 

同じ生徒会のメンバーは当然として……四条家の令嬢、病院長の息子、大手造船会社の社長令嬢、大手出版社の社長令嬢と大手味噌製造メーカーの社長令嬢等、その交流関係の中に大仏ちゃんの姿があって安心もしたし……だから、機会があれば話してみたいと思った。そして、その機会は割とすぐにやってきた。

 

中庭の木陰で龍珠ちゃんと居る所を見つけた……どうやら、龍珠ちゃんは寝てしまったらしい。石上君は上着を脱ぐと、龍珠ちゃんへと上着を被せた。

 

「……君は優しいね。」

 

だから、思わずそう言って話し掛けてしまった。

 

「つばめ……先輩。」

 

そう言って私の名前を呼んだ彼は、少し驚いていたけど……私を知っていてくれた事が嬉しくて、つい笑っちゃった。

 

 


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