石上優はやり直す   作:石神

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彼女の誘いと体育祭

桃先輩と付き合う事になり、数日が経過した。体育祭を目前に控え、準備や応援団の練習、更には生徒会業務と多忙な時間の合間に桃先輩と会ってゲームをするのは、今までとあまり変わらない。唯一変わった部分があるとするなら……

 

「桃先輩、あんまり動かないで下さいよ。」

 

「据わりが悪いんだから我慢しろ。」

 

現在、僕と桃先輩の体勢は、壁に背中を預けて座る僕の足の間に桃先輩が入り込み、僕の胸板に背中を預けている……要は僕を背凭れにしている状態だ。11月も中旬に差し掛かって肌寒いからか、桃先輩は小さな膝掛け毛布を持参している。

 

「もう冬ですね……こうやって外でゲームするのもキツくなって来ました。」

 

「まぁな……」

 

校舎が風除けになる様な場所なら、まだ寒さは感じないだろうけど……桃先輩は誰かに見つかる事を嫌がるし、この場面を見られるのは……流石に恥ずかしい。結果、風通しの良い開けた場所にある木陰や茂みの中に陣取ってゲームをする事になるのだが、風が吹くとかなり寒い。

 

「……天文部の部室とか使えないんですか?」

 

桃先輩は天文部部長だ。鍵の管理くらい任せられていると思い聞いてみる。

 

「鍵は持ってるけど、部室は……ダメだ。」

 

「え、なんでですか?」

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

(密室に2人っきり……)

「だ、ダメなモンはダメだからに決まってんだろ!」

 

「えぇー……」

 

「そ、それよりも、続きやるぞ!」

 

「うーす。」

 

とは言っても……桃先輩が足の間に陣取っているので、手を伸ばさなきゃゲームが出来ない。ぱっと見は僕が桃先輩を後ろから抱き締めている様に見えるだろう……周囲に対する警戒は怠らない様にしよう。

 

「……優、今週の日曜……暇か?」

 

「え? はい、特に予定はありませんけど。」

 

「……」

 

「……先輩?」

 

「暇なら……私ん家、来ないか? 母さんが連れて来いってさ。」

 

「え、僕を? なんでまた?」

 

「……いいからっ、来るのか来ないのかハッキリしろ!」

 

「はい! 行きます!!」

 

「全く……最初からそう言えってんだ。」

 

「さーせん……あ、コレって俗に言うお家デートって奴ですか? まさか、先輩から誘ってくれるなんて……」

 

「で、デート!?」

 

「違うんですか?」

 

「うっ……」

 

「先輩?」

 

「し、知るか! 言ったからな!? ちゃんと来いよ!」

 

桃先輩は慌てて立ち上がると、そう言い残して去って行った。

 

「ホント、可愛いなぁ……」

 

桃先輩が去って行った方向を眺めながら呟く。桃先輩が恥ずかしがったり、顔を赤くする所を見たいが為に、意図的にこういう言い回しをしたりする……偶にだけど。

 

「ま、何はともあれ……」

 

今週の体育祭が終わってからだ、と気合いを入れて立ち上がった。

 

……石上優は気付いていない。日曜日の龍珠家訪問……それは、お家デートどころか、恋人の親への挨拶イベントであるという事に。

 


 

体育祭当日、午前の競技が終わり昼食休憩に入った。僕は桃先輩の姿を探してキョロキョロと周囲を見渡すが、見当たらない。午前にあった障害物競争に参加し終わってから姿が見えないから、多分また何処かでサボっているんだろうな。昼休憩は40分と限られているから、さっさと探そう。まぁ、居るとすれば彼処かな……

 

〈屋上〉

 

「やっぱり此処でしたか……」

 

屋上で寝転びながら、ゲームに勤しむ桃先輩へと話し掛けた。

 

「……よく此処だってわかったな。」

 

「愛ですね。」

 

「ぶっ飛ばすぞ。」

 

「……ま、体育祭の昼休憩だといつも以上に中庭は人が居ますからね。桃先輩は嫌がるだろうなって……先輩は天文部ですし、屋上の鍵くらい持ってると思いましたし……」

 

「……当たりだ。」

 

チャリッとキーホルダーに繋がった鍵をクルクルと回しながら、桃先輩は続ける。

 

「去年、屋上の使用許可取った時に合鍵作っておいたんだよ。」

 

「それ……生徒会的には割と問題案件なんですけど……」

 

「内緒な。」

 

桃先輩は口の前で人差し指を立てながら、ニヤリと笑いながら言った。

 

「仕方ないですね……それより、桃先輩お昼食べました? 色々買って来ましたけど。」

 

「気が利くな、何がある?」

 

「えーと……」

 

………

 

暫し、桃先輩と駄弁りながら昼食を取る。桃先輩は午前の部で参加競技を済ませており、後は此処でゲームをして過ごすそうだ。僕は昼休憩後は応援合戦の為、早めに行って着替えなければいけない。

 

「そろそろ時間なんで行きますね。」

 

「おー、女装応援頑張れよ。」

 

「女装応援って……」

 

「それと、頼むから目覚めんなよ。」

 

「目覚めませんよ!?」

 

普段の意趣返しと言わんばかりに女装する事をイジられる。

 

「ほら、はよ行って来い。」

 

ひとしきり僕をイジって満足したのか、桃先輩に送り出される。ヒラヒラと手を振りながら、片手でゲーム機を弄る桃先輩を残して屋上を後にする。空き教室に入り、せっせと四宮先輩から貸してもらった制服に着替えると、走って校庭へと向かった。

 

「か、会計君! ちょっと良い!?」ハッハッハッ

 

そして、ヤベェ人に捕まった。

 

「……なんですか?」

 

「ふぅ、とりあえず……抱き締めるね?」

 

「人を呼びますよ。」

 

「じゃあわかった! 写真、ね? 写真は撮って良いでしょ?」

 

「嫌ですよ。」

 

「大丈夫、大丈夫だから! 後でちゃんと、フォトショでコラ改造するから!」

 

「必死過ぎる……」

(なんというか、なんとかしてホテルに女を連れ込もうとする、ガッついた男みたいだなぁ……)

 

女子生徒に対する例えではない。

 

「……エリカ! 何してますの!?」ガシッ

 

「か、かれん!?」

 

「ごめんなさい、石上会計……ちょっと目を離した隙に見失ってしまって……」

 

「まぁ、実害は出てないので大丈夫ですよ。応援合戦あるんで、もう行きますね。」

 

「はい、頑張って下さいね。」

 

「かーれーんー、離してー!」ジタバタッ

 

「エリカ、暴れないで下さいな! 部長に言いつけますわよ!?」

 

「……」

(四宮先輩と違うクラスに居てコレって……もし、同じクラスだったらどうなるんだろ……)

 

石上は余計なフラグを建てた。

 


 

〈本日の体育祭の勝者は紅組となりました。皆さん、お疲れ様でした。これより、閉会式を執り行います。〉

 

アナウンスが流れ、閉会式が終わると一般生徒はそのまま直ぐ帰宅となる。実行委員と僕達生徒会は後片付けの仕事が残っている為、せっせと体育祭で使った道具を倉庫に運んで行く。受け持った道具の最後の1つを倉庫に片付けて鍵をする……後は鍵を職員室に返せば終わりだ。鍵の付いたキーホルダーを指に引っ掛け、クルクルと回しながら職員室へと向かう。体育祭も終わり、桃先輩とのお家デートに意識が向く。お土産は何が良いかなぁと楽観的に過ごし、当日を迎えた。

 


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