龍珠桃の母親→龍珠華
龍珠桃の父親→龍珠龍造とします。
長くなってしまった……(ノД`)
「おどりゃあ!! ウチの娘泣かすたぁどういう了見じゃコラアアアッ!!?」
「オヤジ、落ち着いて下さい! そもそも、堅気の坊主相手にポン刀持って凄むとか大人気な……」
「うっさいわボケエェ!!」
顔に傷のある中年男性は刀を構え、圧を纏った怒声を少年に向けて放つ。そして……その怒声を一身に受ける少年、石上優は……
(えぇー……)
ドン引いていた。
時は数時間前に遡る……
今日は桃先輩の家へ招かれている。人気店のバームクーヘンをお土産に門の前に立つ……そう、門の前に。桃先輩に住所を聞きGoog○eマップのストリートビューで確認すると、正に古き良き日本家屋とでも言うような家がデカデカと画面に映っていた。存在感溢れる家を守る様に、門壁が周囲を囲っている。桃先輩に到着した事をスマホで知らせ、僕は門に備え付けられたインターホンを押した。
〈……はい、どちら様ですか?〉
「あ……っと、石上優と申します。先輩……桃さんのこ、後輩です。」
恋人と言いそうになり、慌てて修正する。桃先輩が家族に内緒にしていた場合、僕からバラす訳にはいかない。
〈あらあら、直ぐ行きますね。〉ダダダッ
〈母さん! 私が行くから!〉
女性の声の後に、走って来た様な足音と聞き慣れた声が聞こえて来た。良かった……ほっと胸に手をやり安堵する。流石に桃先輩の居ない状態で御家族との対面は緊張する。
〈優、直ぐ行くから待ってろ!〉
「あ、はい。」
暫し門の前で待っていると、門……ではなく、壁と思っていた部分が長方形に開いた。どうやら、門にはドアが付いていたみたいだ。
「何ボーっとしてんだ、さっさと入れよ。」
「うっす。」
ひょこっと顔だけ出した桃先輩に促され、敷地内へと入る。玄関まで伸びた石畳を歩き、桃先輩に続いて家の中へと足を踏み入れた。
「……ん?」
背中に視線を感じ、振り返るも視線の正体は見当たらなかった。
「優、どうした?」
「……いえ、何でもないっす。」
気の所為か、と思い直して桃先輩の後ろを付いて行った。
………
「お、お嬢がダチを連れて来るなんてっ……」
「……初めてじゃねぇか?」
「友達どころか恋人だったりしてな……」
「ガッハッハッ! もしそうなら、オヤジがブチキレるな!」
「あらあら、態々お土産まで……優君、ありがとう。」
和服に身を包んだ女性(桃先輩の母親で龍珠華と名乗った)へとお土産を手渡しながら答える。
「い、いえ、つまらない物ですがっ……」
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」
柔らかな表情を浮かべ、そう言ってくれる桃先輩のお母さんを見て思った……桃先輩に良く似ている。母親だから当然なんだけど、特に似ていると思ったのはその表情だ。その表情は、桃先輩が偶に見せてくれる……優しい顔とそっくりだった。
「桃ちゃんが最近女の子らしくなって来たのは、優君の影響かしらね?」
なんとも答え難い質問に……
「え、えぇと、どうなんですかね……」
と、無難に答えておく。
「桃ちゃんたら……偶に部屋で1人の時、小さなクマの人形を抱き締めててね……」
「か、母さん、もういいでしょ! ほらっ、行くぞ優!」
「え、あ……はい。」
桃先輩は僕の手を掴むと、早足で部屋へと向かった。部屋に入ると、ベッドの上には大きなクマのぬいぐるみが鎮座しており、枕元には僕が贈ったぬいぐるみが座り込んでいる。
「適当に座って良いぞ……って何見てんだ?」
「いや、ぬいぐるみ……抱き締めてるんだなぁと思って。」
「くぅっ!? い、いいか、今聞いた事は忘れろ!」
「そういうトコ、可愛いですよね。」
「聞いてんのか!? 忘れろって言ってんだろ!!」
「どんな感じで抱き締めてるんですか?」
桃先輩をここぞとばかりにイジる。後が少し怖いけど、恥ずかしがって慌てる姿を見たいからしょうがない……うん、しょうがないんだ。
「の、飲み物取って来る!!」
このままでは旗色が悪いと思ったらしい桃先輩は、足早に部屋を出て行った。少しやり過ぎたかも……用意されていた座布団に座り、部屋を見渡すと小さい方のクマのぬいぐるみと目が合う。
偶に部屋で1人の時、クマの人形を抱き締めてて……
「……いいなぁ、お前は。僕なんて抱き締められた事ないぞ?」
と、クマのぬいぐるみに対して愚痴を言ってみる。ジッと変わらない瞳でこっちを見るぬいぐるみから視線を外し、大人しく桃先輩の帰りを待った。
飲み物を持って来てくれた桃先輩と隣り合ってゲームをする。例えお家デートでも、普段とやってる事が同じ事に少しだけ可笑しくなり笑みが零れる。暫し、桃先輩とゲームに興じていると……
「もう、6時か……優は晩飯はどうする?」
「うーん、流石にそんな遅くまでお邪魔するのも悪いんで……」
そろそろ帰ります、と続けて言おうとすると桃先輩の……
「良かったら……食べて行けよ。」
という言葉に別の言葉が飛び出す。
「えっ、いいんですか?」
「うん……今から準備するから、居間で待ってろ。」
桃先輩に居間に案内された後、1人居間に残される。
「……」
(え? 桃先輩が料理すんの?)
状況的にはそうとしか考えられない……桃先輩が料理をする意外性よりも、僕の心は……
「桃先輩の手作り料理か、楽しみだなぁ。」
その一心で埋められていた。
………
「ふふ、桃ちゃんと一緒に料理が出来るなんて……夢が叶ったわ。」
「もうっ……大袈裟だから!」
「そうね、桃ちゃんも女の子だものね。大好きな人に手料理、振る舞いたいわよね。」
「も、もういいからっ……早く教えてよ!」
「ふふ、はいはい。」
「……」
ボーっとテレビを見ながら、桃先輩を待っていると……
「桃のダチか?」
と声を掛けられた。その声に後ろを振り返ると、左右に厳つい顔の男を連れた……顔に傷のある男性と目が合った。
「えっと……はい、石上優といいます。お邪魔させてもらってます。」
「おぅ、ワシは桃の親父の龍珠龍造や。まぁ、気軽に親父さんとでも呼んでくれや。」
「……はい、親父さん。」
(凄い……本物だ。念の為、龍○如くやって来て良かった……)
対策になっているかは微妙である。
「メシが出来上がるまで暇やろ? ワシとゲームでもして時間潰そうや。」
「え? はい、何しましょう?」
(ゲーム好きなのかな? 話が合えばいいけど……)
「なら、人生ゲームで勝負するか。」
「えぇ……」
(なんで人生ゲーム……)
「ワシとお前の一騎打ちや、異論はあるまい?」
「……わかりました、やりましょう。」
(……別に良いけど、人生ゲームって2人でやるモノだっけ?)
2人でやるモノではない。
「……これ、オヤジはゲームしたいだけちゃうか?」コソコソ
「半々ってトコやな……マジで人間性見るつもりもあるんやろ。」コソコソ
「じゃあ、始めるか。」
(フン……軽く考えとるみたいやが、人生ゲームは桃○同様プレイングに自身の性格が色濃く出るゲーム……お前がどんな人間か、桃ちゃんの側におっても大丈夫か、よぉく見させてもらおうやないか。)
一方的な石上優の人間性見極め人生ゲームのスタートである。
「4……コツコツと堅実に働き、実家のおもちゃ屋が繁盛……1000万を得る。」
「ほう、堅実なんは良い事や。」
「ははは、まぁゲームですから。」
(どんな意図があるか心配してたけど、只ゲームするだけみたいだ……良かった。)
「よし、次はワシの番やな。2……む、娘が嫁に行く……娘のおる奴はお祝い金100万円を別プレイヤーにっ……!」プルプルッ
「……」
気の所為か、一気に部屋の雰囲気が暗くなった様な気がした……ドンッという音に視線を向けると、目の前に帯で包まれた札束が置かれていた。
「……あの、ゲーム内のお金でお願い出来ますか?」
「オヤジィ……高校生に現ナマ渡すんは、絵面的にヤバいんで自重してくだせぇ。」
「わ、わかっとるわ! 次、お前の番やぞ!!」
「は、はい!」
漂い始めた不穏な空気を誤魔化す様に、サイコロを振る。
「5……け、結婚……お祝い金として他プレイヤーから100万円を貰う……」
「ワシは認めんぞおおおっ!? 桃ちゃんはなぁ、子供ん時はパパと結婚する言うたんやぞ!?」
「いや、これゲーム! 現実じゃなくて遊びですから!!」
「遊び!? 桃ちゃんとは遊びやったんか!?」
「オヤジ、落ち着いてくだせぇ!」
「ぐうっ…くうぅ……!」プルプル、スッ
「だからリアルマネーは仕舞って下さい。」
(見た事あるな、この光景……)
「わ、ワシの番やな……1、む……娘の夫が借金を作る……マイナス1億円……お前、コツコツ堅実に働いとったんちゃうんかあああ!!?」
「僕じゃない! 僕じゃないです!! っていうか、なんでこのゲーム娘マスこんな多いの!?」
「坊主! オヤジが本切れする前に早よゴールしてくれ!」
「は、はい!……3。き、キャバ嬢に貢ぎ借金……マイナス1億円……」
「おどりゃあ!! ウチの娘泣かすたぁどういう了見じゃコラアアアッ!!?」
親父さんは背後に飾られていた日本刀を掴み、金属音を響かせながら近付いて来た。
「オヤジ、落ち着いて下さい! そもそも、堅気の坊主相手にポン刀持って凄むとか大人気な……」
「うっさいわボケエェ!!」
(えぇー……)
ヒュンッという音が頭上から聞こえ、近付いて来る親父さんの頬を何かが掠めた……とほぼ同時に、壁にタンッと包丁が突き刺さった。
「貴方? さっきから何を騒いでいるのかしら?」
「は、華さん!? いや、コレはやな……」
「子供相手に、日本刀持って威圧するなんて……恥を知りなさい。」
「……ハイ。」
「優、出来たぞ……ってどうかしたか?」
「……いえ、なんでもないっす。」
(桃先輩のお母さんつっよ……)
………
夕食後、あまり長居するのも悪いので帰宅する旨を伝えると、門の所まで桃先輩が送ってくれた。
「悪かったな、親父が迷惑掛けたみたいで……」
「いえいえ、気にしないで下さい。楽しかったですよ? 桃先輩の手料理も食べれましたし、充実した一日でした。」
「ふーん……?」ニヘッ
嬉しさを隠し切れていない様に、桃先輩は僅かに笑みを浮かべる。
「また来ても良いですか? あ、その前に今度は僕ん家で遊びましょうよ。」
「……うん、今度は私が優の家へ行くよ。」
「約束ですよ? じゃあ今日はコレで。」
「あぁ、また明日な。」
桃先輩と別れの挨拶を済ませ、一歩目を踏み出した時……ギュッと背中から抱き付かれる。
「せ、先輩?」
「こ、コレでいいんだろ……」
「え?」
……いいなぁ、お前は。僕なんて抱き締められた事ないぞ?
「……もしかして、聞いてたんですか!?」
「……さぁな。」
桃先輩は最後にギュッと力を込めると、直ぐに離れた。そして、僕が振り返るのを待たずにドアへと逃げ込むと……
「じゃあな!」
その言葉と共に、ドアはバタンッと閉められた。
「……抱き逃げされた。」
その帰り道は、11月下旬だというのに全く寒さを感じなかった。
………
「……」
「オヤジ、こんな所に居たんですか……何か考え事でも?」
「あぁ、昔を思い出しとった。ワシが学生ん時は、極道息子ってだけで色んな差別や問題に巻き込まれて、ダチも大して出来んかった。そんで、その度に……華さんに支えられて、助けてもらったんや……」
「今は昔程、極道ってだけで差別や問題はないと聞いてますが……」
「だが、全く無い訳やない……桃には、余計な荷物を背負わせてしもうとるな。」
「オヤジ……」
「……」
(人間は簡単に、偏見と独断で他人の評価を決めてしまう……それはいつの時代も変わらん。石上優……お前はそれでも、桃の味方で居続けられるんか?)
先程までの雰囲気とは打って変わって、男は静かな空気を纏って……闇色に染まる空を見上げていた。