あけましておめでとうございます。
12月も中旬に差し掛かった。期末テストも無事終わり、残るイベントは奉心祭を残すのみだ。奉心祭に向けての会議や準備を熟し、徐々に開催に向けて完成度を上げて行く……既に一度経験している身としては、トラブルが起きても問題なく過ごせるだろう。何より、僕には今回……桃先輩という彼女がいるのだから、例え問題が起きたとしても彼女持ちとして余裕を持って対応出来るだろう。そう、彼女持ちとして……
石上は少々図に乗っていた。
まぁ、それはさておき……
昼休み……生徒会役員全員が揃った生徒会室では、あるイベントが開催されていた。そのイベントとは……
「全生徒会腕相撲トーナメントの開催です!!」
全生徒会腕相撲トーナメント! 前回の石上は、かぐやの利き腕に合わせて左腕で勝負し、敢え無く惨敗。先輩とはいえ、女子に負けたという事実に石上は地味にヘコんでいた。しかし、今回の石上は中等部では部活動に勤しみ、引退してからも筋トレ自体は続けていた……今回こそはと、ある種の覚悟を持って臨んだかぐやとの腕相撲勝負、果たしてその勝負の行方は……
「ではレディー……ファイ!」
伊井野の掛け声と共に、一気に左腕に力を込める。四宮先輩相手に油断は禁物、一瞬で勝負を着ける! そう決意した僕の覚悟を……四宮先輩は一瞬で刈り取った。僕の左腕は、敢え無く机に叩きつけられたのだ……
「四宮先輩の勝利!」
「」
「石上くんの負けー! ハイ、これ付けましょうねー。」
嬉々とした藤原先輩に問答無用で、弱者と書かれたタスキを掛けられる……嘘やん、四宮先輩メッチャ強いやん……コレは勝てませんわ。
石上は左腕のダメージ以上に、精神に傷を負った。
「ふふっ、では会長……フェアプレイで行きましょう。」ニギニギ
「わかってるさ。」ニギニギ
手を握り合う会長と藤原先輩を見ながら洩らす。
「人っていうのは、変わらない生き物なのかもな……」
「石上、何言ってるの?」
「……レフェリー、これはアリなんですか?」
伊井野の発言に被せる様に、四宮先輩が藤原先輩のイカサマを見破った。
「……以上の理由から、これでは藤原さんが一方的に有利になってしまう訳ですが、本当にアリなんですか?」
「ふ、藤原先輩……?」
「……」プイッ
嘘ですよね? とでも言いたそうな伊井野の視線から、藤原先輩は目を逸らす。
「ほーらやると思った!! 1学期からホント成長してませんね! そこまでして勝ちたいですか!? 普通にセコい! コレはもう、人としての品性の問題ですよ!?」
ここぞとばかりに藤原先輩を罵倒しまくる。当然、セコい手を使えなくなった藤原先輩と会長の腕相撲勝負は……
「」ペタン
「……会長の勝利です。」
「じゃあ、藤原先輩行きましょうか。」
「……ハイ。」
弱者と書かれたタスキと、1学期に使用したプラカードを藤原先輩の首に掛ける。
「じゃあ、僕達ちょっと席外しますね。」
目の死んだ藤原先輩を連れて出て行く。
「お、おぅ……石上、程々にな……」
「はぁ……」
(藤原さんもホント懲りないわね……)
「藤原先輩……」
〈校舎内〉
「ゔぅえぇぇ…もうやだぁ……!」エグエグッ
「自業自得ですからね、我慢して下さい。」
本日の勝敗、藤原の敗北
人生には幸運、不運が連続して起こる時がある。それが偏った確率で起こったとしても、何れは適切な確率へと収束する。しかし、人間は良い事よりも悪い事が起きた時の方を意識してしまいガチである。そして、不運が起きるとちょっとしたきっかけから、だんだんと追い打ちをかけるように、広がっていくことがある。
〈中庭〉
放課後、中庭に設置されたベンチ裏の茂みで寝転がり、カタカタとゲームに勤しむ。優は生徒会室でやる事があると言っていたから、今は私1人だ。軽快にゲームを進めていると……
「ねぇ、聞いた? 奉心祭の話!」
「奉心祭? ハートを贈るとーって奴?」
「そうそう! 凄いロマンチックじゃん!」
「アンタ相手いるの?」
「こ、これから作るの!」
奉心祭の話に盛り上がる、女子2人の話し声が聞こえて来た。奉心伝説について話してるって事は、あの2人は1年か……なんとなく、優と同じ1年という事で会話に意識が傾く。
「そういやさー、アンタのタイプってどんな感じ?」
「えー、とりあえず……頭良い人、カッコいいじゃん!」
「ふーん、生徒会長みたいな?」
「あー、カッコいいよねー! 学年1位!! 生徒会長だから、流石に気後れしちゃうけど……」
……出会ったばかりの
「そういえば、生徒会にもう1人男子居るよね? 私達と同じ1年で。」
「石上君でしょ? 生徒会長が直々にスカウトしたっていう。」
優の名前が出た瞬間、ピクリと体が僅かに反応する。
「アンタ知ってんの?」
「うん、私C組の代表で文化祭会議に参加したんだけど、会議でもバンバン意見出してて凄かったよ! 2年生とかも意見出してたんだけど、それについての捕捉説明とか解決策をスラスラ言っててカッコ良かったなぁー。」
……優が他の女子からも一目置かれている事に、ほんの少しだけ優越感が湧き上がる。ハッ、残念だったな、優はもう私の……
「告っちゃえば?」
……は?
「……ん? 今、なんか声しなかった?」
「うん? 気の所為じゃない?」
「そうかなぁ……まぁいいや。それで、告っちゃいなよ。結構優良物件じゃない?」
「えー、確かにそうだけどぉ……付き合ってる人いるんでしょ?」
「あー……聞いた事はあるけど、アレってホントなの?」
「じゃないの? 前に一緒に居るトコ見たって人いるらしいよ?」
……まぁ、割といつも一緒に居るからな。誰かに見られてても不思議は……
「確か……藤原先輩だったよね。」
……その発言に思わず、ゲーム機を握る手に力が入る。メキッと悲鳴を上げるゲーム機に構わず、私は話に聞き入った。
「そうそう、なんか偶に校舎内で羞恥プレイみたいな事してるんでしょ?」
「いや、流石に学校で
「でも、昼休みの時も……」
まだ女子2人は喋っていたけど、話し声は耳に入って来なかった。浮気……いや、優に限ってそんな事ある訳ないな……多分、何かの勘違いだろ。でも、なんでよりによって勘違いの相手がアイツなんだ。私は少しだけイラついた感情を誤魔化す様に、ゲーム機の電源を入れた。
はぁ……また少しスランプ気味になってしまいましたわ。エリカの提案した、かぐや様が本来持つ気高さで会長をお守りするという展開も描き尽くしてしまいましたし……やはり、ここは一度基本に帰るべきでしょうか……私がいつもの様に、会長×かぐや様シリーズの構想を練っていた時の事です。気分転換に中庭を散歩していますと、ベンチ裏にある茂みの中に人の気配を感じました。興味本位で私はバレない様に、ソッと近づいて様子を見ていました。すると……
「遅いな……優の奴。」
龍珠さんはそう言葉を洩らしますと、スマホを取り出してポチポチと操作し始めました。多分、石上編集を待っているんですのね……寂しそうな龍珠さんの姿を、そしてその表情を見た瞬間、私の頭に雷が落ちた様な衝撃が走りました……コレですわ! 会長を待ち続けるかぐや様! そして、約束を果たす為かぐや様が待つ場所へと走る会長!! 道中、立ち塞がる難敵を乗り越えて会長はかぐや様を抱き締める……完璧ですわ!! この名案を忘れない内にノートに書き溜めなくては!私は素早くノートを取り出し、先程浮かんだ案をスラスラと書き綴っていました。その時です……
「おい! 何してる!!」
「ひゃいっ!?」
いきなり怒声を掛けられ、体が跳ね上がりました。声のした方を振り向くと、龍珠さんが口元を歪めて私を見ていました……
「あ……べ、別になんでもないんですのよ?」
「……さっきノートに何か書いてただろ? そのノートを見せろ。」
「」
ノートヲミセロ? え? どういう意味ですの? 龍珠さんの衝撃的な言葉に動揺し過ぎて理解が追い付きません……
「おい、何無視してんだ、さっさとっ……」
龍珠さんは私に近付くと、グイッとノートの端を掴みました。
………
「うわっ!? なんだコレ……白銀と四宮の妄想ばっかり……」
「あ、あぁあっ……ち、違うんです、違うんです……これには事情がっ……」
「お前、流石にコレは引くわ……念の為、2人には伝えておいた方がいいかもな。」
「り、龍珠さん!? お願いですから、待って下さい!!」
「近寄るな、変態!」
………
……だ、ダメですわーっ!! この中を見られるのだけは絶対に阻止しませんと!!
「ダ、ダ、ダメですわぁ! こ、このノートは見せられません!!」
「さっき私を見ながら何か書いてただろーが! 見せろ!」
「違うんです! コレはそういうのじゃないんです!!」
「じゃあ、見せられるよな?」
「それは無理なんです! 後生ですから見逃して下さい!!」
「お前……いい加減に……」
「あっ、石上会計!」
此方に歩いて来る石上編集が目に入り、私は思わず声を上げました。
「えっ?」
龍珠さんはノートから視線を外して、後ろを振り返りました……今ですわ!
「ごめんなさい!」ダッ
「あっ、おい!」
私はノートを胸に抱き締めて、走り出しました。私を呼び止める龍珠さんの声には、一度も振り返らず……只々ノートを守る為に走り続けました。
「……桃先輩、何してるんですか? さっき走って行ったのって、紀先輩ですよね?」
「……そんな事より、ちょーっと聞きたい事あんだけど?」
「アレ? 桃先輩、なんか怒ってます?」
「優……羞恥プレイは楽しかったか?」
「何の話!?」
&石上の敗北