石上優はやり直す   作:石神

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聞き込み調査とアドバイス

桃先輩の放って置けと言う言葉を無視して、僕はなんとか犯人に辿り着く為に情報を集めた。文化祭の準備や生徒会の仕事と並行して調べている為、割ける時間は多くは無い。とりあえず今日一日調べた結果、犯人に直接結び着く様な情報は得られなかったが、いくつかわかった事がある。

 

1つ、貼り紙が仕掛けられていた教室は、1年A組とB組、2年C組の3クラス。

 

2つ、昨日の放課後には、既に噂が存在していた。

 

3つ、確実ではないけど、3クラスのみという事実から犯人は1人、又は少数。

 

……という事だ。あの文面的に桃先輩を標的にしているから2年C組に貼るのはわかるし、桃先輩と付き合っている僕のクラスに貼るのもわかる。桃先輩と付き合っている事を口外してはいないが、2学期に入ってからは特に一緒にいるから、付き合っていると気付く人間もいるだろうし、僕と仲違いさせたかったとも考えられる……問題はA組だ、なんでA組にも仕掛けられていたのか? 仕掛ける数が増えれば増えるほど、見つかる危険性は増える筈なのに……そこまで考えて、1つの事実を思い出した。そういえば、A組にはアイツが居た筈だ。生徒会室に行く前に話をしておくか、ちょっと気まずいけど……

 

〈1年教室廊下〉

 

「部活に行く前に……ちょっといいか?」

 

「……いいだろう。」

 

相変わらず、鋭い眼で此方を睨む男に辟易する。

 

「此処じゃなんだから……こっちで話そう。」

 

「あぁ。」

 

階段横の死角に陣取り、男と向かい合う。

 

「それで、何の用だ?」

 

僕と向かい合う形で佇む男、小島剣はそう言いながら壁に背を預けた。

 


 

教室に入ると、クラスメイトが黒板の前に集まっているのが見えた。何かの連絡事項でも貼られているのか? 確認の為に黒板に近付くと、俺に気付いた数名のクラスメイトが身を引いて道を空ける……なるほどな、そういう事か。

 

「コレはいつから貼られていた?」

 

目の合った男子生徒に問い掛ける。

 

「……わかんねぇ。来たら貼ってあったんだ。」

 

「では、1番最初に教室に入った者は?」

 

続く問い掛けに、1人の女子生徒が自信なさげに手を挙げる。

 

「わ、私です。」

 

「教室には何時頃に入った?」

 

「8時丁度だったと思います……」

 

その言葉に腕時計を確認する。秀知院が開門されるのが7時30分……30分の間に、事を済ませたという事か。

 

「その時に誰か見ていないか?」

 

「いえ、見てません……」

 

「なるほど、わかった。」

 

黒板に貼られた紙と写真を剥がし、ポケットに仕舞う。

 

「せ、先生に報告とかしなくていいんですか?」

 

「報告する事に意味があると思うか?」

 

女子生徒の問いに、そう言葉を返す。幸か不幸か、この学園の教師は生徒同士の問題に必要以上に関わろうとはしない。余程問題が大きくならない限り、生徒同士で解決させる。教師が早い段階で関わるのは、学園カーストの低い者同士で問題が起きた時だけだろう。龍珠が関わっている時点で、教師の力量ではどうにも出来ない。俺の言葉の意味がわかったのか、女子生徒はそれ以上言葉を発しなかった。

 

「だが……」

 

まさか、龍珠に対してこんな事をする奴がいるとは……余程の考え無しがいる様だな。龍珠も降り掛かる火の粉くらい、自分で払うだろう……俺には関係ないと高を括っていると、放課後にあの男が訪ねて来た。

 

「部活に行く前に……ちょっといいか?」

 

石上優……4月に衝突して以来か。力や権力に屈しない珍しい人間で、龍珠に懐いている物好きでもある。噂で他のクラスにもあの紙が貼られている事は知っている。このタイミングで来たのなら、コイツのクラスもやられていたのだろう。

 

「……いいだろう。」

 

龍珠と敵対していた俺を疑っているのだろう……教室を出て階段横の死角に移動して訊ねる。

 

「それで、何の用だ?」

 

理由はわかっていたが、敢えて知らないフリで対応する。石上がこの問題にどう関わるのか興味が湧いたからだ。

 


 

小島にA組の反応や手口の確認をする。A組も他のクラスと同様の手口らしい……大した騒動は起こらなかったらしいから、それは良かったけど……最低限の感謝の言葉を述べ、小島に背中を向けて歩き出そうとした時だ。

 

「……それで終わりか? 何故俺を疑わない?」

 

「疑う? なんで?」

 

小島の言葉に振り返って答える。

 

「……忘れたのか? 俺は龍珠と敵対していた人間だ。お前にとっては、最初に疑って掛かるべき人間の筈だ。」

 

「いや、お前はやらないだろ。」

 

「何故……そんな事が言える?」

 

「……お前はこういう、ネチネチした遣り方はしないと思っただけだよ。今回の場合、お前なら直接桃先輩か紀先輩に事の真偽を訊ねるだろ?」

 

「……」

 

図星だったらしく、小島は黙り込む。

 

「4月の件でお前とはまだ少し気まずいし、桃先輩を悪く言った事は許してないけどさ……僕はお前の事、苦手だけど嫌いではないよ。」

 

「……そうか。」

 

「もういいなら行くけど……」

 

「待て。」

 

「今度は何っ……」

 

「推測だが……犯人はそれ程学園カーストの高い人間では無い。件の話を聞く限りの印象は、単独犯で考えが浅い。俺のクラスにも仕掛けられていた事を考えると、4月にあった件を直接もしくはそれに近い形で知っている人間の可能性が高い。恐らくは、俺に龍珠を責めさせるつもりだったんだろう。」

 

「なんでそこまでわかるんだよ?」

 

「学園カーストについては、ある意味当たり前の事だ。龍珠の家は広域暴力団……日本国内の影響力は言うまでも無い。この学園に通うカースト上位者は、絶対に敵対するべきじゃない人間を理解している。だが今回、龍珠に対してここまでの事を仕出かしている……龍珠を敵に回すリスクにも考えが及んでいない……馬鹿としか言い様がないな。」

 

「……お前が言うのか?」

 

警察と極道(俺と龍珠)は反発し合う磁石の様なモノだ。多少の小競り合いこそ有れど、本格的に手を出す事はない。」

 

そういえば……僕が知っている限り小島が桃先輩に関わったのは、4月にあった昇降口での一度切りだったか……僕からすれば、小競り合い自体するなよって話なんだけど……

 

「……折角の機会だから聞くけどさ、どうして僕に桃先輩から離れろって言ったんだ? お前だったら、桃先輩に直訴しそうなもんだけど……」

 

「……そんな昔の事は忘れたな。」

 

「昔って……半年くらいしか経ってないだろ。」

 

「フン……最後に1つ。」

 

「無視かよ。」

 

「仕掛けられていたクラスは3つ。1年A組とB組、2年C組……犯人が居るとするならこの中の人間だろう。」

 

「えっ!?」

 

「考えてもみろ。昨日から噂を流し、早朝に登校し貼り紙を仕掛ける……犯人の心理的に直接クラスの騒動を目にしたい筈だ。先ず間違いなく、この3クラスの中に居るだろう。」

 


 

〈中庭〉

 

あの後……小島と別れた僕は生徒会室に向かう前に情報を整理しようと、中庭のベンチで考えを巡らせていた。犯人は3クラスの中に居る……なんとか犯人を突き止めたいけど、どうすれば良いんだ? 頭を悩ませていると……

 

「お悩みかな? 石上優君。」

 

「……え?」

 

背後からの声に振り向こうとするが……

 

「あぁ、振り返らないで。僕と話してる所は、他の人に見られない様にした方がいいよ。」

 

「え、なんでですか? というか貴方は……?」

 

「最初の質問は簡単さ、僕は嫌われ者だからね。君達1年生は知らないだろうけど……2、3年は僕を嫌っている人間が殆どだ。だから、僕が誰かなんて気にしなくていいよ。」

 

背後から聞こえる声には、穏やかで理知的な雰囲気が漂っていた。とても、人に嫌われる様な人間が出すモノとは思えない……暫し、黙って考えていると……

 

「龍珠君の件は噂で知っているよ。3クラスまで絞れているなら、犯人を捜すのはそう難しくはなさそうだね。」

 

「え? なんで……」

 

その情報は、ついさっき小島から聞いたばかりで誰にも喋ってないし、小島も言い触らす様なタイプではない。

 

「少し思考を働かせれば、簡単に辿り着ける結論さ。」

 

「……でも、3クラスまで絞れても犯人を見つけられないと意味がありませんし、噂を消そうにも噂はもう学園内に広がり切ってます。例え犯人を見つけても、桃先輩をそういう目で見る人は居なくならない……」

 

「人の噂も75日と言うけどね?」

 

「待てるわけないでしょう! 桃先輩は何も悪くないのに、一方的に噂みたいな人間に見られるなんて不条理です!」

 

「不条理か……確かにそうだね。では、先輩から後輩に1つアドバイスをしてあげよう。誤解を解く、犯人を捕まえる……君の目の前にある選択肢は、その2つだけかな?」

 

「え? それってどういう……」

 

「……僕はコレで失礼するよ。」

 

「ち、ちょっと待って下さい! さっきのってどういう意味ですか?」

 

振り返って問い掛けた僕の言葉に、返事は返って来なかった。というか、既に誰も居なかった……

 

「早っ……結局誰だったんだ?」

 

頭を悩ます要因が1つ増えた事にげんなりしつつ、僕は生徒会室へと向かった。

 

 


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