数日後……全ての準備を終えた僕は、息を整えて時間が来るのを待つ。この数日間、桃先輩の噂は鎮火せず、犯人も捕まらなかった……だから僕は、今日全てを終わらせるつもりで此処にいる。奉心祭まで残り一週間を切り、こんな状況では桃先輩との文化祭デートも心から楽しめないし……まぁこれからやろうとしてる事に桃先輩が怒らなければの話なんだけど。生徒会に所属している僕が、やって良い事ではない……だから、会長と四宮先輩には予め話を通し、もし迷惑が掛かる様なら生徒会を辞めるつもりだとも言った。でも会長と四宮先輩は……
〈生徒会室〉
「全く、思い切りの良い奴だ……生徒会の事は気にせずやりたい様にやれ、石上会計。」
「会長……でも、生徒会役員の僕が問題を起こせば、会長達にご迷惑が……」
「構わんさ、俺も今回の件は腹に据えかねていた。それにな、石上……後輩は先輩に頼って良いんだぞ?」
「……ッ」
真っ直ぐに僕を見る会長に言葉が詰まる。
「お前は最初から生徒会の仕事も出来ていたし、助けてもらった事やフォローしてもらった事も両手の指では足りないくらいだ。でもな、先輩からすれば頼られないのは案外……寂しいモノなんだ。だからお前の行動でどんな結果が出ようと、俺は石上の味方だ。」
「会長……」
「ふふ、会長……そこは俺達と言って下さい。でも……面白い事を考えるわね、石上君。あまりにも馬鹿馬鹿しいやり方……少なくとも私には浮かばないわね。」
「馬鹿馬鹿しいですか……」
「あら、褒めてるのよ? だって、私には絶対に出来ない……いえ、この件に関して言えば……石上君にしか出来ない、貴方だけのやり方だもの。」
「確かに……そうですね。」
「安心して下さい。石上君の行動で貴方や生徒会に不利益が生じる事はありませんから……四宮の名において、ね。」
「四宮先輩……」
「ふふ、でも石上君も考えましたね。確かにこの方法なら、学園に蔓延している龍珠さんの噂は無くなる可能性が高いですし、元々噂に懐疑的な人間や中立な立場に居る人間を味方に出来るかもしれません。でも……わかっていますね? 貴方がやろうとしている事は、噂の消去ではなく塗り潰しです。覚悟は出来ていますか?」
「勿論です。」
「そう、なら頑張りなさい。」
「石上、応援しているぞ。」
「はい!」
………
会長と四宮先輩が背中を押してくれたんだ、思いっきりやってやる。
〈ピンポンパーン〉
校内放送を知らせるチャイムの音が響き渡る。僕は一度深呼吸をしてから、マイクへと近付く。
〈……生徒会役員会計、石上優です。現在、秀知院に蔓延している噂について話が……〉
〈1年A組教室〉
……始まったな。
〈1年B組教室〉
……石上の声がスピーカーから聞こえて来る。石上が言うには、このクラスに犯人がいる可能性もあるらしい……クラスメイトを疑いたくはないけど、仕方ない。それに、こばちゃんと麗ちゃんも協力してくれるから心強い……私はスピーカーから流れて来る声に耳を傾けながら、周囲に意識を向けた。
〈2年C組教室〉
スピーカーを通して聞こえて来る石上編集の言葉に、クラスメイトが騒めいています。元はと言えば、私がノートの中身を龍珠さんに見られそうになった事が原因ですから、協力するのは当然です。だけど龍珠さん、怒らない……訳無いですわよね? エリカも手伝ってくれますが、龍珠さんを抑えられる自信が無いですわ……私はスピーカーを驚きの表情で見つめる龍珠さんを視界に収めながら、小さく溜息を零しました。
〈現在秀知院には、2年C組の龍珠桃先輩がマスメディア部員にイジメをしているという噂が蔓延していますね。コレについて、皆さんにいくつか言いたい事があったのでお伝えします……〉
そこまで言って、僕はスウゥと息を吸い込み……
〈……んな訳ねーだろ、バァーーーカ!! はあぁぁっ……由緒ある名門秀知院学園に所属する学生が、これからの日本を背負うと言われている人材が、くだらない噂を盲目的に信じてピーチクパーチクうるせぇんだよ……恥ずかしくないの?〉
噂を信じている人間に向けて、溜まりに溜まった不平不満をぶち撒ける。
〈いい歳して噂の真偽も見極められねーの? 桃先輩がそんな事する訳ないだろうが! 親がヤクザってだけで、偏見で好き勝手言ってんじゃねぇよ! 桃先輩が誰か傷付けたのか!? 誰かに嫌な思いをさせたのか! 僕は桃先輩と知り合って1年以上経つけど、嫌な思いをした事なんて一度だってないぞ! ずっと一緒にいる僕が言ってるんだから、桃先輩がイジメをする様な女の子じゃないって事は絶対の事実だ!〉
すぅ……と息を吸い更に続ける。
〈桃先輩は他人に対して、ちょっと警戒心強い所はあるけど……ゲームで負けたら拗ねるし、意外と乙女趣味なトコあるし、僕が告白した時は真っ赤な顔で答えてくれる可愛い一面もあるんだぞ! そういう一面を見れば誰だっ……って誰が見せるかバーカ!そういうのを見て良いのは僕だけなんだよ!〉
「コラ! 石上開けんか!! 何をやっている!?」
ドンドンと扉越しに教師の怒号が聞こえて来る。ここまでの様だ……無視して粘っても、良い結果にはならないだろう。僕は最後の言葉をマイクに向かって発した。
〈あぁ、あと最後に……あの貼り紙した犯人、証拠品残すなんて馬鹿じゃねぇの? 小島経由で警察に指紋捜査頼んだから覚悟して待ってろよ。〉
……決まりだな。石上の発言に笑う者、呆れる者、興奮する者が居る中で唯一人……歯を食いしばり悪意の視線をスピーカーに向ける女子生徒の姿を視界に捉える。全く……よりによって俺のクラスの人間だとはな。女子生徒はスピーカーから聞こえて来た石上の……
〈ーー覚悟して待ってろよ。〉
という言葉に、先程まで悪意に満ちていた顔が動揺一色に変貌した。無論指紋捜査なんて物はブラフだが、十分な効果があった様だ。本来は、コレで犯人が動揺して誰か特定する事を期待していたが……まぁここまでわかりやすく悪意を晒してくれたのは有り難い。石上にメッセージを送り、さっさと犯人の処理を終わらせよう。アイツには、これから特大の仕事が残っているからな……龍の機嫌を直すという特大の仕事が。しかし、よくもまぁあそこまで恥ずかし気もなくあんな事が言えるモノだ。
………
〈職員室〉
「ハッハッハッ! 良いデスねー!
「……校長、何はしゃいでるんですか……生徒会の人間がこんな事仕出かして、口頭注意で済む話じゃないんですよ?」
「オー、大林先生は厳しいデス。そうデスね〜……反省文2〜3枚デ許してあげマショウ。」
「……校長は軽過ぎるんですよ。生徒達の騒ぎを収める事になるの、俺達教師陣なんですよ?」
「噂を放置シタ罰とデモ思って下サーイ。」
「はぁ……教師やめてぇよ……」