(`・∀・´)
〈生徒会室〉
「マスメディア部からの取材依頼……ですか?」
「僕と伊井野だけで?」
「あぁ、正式な取材依頼だ。石上は1学期に一度取材経験もあるから、一通りの流れはわかると思うが……」
「それは大丈夫ですけど……」
「伊井野監査は、こういった取材を受けるのは初めてか?」
「は、はい、初めてです。」
「そうか、まぁ……石上も一緒だからあまり気負わずにな。石上、何かあればフォローしてやってくれ。」
「わかりました。」
「じゃあ、早速マスメディア部の部室に向かってくれ。」
「わかりました、行くぞ伊井野。」
「う、うん。」
………
〈マスメディア部〉
「遠路はるばる良く来て下さいましたわ。早速取材を……と言いたい所ですが、機器の準備が整うまで今しばらくお待ち下さい。」
ナマ先輩に案内され、伊井野と2人でソファに腰掛ける。向かいの席には、ナマ先輩とガチ勢先輩が陣取っている。
「御二人は、夏休みをどの様に過ごされまして?」
「夏休みですか……」
(なるほど、始めは雑談から入って緊張を解すつもりなんだな。伊井野は取材初めてみたいだし、気を遣ってくれてるんだな。)
「私は……友達と集まって課題や勉強をしたり、夏祭りに行ったりしてました。」
「夏祭り……いいですわね。そういえば……石上会計とは夏祭りでバッタリ会いましたわね?」
「あぁ、そういえばそうでしたね。」
「会計君、1人だったけど友達いないの?」
「メディアに関わる人間なら、言葉を選ぶべきでは?……違いますよ、その時は偶々ふらっと寄っただけでしたから……他の夏祭りは友達や生徒会で行ったりしましたけど。」
「「その言葉が聞きたかった(ですわ)」」キリッ
ナマモノ先輩とガチ勢先輩のセリフが重なった。
「ぐ、具体的に生徒会の皆さんで夏祭りに行かれた日付は!?」
「えぇと、確か……8月20日だったと……」
「正解ですわ!」
「なんでそっちが正解判定出すんですかね……」
「じ、じゃあ……あの時、かぐや様をかれんが見たっていうのはホントって事?」
「だから言いましたでしょう!? アレは妄想でも幻想でもないと!」
「……」
(普段の言動で信じてもらえなかったのかな……っていうか、あの花火大会に居たのか……)
「じゃあ私は……かぐや様とあの時、同じ花火を見てたって事……?」
……綺麗ですね、巨瀬さん
は、はいっ……かぐやしゃまっ……
巨瀬の脳内で記憶の捏造が行われた。
「……ぐふっ!?」バタッ
「うわっ!?」
「ひぅっ!?……あ、あの大丈夫ですか?」
伊井野は身を乗り出し、ガチ勢先輩を気遣うが……
「かぐやしゃまという花火から散り行く一粒の火の粉になりたい……」
「……」
ガチ勢先輩の発言に顔を顰めると、身を引き座り直した。何言ってんだこの人……
「つ、つまり……会長とかぐや様の愛がスターマインって事では……?」
「アンタも何言ってんだ。」
……綺麗ですね、会長
あぁ、だが……俺にとっては、闇夜に咲き誇る数々の花火よりも……四宮、お前が1番綺麗だ
会長……
「現実に勝る妄想なし!」バタッ
現実ではない。
「今日も2人はフルスロットルだな……」
「石上……この人達大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないよ。」
「ないの!?」ガビーン
「ごめんね、2人共……あの子達には後でキツく言っておくから。」
眼鏡を掛けた先輩から謝罪を受ける。この人は確か部長だっけ……大変そうだな。
「あ、いえ……気にしないで下さい。」
「僕達は大丈夫ですけど……」
「そうね……
「まぁ……」
(部長からもそういう評価なのか……)
「そ、そんな事は……」
「いいのよ、あの子達ね? 会長選挙中、部室を出禁にしてたから……久しぶりの取材でテンション上がっちゃったのね。」
「は、はぁ……」
「……」
(いや、取材に入る前に暴走したんですけど……っていうか出禁になってたのか……)
「とりあえず、取材は他の子に頼むからちょっと待ってね?」
「は、はい。」
「わかりました。」
その後、30分程時間を掛けて取材は終了した。
「はい、2人共お疲れ様。今日は来てくれてありがとう。」
手を合わせながら、そう言う部長さんの傍で代理の取材陣が片付けを始める。僕は何気なく、その動きを目で追っていると……
「あ、石上君は少しだけ個別に取材させてくれる?」
「え? はぁ……わかりました。じゃあ、伊井野は先に戻っててくれるか?」
「うん、わかった。じゃあ、私はこれで……」
「えぇ、伊井野さんもありがとう。良い記事にするからね。」
伊井野はペコリとお辞儀をすると、マスメディア部を出て行った。
「実は……今から聞くのは、私個人の興味を満たす為だけのモノなの。記事には絶対にしないと約束するから、答えてくれる?」
「……まぁ、答えられる事なら。」
「聞きたい事っていうのはね……選挙の時、伊井野さんの立候補演説で手助けをしてたよね? アレはどうしてかなって思ったの。」
「どうして……そんな事が気になるんですか?」
「ふふ、言ったでしょう? コレは私個人の興味を満たす為だけのモノだって……言いたくないなら別にいいの。」
「……伊井野は、融通の利かないクソ真面目な人間です。風紀委員として、校則と規則を何よりも重んじる……でも、そんな伊井野にも欠点があります。それは……」
「人前でのあがり症かしら?」
「……そうです。会長選挙の立候補演説……伊井野が萎縮するのはわかっていました。そして、伊井野を煙たく思っている人間がここぞとばかりにヤジを飛ばす事も……」
「変な話ね……そもそも貴方は、白銀陣営の人間なのに。」
どうして、助け船を出したの? と言外に匂わせる部長さんの言葉に答える。
「そうですね……今回の選挙で会長が勝つ事はわかっていました。ただ伊井野には、負けるにしても悔いが残る様な負け方をして欲しくなかったんです。伝えたい事を伝え切れないまま負けたんじゃ、あまりにも不憫です……」
「なるほどね、でも……それだけかしら?」
「……後はまぁ、僕のエゴみたいなモノです。」
「なるほど、エゴ……ね。」
「……あれ?」
(ここまで喋るつもりなかったのに……)
バッと視線を上げると、部長さんはニコッとした笑みを浮かべていた。
「ふふ……必要以上の情報を引き出せるから、マスメディア部の部長なのよ?」
「怖ぁ……」
「ごめんね、記事にしないって約束はちゃんと守るから安心して?」
両手を合わせ、謝罪を述べる部長さんを見て思った……
「じゃあ、まぁいいですよ……」
ホント、この学園の人間は侮れない人ばかりだ。