石上優はやり直す   作:石神

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伊井野ミコは測りたい

〈中庭〉

 

私が生徒会に入って一週間以上が経過した。今は昼休みに行われる風紀委員の見回りをする為、こばちゃんと待ち合わせ中だ。壁に背を預けボーっとしていると、近くのベンチで昼食を摂っている女子生徒2人の会話が聞こえて来た。

 

「そういえばさー……男の人って手が大きいと、アッチの方も大きいっていうよね。」

 

「えー、やだぁ! じゃあ、手で大きさバレちゃうって事じゃん。」

 

「っ!?」

(そ、そうなの!?)

 

「いや、私も友達から聞いただけなんだけどね。」

 

「なーんだ、これから男子の手見る時ドギマギしちゃう所だったじゃん。」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

「……ッ」

(石上の手、意外と大きかった……って事は!?)

 

「ミコちゃん、お待たせ。じゃあ、見回り行こっか?」

 

「んひゃあっ!?」ビクッ

 

「わっ!? どうしたの、ミコちゃん?」

 

「う、ううん……なんでもない! 早く行こ!」

 

「う、うん。」

 

………

 

〈生徒会室〉

 

放課後、私は白銀会長と2人で生徒会業務に勤しんでいる。四宮副会長と藤原先輩は部活、石上は担任の先生に頼まれた仕事を終わらせてから来るらしい……

 

男の人って手が大きいと、アッチの方も大きいっていうよね

 

手が大きいと、アッチの方も大きいっていうよね

 

アッチの方も大きいっていうよね

 

「……」

 

昼休みに耳にした女子生徒の言葉が、頭の中を駆け巡る……べ、別に気になってる訳じゃないし! 変な意味じゃなくて……そうっ! 知的好奇心として気になってるだけだから!

 

痴的好奇心の間違いである。

 

「……」チラッ

 

サラサラと書類処理をする白銀会長をチラリと盗み見る……と、とりあえず情報を集めないと! 白銀会長の手の長さを調べて、石上の手と比較すれば何かわかるかもしれないし!

 

仮にその何かがわかったとして、どうしようというのか。

 

「……白銀会長、少し良いですか?」

 

「あぁ、何かわからない所でもあるのか?」

 

「いえ、その……手を見せてもらえますか?」

 

「……手? なんだ、何かあるのか?」

 

「え、えぇと、手相を見てみようかなって……」

 

「手相?」

 

「は、はい……すいません。」

 

「いや、別に謝らなくてもいいが……」

(なるほどな……伊井野なりにコミュニケーションを取ろうとしてくれているのか……)

 

至極しょうもない理由で、手の長さを測ろうとしているだけである。

 

(先輩として、歩み寄ってくれている後輩の思いを無下には出来まい。)

「……別に構わない、存分に見てくれ。」

 

「は、はい!」

(やった、上手く行った!)

 

伊井野は心優しき先輩の思いを無下にした。

 

「では……失礼します。」

 

「あぁ、そんな畏まるモンでもないけどな。」

 

「……」ニギニギ

(落ち着いて、正確に直径を測る……)

 

「……」

(昔は……圭ちゃんとも、こういうスキンシップはあったんだがな……今はちょっと話し掛けるだけで……)

 

は? お兄ぃには関係ないし

 

そういう所ウザいから

 

「……」

(圭ちゃんも昔はもっとこう……)

 

お兄ぃー、どこ行くの?

 

私も一緒に行くー

 

「……」

(こういう時代もあったんだよなぁ……)

 

白銀は、かつての妹の姿を思い出し頬を緩めた。

 

「こんにち……わー!?」ガチャッ

 

「藤原さん、いきなり大声出してどうし……」

 

「あ……」←後輩に手を握られている

 

「え……?」←先輩の手を握っている

 


 

担任から任された仕事を終え、早足で生徒会室へと向かう。もう、みんな揃ってるだろうな……急がないと。早足の勢いそのまま、僕は生徒会室の扉を開けた。

 

「すいません、遅れまし……」ガチャッ

 

「えぇー!? ミコちゃんって……もしかして、会長の事!?」

 

「ち、違います! 白銀会長は全然タイプじゃありません!」

 

「下級生に手を握られて、随分と表情が緩んでいる様でしたが……会長、相当嬉しかったみたいですね?」ゴゴゴゴゴッ

 

「四宮落ち着け! だから誤解なんだって!!……というか、伊井野監査は言葉を選べ! 傷付くだろうが!」

 

「す、すいませんっ……」

 

「……傷付く? それは伊井野さんに対して良からぬ感情を持っていると?」

 

「いや、そういう意味じゃなくてだなっ……」

 

「……」パタン

 

気付かれない様にそっと扉を閉めた僕は、深く息を吸い込み吐き出した。

 

「ふぅー……さて、何処で時間を潰して来ようかな。」

 

石上は逃げた。

 


 

30分後、再度生徒会室を訪れると先程の騒ぎは収まっていた。

 

「……何があったかは知りませんが、随分疲れてますね。」

 

「あ、あぁ……そういえば、この前は結局俺と石上だけ恋バナして終わったよな? 次は女性陣の恋愛観も聞いてみたいモノだ。」

 

白銀は露骨に話題を変えた。

 

「良いですね! やりましょう!!」

 

「そうだな、伊井野監査はどういう男がタイプなんだ?」

 

「むふふ、ついさっき会長フられちゃってますから気になってるんですよね?」

 

「傷エグんな。」

 

「あ、あのっ……違いますよ!? 別に白銀会長の事が嫌いとかそういう事じゃないんです。単純にタイプじゃないってだけで……」

 

「メッチャ塩塗り込んで来るじゃん。」

 

「で、でも白銀会長はカッコイイと思いますよ! クラスで4〜5番目位の顔です!」

 

「そ、そうか……」

(4〜5番目かぁー!)

 

白銀の自己評価は2〜3番目だった。

 

「……」

(会長がクラスで4〜5番目位の顔? この子、目の水晶体濁ってるんじゃないかしら……)

 

「それに……」

 

「い、いや……もうわかったからいいぞ! それより、伊井野監査の好きなタイプの話だったな!」

 

白銀は、これ以上塩を塗り込まれる前に話を戻した。

 

「私の好きなタイプ……いつも私の事見ててくれて、私の気持ちをわかってくれて、困った時は颯爽と助けに来てくれる王子様みたいな……そんな人がタイプです。」

 

「居ねぇよそんな奴っ……ん?」チラッ

 

「そんな人いる訳……あら?」チラッ

 

「……ん? どうしました?」

 

「い、いや……なんでもない。」

(アレ? それって……)

 

「……なんでもないわ、気にしないで。」

(どう考えても……)

 

(石上の事じゃねぇか!)

 

(石上君の事じゃない!)

 

白銀とかぐやは察した。

 

「ミコちゃん……夢は幾ら見てもいいですけど、最終的に傷付くのは自分ですよ?」

 

「いるもん……」グスッ

 

藤原は全然察していなかった。

 

「……ッ!」

(ん?……待てよ? もし、石上と伊井野がくっ付いたら……)

 

きゃーん! 私も彼氏欲しー! 会長付き合って! 2人みたいにイチャイチャしましょー!

 

やれやれ、仕方のない奴だ。

 

「……ッ!」

(……はっ!? もし、石上君と伊井野さんが付き合えば……)

 

ぐっ! 羨ましい……四宮、俺と付き合ってくれ!そして、石上達以上にイチャイチャさせてくれ!

 

あらあら、仕方のない人ですね。

 

((イケる!!))

 

周りのカップルの存在が、行動や思考に与える影響は大きい……カップルのイチャつきを見せつけられると、自分も彼氏(彼女)が欲しい、自分もイチャイチャしたいという欲求が生まれる。その影響力に期待し、本人達の与り知らぬところで後輩カップルを作ろうとする2人の天才だが、どう考えても遠回り……その時間を恋愛頭脳戦(別の事)に使っていた方がマシなレベルである。しかし……

 

(フッ、全く……四宮がそこまで言うのなら仕方ない。)

 

(ふふ、会長がそこまで懇願するのなら仕方ないですね。)

 

都合の良い妄想に取り憑かれた2人には、妙案としか思えなかった。斯くして、今此処に……後輩カップルを作ろうとする先輩2人と、知らぬ間にくっつけられる事になった後輩2人、そして……

 

「……ハッ!? 何か私の知らない所で、面白い事が起こってる気がします!」

 

「……藤原先輩、何言ってるんですか?」

 

蚊帳の外のラブ探偵が誕生した。

 


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