〈生徒会室〉
数日後……生徒会室には白銀、石上の男性陣は居らず、3人の女子が陣取っていた。
「ドキッ! 女子だけのミコちゃん歓迎会の始まりですよー!」パチパチ
「すみません、態々私の為に歓迎会なんて……」
「いえいえ、ミコちゃんは生徒会の大事な仲間ですから当然ですよ!」
「藤原先輩……!」
「今日は男子共も居ないので、女子だけで内緒のお喋りしましょう!」
「内緒のお喋り……ですか?」
「藤原さん、それは具体的にどの様な内容なのでしょう?」
「ズバリ! 今現在、皆さんは気になってる男子は居るんですか!?」
「き、気になってる男子!?」
「あらあら……」
(……ふふ、上出来ね。恋愛事を絡めると、藤原さんは操作しやすくて助かるわ。)
………
数日前……
「あーあ……折角生徒会の皆で恋バナ出来ると思ったのに、中途半端な所で終わっちゃいましたねー。」
「そうですね……でも男子の前だと言い難い事もありますし、丁度良かったかもしれません。」
「……っ! だったらかぐやさん、ミコちゃん、私の3人でお喋りしましょう! 折角ですから、ミコちゃんの歓迎会も兼ねて!」
「あら、それは良いですね。じゃあ、伊井野さんに話を通しておいてくれますか?」
「わーい!わかりました、任せて下さい!」
………
(ふふふ、さて……伊井野さんをどう焚き付けてあげましょうか?)
「気になってる男子ですか……」
「はい! 身近な男子にドキドキしたり、気になって仕方なかったり、そういう人は居ませんか? それと、ミコちゃんは現実に存在する男子でお願いしますね!」
「藤原さん……なんですか、その注意事項は?」
「ミコちゃんはこの前、随分とメルヘンな事言ってましたから!」
「メルヘン……」ドヨーン
「……藤原さん、今日の主役が早速落ち込んでしまったのですが……」
「いえ……いいんです。実際、友達にも良く言われてますから……」
「そうですか……それはそうと、私達に身近な男性と言うと……石上君はどうですか?」
「い、石上ですか!?」
「えぇ、伊井野さんとは同級生ですし……中等部の頃からの付き合いなのでしょう?」
「べ、別に私は……石上の事なんて……」
「そうですか。藤原さんは、石上君はどうなんですか? 結構仲が良い様に見えますが……」
「っ!?」
「……」ニヤリ
(ふふ、焦るでしょう? 他の女子に好きな人を勧められると、取られるんじゃないかと不安になるでしょう? 嫌なら早く石上君とくっ付いて、会長を焦らせなさい。)
自分がやられて嫌な事はやらない様にと習わなかったのであろうか。
「石上くんですかー……まぁ確かに遠慮なく色々言える仲ですけどぉ……」
「傍から見たらお似合いに見えますよ?」
「私と石上くんがですか?」
「えぇ。」
「え、あっ……ふ、藤原先輩……待っ……! あぅ……」アタフタ
「……ふふ。」
(あらあら、そんなに焦って……恥ずかしがらずにさっさと素直になれば済む話なのに。)
特大のブーメランである。
「あははは、石上くんとか絶対無いですよ。先輩の事敬わないし、直ぐ正論でボディブローしてくるし、罰ゲームは酷い事させて来るし!」
「そ、そう……」
(全部自業自得だと思いますけど……)
「ほっ……」
「そう言うかぐやさんは、石上君の事……どう思ってるんですか?」
「えっ……私?」
「私にだけ言わせるなんてダメですよぉ? かぐやさんも石上くんの悪口言っちゃって下さい!」
「趣旨が変わってるじゃない。でもそうね……とても、優しい子だと思うわ。あの子は最初から臆せずに私に接して来ていましたし。この学園で、四宮かぐやという人間から距離を取り遠くから眺める人は、それこそ数え切れない程居るのに……今思えば、本当の意味で石上君が私にとっての初めての後輩なのかもしれないわね。」
「かぐやさん……」
「四宮先輩……」
「ふふ、恥ずかしいから本人には内緒よ?」
「もちろんです! 此処で話した事は女子だけの秘密です!」
「えぇ、お願いね。」
「……ッ!」
(し、四宮先輩……まさか、石上の事……)
石上の事を恋愛対象として見ていないからこそ、かぐやは恥ずかしがらずに思った事が言えるのである。しかし、伊井野からすれば石上優という人間を正しく理解、評価し、信頼している年上の女子生徒という風にしか見えていない。石上もかぐやの事を信頼しているのは、日頃の態度を見れば明白! 結果、伊井野の脳内は焦りと不安に支配されていた。
「それにしても、かぐやさんは石上くんの評価高いんですね……かぐやさん、もしかして石上くんの事……」
「だっ、ダメです!!」ガタッ
(掛かりましたね。)
「あら? 伊井野さん、何がダメなのかしら?」
「えっ、あれ? えぇと、その……」
(私、なんで……)
「伊井野さん……何がダメなのか、落ち着いてちゃんと説明してくれる?」
(このまま畳み掛ける!)
「え、えぇ……と……」
つまり……会長とかぐや様の愛がスターマインって事では……?
(ハッ!?)
「し、四宮先輩は白銀会長とお似合いだと思っているので!」
「お似合い!? わ、私と会長が?」
(こ、この子……)
「はい! 見るからに相性ピッタリって感じで素敵だと思います!!」
「素敵な相思相愛カップルだなんて……」
そこまでは言っていない。
「で、でも、私と会長はそういう関係じゃないですからね?」
(滅茶苦茶良い子じゃない……あまり追い詰めたりしちゃ可哀想よね。伊井野さん、少しずつ距離を縮める感じで大丈夫よ。)
かぐやは秒で懐柔された。
「えー……会長とかぐやさんがぁ?」
「……藤原さん、何か言いたい事でも?」
「うーん、会長とっていうのが納得出来ないと言いますか……」
「……藤原先輩は、白銀会長の事どう思ってるんですか?」
「赤ちゃん。」
「?」
「?」
白銀に対する特訓が大分マイナスに働いていた。
〈中庭〉
「この前は酷い目に遭ったな……」
「大変でしたね。」
「結局、俺だけ傷を負ったし……折角だ、石上も何か言えよ。」
「えー、何を言えって言うんですか?」
「そうだな……生徒会の女性陣の中で付き合うとしたら誰が良いとかか?」
「えー……」
「此処だけの話にするから! それで……そうだな、藤原はどうなんだ?」
「いやー、ないですね。何というか……藤原先輩は生徒会のマスコットっていう感じなので……」
「そ、そうか……」
(即答で藤原をマスコット扱いか、凄いなコイツ……)
「ちゃんと秘密にしといて下さいよ。藤原先輩にバレるとギャイギャイ言って来そうなんで……」
「あぁ、わかってる、わかってる。ならば石上、伊井野監査はどうなんだ? 同じクラスだし、中等部からの付き合いなんだろ?」
不動産屋が最初にウケの悪い賃貸物件を紹介し、その後で普通の物件を紹介する。すると客は、最初に紹介された物件と比較し普通の物件が魅力的に見えてしまう事があるという……白銀はそれを藤原と伊井野で実行した。
「伊井野ですか……うーん、伊井野はなんというか……見てないと危なっかしいというか、目が離せないというか……そんな感じですかね。」
「なるほどな……」
白銀は、期待していた反応が石上から出ない事にやきもきする。
「……」
(やはり経験者を唆すのは容易じゃないな。……だが、選挙の時の石上の行動を見るに、伊井野に対して全く脈がない訳ではない筈だ。)
「それで、四宮先輩は……」
「っ!?」
(会長が居るから別に僕がどうこう言わなくても……)
「……まぁいいか。そういえば、体育祭の備品についてなんですけど……」
「あ、あぁ……」
(良くない! なんだ!? 四宮は何なんだ!? 滅茶苦茶気になる所で切らないでくれよ!!)
石上を焚き付け様と恋バナを振った白銀だったが、予想外のカウンターを喰らっていた。
〈校門前〉
藤原先輩と四宮先輩と別れ、帰路に着く。私は今日あった事を思い出しながら、歩いている。
あははは、石上くんとか絶対無いですよ。
「ふぅ……」
特に理由もなく、ホッとした自分を訝しむ……多分、藤原先輩が誰かのモノになるのが嫌だから……だと思う。それ以外に理由なんて思い浮かばないし、きっとそう……
とても、優しい子だと思うわ。
「……ッ」モヤ
四宮先輩の言葉を思い出すと、胸の辺りに嫌な気持ちが居座る。それは存在を自覚した瞬間、霧散して消えてしまう。だから、これが何なのかはわからないままだ……
……優しい子だと思うわ。
知ってるもん……石上が優しいのは中等部の頃からだし、委員会の仕事も手伝ってくれてたし、一緒に遊びに行った事だってあるし、それに……
ムカつくんだよ、頑張ってる奴が笑われるのは。
「……ッ」ギュッ
鞄を持つ手に力が入る……今思えばあの時から、石上とは良く話す様になった。こばちゃんと3人で一緒に夏祭りに行ったり、一緒に勉強したり、大友さんに勉強を教えたり、麗ちゃんと一緒に高等部の文化祭に行ったりと色んな事をした。パッと顔を上げると、夕焼けが辺り一面を真っ赤に染めている……そういえば、占いには夕占というモノもあった筈だ。偶然そこを通った人々の言葉を、神の託宣と考える占い……確か、すれ違う人達から最初に聞こえて来た2つの言葉を占いとするんだっけ? そこまで考えると、私の耳は無意識に2つの言葉を拾っていた。
素直になれば
大丈夫
その言葉の意味を正しく理解する事は、今の私には出来なかった。