石上優はやり直す   作:石神

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藤原千花は証明したい

〈生徒会室〉

 

事の発端は、昼休み返上で生徒会の仕事を処理していた時だ。カロリーバーを咥えながらキーボードを打ち込んでいると、四宮先輩の……

 

「……石上君、昼食はそれだけなの?」

 

という言葉に生徒会の視線が集まる。

 

「え? はい、そうですけど……」

 

「それだけだと、いつか倒れるわよ? 栄養も偏るでしょうし……」

 

「確かにな、生徒会の業務はそれなりに体力も要る。最低限の栄養だけでは、いつかそのシワ寄せが来るかもしれんぞ?」

 

「うっ……そう言われると……」

 

「そうですよ! ミコちゃん位もりもり食べないとダメですよ!」

 

「ふ、藤原先輩! コレは家政婦さんが間違えて作り過ぎちゃっただけで! 決して私が大食いって訳じゃっ……」

 

伊井野は保身に走った。

 

「まぁ、それはそれとして……食生活を心配されるなんて、石上くんはダメダメですねー。」

 

「……そういう藤原先輩は、自分で作ってるんですか?」

 

「うぐっ……まぁ私もお手伝いさんが作ったお弁当ですけど……」

 

「藤原先輩、女子力低そうですもんね。」

 

「……カッチーン! いいですよぉ!? そこまで言うなら私達、生徒会女子役員の中で誰が1番女子力が高いかハッキリさせてあげますよ!!」

 

「え、生徒会女子役員って……」

 

「ふ、藤原先輩、私達もですか!?」

 

「当たり前です! 石上くんに舐められたままで良いんですか!?」

 

「いや、僕が舐めてるのは藤原先輩だけなんですけど……」

 

「それ、余計腹立つんですけど!?」

 

「まぁまぁ、落ち着け藤原。」

 

「会長も何部外者みたいな顔してるんですか! 会長も審査員やってもらいますからね!」

 

「し、審査員?」

 

「はい! 明日……私、かぐやさん、ミコちゃんが会長と石上くんにお弁当を作って来ます! それを食べて誰が1番女子力が高かったか判定して下さい!」

 

「えぇー、藤原先輩の手作り弁当ですか……」

 

「何ですか、その嫌そうな顔は!? 私の手作り弁当ですよ! 普通の男子なら喜ぶ所です!」

 

「いや、だって……いきなりそんな事言われても、四宮先輩も困りますよね?」

 

「……私は構わないわよ、石上君。偶にはこういったイベントも良いでしょうし……伊井野さんも構わないかしら?」

(会長にお弁当! 絶対美味しいって言わせてみせるわ!!)

 

「は、はいっ……頑張ります!」

(石上にお弁当……ど、どうしよう!?)

 

「石上、折角女性陣がここまで言ってくれてるんだ……有り難く頂こうではないか。」

(四宮の手作り弁当!? 滅茶苦茶食べたい!!)

 

「……そうですね、明日を楽しみにしてます。」

(胃薬を用意……は流石に失礼か。)

 

「首を洗って待ってて下さいよ!」

 

藤原先輩がビシッと此方を指差し、そう宣言すると同時に昼休みを告げるチャイムが鳴った。

 

「む、もうこんな時間か……残りは放課後にするとしよう。」

 

会長のその言葉で、その場は解散となった。

 


 

〈生徒会室〉

 

次の日……生徒会室に集まった僕達は、机の上に並べられた弁当箱を見下ろしていた。

 

「なんというか……壮観ですね。」

 

「あぁ……態々早起きして作ってくれたかと思うと、こう……クるものがあるな。」

 

「最初は私からですよ! 目ん玉かっ開いて見て下さい! 先ずは石上くんのからです!」

 

パカっと藤原先輩が弁当箱を開けると、茶色一色の液体が僅かに揺れていた……

 

「……弁当にカレーか。結構な変化球だな……」

 

「そうですね。弁当にカレーを用意する感性は、女子力皆無な気がしますが……」

 

「まぁカレーならそこまで味でハズレもないし、問題ないだろう。」

 

「2人共好き勝手に言い過ぎですから! さっさと食べて下さい!」

 

「わかりましたよ……あの、藤原先輩?」

 

カレールーだけが収められた弁当箱を一瞥し、藤原先輩に視線を移す。

 

「はい? どうしました?」

 

ヤベェこの人、全然察してくれない……

 

「……藤原さん、他にはないんですか?」

 

見かねた四宮先輩が助け船を出してくれた。

 

「他?」

 

「ご飯とか、パンとかあるでしょう?」

 

「いや、それだけですけど?」

 

「えぇ……」

 

「ルーだけ!? 正気かお前!? 少しは脇も固めて来いよ!……ほら見ろ! 石上が微妙な顔してんじゃねぇか!」

 

「……」

 

「いやー、会長のお弁当作り終わった時点で時間が殆ど残ってなくて……コンビニ寄って買って来たんですよー。」

 

「しかもレトルトかよ! っというか、コンビニ寄ったんならせめてご飯かロールパンもついでに買って来てやれよ!」

 

「もー、ワガママですねぇ……石上くんが普段食べてるカロリーバーで、ディップでもしたら良いんじゃないですか?」

 

「偏り増すわ!」

 

「会長、その辺でイイっすよ。」

 

「石上……」

 

「そもそも、今回の件は藤原先輩に女子力が無いのを確かめる為のモノですから、それが証明されただけですし……」

 

「まだです! 会長に作ったお弁当を見てないでしょ!? そっちが本命ですから!」

 

「まぁ……そうか、じゃあ開けるぞ……ほう、コレは肉丼か? 中々ご飯が進みそっ……」

 

会長は、茶色一色の肉弁当を箸で突くと動きを止めた。

 

「……会長? どうしました?」

 

「……コレ、肉しか入ってない。」

 

「えぇ……」

 

「どうです? 100%肉弁当です! 男の子はお肉大好きだから嬉しいでしょ?」

 

「限度があるわ! コレもう、肉弁当というよりは肉詰めた箱じゃねぇか!」

 

「無駄に金掛かってそうなのがまた……」

 

「会長は普段からお肉食べれて無さそうだから、気を利かしてあげました!」

 

「余計な気を回すな! 哀れみじゃねぇか!」

 

「……次は私ですね。」

 

「最下位は確定したんで気楽に行けますね。」

 

「えぇ、そうね。さ、どうぞ2人共。」

 

四宮先輩の弁当箱を会長と覗き込む……凄い色鮮やかな弁当だ。

 

「おぅ……凄い美味そうだな。」

 

「はい、藤原先輩のがアレだった分……感動もひとしおですね。」

 

「ふふ、是非召し上がって下さい。」

(会長の好物であるカキフライは勿論、好みの味付けとオカズのバランスも完璧よ! コレで会長も……)

 

これはっ!? なんて美味くて、俺好みの味付けなんだ!……四宮! これからは俺だけの為に弁当を作ってくれ!!

 

「……ッ!」クネクネ

(そ、そんな……毎日私の作ったお味噌汁が飲みたいだなんてっ……)

 

「……かぐやさーん? どうしたんですか?」

 

「い、いえ、なんでもありませんよ?」

 

「はぁ……じゃ、最後はミコちゃんですね!」

 

「は、はい……」

 

先程から静かにしていた伊井野は、藤原先輩の言葉にピクッと体を震わせると、目を伏せながらおずおずと弁当箱を差し出して来た。

 

「そ、その……私、普段から家政婦さんにご飯とか作ってもらってて……だから、四宮先輩みたいにちゃんとしたお弁当って作れなかったしっ……分量もミスして1人分しか用意出来なくて……」

 

申し訳無さそうにそう言う伊井野の手には、複数の絆創膏が貼られていた……僕は膝を曲げ腰を落とすと、伊井野へと視線を合わせた。

 

「……アレ? ミコちゃん、私のお弁当はちゃんとしてないの?」

 

「藤原さん、ちょっと黙って。」

 

「……嬉しいよ、ありがとな。」

 

「で、でもっ……」

 

「……この手を見れば、伊井野がどれだけ頑張ってくれたか大体わかるよ。そんなになるまで頑張って作ってくれた弁当を笑ったり、馬鹿にしたりなんて……僕はしないよ。」

 

「石上ぃ……」ウルッ

 

「だから、伊井野の作った弁当……食べさせてくれよ。」

 

「う、うんっ……じゃあ、はい!」

 

僕は瞳を潤ませた伊井野から弁当箱を受け取ると、振り返って会長達に声を掛ける。

 

「じゃあ、食べましょうか?」

 

「あ、あぁ……そうだな。」

(コレで付き合ってないんだもんなぁ……)

 

「……そうね、頂きましょう。」

(この2人……もう付き合ってるって事で良いんじゃないかしら?)

 

「わーい! いただきまーす!」

(ごっはん、ごっはん!)

 

藤原はラブ探偵という肩書きを返上すべきではないだろうか。

 


 

30分後……

 

「……じゃあ結論として、藤原先輩が1番女子力低いって事で良いですか?」

 

「あぁ、異論は無い。」

 

「2人共! なんでそんなに上か下かハッキリさせようとするんですか!? 全部美味しかった、皆女子力があるって事で良いじゃないですか!!」

 

「お前が言い出したんだ。」

 

「どの口で自分に女子力があるとか言ってるんですか?」

 

本日の生徒会女子役員女子力決定戦、最下位 藤原千花


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