〈生徒会室〉
「ハロウィンです!!」
藤原先輩の発言に室内の視線が集まる。藤原先輩の発言でもわかる通り、今日は10月31日……盛った若者がコスプレをして渋谷に繰り出す日だ。
石上はハロウィンに対する認識がかなり歪んでいた。
「……あぁ、今日は10月31日か。確かに世間はハロウィンだろうが、俺達には関係ないだろう?」
「そんな事ありません! 秀知院という閉鎖された空間でこそ、世間通りのイベントを楽しむべきです!!」
「だが、別に他の生徒達もハロウィンだからと何かをしていた様子はなかったぞ?」
「だからこそ! 生徒会である私達が率先してイベントを楽しむ事によって他の生徒達にも……あ、私達も楽しんで良いんだ、という空気を作る事になるんです!」
「むっ、確かに……」
(くっ、一理ある……)
「……」
(本当……こういう時の藤原さんは、無駄に弁が立つわね……)
「流石は藤原先輩です!」
「……藤原先輩は、お菓子が食べたいだけなんじゃないですか?」
「石上くん、失礼な事言わないで下さい! イタズラしますよ!? それが嫌ならお菓子を寄越して下さい!」
「結局食べたいんじゃないですか。」
「……それで? 藤原、お菓子でも買って来て皆で食べれば良いのか?」
「いえ、どうせならコスプレもしましょう! こんな事もあろうかと、演劇部から色々借りて来てますから!」
「コスプレ……」
「えぇー……」
「石上くん、イヤそうにしない! 1学期の時に、会長もかぐやさんもやってるんですから!」
「え?……そうなんですか?」
「うぐっ……まぁ、コスプレと言う程のモノではなかったが……」
「そんな事もありましたね……」
「会長はコレ着けてたんですよねー!」サッ
「おい、勝手に着けるなよ。」←白銀in猫耳
「アハハハ、似合ってますよ会長。」
「石上……勘弁してくれよ。何処に需要があるってんだ……」
「ぉ……お……」
(おかわわわわわわわわわわわわわ!!)
再びの
「かぐやさんも、ハイッと!」サッ
「ち、ちょっと、藤原さん!?」←かぐやin猫耳
「きゃわー! ミコちゃん、かぐやさん可愛いですよね!」
「はい、とても似合ってます!」
「い、伊井野さんまで……」
「ハハハ、四宮……1学期以来の姿だな。」
(やっぱ、かわええええええええええ!!)
再びの
「……という事でハイ! ミコちゃんには、コレをあげますね!」サッ
「え? な、なんですかコレ?」←伊井野in犬耳
「ッ!? ミコちゃん、ワンって言って下さい。」
「えぇっ!? ふ、藤原先輩……?」
「ミコちゃん!!」
「は、はい!……わ、ワン?」
「きゃわー!! ミコちゃん可愛い!! 可愛いですよね、かぐやさん!」
「えぇ、とても似合ってるわよ。」
(なんとか……なんとかこの可愛い会長の姿を写真に収めないと!)
「い、石上……変じゃない?」
「……」
石上優という人間にはかつて、大友京子の為に泥を被り子安つばめに恋をしたという過去が存在する。大友京子と子安つばめ……どちらも犬系女子とジャンル分けされる存在である。つまり……
「……あぁ、伊井野も結構似合ってるな。」
(え、何コレ……可愛いかよ……)
本人は自覚こそしていないが、石上は猫耳より犬耳派である。以前から……其れこそ前回の人生から、伊井野の事をアホな小型犬と揶揄していた石上であるが……犬耳を着け不安そうな瞳で自分を見上げ、保護欲を掻き立てるその姿は、宛ら道端で足元に擦り寄って来る子犬の如し! 結果……伊井野ミコの犬耳姿は、石上の趣味(性癖)をど真ん中ストレートでブチ抜くモノであった!
「……ッ」
(ヤバ……なんかわかんないけど、ヤバ……)
異性の普段と違う姿を見る事によって、意識する様になるのは古今東西、世界中何処でも起こり得る事象である。だが今回の件で、石上優が伊井野ミコを異性として意識する事となるかはまだわからない。だが……
「そっか、似合ってるんだ……」ニヘ
(石上に似合ってるって言われちゃった……)
「お、おぅ……」キュンッ
(そんな目で僕を見ないでくれ!! なんでか知らないけど、胸の奥で変な音がするから!)
石上の心に……何かが芽生えたのは確かだった。
「ミコちゃん可愛いぃ、可愛いよぉ!」ハァハァ
「藤原……危ない奴みたいになってるぞ。」
〈伊井野邸〉
机に向かいノートにペンを走らせる最中……私の頭の中には目の前の問題文を解こうとする思考とは別の事が浮かんでいた。
「この手を見れば、伊井野がどれだけ頑張ってくれたか大体わかるよ。そんなになるまで頑張って作ってくれた弁当を笑ったり、馬鹿にしたりなんて……僕はしないよ」
私の拙いお弁当を見て、あそこまで言ってくれた石上の言葉を思い出す。
美味しくなかったら残していいから……
そう言った私に、石上は……
そんな事しないって。
そう言って全部食べてくれたのが……堪らなく嬉しかった。
今日、藤原先輩に犬耳を着けられた時も……
……あぁ、伊井野も結構似合ってるな。
その時の事を思い出すと、にへっと口元が緩んでしまう。ペンを置き、ぐにぐにと緩んだ頬を指で解しながら……最近、充実していると思う。
でも、ムカつくんだよ……頑張ってる奴が笑われるのは。
そう言って、石上が助けてくれたあの日から……いろんな事に変化が起きた。友達と言えるのは、こばちゃんしか居なかった私に……麗ちゃんと大友さんという友達が出来た。風紀委員として校則違反を指摘する私は、お世辞にも好かれているとは言えない存在だった。でも、荻野と石上が起こした校内放送事件から……敵意の篭った眼で見られる事も随分と減った。それに……
伊井野、よく頑張ったな……偉いぞ。
……気付くと私は、自分の手を頭に乗せて撫でていた。あの時と同じ様に撫でているのに、全然違う。やっぱり自分でやってもダメなのかな……?
「はぁ……また、撫でて欲しいなぁ。」
どうして、そう思ったかについては……考えないまま、私はペンを持ち直すと目の前の問題文を解き始める。