「いいですか、石上君? 貴方も直に2年生へ進級し、人を従える立場になる人間です。」
「人を従えるって……四宮先輩じゃないんですから、僕にはそんなの無理ですよ。」
「私だって、別に常々人を従えている訳ではありません。ただ……何かを成し遂げたり目的を達成する為には、人という存在は必要不可欠です。ここまではいいですね?」
強い意志が宿った、その瞳に気圧される。
「それは、まぁ……でも、僕に人を従えるなんて出来る筈無いですよ。」
「貴方の場合、従えるというよりは利用すると言った方が良かったかしら。」
「人を……利用する……そんなの僕には無理です。どうやればいいのかも思い浮かびません。」
「……本当に?」
「え……?」
「貴方はその方法を目の前で見ているでしょう? ……さぁ思い出して。」
四宮先輩は僕に近寄ると、暗示をかける様に耳元で囁いた……
「あの時の……荻野コウの立ち回りを。」
「っ!?」
四宮先輩のその言葉に……いつまでも忘れられない、嫌な記憶がフラッシュバックする。
石上君、暴力じゃ愛は勝ち取れないんだ!
黙っていたら大友京子に手は出さないでやる。
……おかしいのはアンタの方よ。
「……僕に荻野みたいになれと、そう言いたいんですかっ!?」
四宮先輩の言葉に引き出された嫌な記憶に……思わず声を荒げて問い掛ける。
「……いいえ、勘違いしないで。貴方のその真っ直ぐな正義感は美点よ。出来る事ならそのままで居なさい。」
「だったらなんで……」
「良い悪いは別にして、荻野コウの立ち回りは周囲の人間と自分の置かれていた立場を巧く利用していたわ。咄嗟の判断力で自分を守る……マジョリティという鎧を創り出した。」
「……マジョリティ?」
「多数派という意味よ。あの場面で貴方に自分を殴らせ、それを複数の人間に目撃させ、演劇部で培った演技力で周囲の人間の印象をコントロールし見事味方に付けた……中々の小悪党ね。」
「……」
「……石上君、もしまた似たような場面に直面したら……貴方はどうするの?」
「それは……」
「……嫌な事を言ってごめんなさい。でもね、石上君……もし、また貴方がそんな場面に直面する時が来たら……逆に利用しなさい。」
「え……?」
「自分の立場を利用しなさい。自分の置かれた環境を利用しなさい。相手の人間性を利用しなさい。そして何より……周囲の人間を利用しなさい……貴方が辛い目に遭わない為にね?」
「四宮……先輩……」
「あの頃と比べると、貴方はとても強くなったわ。今後荻野の様な人間と対峙しても負けないくらいに……だから石上君。」
「……はい。」
「次は負けちゃダメよ。」
その言葉で……先程まで見えていた景色が自室の天井に切り替わった。
………
「夢……」
夢の中でも、変わらず後輩思いな四宮先輩の姿にフッと笑みが零れる。
「……」
次は負けちゃダメよ。
「はい、絶対負けません。」
僕の脳内に明確なビジョンが浮かんだのはこの時だった。
誤字脱字報告ありがとうございます(゚ω゚)