石上優はやり直す   作:石神

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感想ありがとうございます(゚ω゚)


伊井野ミコは気付かない

〈ファミレス〉

 

「終わった……」

 

そんな事を口から零しながら……伊井野ミコは卓に突っ伏していた。

 

「伊井野ちゃん、大丈夫? 何が終わったの?」

 

「私の初恋が、かな……」

 

「何があったの!?」

 

「実は……」

 

………

 

その日は偶々、生徒会室には私1人だった。今日は風紀委員の仕事も無く、クラスメイトで同じ生徒会である石上は担任の先生から雑用を任された為、私だけ一足早く生徒会室に来る事となった。生徒会室に入ると、いつもなら既に居る筈の先輩達の姿が見当たらない……数瞬後、そういえば2年生は学年集会だという事に思い至った。暫く1人なら勉強でもしていよう……そう思い立った私は、勉強道具を広げ、イヤホンを耳に付け、勉強用に設定したBGMを流しながらノートに解答を書き綴る。

 

雨の日を連想する環境音BGMから始まり、大好きなラクダの生命力全開の鳴き声BGM……そして、人気声優による〈イケメンが励ますCD〉! 勉強のモチベーションが上がり切った所で、只管イケメンに励まされ褒められる事で癒され、ストレス無く勉強が出来る私の完璧な勉強法……まさか、それが仇になるとはこの時の私は露程も思っていなかった。

 

「こんちゃー……」ガチャッ

 

「あ、石上!」スチャッ

 

私は石上が入って来たのが見えると、イヤホンを外し立ち上がった。

 

〈あぁ可愛い、君は本当にキュートだ……〉

 

〈皆君にメロメロだよ……〉

 

「……え?」

(……アレ? イヤホンを外してるのに、どうしてまだ癒し声が聞こえるの?)

 

まさか……私は瞬時に浮かんだ考えを否定したい一心で、手元のスマホに視線を移すと……イヤホンジャックがちゃんと挿さっていないスマホが目に映った。声優の励ましボイスはイヤホンのコードを通る事無く、励ましのセリフを生徒会室に響かせていた……

 

「おぉう……」

(完全に忘れてた……コレ今日だったのか。久々に聴いたけど、やっぱり強烈だな……)

 

「」

 

………

 

「っていう事があってね……」グスッ

 

「それで……その後はどうしたの?」

 

「覚えてないの……どうせ挽回や誤魔化しとかは出来なかっただろうし、もう手遅れ……」

 

「い、伊井野ちゃん! 元気出して! 大丈夫、傷は浅いよ!」

 

致命傷である。

 

「そもそも……石上が居るのに励ましボイスで癒されるなんて、浮気同然の不貞行為……」

 

「いや、そこまでじゃないと思うけど……」

 

そもそも付き合っていないので、浮気ではない。

 

「石上も……私みたいな女子に好かれてもきっと迷惑な筈……」

 

「伊井野ちゃーん、落ち込み過ぎだってばー。まだわかんないよ? 」

 

「だって……あんなの聴いてたなんて、絶対イタくてヤバイ女って思われた……」

 

「んー、そんなにヤバイの? その励ましボイスって……私は聴いた事ないんだけど。」

 

「……聴く?」

 

半端ヤケになっていた私は、大友さんにイヤホンを差し出した。

 

「うん、聴く聴くー。」スチャッ

 

大友さんがイヤホンを装着したのを確認すると、私はスマホ画面をタップする……タップする前にイヤホンジャックがしっかりと挿さっているかを確認してから……この慎重さがどうしてあの時発揮されなかったのかという後悔に苛まれながら、私は再生ボタンをタップした。

 

「……あ、コレはダメかも。」

 

「」

 


 

〈翌日〉

 

次の日……昨日の生徒会でやらかした伊井野とすれ違った。俯いたまま挨拶だけを済ませた伊井野は、黙ったまま横を通過する。どうやら、落ち込んでいるみたいだ。前回と比較すれば、バレたのが僕だけなんだから最小のキズで済んでいるんだけど、伊井野からすればバレた事自体が問題なのだろう……いや、まぁ気持ちはわかるけどな。僕だって前回、教室でラノベ読んでたトコを小野寺に見つかって滅茶苦茶気まずい思いを……あ、ヤバイ、思い出したらまた……と、とにかく、このままじゃアレだし、ちゃんとフォローしとかないと!

 

〈生徒会室〉

 

放課後の生徒会室……会長と藤原先輩は書類の提出をしに職員室に、四宮先輩は弓道部に行っており、またしても生徒会室には僕と伊井野だけだった。事情を知らない先輩達が居ない内に、伊井野のフォローを済ませてしまおう……さっきから伊井野がチラチラと此方を盗み見ているのが視界に入って来ているし……

 

「伊井野、昨日の事だけどさ……」

 

「幻滅したよね……いつも風紀が、校則がって言ってた私が……あんなの聴いてたなんて……」

 

「いや、そんな……大袈裟だろ。」

(そりゃ前は恐怖を感じたけど……)

 

「でも……」

 

「こ、高校生にもなれば、そこまで変じゃないと思う……ぞ?」

 

「ほ、ホント……? 私、おかしくない? 石上も、あぁいうの聴いたりしてるの?」

 

「そ、それは……」

(いや流石の僕も、例え死ぬ寸前になったとしても、あーいうCDには縋らないと思うけど……)

 

「や、やっぱり、私がおかしいんだ……」ジワッ

 

「よ、よーしよーし! 伊井野はおかしくないぞー? 普通だぞー?」

 

もう勢いで誤魔化すしかないと思い、僕は伊井野の頭をワシャワシャと撫でながら宥めまくる。

 

「ふぁ……ほ、ホントに普通?」

 

「普通、普通! 僕の知り合いの中には、実在する同級生のカップリング妄想をノートに書き綴る人とかも居るし!」

 

「え、やば……」ヒキッ

 

「……」

(ナマ先輩、伊井野に引かれるレベルなのか……)

 

「そっか、私……おかしくないんだ……」

 

(よし、あと一押しだ。何か……)

「……あ! 声優っぽい感じで褒めたり慰めたりしようか?」

 

「……次それ言ったら声出して泣くわよ、うええぇんって。」

 

「僕が悪かったから、それは勘弁してくれ。」

 


 

〈1年教室前廊下〉

 

生徒会の仕事も終わり、私は忘れ物を取りに教室へと向かっていた。良かった……と歩きながら私は胸を撫で下ろす。石上といつも通りに話せるようになったし、私の趣味も……変じゃない、普通だって受け入れてくれたし、ワシャワシャって撫でてくれたし……えへへ。もしかしたら、石上も私の事が好きだったりしないかな? だったらいいなぁ……優しくて、困ってたら助けてくれて、私の趣味も受け入れてくれる……そんな人は今後現れないかもしれないし、現れたとしても……きっと、石上を選ぶと思う。私はさっきまで悩んでいたのが嘘の様に、弾む様な足取りで廊下を歩く。放課後の今頃の時間帯は、他の生徒も殆ど見えない為、廊下には私が歩いているだけだ……教室のドアへと差し掛かると、女子2人の話し声に足を止める。なんとなく聞き覚えのある声が気になった私は、ソッと教室の中を窺った。教室には机を隔てて向かい合う、こばちゃんと麗ちゃんが居た。

 

「こ……」

 

こばちゃん、麗ちゃん、何してるの? そう話し掛け様とした私は、麗ちゃんの発言に口を噤んだ。

 

「早くしないと、伊井野に先越されるよ? 石上と同じ生徒会なんだし。」

 

……私に先を越される? それに、石上……? なんの話だろう……麗ちゃんのその言葉に、こばちゃんがどう返すのか気になった私は、黙って耳を傾けた。

 

「うーん、でも告白とか急いでするモノじゃないしね。それに……」

 

え、こばちゃんが告白? 石上に……告白? あまりの衝撃に、私の頭の中は真っ白になった。

 

 

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