夏休み終了まで残り1週間を切ったある日の午後……夏休みの課題を片付けていた僕は、着信音を鳴らすスマホを覗き込む。着信画面には大仏の名前が表示されていた為、課題を中断し画面をタップする。
「もしもし、どうしたんだ大仏?」
〈石上さ……今忙しい?〉
「いや、大丈夫。何か用か?」
〈あのね、今日花火大会あるでしょ?……一緒に行かない?〉
「……僕と?」
〈あ、勿論ミコちゃんも一緒だよ。都合悪い?〉
「いや、問題ないよ。あんまり夏らしい事してなかったから、正直有り難いくらい。」
〈ふふ、そうなんだ。じゃあ……7時に待ち合わせで、ミコちゃんにもそう言っとくね。〉
「あぁ、わかった。それじゃ……」
電話を切ると軽く伸びをする。
「んーっ……さて甚平どこだっけ?」
………
甚平に着替え、待ち合わせ時間に間に合う様に家を出る。花火大会が行われる河川敷に辿り着くと、会場は熱気に包まれていた。様々な売り物をしている屋台、その屋台に集まる人の流れを目の当たりにし、柄にも無くテンションが上がる。
「……」
(そういえば……夏祭りなんて、会長達と行ったのが最後か……懐かしいな。)
かつての仲間達と、タクシーから見た花火が脳裏を過った。
「……さて、いつまでも突っ立っててもしょうがないな。伊井野と大仏を探さないと……」
石上は人混みを掻き分けながら歩き出した。
………
「ねーってば、俺と一緒に回ろうよ?」
「すいません、友人と待ち合わせをしているので……」
「そうです!そもそもナンパなんて軽薄な行いをする人なんて論外です!」
「えー、そんな事言わずにさぁ。可愛い子が居たらナンパすんの当たり前じゃん!」
「か、可愛い……?」ピクッ
「……ミコちゃん?」
「可愛い!マジ可愛い!待ち合わせしてる友達が来るまででいいからさ……ね?」
「そ、それくらいなら……」バシーンッ
「痛あぁあっ!?」
「あ、石上。」
「すいません、この2人は僕の連れなんで他当たって下さい。」
「ちぇー、しゃーねーかぁ……あ! そこのお姉さーん、今1人ぃ?」タタタッ
「やれやれ、おい伊井野……」
「こばちゃん、石上が叩いた! クズだよっ!」
「叩かれる様な事しなきゃいいのに……」
「伊井野、お前1人でナンパされそうな所には行くなよ。あと、変なスカウトとかにも気をつけろよ。」
「それは大丈夫。ミコちゃんがそういう場所行く時は、ちゃんと私もいるから。」
「なら安心か……」
「ちょっと!? なんで私が1人じゃダメな感じで話すの!?」
「ナンパする奴は論外って言った5秒後にお前なんて言った?」
「ミコちゃん、褒められるとすぐ許しちゃうから……」
「……まぁ無事合流出来たし、適当に見て回るか。」
「そうだね、ミコちゃんは何がしたい?」
「うーん、先ずはたこ焼き食べたい!」
1時間後……
「……凄いな。」
「うん、凄いね。ミコちゃん、さっきから休みなく食べてるもんね……」
「胸焼けしてきた……」
「私も……」
「あれ? 2人共どうしたの?」
「「……なんでもない。」」
「ふーん……あっ! りんご飴! りんご飴あるよ、こばちゃん!」
「わ、私は大丈夫だから……ミコちゃん行ってきなよ。」
「美味しいのに……」
伊井野は口を尖らせ呟くと、りんご飴を売っている屋台へと小走りで向かって行った。
「……そういえば石上、私達と花火大会なんて来て良かったの?」
「ん? どういう意味?」
「少し前に、喫茶店で女の人と一緒に居るトコ見たからさ……彼女とかじゃないの?」
「喫茶店……あ、あの人は違うよ、ゲーム友達。」
「ゲーム友達? ふーん……石上にそんなの居たんだね。」
「あぁ、この前風紀委員の書類を高等部に届けた日に知り合ってさ……意外か?」
「意外と言えば意外かなぁ……石上って人と距離を置きがちじゃない? 2年の時は石上が特定の人と一緒のトコなんて見た事なかったし。3年になってからは……勉強とか部活も頑張ってて、風紀委員の助っ人もしてたり……知ってる? 最近、石上の評価上がってるらしいよ?」
「へぇ、そうなのか……」
(いざって時の為に打算で始めた事でも、評価されるのは嬉しいもんだな。)
「私もミコちゃんも……石上には助けてもらったしね。」
「別に恩を感じる必要は無いよ、僕が勝手にやった事なんだから。」
「うん、石上ならそう言うよね。」
僕は大仏の事、ちゃんと見てたよ。
(でも、あのセリフはズルいよね……)
「流れで聞いちゃうけどさ……石上って好きな人とか居ないの?」
「……」
「……石上?」
「……居ないよ。」
(僕に好きな人は……もう居ない。あの卒業式の日に、僕の初恋は成就する事なく終わりを迎えたのだから。)
あの日を思い出すように空を見上げると……変わらない夜空が僕達を見下ろしていた。
石×つば派の人すいません( ;∀;)